074 機式宙兵と無人機―――『哨戒特務艦』(参)
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民間軍事会社用の『晴嵐改型』は、宙軍の類別としては『哨戒特務艦』という艦種に分類される。
『特務艦』というのは、ニッポン宙軍において戦闘を任務としない雑多な艦種を意味する。補給艦、工作艦、無人機母艦、給水艦(推進剤として反応炉を用いて水素と酸素に分解され消費される純水を補給する任務)などが含まれるが、『哨戒』を任務とする民間船ベースの備砲を備えた輸送船などもその範疇に含まれる。
すなわち、『晴嵐型』駆逐艦は民間の汎用輸送船と船体その他を共用したマスプロ艦であり、民間仕様をそのまま軍で徴用すれば『哨戒特務艦』として登録することになる。
言い換えれば、民間軍事会社所属の『民間船』である、『晴嵐型』が哨戒任務に就き尚且つ『宙雷』を装備していなければ、適切な艦種設定が『特設哨戒艦』になるのである。宙雷装備の有無、モジュールの切替一つで艦種の異なる運用が出来得るのが『晴嵐型』の特徴であると言える。
とはいえ、民間用の『晴嵐』は『青嵐』型と称し、似たスペックを持つが完全に同一というわけではない。
これは建造時点で設定する場合もあれば、後日装備として機能を当初無くしておくことも意味し、幾つかの機能を除去している。
例えば、星系内でのみ運用するのが前提であればJD能力は不要だ。また、基本的に艦橋は『簡易型』同様PFSを使用することになっており、交代要員のスペースがないか、PFSのカーゴスペースに簡易宿泊施設を仮設しているかで代替している。また、艦橋前面に展開する防御シールドが配されており、推力偏向ノズルも非装備だ。軍用の簡易型では宙雷モジュールが最初から固定装備されているが、三箇所のカーゴスペースはそのまま生かされている点も異なる。
備砲である単装陽電子砲と四連装パルスレーザーはそのまま生かされており、表向きの火力は変わっていないのだが、最も異なるのはAI副官が駆逐艦用のそれではなく、PFS用の簡易なもので代替されていることが内部の大きな差であると言える。民間船としては十分であり、また、戦闘を直接の任務としない武装民間船である『青嵐』型であるから当然とも言える。
戦闘艦としては『晴嵐型』の半額程度まで価格を抑えており、性能もそれなりになっていると言えばいいだろう。とはいえ、モジュールはそれなりに高価なものであり、無人機や宙雷は導入に制限が掛かっている。
USAでは小銃に同じ型式の物であっても『軍用』と『民間用』では異なる制限を設けている。最大の装弾数や、フルバースト機能の制限などだ。自衛用の道具と、戦争の道具では機能が異なると言ったところだろうが、『晴嵐』と『青嵐』でも同じような仕様があると考えればいい。
とは言え、まともに戦えば似たような能力の艦船だから互角以上に戦えるということが、悲しいことながら教導隊の訓練生相手に、トワさんが実証してしまったわけだ。
これで、教官枠である俺達第一戦隊まで負けるようであれば、漢のメンツが立たんということになる。深い意味はないが。
教導隊の訓練生相手に全勝しているFSKの『カトリ隊』の戦闘記録映像を確認する。負けたらお仕置きだべぇというナカイの声が心の中にこだまする。まあ、言わないけどあいつは。お仕置きは確定だとしても。
『性能差を利用させない上手い戦い方なのよね』
「時間をかけて相手に長所を出させない戦い方だな」
訓練生隊が前進すればその分後退し、二隻に隊を分け、相互支援させながら効率的に前進速度を押さえる。全力で前進されるとシールドが生かせる分、訓練生が有利となる為、左右に角度を付けて展開し、側面から攻撃を受けるように移動するのだ。
「PFSが艦首部にあるというのも、上手く使ってるな」
『そうなのよ、PFSの制御スラスターを使って艦首回頭、PFSの対宙パルスの一点集中射撃で接近戦をしかけてくるのよね!!』
推力偏向ノズルが使えないなら、艦首回頭をPFSにさせればいいじゃないとばかりに上手に使うのだ。頭を振りながら射線を躱し、懐に入り込んでの駆逐艦によるドッグファイトに持ち込むとか……まあ、訓練だからやれることではある。それもシミュレーターだしな。実際の戦闘艦でやって、ぶつけたら「ごめんなさい」じゃすまない。激しくシェイクされるのは、シミュレーターでも同じなんだが。
「シミュレーターのAI副官に、カスミ達は参加できるよな」
『指定すればね。勿論可能よ』
「ならそれで決まりだ」
相手の長所を殺し、こちらの長所を生かすという事を考えるなら、真っ先に行うのは、頼れるAI副官様にお願いする事だ。
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「お手柔らかに頼むよ、アッキー」
「アッキー呼びは止めていただけますか、トワさん。兵が見ていますから」
『晴嵐型』は乗員ギリギリなので、下士官以上しか乗ってないので、兵は見ていませんけどねホントは。
「君と私の仲じゃない?」
「いじめっ子といじめられっ子の関係という事で宜しいでしょうか? 閣下」
トワさんは退役時昇進で『准宙将』になっているから、一応、閣下呼びでも構わない。現役時に艦隊司令官になった初めての女性がレイ・ナカイってことであって、閣下呼びされる女性将官は沢山いる。主に宙軍本省とか、要塞司令官や後方の施設の責任者なんかでな。
「いやいや、そんな色気のない呼び方は止めてよね」
「……今さら色気ですか?」
思い切り足を踏まれた……履いててよかった強化靴。鋼材が足の甲に落ちても安心設計!! ゾウが踏んでも大丈夫なのだよ。
後ろでガハガハ笑っている顎と首の太さが同じくらいのおっさん達は、現役将官たちからすれば、怖い存在である元上官たちだが、ファンタジー小説ならギルド酒場に居そうなベテラン冒険者風のいで立ちだ。髭とか生やして、日焼けは多分……ゴルフとかだろうな。遊び惚けているというわけでもなく、現役時代同様、体に負荷をかけ続けているマッチョメンたちだ。
ヤマトも四十年後はこんな感じかもしれねぇ。俺? 安楽椅子に座って「今時の若者は!!」ってぼやきながらネットサーフィン三昧か、投稿動画でも見ていると思う。ぽっこりお腹でな。勿論、庭付き一戸建てに妻と子供(成人して夜しかいない)幸せ家族しているに決まってる。
「では、始めましょうか」
「実際の艦船の設定でね」
「勿論です、じゃないとこっちが確実に負けます」
俺とトワさんなら、間違いなくトワさんの方が上。そして、戦隊としても総合力で負ける可能性がある。差は、AI副官の有無だ。正確には、簡易型とフルスペックの違い。あっちは、サポートが機械的なんだよ。思考力が低いから、委ねることができない。
PFSのスラスター機動は、こっちの推力偏向ノズルと艦首シールドで相殺できる。あとは、主砲の精度ってところの差だな。
『勝ちに行くわよ!!』
『『『お、おぅ……』』』
『清霜』のセイに『朝凪』のマアサ、『夕凪』のユウが渋々同意する。ヤル気出さないと駄目だぞ!!
