073 機式宙兵と無人機―――『哨戒特務艦』(弐)
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「久しぶりね」
「ご無沙汰していますトワさん」
シコク星系に戻った機動支援艦隊第一宙雷戦隊四隻は、第二戦隊が担っていた『教導隊』の訓練担当を引き受け、『トクシマ』要塞宙域に停泊中の常総HD保有の豪華客船に足を運んでいる。プライベート・スペース・クルーザーだね。
「相変わらずすごい船ですね」
「田舎財閥だって、この程度の船をオーナーが保有しているって知らしめるためのミエ全振りのクルーザーだからね。ニュートーキョーの高級ホテルにも引けは取らないようにしたんだよね。まあ、マウントとられないために常総は苦労するんだよ」
田舎だからねーとケラケラ笑っているチャーミングな美女がトワ・カトリさん(年齢は言うと怒られるので内緒)である。この船は、軽巡洋艦並の航行能力と自衛能力、PFSも乗客の退避用に搭載している明日にでも仮想巡洋艦以上の存在になれる常総HDの旗艦に相当する、豪華客船『向日葵』である。読みは『ヒマリ』。
ふかふかのソファーに席を勧められる。これ、座り方間違えるとよろけちゃうんだよね。おっとっととなるからね。
第一戦隊は長期任務明けということもあり、艦船の整備を行っている最中。そして乗員は未消化の休暇を消化中。つまり、ここにいるのは完全プライベートということです。
「民間軍事会社を立ち上げられたとか」
「そうそう、レイちゃんに聞いたんだよね。教導隊で習熟訓練をして、勘を取り戻したら、船団護衛の仕事を受けることになるね。警備会社だし、ホンシュウ星系のHDゲートまでのエスコートだから危険度は低いと思うんだよね。現役からするとどう思う?」
チバラキの貨客船が一度ニュートーキョー経由にしなければならない理由は、船団護衛の兼ね合いもある。ニュートーキョーを経由しない航路は安全が確保できていないからね。
チバラキから直接星系内のHDゲートに向かう航路の安全が保障できないから、「チバラキ~ニュートーキョー」「ニュートーキョー~HDゲート」と移動しなければならない。これが独自に船団を編成できれば「チバラキ~HDゲート」って航路が確保でき、ニュートーキョーの船舶会社の影響を受けずに済む。
船舶会社には宙軍艦隊派の天下りが沢山いるわけです。皆迄言わずに分かってもらえるかな?
「政府はともかく、宙軍・統幕が良く認めましたね」
「そりゃ、レイはトワ・カトリの孫娘で、今回の一連の事件の立役者。護衛が不足して輸送艦迄戦闘艦扱いでこき使ってるんだからさ、民間で眠っている戦力を宙軍の簿外で活用できるのに、面子がどうとかで文句言うなら、正面から潰すよって説得したんだよ」
それは、説得じゃなくって脅迫だと思う。怖いから言わないけど。統幕に喰いこんだり、機動艦隊司令長官を務めるようなエリートは、その裏で船舶会社や造船会社とそれなりの付き合いがある。その辺りの情報を当然、常総HDは持っている。言わなくても、退役後の第二の人生を幸せに過ごしたいなら、余計な手出ししない方がいいというくらいの智恵は回ったということだろうな。俺でもそうする。
「孫が危険な目に合っているのに、祖母が見てみないふりするってわけにはいかないよね」
「本音は」
「いい時代になったね。私も、混ぜて!!」
はいはい、そんな事だと思ってましたよおばあ様。
既に、四隻の『改晴嵐型』がFSK(『経津総合警備』の略称)が引き渡されている。これは、ニッポン宙軍用から軍事機密に当たる情報関係のシステムを排除した民間向けのものに当たる。それでも軍事機密に当たる部分が存在し、ブラックボックス化されている部分を宙軍の許可なく修理改修することを不可とする前提に供与されている。
「整備とか面倒じゃないですか、軍用は」
「大丈夫、抗甚性を高めるために軍の工廠をチバラキに誘致する法案通したから。敷地の管理運営はチバラキの自治政府と常総HDで行うし、民間の仕事も受けて稼働率を維持するってことになるからね」
「それなら、宙軍も政府も受け入れざるを得ませんね。戦時中ですから」
「そうそう。戦争だから、経済性だけじゃなくって、残存性とか分散するメリットが出てくるからね」
