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079 AI副官と簡易AI―――『哨戒特務艦その弐』(完)

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079 AI副官と簡易AI―――『哨戒特務艦その弐』(完)


 先頭の一隻を戦闘不能状態まで破壊し、後方に退避しようとする二隻の武装商船に対して、トワ隊長が無慈悲な攻撃を仕掛ける。


『95式宙雷二隻の不審船に対し、各三発発射!!』

『95式宙雷発射します。三、二、一、発射!!』

『発射!!』


 『内海』と『肩衝』の搭載する三十連装95式宙雷発射機から各三発の宙雷が射出される。FSK隊から離れ、前方で方向転換中の二隻の宇宙船に向かい、スルスルと三本ずつの火箭が飛んでいく。


『ああ、オーバーキルかもしれないわね』

「この距離なら、まず外れないもんな」


 威力が小さいとはいえ、転進の為速度の落ちた宇宙船に対し、その無防備な推進器を『当ててください』とばかりに晒す状態では、外す方が難しいだろう。


 宙雷の加速に対し改造武装船とはいえ小型輸送船ベースのそれが振り切るほどの速度を出せるはずもなく、また、有効に回避できるほどの運動性も、回避運動を操作できるほどのAIも装備しているとは思えない。まして、その運航を司る航宙士も軍のそれとは比較にならない能力だと推測される。


 もう、命中し撃破されるのは時間の問題だろう。


『当たるわね……五、四、三…… 全弾命中。機関停止ね』


 三発の宙雷を推進器周辺に受け、推進器が爆散し船体後方が砕けたといった態だろうか。先頭で集中砲火を受けズタボロになったよりは生き残れている乗員が多い気がする。


『司令、宙兵隊、出撃いつでも可能です。船内探索を実行しますか?』


 クサブエ宙尉からの意見具申。とはいえ、勝手に許可するわけにもいかない。

俺は、トワさんに確認することにした。


「トワさん、バイオロイド宙兵をPFSで船内探索に出す事ができますが、FSKとしてはどうしますか?」

『それは正直助かるね。一先ず、無人機を出して監視を行う事は出来るけど、この場で拿捕するなりは無理だもんね』

「宙堡の駐留部隊に依頼した方が良いでしょうね。こちらは、損傷の激しい先頭の船を確認しておきます。脱出艇が出てきたら、無人機の宙雷で攻撃するようにセットしておいてください」

『あはは、鬼だねツユキ司令』


 いや、俺の半分は優しさで出来てるから。残り半分はなんだろうか。


 FSK隊は急ぎ護衛の位置に戻ることにし、俺は一先ず先ほどの話通り、クサブエ宙尉に船内探索の役目を与えることにする。


「宙尉、FSKから船内探索の依頼を受けた。これから、先頭で砲撃を受け大破した商船の内部捜索に移ってくれ。宙尉の視界をこっちにも共用してもらいたい。念のため、PFSには一人残して船の周囲に配置して警戒にあたらせること。こっちは、無人機を出して観測するようにする」

『クサブエ了解。直ちに、不審船へ向かいます』


 PFSが『雪嵐』から分離、同時に、無人機二基も向かう。仮にこの不審船をAとする。


 目標から少し離れた場所にPFSを停止させ、周辺を確認したのち、『クサブエ』と『トガリ』が潜入する。『イビガワ』はバックアップとしてPFSに残り操作する。


『Aに着艦。クリア』

『開口部から内部に侵入。電波環境が悪化すると思われます……します……』


 クサブエの通信が途切れ途切れとなる。画像も荒くなり、チラチラとし始める。宇宙船のフロアは三段だが、船倉部分は吹き抜けのような形なので、中央部は空洞に近い標準的な商船構造だと言える。


『何人生き残ってるかしらね』

「ゼロで構わない。回収したい拠点の情報や、誰とやり取りしていたのかの証拠か

行動記録が欲しいな」


 派手に攻撃された影響で、内部を高熱と電子の嵐が襲っていたのだと思う。真面な宇宙服を着用するような装備を有しているはずもないので、戦闘直後なら生きていただろうが、今となっては虫の息か死んでいるだろう。丸腰の輸送船団を襲うつもりが、自分たち以上の火力で反撃され、まさか撃沈されるとは全く思っていなかったのだろう。


