075 機式宙兵と無人機―――『哨戒特務艦』(完)
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「ねー なんかズルくない?」
シミュレーションで完勝した俺に、トワさんが早速噛みついてくる。怒っているのではなく、ネタにしてからんできた感じだ。微妙ににやけているし。
「ズルくありません。戦闘艦と特務艦では内容が違いますからね。そこまで宙軍も便宜を図ってはくれませんよ」
「ちぇー 統幕の知り合いに圧力……相談しようかなー」
やべぇ奴だろそれ。そもそも、軍用品の能力ってソフトの差でもあるわけで、制限のあるブロックと限定解除のブロックでは能力が段違いなのは仕方がない。
晴嵐の場合、AI副官の能力でブロック0から8までの9段階で制限や効果範囲が変わる。因みに、ブロック0はAI副官無しのモデルになる。
「カスミちゃんはブロック7なんだよね」
「はい。8は開発中なので、今のところ最も広範囲に能力を使えるAI副官のブロックになりますね」
「そっか。ブロック2程度だと、精々AI同士の初歩的な連携までだもんね」
「それでも民間船としてはかなり高度ですよ。船団を編成した場合、完全AI任せで良くなりますから」
ブロック2は複数艦によるデータの共有が可能となる段階で、データリンクによる艦隊運動能力を有することになる。複数の目標を各艦の基本装備で分担して対応する事も可能であり、アップグレードしていくことで、複数の武装モジュールにもおそらく対応できるようになるはずだが、現段階では基本装備だけの連携になっているはずだ。
「同型艦だけでリンクすると、確かに楽ではあるね」
「哨戒艦艇ですから、過剰な攻撃能力を持たせない程度でAIの能力を制限しています。そもそも、PFSにはそんな装備在りませんから、仮にモジュールを搭載したとしても、管制を行う為にはAIのブロックを上げないとだめでしょうね」
無人機母艦モジュールなどにPFSの艦橋では対応が限定的になるだろう。同時に複数機を運用することができないとか、宙雷の多連装発射機で同時一斉発射ができず、二発ずつしか射撃諸元が入力できないといった制限になると思う。まあ、あんま古いブロック覚えてないんだけど、そんな制限があった気がする。
「当然お金がかかるよね」
「水と安全とAIブロックは只ではない時代ですから。無料でヴァージョンアップさせろってUSAに喧嘩売った国があったらしいですね」
「そうそう、今は消えちゃったけどね。UC以前のお話だよ」
価格に含まれるか、別途コストがかかるかは契約書に記載してあるだろうけどな。トワさんが騒がないのは、有事の際に、必要に応じて宙軍負担で民間軍事会社のAI副官を強化する契約が含まれているからだと推察する。じゃないと、『晴嵐型』の能力が発揮できないからな。
恐らく、外付けのAI副官強化ブロックが戦時中支給され、それを追加すれば『雪嵐』と同じAI副官のフルスペック仕様になるんだと思う。
外付けなら、平時には宙軍で回収してしまえばいいから、民間軍事会社と揉める必要もないし、費用も管理も簡単になる。全艦分でなくとも、指揮官の乗艦だけでも十分効果があるだろうから、その程度の数は今でも用意しているだろう。今度ナカイに聞いてみよう。あるいはデブ。
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「なかなかやるな」
「AIのお陰です」
「それを選択した司令の手腕ってことだ。素直に褒められておけ」
赤銅色の肌のおっさん達に囲まれ、背中をバンバン叩かれる俺。地味に嫌がらせかと思う。
「あれ、随分人気者だねツユキ司令」
「誰のせいだと思ってるんですか」
「自分のせい?」
という感じで、何故か行きつけ(すでに存在するのが地味に怖い)の居酒屋でツユキ司令歓迎会が開かれる。俺、結構前から司令だよね。
教導隊の事務屋の皆さんは「飲みニケーションも大切ですから。よろしくお願いします司令」とあきらめろとばかりに告げられ、俺はおじさん達にドナドナされた。