チバラキはそういう意味で人口も少なく融通が利く。周辺宙域もとくに障害になるようなものはない。既得権だらけの二つの惑星周辺に比べれば、調整することが皆無に近い。政策立案即承認、即実行が可能なんだよね。
「誘致すれば、人口も増えるし、衣食住の需要に対応する『企業城下町』的な経済活動も活発化する。軍人や軍属の子弟は教育意欲も高いから進学内容だって改善されて、地元の子たちも『田舎者だから』って自己卑下したり、トウキョーさ出るだ!! なんて事にならずに済むじゃない?」
「そうですね。暗くなったらやる事ないからって、結婚して子供作ってショッピングモールで時間潰す人生にならずに済みますね」
「いや、そこはそのままで。HDの経営的に、朝から晩まで休日モールってコンセプトだから」
そう、田舎は遊ぶ所ないから、平日学校で会った奴らと、週末ショッピングモールでも鉢合わせするのが基本だよね……ほんと、出かけるところないから。
「人口が増えたら、高等教育機関だって誘致できるし、直に輸送できるようになれば、輸送コストも下がるから軌道上に工業団地とかだって作るからね」
ということで、この紛争を利用した焼け太りを画策しているのがナカイ一族らしい。チバラキが豊かになるのにはそれも必要かもしれない。
「疎開? やっぱり本星は狙われるからね。そういう意味でスローライフを希望する人たちのセカンドハウスとか、リタイア後の生活の場を移すとか、いろいろ考えてるんだよね」
「その為の綜合警備会社ですか」
「そうそう。安全と水は無料じゃないのがUC時代のニッポンだよツユキ君」
人差し指を立てて、指揮棒のように振るうトワ刀自……見た目はアラサー中身は……
「君、良からぬこと考えてない?」
「……いいえ。先が楽しみだなと思った次第です」
「ならよし。君も無関係じゃないんだからね。レイちゃんが後を継いでいくお仕事でもあるんだからさ」
因みに、ナカイ宗家の娘であるレイ・ナカイだが、上に兄と姉が一人ずついる。なので、跡取り娘というわけではないが、三兄弟を中軸に次世代のナカイ家が運営されるって事だよな。
俺の第二の人生は、ナカイの運転手をしながら若い嫁を貰って、郊外に白い一軒家のマイホームを建て、休日は庭の芝刈りをする予定だ。子供は一姫二太郎で行こうと思う。名前じゃないぞ。
「そんな感じで、私とレイちゃんを今後ともよろしくしてくれたまえ」
「そうですね、精々厳しく訓練しましょう。それで、『晴嵐型』はもう搭乗してみたんですか?」
「軽くね。でも、シミュレーターは死ぬほど乗ったよ! あれはいいね。FSKの本部のロビーに二台並べてさ……」
「対戦ゲームじゃないんだから駄目ですよ。軍機ですから」
「ちぇー」
推力偏向ノズル仕様と、標準仕様があるので、乗り比べもしてみているのだとか。シェイクされる感じも結構リアルだよなシミュレーター。
「今度、FSKのメンバーと戦隊の幹部で接待飲み会しましょう」
「……あからさまですね」
「まぁ、古き良き飲みにケーションだよ司令」
「現役は皆さんほどタフではありませんから、どうぞお手柔らかに」
さて、今日はここまでで済みそうだと俺は心の中でホッとする。
「真面目な話はね。ここからは、君とレイちゃんの関係がどこまで進んだか、おばあちゃんに説明する時間だよ」
「おばあちゃん……自分で言っちゃってるじゃん」
俺は鳩尾に当て身を喰らって悶える。悶絶していると言い換えてもいい。
「私とレイちゃんは祖母と孫娘の関係だから、おばあちゃんってだけだよ。甥っ子姪っ子がいればおじさん、おばさんになるってのと同じ。誰かな? 女性の年齢をあてこすりした野暮な男は」
ちょ、沸点低すぎだよねこの人。
「まあ、何を言っても、今日は帰さないから」
「……素直に晩飯喰っていけって言えない病気かなんかですか?」
「病気かもねー まあゆっくり泊っていくと良いよ。なんなら、僕ちゃんにおばあちゃんが添い寝してあげてもいいんだよー」
ナカイのおばあちゃんでも、見た目は美女なのがけしからん。特に、胸とか尻とかがだな。
「遠慮しておきます」
「えー なにそれー。何かあってもレイちゃんには内緒にしておくからさ」
そういう作品じゃないよねこれ。孫娘の彼氏NTRとかじゃないよね。そもそも、俺は未来の運転手であって彼氏ですらない。なら問題ないかと思うだろ? 一生弄られることになるから、絶対ダメ!!