『司令、ツユキ司令。せいぞ……』


 おい!! クサブエ、ハッキリ通信してくれ。気になってしょうがない。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




『……司令……確保……』

「わかった、一旦船外まで撤収してくれ』

『クサ……了……』


 ただでさえ多いデブリに、破壊された不審船の残骸の影響ですこぶる通信環境が良くない。こんな場所にいつまでも滞在しているのはどうかとも思う。先にカトリ隊を船団護衛に戻したのは良い判断だったろう。


 数分後、PFSからの通信。どうやら、目当てのものが回収できたようだ。


『報告しますツユキ司令』

「お疲れさん。で、乗員の生存者はいたか?」

『足元をご覧ください』


 そこには、なにか不格好な存在が転がっている。あれだ……『達磨』ってやつだ。


「それ、生きてるのか?」

『バイタルはかなり乱れているけれど、死ぬ状態じゃないわよ』


 AI副官の指摘に多少安堵する。いままで、生身の賊の生存者って会った事ないからな。


「宙兵隊流の歓迎ということでいいのか?」

『手足を斬り飛ばし、戦闘不能にすることは「非正規兵」に対しては認められております。また、再生治療を施すことを条件に司法取引に持ち込むことも十分可能であるため、このような措置を施しました』


 措置を施すね……見た目の良さに胡麻化されそうになるが、やっぱり戦闘用バイオロイドの気質は少々生身の人間にはキツイな。言い換えれば、俺達が躊躇するような行動も、彼彼女たちは容易に受け止めるってことだ。その点は頼もしくもある。俺の方に銃口を向けないのであればだ。


――― ロボット三原則万歳!!


 破壊された不審船の艦橋から、航海データや運行記録を回収。どうやら、平時は傭船業者としてニッポン宙域でペーパー企業を抜け道にして仕事を受けているような記録がある。とっとと、官憲に情報を引き渡して、宙軍憲兵にでも対応して貰おうかと思う。


 ここは『機動支援艦隊』の管轄じゃないし、FSKにも通報の義務こそあれ、それ以上は越権行為だろう。なので、宙堡に丸投げであとはホンシュウ星系防衛艦隊のお仕事でしょうが。


「何人くらい生存者っているの?」

『……ここには一人です』


 まだ、破壊された商船内に複数放置されているってことか。脱出ポッドで射出されたとしても、俺達に狙い撃ちされるか捕獲されるしかないので、今は船内で大人しくしているのかもしれないな。


「命令だ。船長の他、一等航宙士と通信士長もしくは通信士を生かして連れてこい」

『……承知しました』


 アンドロイド兵に『否』はないのだが、不満そうだったな。


『あんた、宙兵としては一人前かもしれないけれど、参謀教育受けてないんでしょ? 捕虜を複数取って、互いに疑心暗鬼にさせて情報をとるのが基本よ。だから、一人じゃだめなの。覚えておきなさい』

『了解しました、戦隊副官殿』


 俺が説明する前に、優秀なAI副官殿が説明してくれた。過不足はないな。


「クサブエ宙尉は知らなくても、カスミは知っているってのはどういう仕様の差なんだ」

『副官としての業務には初歩的な部隊幕僚としての権能も含まれるからよ。彼女は中隊指揮官までの教育だと思うけど、促成なんだと思う』

「けど、宙兵は潜入作戦とか情報収集のための拉致とかもするだろ?」

『選抜部隊は教育されると思うけれど、そんなのうちに教育ついでの配属されるわけないじゃない』

「ごもっともでございます」


 あまりに鮮やかな行動なので忘れがちだが、バイオロイドの新人教育として宙兵隊から預かってるんだよな。あくまでも実戦経験が無い状態で、睡眠学習のみの教育でここまでできてるんだから、アンドロイドと生身の人間の差は大きい。が、経験不足という事を常に頭に置かないといけない。


 捕虜を複数確保するという意味が、理解できていなかったんだからな。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★





 『達磨』四体を確保した後、反応炉を暴走させ宇宙の塵を増やした俺達は、漂流中のエンジンを破壊された二隻の武装商船に散々爆発しない程度に砲撃を行い修復不可能な程度に破壊をしたうえで、無人機を監視に配置して船団護衛の任に復帰する事にした。