おじさん達と言っても、士官学校の年次で言えば半世紀近く上の人達なわけで、現役復帰しようとしても能力はともかく年齢で引っ掛かるロートル達なんだ。見た目は壮年のおっさん達だが、喜寿とか米寿の人もいるらしい。
なにその老人会。
「まだまだ若いものには負けんぞ!!」
「あん時、宙奴に遠慮しなけりゃ、今こんな事になってなかったのによ」
「それでも、こうして死に場所を得られたと思えば、悪くねぇ」
「「「だなぁ」」」
え、おじいちゃんたち死に場所探して再就職したわけ? 孤独な老後に疲れたとか。
「孫も曽孫もいてな、思い残すこともないのだよ我々は」
「折角平和に共存できる世界を銀河に作ったのに、わざわざ長駆侵攻してくる馬鹿がいるとはなぁ」
「昔からなーんも変わっとらん。元寇の頃からな。あ奴ら、蒼き狼の時代から略奪婚カッケーみたいな田舎のヤンキー気質だからな。暴力で解らせないと理解できんのよ。どっちが上か、序列っつーのも大事なんだろ?」
宙華は儒教の序列意識と北方の遊牧民の文化が融合している世界だから、民主主義の考えが全く馴染まないんだよな。自由が躾の出来ていないガキの我儘レベルと同じだと思っているからな。自分の自由は、他人の自由を侵害しない限りにおいて有効という概念が理解できない。
上の者が下の者を支配し、全てを牛耳るって発想が全く相容れない。故に、地球を離れて幾星霜となっても、未だに古代のまんまなわけだ。宇宙船に乗ろうが、幾つもの星系を領域に組み込もうとも、冒頓単于の時代と何も変わっていないのが奴らだ。
譲歩すれば「親切」「思いやり」ではなく、「負けた」「弱い」と考えるのが奴らの発想だ。つまり、心が折れるまで戦わないと、諦めない存在だと言えば良いだろうか。
元寇だって第三階が企画されていたしな。ベトナムとも揉めて、結局企画倒れになったけど。
「何年も続く戦いになるんでしょうね」
「俺達の寿命とどっちが長いか勝負でもある」
「「「がはははは!!」」」
まじ、年寄りに死ネタ年齢ネタ振られると困ります。弄れないしな……
「まあ、あれだよね、求心力が無くなって来ると外征って企画されるじゃない? 粘っているうちに、反対勢力が足を引っ張り始めて、失敗だ、責任とれって内部抗争が始まって瓦解する迄がお約束。そこまでが仕事だよ諸君!!」
「「「おおぉぉぉ!!!」」」
もしかしてこれ、毎晩やってるの? だって、お店のスタッフの表情が『また始まった』って顔してるじゃん。まじかー すんませんお店の皆さん。
「じゃあ、レイちゃんとツユキ君の勝利を祈願して乾杯!!」
「「「「かんぱぁーいいいいぃぃぃ!!!」」」」
うおぉ……始まっちまったぞ、マラソン乾杯……俺はそんなに飲めない体質なんだよぉ。バイオロイドも酔うんだろうか、こんどクサブエにも聞いてみよう。
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散々、乾杯コールが行われ、一次会が終了……二次会以降は、各自の宿舎(という名の豪華客船)に戻って仲の良い同士で夜更けまで続くらしい。営業時間がシコク星系も早いのよ。田舎あるあるね。
「ちゅゆき君は飲んだのかねぇ!!」
「……あなた大して酔ってないでしょうが」
「えへへ、バレた?」
喜寿のおばあちゃんには全然見えない色っぽいお姉さんであるトワさんなんだが、何を無駄に色気振りまいてるんですか。
「孫の知人に無駄にサービスしてどうするんですか」
「えー レイちゃんも後十年くらいしたらこんな感じになるよ多分」
確かに。未だ成長期であるからね俺達。まあ、胸なんて飾りですよ、エロい人にはそれがわからんのですよと言っておこう。え、アンタッチャブルな話がトワさん経由でどこかに伝わると、反省会が始まるからな。触れるな危険な話題ではある。ショボいおっぱいとか口が裂けても言ってはいけません。
「で、今度の戦争、君の見立てだとどうなの?」
「国民が精神的に疲弊しないような政策が最重要でしょうか」