「一杯付き合うくらいはしますよ。それと、最近、艦隊であったこととか、あなたの孫娘の動向とかですね」
「それは楽しみだね。最近あったのは、画面の中だもんね。流石私の孫、カメラ映りも良かったよねー」
それは同意する。ナカイとミカミは反響良かったよな、俺は引き立て役として反響が良かった。背景的な存在感が発揮されていた。グスン。
「君も良かったよ、レイちゃんの番犬としての存在感が出ててさ」
「そうですね、お役に立てて何よりです」
ちなみに、俺は格闘技は並以下の成績だったが、銃の扱いはかなり良い評価だった。今でも小銃・拳銃の扱いはそれなりに訓練している。だから、FSKに就職して、運転手兼護衛としてナカイ付きにして貰えばいいんじゃ無いかと思う。
ただの運転手より、護衛兼任の方が給料が良いだろう。これはいまから大幹部のトワさんにアピールしてもいいんじゃないかと思う。
散々お高い酒を飲まされた挙句、「レイのことをよろしく」と再度念押しされ、俺の将来の夢であるところの、FSKに再就職し結婚、白い郊外の庭付き一軒家を持って話をした記憶があるのだが、その前後関係に関してはあやふやであった。
その後、ナカイから私用回線で長文のメールがやってきて、俺がトワさんと話したことに関して、色々注釈というか解説を要求するという話が書いてあった。酔って良く覚えてないんだが、そのまま返事をすると火に油を注ぐ結果になる事が目に見えているので、「今度会ったときに詳しく説明する。すまん」と答えておいた。
その後、自分の送った長文メールの内容を思い返したのか、謝罪と一緒に飯を食う約束の確認が書いてあった。店指定かよぉと思いつつも、まあ、酔って余計なことを話したことに対して誠意を示すという意味で了承のメールを送り返しておいた。
因みに、このやり取りには数日かかっているのは他の星系との間では常識的な反応になる。だって、データごとHDゲート経由で送ってるんだぞ。
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休暇明け、外装を宙軍と異にする四隻の『晴嵐型』駆逐艦がトクシマ要塞に駐留している事に気が付く。
「なんであれ、洋上迷彩なんだ」
「さあ? 民間の武装商船は護衛として目立つようにしているみたいですから、あれでも、遠目にはわかりにくくなってるんですよ司令」
休み明けでお互いピリッとしない空気を纏った俺と戦術士官は艦橋で意味もなく苦笑いをする。
『トワちゃんから連絡よ』
どうやら、刀自殿は俺達が休暇中に、我がAI副官様と仲を深めたらしい。トワちゃん、カスミちゃんという関係になったそうだ。なんだよそれ。
『休暇明けのところ悪いんだけどね』
「悪いと思っているなら後回しにしてもらえませんかね」
『そうじゃないよね!! 「カトリ隊」から「ツユキ隊」に模擬戦闘を所望するよ!!』
なんでそうなるんだろうな。あれだ、絡みたくってしょうがないんだろうな。ならここは、素直に従うのは下策だろう。
「それなら、教導隊の二期生どもに勝ってから話を聞きましょう」
「勝ったよ!!」
「へ?」
『トワちゃんたち、もうこの戦隊以外とは対戦済みで、全勝中なの。まあ、昔取った杵柄って言うのかしら、結構強いわよ』
どうやら、教導隊の幹部がシコク星系を空けている間に、シミュレーターで対戦をして既に勝利を重ねているんだそうです。なにそれ、聞いてないんだけど。
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