078 AI副官と簡易AI―――『哨戒特務艦その弐』(参)
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078 AI副官と簡易AI―――『哨戒特務艦その弐』(参)
バイオロイド型AI副官は、『情報収集モジュール』とのセットで運用されることで戦隊の指揮統制に大きな効果があるらしい。個艦の不足するデータ処理能力を旗艦機能とAI副官で補完することで、宙軍戦隊並にまで戦力を強化することにつながるのだという。
「随分と高性能ですね」
『そりゃそうだよ。「青嵐型」と同じ値段するんだから』
『青嵐型』は『晴嵐型』の約半分のお値段で建造できるのだが、言い換えれば、お安い宙軍軍艦の半額程度の価格であるとも言える。普通にお高いのだ。
「大型航宙機なみですね」
『そうそう。JDの統制なんかも任せられるからね。ちょっとPFSだと不安じゃない?』
PFSのJD能力は非常用であり、かなり距離と精度に難がある。PFSに『青嵐型』のJDを委ねるのは危険だと思っていたし、本来、星系内での限定運用か、今回の場合、『雪嵐』が引率してHDゲートを移動したので問題なかったが、解決策を独自で得たのかと理解する。
「いつ、到着したんですか彼女?」
『この船団護衛開始直前だね。なので、今は習熟中。カスミちゃんがいるから、今回は見学みたいなものだと考えてるよ』
能力的には新型ということでカスミより新しい世代の副官AIなのだろうか。それとも、民間用に若干ディチューンした仕様なのかは不明だ。
『カスミちゃん並だって保証されているよ』
『ユズカとか言ったわね。手本を見せてあげるから、しっかりそこで眼を大きく開けてみていなさい!!』
『よろしくお願いするのだ』
のだ……のだっ子か。
「もしかして、トワさんモジュールの司令官室にいるんですか?」
『そうそう、二人の空間だよ』
一人と一体ね。確かに、PFSの艦橋よりは格段に居住性が良いよな。艦隊司令官が座上するには最低限だが、寝室も食堂もシャワー室もある。本来、二十人程度を収める場所に二人なんだから、余裕はあるだろう。
もっとも、PFSの格納庫に簡易宿泊キットを持ち込んでいるし、巡視船モジュールはかなり居住空間が良いので、一番待遇が良いのは『茄子』だろうか。
「警戒監視はそちらにお任せします。何か事案が発生した場合、対応が難しそうであればお手伝いしますよ」
『なるべく手を借りずに済ませるよ! 宙兵を出してもらうような事案でもないかぎりやりきってみせるね』
フリフリと手を振られ、通信終了。あの副官AIとんでもない価格だが、それでも、艦隊運営が必要となれば、四ないし八隻に一体くらいは必要だろうな。
『金髪碧眼だったわね』
「名前、似せていたな。リスペクトかよ」
カスミ・ソデガウラと、ユズカ・カスミガウラ。ご当地名であるし、何より霞ヶ浦は航空隊としてゆかりの地名だ。
『民間船に軍用AIがそのまま乗るのは問題なんでしょうね。整備で一々軍用のドッグに民間船を受け入れる事は出来ないでしょうし』
「外付けせざるを得ないし、AIの能力不足で戦力が発揮できないのも問題だから、その妥協策だろうな」
FSKの『青嵐型』は民間多用途輸送艦であるから、民間のドックで整備補修してもらわねばならない。ただでさえ不足する軍用のドックを使わないのでなければ後援する意味が宙軍には無い。AI副官がバイオロイド型であれば、ブラックボックス化も配置転換も簡単にできるのだから、コスト面以外での問題はないだろう。
自力で危険回避をする事すら可能だ。自衛のためのプログラムもインストールされているのであれば、一般の乗員以上に戦力になり得る。
アンドロイドの乗員を導入する過程で、バイオロイド型AI副官も増える可能性が高いな。三分の一程度アンドロイドに置き換えるという話もある。人的資源が枯渇する前に、手を打てるところは手を打つ方が良いというのは俺も思う。
