072 機式宙兵と無人機―――『哨戒特務艦』(壱)
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『機動支援艦隊』は、現状、教導隊の訓練とキュウシュウ星系の無人機警戒網設置のために活動している。戦闘艦としては微妙なしごとだが、多用途任務艦としては、艦隊随伴型の駆逐艦には担えない役割を果たしていると言える。概ね満足。
そもそも、装甲巡洋艦とか巡洋戦艦とサシで撃ちあいとか頭おかしいから。駆逐艦の仕事ではありません、常識的に考えて。
機式宙兵分隊・通称『クサブエ隊』も馴染んできた気がする。同じ釜の飯を喰う仲には絶対ならないんだが、お互いにお互いの役割りを認識し、理解する過程において、互いに認めあう関係になれている気がする。
アンドロイドとの相互理解ってのは、良く分からないが、なんとなくだな。だが、あまり関わり過ぎると、AI副官殿が拗ねるのでそこそこの距離感でいいお付き合いをさせてもらっている。
『トガリ』『イビガワ』の二人も、思ったよりもいい奴らで、人間寄りの仮想人格を与えられているので、小話や古いジョークを口にしたりする。まあ、本人は面白いと思って話しているのではなく、あくまでもそういう「仕様」なんだろうなと俺は推測しているが、それでも「こんなオッサンいるよな」という感じで
キャラクターを把握している。
アンドロイド兵を人間的な存在だと理解する上で、この仮想人格の役割りは決して小さくないと思う。クサブエがどこかの艦隊司令官閣下のようにまじめなキャラなので、オッサン二人に結構助けられているところがある。
という感じで仲良くなったアンドロイド宙兵たちだが、現在はPFSに移乗し、旗艦『知床』へと向かっている。航行訓練と、『知床』を使った潜入訓練を行う事になっている。ヤマト仕切りでだ。
『中々敵と出会わないわね』
「……キュウシュウ星系で頻繁に敵と遭遇してたら、まずかろう」
『それもそうね。何もないのが一番かしら』
軍隊が役立たずな状態が、一番健全な世の中なんだと俺は思う。つまり、俺がぐーたら出来る状態が一番ニッポンの為になる。ぐーたらするのは俺が怠けているからじゃなくって、平和創造の為だから。宇宙の平和の為に俺は心を鬼にしてぐーたらしようと思う。
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「噂段階なんですけどねー」
「……いや、お前なにしに来たわけ」
「それは……機式宙兵の情報収集ですよ! ほら、情報部としても優秀であるなら」
「お前の代わりに、アンドロイドの情報士官を寄こしてくれるとかか?」
え、何怒ってるの君。ナカイのところにいると、司令官に首席幕僚から鬼のように仕事が降って来るから、ここに息抜きに来てるんだってわかってるから俺。というか、上司二人も理解してるだろ。
「まあ、今は『知床』に乗っていますからね、情報だって超遅いんですよ」
まあな。いくら同一星系ないだからって天文距離離れていれば、数十分の時差があってやり取りすることになる。メールのみって感じだな、それも即ではなく数時間単位で時間がかかる。なので、危急の仕事以外は、サセボなり、シコク星系に戻ってから済ませることになるんだよ。
「艦隊としても、統幕に『機式』の報告上げなきゃなりませんし、ナカイ司令やクルリ首席幕僚をこの艦に乗せるわけにいかないじゃないですかぁ」
確かに。艦隊司令官のやるべき事じゃないし、その副司令官相当の首席幕僚だって同じだな。いらない子がよこされたってわけだ。
「文句あるなら、せんぱいが報告書作成してくれてもいいんですよ」
「いや、こんなに優秀で見目麗しい情報参謀殿に同行してもらって光栄です。ミカミ准佐」
え、何怒ってるの? 精一杯おだてたつもりなんだが。嘘です、照れてんじゃねぇよ。
「まあ、わかればいいんですぅ。ではでは……」
どうやら、装甲強化服を着こんで、『クサブエ』隊に密着取材ならぬ、情報収集をするらしい。きゃるぴんが装甲強化服着て、クサブエ宙尉と同程度の体格って、やっぱバイオロイド美女はマッチョなんだなと思い知る。
きゃるぴんが話していた『噂』というのは、民間軍事会社……警備会社のようなものを発足させるための法案が政府内で検討され、議会に提出されそうだって話だ。
ニッポンには無いが、USAやヒンドゥ連邦には存在する企業形態であり、『傭兵』と『国家』をコーディネイトする組織というのが近いかもしれない。
