076 AI副官と簡易AI―――『哨戒特務艦その弐』(壱)
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シミュレーターを教官や民間人が占有するのは良くないという事で、実際の演習を、『青嵐型』を用いて行う事にした。俺? 『雪嵐』と同行させられ中。他の三隻は、教導隊で教官役を務めているよ。今後、隊司令になる奴らだから、その予行演習みたいなもんだ。
カトリ隊の旗艦『大海』、以下『内海』、『茄子』『肩衝』だそうです。なにそのネーミング。
「茶器の名前だね。この四隻は『茶入』の種類だよ」
「なんでまたそんな……」
「日本の伝統を諸外国に知らしめるためだね」
なるほど、とおもわないでもないが『茄子』とかどうなのと思わないでもない。
「この後は、『初花』『文琳』とか続くよ」
「『尻膨』とかどうするんですか。セクハラ感ありますけど」
「大丈夫だよ、煩そうなのがいる宙域は関係ないからさ」
確かに、茶器の名称というのは固有名詞だから、言葉狩りに会う事もない。その時代においては問題なかった言葉を、現代から遡って問題視するのはいくないですわよね。
「『楢柴』とか『新田』もあるし、なんならパーソナルエンブレムに茶器を描けばいいんじゃない? 隊服のワッペンも茶器にしてさ」
「表とか裏とかの宗家が問題視しません?」
「そんなの、黙らせるんは難しくないよ。それに、人類の歴史的財産をお茶屋が独占するってのもおかしな話だしね。まあ、その時はその時だよ」
いや、その辺は事前に話通しておいてくださいね。余計な風当たり強くするような真似はよしましょう。
茶道具には四季に因んだ銘が存在するんだそうで、天候気象に因んだ銘を付ける駆逐艦と似て非なるあたりを考慮して選んだそうです。
「『常盤』とか『好日』なんてのがお正月銘柄だね」
「じゃあ、初夏ならどんなのあります?」
『卯花』『青苔』『蛍』『早苗』『琵琶』なんてのがある。他にもあるのだが、駆逐艦名と被るので、その辺を外して考えるという。植物名も被るの在りそうだな。
「ちなみに、レイちゃんの誕生日は」
「11月3日ですよね」
「正解。良く知ってるね」
「付き合い長いですからね。因みに俺は……」
「8月18日でしょ、レイちゃんに聞いた」
おう、そんな話もするんだとちょっと驚く。
「私は、7月27日だからね。ちょっと近いかもね君と」
「夏休み同士、寂しい関係ですね」
「そうそう、学校休みの時の誕生日ってさ、友達にお祝いしてもらえなくって寂しいよね」
まあ、あなたの場合、もう半世紀以上前の話だから忘れてくださいおばあ様。
実際、『民間軍事会社』の哨戒特務艦の警護隊の護るべき対象は、契約した衛星『チバラキ』もしくは、小惑星帯『グンマー』の船団を所属不明の武装商船の攻撃から守る事にある。たぶん。
航路は定期的にホンシュウ星系防衛艦隊や、二つの宙堡所属の警備隊、そして、就役準備中の各艦艇と第一機動艦隊の補助艦艇によって『掃宙』されているのだが、今のところ戦闘艦と武装商船がホンシュウ星系で会敵したという報告はない。
今までの無人戦闘艦・武装商船の行動から推測すると、少なくとも彼我の戦力差を考慮して戦闘を仕掛ける程度のAIによる取捨選択は為されていると思われる。言い換えれば、戦闘艦の集団をスルーし、非武装・少数もしくは単独の船舶を狙って襲撃するのではないかということだ。
「なるほどねー」
「巡洋戦艦の主砲をもっている浮砲台は、駆逐艦四隻なら勝てそうだと思って襲撃してきたんだと思います。まあ、その指揮AIは吹き飛んでしまっているので確証は得られていませんけどね」
「だから、私たちが船団護衛に就くだけで、抑止効果が得られるってことね」
そうなんだよ。シミュレーター無双していた『カトリ隊』の大先輩方には申し訳ないのだが、現状の報告をナカイ司令官閣下に伝えたところ、お怒りの返信が来たわけだ。その内容が今までの会話の意味するところ。
「敢えて攻撃してきたという事は、警護隊を上回る戦力だと敵AI指揮官が判断したという事ですから」
