表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
81/102

079 FSKのAI副官―――『哨戒特務艦その参』(壱)

評価及びブックマーク、ありがとうございます。

また、<いいね>での応援、励みになります。こちらもありがとうございます。

誤字報告、ありがとうございました。

079 FSKのAI副官―――『哨戒特務艦その参』(壱)


 グンマー宙域。小惑星帯と呼ばれるこの星系の中心から外縁部に向かう途上にある場所で、イメージで言えば鉱山街である。家族で楽しく生活という空気ではなく、日の当たらない場所で小天体から鉱物資源を採取し、工業プラントのある惑星軌道上へ輸送船で運ぶための仕事と、そこで働く作業員の娯楽のための施設が多少あるという感じである。


「いやー 高島炭鉱みたいなイメージできたんだけど、もっと中世の鉱山みたいな感じだね」

「確かに、あまり明るい職場という感じではありませんね」


 パワードスーツのオペレーターとか、鉱物資源を大型の輸送船に乗せるための艀型宙艇の操縦手とかが多い気がする。飲食店も、オキナワ要塞なんかと比較しても、味より量という感じでドヤ街な雰囲気である。


 そもそも、そんな場所に美魔女と冴えない男が連れ立って歩いていること自体が不審である。幸い、俺は宙軍宙佐の制服を着ているので、チラ見され視線を合わさないように周囲にされるので、特に問題ない……ないよね?


「あのさ」

「なんでしょう?」


 いや、判ってますよ。普通、こういう場所であれば自分たちの安全のために駐留している宙軍軍人、それも佐官クラスの人間を見たら、相応に敬意を払う視線を受けるのが普通だ。少なくとも、オキナワやゴトウ、ドウゴやトクシマでもそういう視線を感じたことは数多くある。


 けど、ここで見る視線は、警戒と嫌悪の視線だ。まあ、それはそうか。宙堡の人間が宙賊と繋がっていたり、この資源採掘関係の企業幹部が宙賊と繋がるような存在なら、それは警戒もするし軽蔑もする。


 だからといって、この場所から出て行けるんならとっくに出て行っているはず。そういったことを含めて、この場所にいるってことは、行き場がないのか諦めているのかのどちらかなんだろうな。


「焼き鳥屋とかいいよね」

「塩派ですか、タレ派ですか?」

「私は、ネギマ塩派だよ。塩自体の味の良しあしもあるし、タレは、タレが美味しいかどうかって話になるじゃない?」


 じゃあ、ここではタレを頼んだ方が無難だよね。食材が良いわけがない。グンマー船団で定期的に食材が手に入るとはいえ、月に二回の定期便で注文したものしか手に入らないのだから、選択肢はかなり少ないはずだ。


 薄汚れた大きな赤提灯を店先に吊り下げた焼き鳥屋に入る事にする。今は、半舷休息にして、交代で港湾に隣接した市街に出ている時間だ。とはいうものの、バイオロイド三体にお留守番をお願いし、あとは希望者だけが下船している状態ではある。


 FSKの四隻の乗員も同じ対応で、俺はトワさんとのだっ子AI副官の三人で繰り出しているというわけだ。


「三人様、お好きな席へどうぞ」


 どうやら、店主とその奥さんの二人で切り盛りしている席数もカウンターが数席とテーブル席が四つほどのこじんまりしたお店だ。くすんだ雰囲気だが、あえてそういう店の雰囲気を作っているのかもしれない。


「とりあえず、生三つ、枝豆三人前で」

「はい! 生三丁、枝豆はいります!!」

「あいよぉっ!!」


 大将の合いの手が入り、なかなか良い雰囲気の店だ。


「焼き鳥のお奨め、三本ずつお願いします」

「かしこまりました」


 こういう店は、お奨めでいいよねっと有無を言わさずトワさんが注文。そういえば、AI副官ってバイオロイドの場合、普通に飲食できるのかと疑問に思う。


「ユズカは、普通に食事をして大丈夫なんですか」

「高性能だから、大丈夫なのだ。食事から有機物を分解し、エネルギーに転換することができるのだ」

「そうそう、だから、嫌いなものとか譲ってるんだよね」


 子どもか!! 人参とかピーマンとか隣の皿に移す奴か!!


 エネルギー飲料を飲ませるのが一番文字通り効率が良いのだというのだが、なければ、一般的な人間の食料から炭素や水素・酸素を取り込み分解してエネルギーとする事が可能だという。効率は悪いが。


「一緒にカスミちゃんともお食事できると良いんだけどね」

「そうですね。あいつは、軍の所属ですから、バイオロイドは難しいでしょうけどね」

「そうでもないでしょ? 乗員不足でアンドロイドを補充要員として配置することは確定なんだから、AI副官に義体を持たせるのが一番最初じゃない?」


 制御的にどうなんだろうな。外付けにする弊害ってないんだろうか。少なくとも、艦船から降ろすのって無理じゃないのかと思うんだが。カスミは『雪嵐』の艦船のAIでもあるからな。その辺、別のアンドロイドが着任すると思うけど。