PMSC(private military and security company)と呼ばれる直接戦闘、要人警護や施設、車列などの警備、軍事教育、兵站などの軍事的サービスを行う企業のことで、PMC・PMF・PSCなどとも称される。
UC以前から存在する企業形態であり、国家を顧客とし、人員を派遣、正規軍の業務を代行したり、支援したりする従来であれば正規軍の二線級部隊が行ってきた警備や兵站、情報収集など後方業務を外注する民間組織。
何がどう異なるのかは、法律の制定と企業の出す国家との契約に関しての内容になるだろうが、一番大きいのは交戦権の問題だろう。民間企業が警護する船団が所属不明の戦闘艦から攻撃された場合、どう対処するか。
宙軍艦艇なら、問答無用で反撃を行い、民間船を守るために最後まで戦う……というのが理想だろう。戦力差があれば、逃げるまでの時間を稼がないと、宙軍の信用の問題になるし、そもそも民間人を放置して軍人が敵前逃亡するとかヤバいから。
これが、民間軍事会社だと、護衛できる範囲に制限があるのだろう。だって、民間人同士だもん。護衛はするが、敵戦力が大きければ交戦を放棄して民間船として逃げるって選択肢も与えられることになる。
警備会社と警察官ではできる範囲が違うでしょ? その辺りの線引きを法律と契約で決めておくことになるだろう。
まあ、無人武装艦一隻程度なら、十分対抗できるけれど、これが艦隊規模の敵戦力なら、情報収集を行いつつ自らの生存を優先し、護衛はある程度免除に値するといったところだろうか。
『民間宇宙船に転用可能な「晴嵐型」を民間軍事会社が使用するってことになるんでしょ』
「チバラキもそうなんだが、地元に十分な護衛能力を持つ艦隊がいない星系だと、正直、宙軍頼りにはできないってことだろうな。交戦に制限があって、正規軍人ほど縛られないのであれば、退役後に復帰したいってベテランもいる。その辺考えてるんだろうな」
チバラキといえば、ナカイの実家、『常総ホールディングス』が何か働きかけているんだと思う。この機動支援艦隊設立だって、政府内であいつの親父や爺さんがいろいろやって成立してるんだってことも察する。
戦争で金儲けということだけではないんだろうが、田舎財閥と揶揄されるナカイの実家からすれば、ホンシュウ星系内で艦隊が駐留しているニュートーキョーやニューオーサカではできない『民間軍事会社』設立をチバラキで行うって考えるのはおかしくはない。
政府から予算を分捕り、軍港の建設、宇宙船メーカーのドッグや生産設備にかかわる工場の誘致、そこで働く人間の衣食住の提供……軍が巨大な消費集団であるとするなら、その再従兄弟に当たる『民間軍事会社』もそれに当たる。そういう意味で、チバラキに独自の戦力を確保するのに、この状況を生かさないことはないだろう。
幸いかどうかは知らんが、シコク星系には機動支援艦隊と教導隊、宙兵隊の教育施設が設立されたので、あとはチバラキが非武装で残されると考えれば、妥当な案であるといる。
ホンシュウ星系内にあり、宙軍・統幕との遣り取りも他の星系に設立するよりもずっとスムーズだ。そして、おそらく……
『艦隊司令から連絡よ』
ナカイからの連絡。いや、確かに今は距離的に近い場所にいるけどさ。いや、普通に片道20分くらいかかるからね亜光速でも。
「あとでお話しても良かったのだけれど、噂で聞いているかしら」
きゃるぴんから聞いている。民間軍事会社の立上げな……この場合、宙軍将官が血縁者とはいえ実家に便宜を図るってことにならないのかと疑問に思う。
ところが、話の方向性が全然違うらしい。
チバラキは、宙軍関係の施設がほぼなく、港湾も民間用のものが気持ちある程度である。定期航路も存在するが、基本は首都星へ向かう便であり、そこで乗り換えて目的にて向かうことになる。
宙国との紛争、そして武装商船の出没に対してホンシュウ星系としてはある程度警戒を強めているとは言うものの、軍港を持たないチバラキはいざとなったら真っ先に封鎖され孤立させられることになる。その状況を危機的であると捉えた退役軍人たちが決起しそうになっているのだという。
で、その首謀者が……
「刀自殿か」
トワ・カトリさん、元宙軍宙佐でレイ・ナカイ以前においてはもっとも艦隊司令官に近かった女性と言われていた……ナカイの母方の祖母だ。確か今は、常総HDの社外取締役とかだったと思うんだが。
俺も士官学校時代、ナカイとヤエガキと三人で帰省する際に、宙港でお迎えに来たトワさんと遭遇したことがある。
『君がツユキくんね。レイちゃんをよろしく!』
と、いきなり握手からのハグをされ、三人で固まってた。いや、俺も別に胸の感触を楽しんだりして無いからね!!