「そうだね。負けたらニッポン人全員奴隷ってことだし、男は辺境にぶち込まれるか断種か、処刑、若い女は全員宙国人の男に一夫多妻で奉仕活動させられるって見えてるもんね。だから、負けないように戦い続けるマラソン戦争ってことだよね」
侵略される側だから、四星系を守り切れれば問題ないわけだ。何世代にも渡る戦争という可能性もある。内乱が起こるか、侵略戦争やりたがりの皇帝が死ぬかするまでは続く。
漢の武帝は、在位五十余年の間に数十度の遠征を行わせたという。匈奴と呼ばれた遊牧民族との長年の戦争で北方へと駆逐し、帝国建国時から続いていた上下関係も逆転させ、中華は大いに安定した。
その反面、武帝以前に蓄積されていた国庫の富をすべて吐き出し、増税や専売などによる経済的負担の増加から流民が激増。反徒や賊が大いに国内に増えた。外征ばかりで内政に力を入れず、帝国を大いに消耗させたある意味暴君でもあった。
「英雄願望でもある皇帝なんでしょうね」
「宇宙を統べるとか、本気で考えてそうだよね。金髪の孺子かってぇの」
皇帝になる過程もどうであったかにもよるよな。勢力争いを最終的に武力で押さえつけて皇帝になったのであれば、その慣性は、外征へと続いてもおかしくはない。
高祖劉邦も天下統一の後、外征に出て大失敗しているしな。むしろ、そっちである方がありがたい。タイペイを落とし損ねたので、戦力を再編し、再度タイペイを制圧し、オキナワ・キュウシュウと侵攻してくるのか、ゴトウ・ツシマからゴリ押ししてくるのか、もしくはその両方か。
今の段階で、ちくちく無人攻撃艦で嫌がらせを続けているところ辺り、もっとねちっこい資質の皇帝なんだと思うがな。
「無駄死にならないように頑張ろうね!」
「そこは、死なないようにじゃないんですかね」
「なにを言ってるのかね、宙軍の生命は永遠です。その永遠の為に私たち軍人は奉仕すべきですくらい言わないとね」
そんな遺書を残した企業人がいたとか聞いたことがあるな。俺はそんな事全然思わないけどな。
「永遠の奉仕ですか。どんなブラックなんですかね」
「そりゃお互い良く解ってるでしょ?」
けたけたと笑うおばあ様。おばあ様、豪華客船はこっちじゃありませんでしょう。
「今日は帰りたくないの……よよよよ……」
「無駄に色気振りまいて、孫の知人に粉かけるのやめてくださいね」
「むぅ、私と結婚したら、レイちゃんが孫になるんだよ!!」
おい、それ嬉しいのかよ!! もういい年した大人だしあいつ。これが未就学児童とかなら、色々イベントあって楽しいけどな。ないだろ?
「それに……私が死んだら、配偶者だから相続財産半分もらえるよ」
それはちょっと魅力的……ではない。だって、いろいろあのHDの皆さんに絡まれるわけじゃん。おばあだからみんな大人しくしているけど、俺が株主になったら、何されるか不安しかない。
なんだかんだ言っても、雇われる方が気が楽、言われたことやればいいんだから。経営層とか俺には無理。
「まあ、冗談は置いておいてだね」
「なんだよ、冗談かよ」
「あー 真面目に話せば、結婚契約書で最初から相続制限させられると思うよ。そうじゃないと、一族に認められないから」
「婚姻の自由……」
「そんなのあるわけないじゃない?」
確かに……やっぱ、金持ちって大変だわ。
「そういえば、ナカイのお母さんって宙軍勤務時代に産んでるんですよね」
「そうそう。あの頃は、意地で戦闘艦乗りやってたんだけどさ、陸上勤務になった時期に思いっきり産休取って産んだんだよ。偉い?」
偉くはない。が、計算通りに生きてらっしゃると思ったわ。確か、あいつの叔父さんが偉い若いんで驚いた記憶がある。その人は宙軍省のキャリアの人なんだがな。ナカイの母親の年の離れた弟さんで、つまり、退役後に産んだ息子って事だな。計算が合って嬉しい。
「まだ産めるから、なんなら君の子供も最後に産んでおこうか?」
なに言ってるのこのおばあちゃん。
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