「アンドロイド副官なら、宙兵や工兵の仕事もできるのだ」

「それは心強いとは思う。まあ、作業用の義体を艦内に置くくらいがいいかもしれん」

「それじゃあ、こうやって一緒に飲めないじゃない!!」


 飲み仲間にしないでもらいたい。ところで、ユズカはどういった経緯でFSKで取得したんだろうな。


 そんな話をしているところに、生と枝豆が登場。


「このビールも枝豆もチバラキ産なんですよ」

「「へー」」


 まあ、この辺りならそうなるだろうとは思っていた。大麦やホップを作っている農業プラントを持つのはチバラキだし、枝豆も含めて豆類の生産も多くを担っている。食品関係の製造工場も多い。ニュートーキョーで生産される食料品は、人口の多い首都星内で消費され、不足分をチバラキから購入しているという感じになる。


 ホンシュウ星系内の軌道上や小天体・要塞に居住する人たちの食料の多くはチバラキが供給している。なので、チバラキブランドに詳しい人は、生活の場を宇宙空間にしている人が多い。そのことが、ブランドイメージに対する一定のバイアスを与えているとも言える。


 宇宙船乗りにはお馴染みの、地上生活者には馴染みのない商品名となるというわけだ。実際、宙軍士官学校で提供される食材・加工食品はチバラキ産かそのご当地ブランドが多かったが、他星系は勿論、ホンシュウ星系でも知らない奴らが多かったのは、地上人が多かったという事もあるな。


 因みに、味は評価が高かった。専門家が多いチバラキ産の農産物や海産物は高品質なものが多かったからだ。また、加工技術や味も一級品であることもある。高品質低価格という、ニッポンの代名詞の如き食品を提供するのがチバラキの地なのだと言えばいいだろうか。


「じゃあ、かんぱーい」

「「乾杯!!」」


 トワさんの掛け声でカチンとジョッキを合わせて飲み始める。ユズカァェェ……中ジョッキをグビグビと飲み干していく。確かに杯を乾かすと書いて乾杯だけどさ、鯨飲するのってどうなの? バイオロイド的にさ。錆びない?




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 グンマーの焼き鳥屋侮りがたし。それなりの満足感と、トワさんを相手にする緊張感、そして、鯨飲するバイオロイドを肴にそれなりに会話は弾む。


「レイちゃんは元気かな」

「元気だと思いますよ。今はキュウシュウで演習中でしょうが、遠からずトクシマの根拠地に戻って来るでしょうから。そのうち、宙軍省か統幕に報告に行くので、タイミングが合えば会えるんじゃないですかね」

「それは難しいよね。しばらく、この護衛の往復でホンシュウ星系にはいるけど、首都星には足を運べないし」

「いや、FSKとの提携で表敬訪問させればいいんじゃないですか? 宙軍省も『青嵐型』の運用のノウハウを持っている機動支援艦隊とナカイにFSKの対応任せると思いますし」


 そうなんだよ、支援艦隊と民間警備会社って宙軍内ではわりと近い関係になると思うんだよね。狙ってやってるんだるけどさこの人達。


「それはいいアイデアだね。宙軍省に言っておこー」


 言っておくって、誰からどのように何だろうか。いくらでも伝手もコネもありそうではある。今後の展開を考えると、ホンシュウ星系の寄港地はヨコスカでもエダジマでもなく、ヒャクリを選ぶことになるだろうな。『晴嵐型』の整備を頼むのに、ヒャクリの専業ドック使った方が面倒がない。


 機動艦隊の数が増え、新造も整備補修も限界だろうから、多用途艦の整備は余所に廻されるだろう。なら、ナカイの息のかかったドックがいいだろう。面倒が無いのが素晴らしい。


 FSKの哨戒特務隊は、現役の宙軍機動艦隊所属の駆逐艦にも匹敵する動きを見せている。人集め、資財の確保とかいったいどうやってやりくりしていたのか疑問に思い、トワさんに話を振る。


「いつからFSKって動いてたんですか?」

「そもそも、多用途任務艦構想ぶち込んだの私だから」

「……へ……」

「だ・か・ら、レイちゃんが機動艦隊司令官になるのに、なんか抜け道が必要だったわけでしょ? 上は詰まっているし、まして若い女性の将官が司令官を務めるなんて無理なんだから。だから、この如何にもな多用途艦構想を宙軍省の背広組と技術工廠の変態どもに売り込んだわけ」


 どうやら、レイ・ナカイの夢は『機動艦隊の司令官』なのだそうだ。そこは、白馬に乗った王子様が迎えに来るとかでいいんじゃないでしょうか。女児の夢としてはいささかどうかと思う。


「いや、うちの旦那(故人)がいけないんだよね。自分は病弱で軍人なんて全然無理だったのに、いつまでたっても『艦隊司令官になりたい』みたいなこと言って、レイちゃんにもいろいろ話していたみたい。まあ、最後寝たきりで、レイちゃんが良く話し相手になってくれていたし懐いてたからね」