「目にもの見せてやる?」
「……ではなくって、契約上、あなた方が守る船団に被害が出たらまずいのでは?」
なんで、こう、ウォーモンガーなのかなこの美魔女は。
「大丈夫。保険の契約上、護衛が付いている状態での被害のみ保険適用する
ってことで、護衛が必要な船団だから!」
そうじゃないだろぉ! 仮に宙軍の正規艦隊が護衛についていたとしても、指揮が悪いか、相手の攻撃能力が上回るか索敵に失敗して奇襲を受けたなら損害は必至だ。けど、警備会社がそれじゃまずいんじゃないでしょうか。例えば、企業の契約的にだ。
「気にしないでいいよ。それに、適当に沈んでくれた方が、船舶会社も造船会社も保険会社も喜ぶから。あ、人的損害は無しでね」
「……どういう意味ですか」
どうやら、船舶会社はある程度新造船を確保したいのだそうだ。古くなれば維持コストも高まるからだ。沈んでくれれば、国からの保証や有利な条件での新造が認められ(おもに税制面など)、造船会社も利益が出る。保険会社も、保険料を上げることができるうえ、保証の範囲のある程度は税金でカバーされるので、実質売上利益が改善される。
関わる全員が儲かるから、ある程度の損害は許容されるらしい。
「まあ、一番襲撃されやすい、船団の左右の後端は沈んでOKって船を配置する迄がセットだね」
「世知辛れぇな……」
「まあ、そういうことで世の中回っているのだよ。君がレイちゃんの傍に居続けるつもりなら、そういうことも勉強していきたまえ」
おう、運転手兼護衛にもそんな世間知が必要って事だな。清濁併せ呑む政治家の運転手に成れってことか。俺。
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『雪嵐』を所属不明の武装商船とみなした、防衛訓練を「カトリ隊」は開始したんだが、PFSの簡易AI副官でも、我等がAI副官が行った『威力と射程増します』高負荷砲撃を再現したのは、流石、元砲術系戦術士官の諸先輩方だと感心する。
「あれ、寿命削ってるよな」
宙軍なら認められない仕様。その指摘を軽く受け流すAI副官。
『大丈夫だって、初期不良で保証期間内なら無料交換させるからって、だから、壊れてもいいみたい』
「いや、それ通るのかよ……」
普通、指定された使用法以外でユーザー過失で破損した場合、保証の対象外だろ? それに、消耗品も保証の対象外だ。
『FSKで百隻単位で購入するみたいだから、結構無理が効くんだって聞いたわよ』
「どこの国家内国家だよ!」
『チバラキの君主みたいな立場だからじゃないの? 自領の安全は自領で守らないとって話ね』
確かに、ナカイHDは『チバラキ』の域内総生産の過半に迫る金額を稼ぎだしているし、取引先やそれに付随する従業員の生活を支えるサービス業まで含めれば、『ナカイ公国』と称してもおかしくない存在ではある。
自治権を主張して独立戦争を仕掛けることはないだろうけどな。
「今まで、安全保障をニッポン政府に丸投げしていたけど、今後は独自に編成していくという事か」
USAには米国の州兵の概念を元とする『郷土兵』という戦力が存在する。国土防衛隊や国家警備隊といった名称で呼ばれる事もある。これは、正規軍・宙軍とは別組織であり、各惑星・衛星・人工天体・自治領政府の指揮下につく存在だ。
但し、宙軍の機動艦隊のようなものを持つ事はなく、あくまで警察の上位互換のような存在であると考えればいい。治安維持や、災害復旧などの場でもいち早く宙軍より先に活動する場合が多い。
国家に対する場合、戦時には宙軍の予備戦力として組み込まれる場合もあるが、本質的には自治政府の統制下にある。
国ではなくチバラキ自治政府と契約を結んでいるところに、FSKの存在意義がある。つまり、宙軍は直接、FSKの宇宙船・戦闘艦に指示命令を行う事ができないということだ。
『あ、でも、チバラキ自治政府からの指示で、「機動支援艦隊」の指揮下に入る事は容認されるんだって』
「なにその孫馬鹿な契約……」
下