「カスミもバイオロイドの方がいいのか」
迂闊な事かと思ったが、うっかり言葉が出てしまった。気まずい沈黙。
『そんなわけないでしょう? この艦と戦隊全体の御守りに、生身の体を与えられた日には、司令の護衛迄兼任させられそうじゃない。自分の身ぐらい自分で守ってもらいたいわね』
「それはそうだ。愚問だった」
『……本当に……愚問よ……』
いつか、バイオロイドの副官が付くかもしれないが、その時俺は、この艦の艦長じゃなくなってるんだろうな。それはそれで寂しくもある。
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出航してはや三日、そろそろデブリが増えて来るのは、小惑星帯が近づいてきた証拠だろう。暇すぎるのか、しょっちゅうトワさんから雑談通信が入る。
『いやー 掃海掃討モジュール積んでおいてよかったよ実際』
そういえば、ゴトウでもタイペイでも小天体や宙雷の多い場所では、掃海掃討モジュールに随分と助けられたな。非常に多い小天体から危険なものを探し出すという情報処理の非常に大きな負荷を持つ作業は、専業のシステムが無いとかなり難易度の高い作業になる。
『情報収集モジュール』でも不可能ではないが、より広範囲の処理を行うのであれば、『掃海掃討モジュール』は必要だろう。
そう考えると、モジュールのセットを考えた奴は先見の明がある。
『ニカイドウ宙佐に選んでもらって正解だったね』
デブかぁ、デブなのかぁ。まあ、あいつとは無駄に付き合いが長いし、『晴嵐型』を押付け……もとい、任された技術将校でもあるから、妥当かもしれない。何か問題があったら、詰め腹も斬らせやすい。技術工廠は『公社』扱いなので、民間との取引ができないわけじゃない。けれど、デブは技官とはいえ宙軍軍人なので、『青嵐型』を引き渡した先で何らかの不始末が出た場合、『ニカイドウが責任をとれ』という流れになる可能性が高いんだろうな……
『あの子、面白いからさ。軍を辞めたらうちにおいでって言ってあるんだよ』
「へぇ、そうですか」
『ツユキ君もどう?』
どう?って言われてもなぁ。個人的にはナカイの運転手をするつもりなんだが、それってFSKからの出向社員とかになるんだろうか? それなら受けないでもない。
『それに、白い家の社宅も確保してあるしね』
「……良く知ってますね、俺が軍を辞めたらって……」
『ブッブ― そういうの、死亡フラグなんじゃないの?』
いや、それは「俺、この戦いが終わったら」でしょうが!! 将来設計口にするたび死ぬんじゃ、幾つ命があっても足らないじゃんかよぉ!! 「七生報国」って猫なら九生だから負けてるじゃねぇか。
猫ってタフだな。
そんな与太話をしていると、警告音。
『デブリに紛れて小型商船らしき艦船が接近してきたのだ』
のだっ子ユズカの声。スクリーンには『茄子』が捕らえたであろう、細かな小天体の群れに紛れて船団の進行方向に対して斜め前方から接近する三つの船影をモデル化した映像が表示される。
『ユズッチ、小船団って可能性はない?』
トワさんの質問にAI副官が端的に『無い』と答える。
『所属不明、該当する船舶は既に廃船になっているはずの登録番号』
『いつかどこかで聞いた話ね』
ヒンドゥの巡洋戦艦な。比較的小型の内航宇宙船と思われるが、それにしては船足が速い。見た目と中身が異なるってことだろうな。
「カスミ、どう判断する?」
『怪しきは撃てでしょ!!』
一応、警告位した方がいいよね? 後は、相手の攻撃を確認してからでもいいんじゃないかな。
進行方向を遮るように接近する三隻の商船改造の武装艦なんだろうか。すると、宙際周波数での呼びかけが入る。
『第3682グンマー船団に向け伝える。こちらは、旭日戦闘団。速やかに停船し、当方の臨検を受けろ』