 忙しい一族の中で、半病人のカトリの祖父だけがナカイの相手をしてくれる唯一の人だったのだそうだ。だからってなぁ、女の子が艦隊司令官ってのはどうなの。


「あと、ナカイの家だとさ、一姫二太郎できて、長女が婿とって総領娘になるってことでさ、その補佐役の長男、次男なら政治家にするって構想だったんだよね。でも、女の子じゃないレイちゃん。それで、色々あったみたいね」


 男ならなと遠回しにか、酔った勢いで面と向かってかはわからないが、男じゃなきゃだめってことはないことを証明したかったのかもしれないとトワさんは言う。


「つまり、祖父の夢と家の都合を一石二鳥で片付けるための道筋が、機動艦隊司令官になり、政界に転ずることって事ですか」

「そうそう。できれば十分若い年齢でね。その方が、選挙に強いから。ほら、若くてちょっと世間擦れしてない方が、選挙民に受けがいいしね。後援会とか禿げたオッサンより若い娘の方が集めやすいし」

「選挙は数ですからね姐さん」

「そうそう、枯木も山もにぎわいっていうかさ、勢いって大切だよね実際」


 ある程度、宙華との戦争が安定した時点で、ナカイは軍を退いて政界に出るって事になる。とはいえ、サキシマの英雄をすぐに軍が手放すとも思えないし、機動支援艦隊の組織が確立され、FSK事業が軌道に乗り安定するまでの数年はまだ軍に留まる事になるだろう。


 アラフォーの声が聞こえる頃には晴れて退役し、どこぞの御曹司を婿に取り万全の体勢で政治家に転身するんだろうな。最初は親父さんの秘書などをしつつ、後継者を産まねばならないし、その後、徐々にだな。


 ママタレというのに一定数のニーズがあるように『ママ政治家』にも当然支持が集まるだろう。ナカイの家なら、子育ては母親だけでなく使用人や専業の家庭教師なんかがつくんだろうとおもう。もしくは、子守バイオロイドとかかもな。


 おれも四十過ぎたら退役時に昇進させてもらって『将官』で退役させてもらおう。退職金で、白い庭付きの一軒家を……買うのが先か嫁とりが先か悩むな。まだだいぶ先のことだが、おそらく、今俺の嫁候補は小学生だ。お巡りさんを呼ばれたくないので、いまは考えるだけにしておく。


「ツユキ君って退役後はFSKに来るんだよね」

「どうですかね。まあ、待遇とナカイの希望次第じゃないでしょうか」


 運転手兼護衛兼秘書くらいは……できると良いなと思う。車の中で書類を読んだり、連絡を取り合ったり、仮眠をとったり、あるいは食事をとる事もあるだろう。兎に角、身の回りの世話をする人間は、顔なじみの俺が適任。そして、できれば高給保証してもらいたいが、年金との兼ね合いがあるので、薄給だが現物支給とか福利厚生で所得外の特典があると良いな。


「そういえば、レイちゃん、白い家買うらしいよ。君が住む社宅にするつもりなんじゃない? いやー 愛されてるね君」


 あのメールの写真ってそういう意味だったのか。いや、あんな白亜の城みたいな家に俺が住むとか……明らかに使用人にしか見えないだろうな。


「あの西洋の城館みたいな屋敷ですよね。てっきり、ナカイ家でワイン醸造のシャトーでもチバラキで立ち上げるつもりなのかと思ってました」

「あちゃー 私もね、ちょっと気合入り過ぎだって思ってたんだよねー。あの物件をそういう風に理解したのかー まあ、レイちゃんが悪いんだけどね」


 勝手に買ったってこと? 流石ザ・お金持ち、俺なんかなら絶体に購入の検討どころか内見さえさせてもらえなかっただろうな。


「レイちゃんには白い家のこと良く伝えておくよ」

「よろしくお願いします?」


 さて、やっぱお城買っちゃったこと怒られるんだろうか。まあ、新しい事業を始めると思えばねぇ。ワイン用のブドウだって、まともに育つのに数年かかるっていうから、いまから始めておけば、退役後、シャトー・ナカイの城主としてワイン醸造所開けるんじゃないかな。知らんけど。




【作者からのお願い】

更新できるように頑張りたいと思います。応援していただけると嬉しいです。


 一日一(・∀・)イイネ!!もお願い申しあげます!


『わりと読めた』、『この続きを読みたい』と思われましたら下記にある広告下の【☆☆☆☆☆】で評価していただけますと、執筆の励みになります。よろしくお願いいたします!



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。


参加中!ぽちっとお願いします
小説家になろう 勝手にランキング


― 新着の感想 ―
[一言] ツユキサンの予想(願望)とナカイ家のアクションとの齟齬がドキドキします。 ノーガード戦法なのか、ディストーションフィールドに捉われているのか。 あと、住居は住む人に意見を聞かないとトラブル…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