『トワ刀自……』
『やだよ、トワママって呼んでよ昔みたいに』
『刀自って……』
ナカイは恥ずかしくも嫌そうに『母方の祖母で、元宙軍軍人よ』と紹介してくれたんだよ。どう見てもアラサーくらいにしか見えなかったが、御年……ほら、『刀自』って呼ばれるくらいだからね、当然赤いちゃんちゃんこレベルの方なわけです。
ちなみに、ナカイが昇進記録を塗り替えるまで、女性高級士官の昇格年次記録保持者は『トワ・カトリ』が持っていた。わがまま言って宙軍の戦闘艦乗りになりたくて士官学校へ入学したトワさんだが、三十になるまでに退役し、「ナカイ」の嫡男の嫁になるという条件が付いたうえでの任官だったそうだ。
なので、宙佐までは順調に昇進し、様々な艦の戦術士官や副長、艦長を務めた上で三十歳を期に惜しまれつつ退役したんだそうです。
その後も、自身で小型の民間船の船長などをHD保有の船でしてみたりしたんだそうだが、スペックが民間船だからねー ということでモヤモヤしていたんだそうだ。
年齢的には現役復帰は書類ではねられるということで、ロートル……超ベテランの戦闘艦乗りでチバラキ周辺で燻っている知り合いをかき集めて常総HD傘下の『民間軍事会社』を立ち上げる事にしたらしい。何人くらい集めたんだろうな……
『もう、会社の設立登記も終わらせて、『経津総合警備』という名称で営業を開始するのだそうよ。既に常総HDの船団護衛を引き受けているという報告ね』
経津というのは『フツ』のことだな。香取神宮の主神、武神としては鹿島神宮の武御雷が有名だが、フツというのが剣が風を切る音に因んでいるという物騒な神様……ああ、刀自殿のイメージにぴったりだ。
美術品でありながら強力な武器である日本刀のような女性が、ナカイの祖母であるトワ・カトリなんだよ。いまだって、ナカイの母親くらいにしか見えないだろうな、あの刀自殿は。
で、なんだって。
『採用した艦種が、晴嵐型の民生用武装輸送船なので、引き渡しと習熟訓練を、「教導隊」で引き受ける契約になりそうなのよね……』
うん、ヤエガキとお前に任せたぞナカイ。俺は、刀自殿には全く逆らえないので、お相手するのは無理です。
『教官はツユキ君を指名とのことよ。ありがたく受けてちょうだい。何かあれば出来る限りフォローするわ……シコク星系にはいないけれど』
どうやら、俺の戦隊はヤエガキの第二戦隊と交代してシコク星系に帰投し、『経津総合警備』の習熟訓練のお相手をしなければならないらしい。でもさ、民間企業の教育訓練に宙軍の教導隊が関わって問題ないのだろうかと疑問に思わないでもないが、政府との契約で問題はクリアしてるんだろうさ。トワさんが昔面倒を見た艦隊司令官や宙軍幹部がまだたくさんいるからな。
なんとでもなるんだろうな、チクショウ!!
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