はて、そんな名前の宙軍組織はあっただろかと一瞬思うのだが、これって私掠船……宙賊船の類だなと理解する。確かに、小惑星帯での宙難事故は起こりやすいのだが、あくまで小天体との衝突などによる宇宙船の喪失であると考えられていたのだが、どうやら、こそっと活動している奴らがいたらしい。
けど、いままで『グンマー船団』が宙賊船の攻撃を受けたという話は聞いたことが無い。
「司令、これはフラッシュアイディアなんですけど」
通信情報士が俺に話しかけてくる。
「今まで、宙堡所属の駆逐艦とフリゲート四隻が船団護衛を引き受けていたではありませんか。ですが……」
そう、今回、宙堡所属の八隻の艦船のうち、半数が船団護衛の帰りにそのままドック入りをし、代わりにFSKが護衛についたわけだ。『青嵐型』四隻が護衛に加わっているのだが、一見、輸送船にしか見えないシルエットをしている。
つまり、護衛がいないと思ってのこのこ宙賊が現れたという事ではないかというのである。
「いや、洋上迷彩している輸送船っておかしいと思わねぇのかよ」
「そこまで気にしていないと思います。それに、宙軍内部に情報を漏らしている協力者がいるのかもしれませんね」
あまり考えたくないのだが、行きの護衛が帰りはつかないということを、宙賊団に伝えた奴がいるという事か。けど、護衛がいないわけではないので、船団関係者ではなく、宙軍の宙堡塁内部、もっと言えばドック入りした艦船の乗員に該当者がいると考えるのが自然かもしれないな。
そんなことは後回しにして、宙賊をどうするかが先決だ。
「トワさん、トワ隊長」
『何かな、オブザーバー司令殿』
スクリーン上に投影された三隻の小型船は、特設巡洋艦にはなれないサイズの小型艦であり、特設砲艦もしくは特設哨戒艦程度だろう。とはいえ、陽電子砲を二三門は装備しているだろうから、非武装の商船や艦首シールドのない、『青嵐型』においては脅威であると言える。大きさも同じくらいか、やや相手が大きい。
「お任せしてよろしいでしょうか」
念のため、トワさんに確認をしておく。しゃしゃり出るのはどうかと思うのだ。
『そりゃそうだ。私たちの仕事だもん。こちらFSK隊長のカトリ。船団各位は増速しそのまま「グンマー」を目指すように。FSK所属艦各位は、三隻の不審船を実力を持って排除する。我に続け!!』
『『『おぉうぅ!!』』』
血の気の多い老兵たちがトワさんの掛け声に気勢を上げる。『大海』が転進し、それに追いつくように『内海』『茄子』『肩衝』の三隻も加速しつつ進路を揃える。
『往生際の悪い奴らだ。先ずは、向かってくる気のある奴らから仕留めてやるぞ!!』
船団を遮る進路から、向かってくるFSK隊に正対するように向きを変える。そして、発砲!!
『威嚇かしら。全然当たりそうにも無いじゃない』
陽電子砲の威力は宙軍駆逐艦の標準である七六式陽電子砲クラスだろうが、恐らく、収束率が低いので射程は『青嵐型』の五七式と同程度になっているだろう。『雪嵐』などの場合、収束率を弄って射程を伸ばして威力を増しているので、七六式並の射程なんだが、FSKのドノーマル並の射程にレベルが下がっているように見える。
『こちらも、撃ち返すのだぁ!!』
気の抜けた掛け声のAI副官の合図で、四隻の駆逐艦の前方を指向している八門の五七式陽電子単装砲から一斉に射撃が行われる。明らかに先頭の一隻に集中砲火を浴びせている。
『やっぱり、モジュールの観測装備があるからこそのコントロールね』
「だな。基本の装備だと、ここまで射撃の精度がだせないだろうからな」
一度目の斉射で交叉をとることに成功したFSK隊は、二度目の斉射で先頭艦に複数の命中弾を与えることに成功。散発的な応射を行っていた商船のうち、後方の二隻が減速し、転舵しようとしているのが見て取れる。
『逃げ出しそうね』
護衛対象を守る事がFSKの仕事だが、逃げ出す武装商船の追撃をどうするか、悩むところだなと思うのだ。
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