宙軍・統幕の指揮下には入らないが、ナカイの指揮下には入るってことだよね。誰が認めたんだよそんな契約。まあ、パルチザンとか民兵扱いならそうなるかもしれない。目立つ洋上迷彩も、宙軍と異なる武装組織であることの意思表示かもしれないし。いや、ただ単にカッコいいからだな。
『ヒャクリって駐留基地? FSKの母港が建設中なんだって』
どこの無頼だよ。確かに、チバラキといえば、首都防空の要であるヒャクリは外せないだろうけどな。まあ、好きにしてもらいたい。
雇用が増え、人口が増加し、様々な産業が誘致されるにいたるのかもな。元々、チバは戦前『軍都』みたいな存在だったらしい。それで、外国人も労働者として住み着いていた。カワサキに似ているかもな。
今は、ヨコスカやヨコハマに占有されている軍関係の製造施設も、この機会に分散することも考えているんだろうと思う。新設するなら、開発容易な衛星『チバラキ』ってことだな。
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そんな感じで半月ほど、FSK・カトリ隊の習熟航海に付き合ったのだが、旗艦から離れて単独で『トクシマ』に戻ったクルリ首席幕僚の到着と、現状の確認を終えると、トワさんからの依頼という事で、首席から新しい命令が来たんだよ。
「FSKの艦隊に同行して、ホンシュウ星系・グンマー宙域までのエスコートをお願いするわね」
基本的に、JD機能を排除した『青嵐型』を標準船体として用意しているのだというが、一部の先行型は完全に『晴嵐改型』の仕様で製造されているのだという。なので、カトリ隊四隻はHDゲートを用いた自力航行が可能なんだそうです。防御シールドは未装備。
「なぜグンマー宙域なんでしょうか」
「主な護衛航路が、そことチバラキの間になるからって聞いてるけど?」
グンマーはホンシュウ星系の中で、ニュートーキョーに近い小天体の密集したアステロイド帯のことなんだが、人口も少なく鉱物資源の採取や研究開発施設、宙軍の第二宙堡などがある地域だ。
宙堡の艦船がエスコートするにしても、頻度や規模がかなり制限される。なので、FSKがそこに介入することで、宙軍・グンマー政府と交渉が成立しているらしい。稼働率が低下しつつある宙軍からすれば、頼めるなら外注したいってところなんだろうな。
「『晴嵐型』には相変わらず艦隊派の拒絶反応がありますからね」
「そうなんだよ。コースガードなんか、さっさと使えないコルベットとか艦隊に渡して、『晴嵐型』に換えれば、救難や観測・輸送にも使えるんだけどね」
星系防衛艦隊は、機動艦隊以上に『艦隊派』が多いらしい。機動艦隊に配属されなかったことに対するコンプレックスの裏返しなのか、多用途艦に対して必要以上に忌避する傾向が強い。めんどくせぇオッサンどもだ。
「雑役艦呼ばわりですからね」
「ワークホースと言い給え司令」
「失礼しました、首席参謀殿」
あははと軽口を言いながら笑う。クルリ先輩的には、教導隊の育成計画にそれなりの楽しさを見出しているようで、トクシマに戻れて嬉しそうではある。彼女がいれば、俺の仕事は特になくなるわけだ。副司令官格なわけだから、俺を飛ばして、第一戦隊の各員に直接指示をすることも問題ない。俺が不在ならばだ。
「そういえば、ツユキ君、真っ白な一軒家に住みたいんだってね」
首席幕僚から思わぬ話が出て、一瞬、思考が停止する。奇襲効果を実体験する。
「良くご存知ですね。酒の席での話ですけど」
どうやら、ナカイがその話を聞き物件を検索しているのを見たという話しであった。トワさん経由でナカイに話が回ってるんだろうな。それをネタに俺を弄るつもりなのかもしれんな。
だが、俺なんかが探すよりナカイが探す方が良い物件を押さえられるんじゃねぇかと思い、それはそれでコネになるかもと思う事にする。高い買い物だからな、そういうところで貢献してもらうのも友情だろう。
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