「勝算は既に立ててある。計画通りに戦えば負けることはない」
負ければナカイのお仕置きが待っているという危機感をおくびにも出さない俺、頑張ってると思う。自分をほめてあげたい。
「……どっかで聞いたことあるセリフですね司令。勝ちに行くと差がある気がするのは気のせいでしょうか?」
「素直な子は嫌いだよ」
そんな内心を見透かされ、他の艦長から突っ込まれるが、AI副官の差が戦力の差であることを見せてやろうじゃないか。
『エンゲージ』
カトリ隊四隻の『青嵐型』哨戒特務艦と接敵、二つの隊は既に主砲の射程距離に入りつつある。
『各艦、主砲発射準備。以下の仕様で諸元を修正』
『『了解』』
『え、え、これでやるんですかぁ?』
ユウからなんか変な反応が返ってきている。
『いいのよ、やりなさい。これは、シミュレーターなんだから』
『あー なるほどー』
なにその不穏な会話。あとで揉めた入りないよね、俺はトワさんに怒られるの嫌なんだけど。大丈夫かよ。
『何心配してるのよ』
「ずるは駄目だぞ」
『ズルではないわよ。陽電子砲の収束率を上げて射程と貫徹力、速度を上げるだけだから』
だけじゃないだろそれ!! 収束率を上げて威力を高める事は出来るが、発射装置に負荷がかかるから、安全値の範囲内に収まるように数値が設定されてるんだろ? そもそも、『雪嵐』の主砲なんて飾りだからな。安全マージン削ってまでちょっと威力を高めたり、射程と速度を上げる意味がない。
けど、同型艦だったら話は別だ。恐らく、同じことをする事が『青嵐型』にもできるだろうけれど、PFSの簡易AI副官では、そこまでの調整を行えないはずなんだよね。だから、こちらが先に撃てるということになる。
でも、カスミはまだ砲撃開始の合図をしない。
『敵艦発砲』
一瞬で、目の前の防御シールドが白く発光する。
『正確ないい射撃だわ。ログと一致する精度ね』
「そうか」
『相手にとって不足無しだわ』
ずるする気満々のAI副官に言われてもなー。だが、ここは任せた。俺は先に行く。あとでズルの言い訳なんて言おうかって大事な仕事が俺にはあるからな。
次々とシールドが発光するものの、密集隊形で正面からの射撃を受け止める第一戦隊に対し、相手は揺さぶりをかけるが、こちらは連携して四枚のシールドを駆使して受けの一手を継続する。
『そろそろしびれを切らすかしら』
「いや、そういう人じゃない」
シールドを突破できないと判断して、距離を詰めて来るとも思えない。こっちはシールドあり、向こうはシールド無し。なら、距離を詰めるのは難しいだろ?
『吶喊してきたわよ!!』
あちらも、四隻を束ねた密集体型で全速で突進してくる。なんでだよ!
と思っていると、最大加速からのPFS分離、さらにPFSが全推進器を用いて再加速。
『三倍の速度……』
「光速越えちゃうだろ。だが、速度が高まればショボいPFSのレーザーの威力も増すってことか」
分離した『青嵐』本体は主砲を発砲しながら突進しつつ、こちらの反撃をうけダメージを負い、あるいは爆発四散していく。それを背後に、四基のPFSがこちらに向かってくる。ジオングかよ!!
『冷静に処理しなさい。密集したまま、対宙パルスをリンクさせるから、こっちにコントロール寄こしなさい』
『『『了解!!』』』
各艦、シールドで正面からの主砲の射撃を押さえつつ、威力を収束させたこちらの主砲で敵艦の船体部分を破壊。
その後、接近してくるPFSを防宙艦よろしく、カスミの指揮の下、十二基の対宙パルスと主砲を連動させ、次々にPFSを爆散させていく。
『まあ、こんなものよね』
四対零の一方的スコアでの勝利。まあ、AIの違いが戦力の違いって良くわかる戦いだったな。俺? 部下を信じて全てを委ねることができる優秀な指揮官だろ? 勿論、上司に全幅の信頼を寄せて委ねる中間管理職でもあるさ。
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