 あとは防衛艦隊のお仕事。俺の仕事じゃない。達磨を見る気もしないので、グンマー到着までPFSに収容したままで良しとする。騒いだりされると死ぬかもしれないので、鎮静剤を与えて静かにさせている。多分、大丈夫だよね。




 半日ほどのち、俺達は無事、グンマーに到着。第二宙堡に出向き、捕らえた宙賊を引き渡す事にした。撃退したのはFSKのカトリ隊だが、俺達が撃破した不審船に移乗し、宙兵隊所属のバイオロイドの実践訓練がてら内部を探索させ、宙賊の情報とその乗員を確保したということを報告したわけだ。


「戦力が不足しているこんな時に……」


 協力に感謝されるわけでもなく、また、宙堡の制宙域で起こった事件に対し不手際を謝罪するわけでもなく、周りが見えていないらしい宙堡の指揮官にイラっとする気持ちを禁じ得ない。


「では、引き渡しの書類にご署名をお願いします。あとの対応はよろしくお願いします」

「ちょっと待て。今、第二宙堡は駆逐艦が出払っていてな、コルベットしかいない。なので、お前たちにその宙賊討伐を命ずる」


 一瞬、頭の中が?でいっぱいになる。なんで、俺がこいつの命令に服す必要がある。というよりも、命令系統とかどう考えてるんだ。そもそも、俺の階級解ってるのかこの禿。


 というよりも、横のAI副官が何か言いだしそうな雰囲気。


『もしかして酔ってるのだ?』

「そんなわけないでしょ、いくら馬鹿でも服務中に飲酒は……ルーシじゃないんだからないわよ。ねぇ?」


 空気がキンと音を立てたかのようにひり付く。厳冬期に外に出ると、頭を殴られたように寒さで痛むと聞くが、まさにそんな感じだ。


「こっちは、政府通して船団護衛の契約を受けて同行してるんだよね。それで、たかが准宙佐ごときが、指揮命令系統無視して、戦闘艦が不足してるからって交戦中でもないのに民間船徴用しようっての、どういうつもりなんだろうね」

「最低でもホンシュウ星系防衛艦隊司令官の肩書で、宙軍省発行の書類が必要でしょう。FSKは政府との契約でこの宙域における船団護衛任務を服務中ですし、俺は機動支援艦隊第一戦隊司令なんで、こいつの命令とかどうでもいいですから」


 俺の階級章が『宙佐』であることに漸く気が付いたらしい。


「そして、散々無駄飯喰ってきた宙堡の艦隊が半分引き上げられたのは、なんか後ろ暗い事があるからかもしれませんね」

「ああ、この宙賊のおっさんに情報流している奴がいるってことでしょ? それはそうだよね、船団名まで伝えて停船命じてきたんだから、そのまま横流しされて伝わってるんだろうね。で、何が言いたいのかな君は」


 引きずられてきた『達磨』のおっさんを見て顔色が悪くなる准宙佐。お友達なのかもしれんね。


「まあ、その宙賊狩りもFSKで受任したら、やるかも知れないけれど、業務外なんでお断りだね。勝手にそんなことできないし、本来は星系防衛艦隊の仕事でしょ? 自分で報告書書いて、グンマーの安全のために寄与するのが正しい軍人さんの在り方じゃないかな?」

「仰る通りですね。俺も、機動支援艦隊経由で報告書を上げておきます。色々、第二宙堡の対応はおかしいとね」


 准宙佐はますます顔色が悪くなってきた。しかし、宙堡の指揮官って准宙将クラスじゃないんだろうか? なんでこんな中途半端な階級の佐官が仕切っているんだろうと疑問に思う。


「こちらも取調べは宙兵隊士官に一応させていますが、よろしくご対応お願いしますね准佐殿」

「……承知しました、宙佐。お二人のご協力に感謝いたします……」


 不本意そうな顔を隠さず、宙堡警戒隊の司令である准宙佐は言葉の上だけ礼を言った。



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― 新着の感想 ―
[一言] 達磨と聞いて賊に教われたあわれな被害者かと思ったら主人公サイドが制作してたでござる
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