070 アンドロイドの行方―――『双胴工作艦』(肆)
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『雪嵐』に戻る前に、バイオロイドとアーマロイドの持つ能力を簡単に確認させてもらう事にした。要は、『装甲戦闘服』を着用した状態のヤマトとクサブエ宙尉との模擬格闘を所望したわけだ……ナカイがな。
俺? 「百聞は一見に如かずだ」とか囁いたかもしれん。ハシリミズも報告書に添付する良い資料になると後押ししたので、俺のせいじゃない。
場所は『知床』の航宙機格納庫の一角。パワードスーツ対アーマーロイドというのも見てみたかったのだが『旗艦に甚大なダメージを与える可能性がある』との懸念から、却下された。
「宙佐ぁ!! 頑張ってぇ!!」
「「「「GOGO HAYATO!!」」」」
なんで、非番の女性たちがチアリーディングとかしてるんだよ。べ、別に羨ましくなんて無いんだからね!! ヤマトは若くして宙佐にまで昇進した宙兵隊のエリート指揮官。将来は宙兵総監確実とされている存在だ。
「あなたも宙佐なのにね。何故かしら」
「わかっていて言ってるだろ?」
顔だよ顔。あと、宙軍士官学校の卒業席次な。俺は十番台半ばくらいだから。宙佐までは行けるけど、その先は微妙。ナカイやヤマトは将官確実。途中で軍をやめなきゃな。
対戦形式は、レスリングに近い格闘術か。宙兵格闘術とかいうんだよね。コマンドサンボとかそういうのに近い近接格闘術。今回は無手だが、拳銃やナイフを用いる場合もある。
「では、始め!!」
なぜか開始の合図がきゃるぴん。そして、デブが横でカメラマンをしている。まあ、技術者つながりでハシリミズにでも頼まれたんだろう。
離れた距離から一気に踏み込んだクサブエが、側頭部への蹴りを放つ。装甲服を着ていなかったなら、首から上がはじけ飛ぶような威力の蹴りを、片手でつかみ取り、足首を捻ろうとヤマトが動くと、残された片足で踏み切り、二段蹴りを放つ。
BASHII !!
「うひぃぃぃ」
「……情けない声出さないでちょうだい」
いや、だって顔の横っ面蹴り飛ばされてんじゃん。が、そのまま、掴んだ足首を捩じ切るように捻り、顔面へのダメージと引換にクサブエの機動力を削ぐ事に成功……したはずだった。
「……効果なしか」
ヤマトの呟きが意味するもの。それは、バイオロイドの持つ自己回復能力を意味している。
「……ヒール……」
カメラを回すデブが呟く声が聞こえる。
「ヒールじゃねぇ」
ポーションとか回復魔法とかそういうんじゃありません。自己再生能力を強化された人工細胞のなせるわざ。バイオロイドの内包するエネルギーの範囲において、細胞を活性化させある程度のダメージを回復させることができると、ハシリミズがナカイに解説する。
「でも、それなら」
「はい。ダメージを延々受け続ければ、機能停止に追い込まれます。ですが、全身の焼却や部位欠損などでなければ、多少の損傷では問題ありません」
銃弾などで体が引きちぎられるようなダメージを受けた場合、手足を再生させずにおき、主要な部位にのみ修復を集約し、戦闘力を維持するように工夫されているのだという。
「本来、パワードスーツの搭乗員や航宙機のパイロットとしても運用を考えておりますので、単体の戦闘力はそれ程ではありません。ですが、装甲強化服を装備した宙兵隊のエース並に戦えるという事が証明できておりますので、十分かと思われます」
まあな。一家に一台、『クサブエ』モデルなら欲しい。美人だし、強いし。
「人間的な生活能力はどうなってる?」
「家庭料理や掃除なども可能です。アンドロイドですから」
冷たく言い放たれる俺。ジト目でこっちを睨むナカイ。いやほら、駆逐艦乗りって女子の手料理に飢えてるから、バイオロイド女子でも料理が食べたいんだよ。何かを察したのかハシリミズがこれに向かって呟く。
「一般家庭に普及できる価格ではありませんよ」
そうだよねー 航宙機よりは安いだろうが、総じて軍事用はコスト的に高くなる。原価からの積み上げ方式ってのもあるし、量産効果が民生品ほど高くないし、素材や部品もワンオフの受注生産だからお高い。
「それに、アンドロイドが家庭に普及することは考えられていません」
「確かにな。人間とアンドロイドの共存といえば聞こえはいいが、実際は人造奴隷だ」
ロボット三原則の人間を傷つけず、命令は絶対なんて存在は『奴隷』以外のなにものでもない。共存ではなく、人間が依存する形になる。家事だってほぼ家庭内の家電ロボットがこなしてくれるわけで、人間が行うのはその補助的作業だ。食材を補充したり、たたまれた洗濯物を仕舞ったりだな。料理をする事自体は、人間に頼らずとも成立するんだよ。実際、人間の料理人は存在するが、ある程度のレベル以上にならなければロボットの作った料理に負けるしな。
家庭でも料理はお菓子作りのような趣味の領域になっている。あるいは、編み物やDIYみたいな感じだな。自作できるのは評価されるが絶対では無いって感じだ。
十数分の攻防に飽きた俺がやる気なくしていると「それまで」と声がかかる。
ヤマトとクサブエは握手を交わし、お互いの健闘をたたえ合う。美男美女のくんずほぐれつの戦い……いやマジでヤマトって強いのな。久しぶりに見て士官学校時代を思い出して嫌な気分になった。
座学ではそれなりだった俺だが、肉体の鍛錬では平均がやっと。それでも、士官学校に入るような男は恵まれた体格を持っている奴や子供の頃から格闘技を学んでいる奴も多かったから、頑張った方なんだよ。
ナカイ? あいつは家伝の古武術を習っているから、ヤマト並みに強い。速くて上手いんだよ、関節が曲がっちゃいけない方向に曲がる事もある。俺はないけど、一年目の頃、調子に乗った馬鹿がナカイに仕掛けて肘の関節ごと破壊されてたな……そいつは当然、士官学校を中退した。
士官学校を辞め一般の学校に入り直したはずだ。ダブりになるだろうが、ナカイと同じ空間にいることに耐えられなかったらしい。どんだけトラウマ植え付けたんだろうな。
「お疲れ様でした二人とも」
「はぁ、強いねクサブエ宙尉は」
いや、アンドロイド疲れないし、強さってスペックの問題なんじゃねぇのかと俺は思ったのだが、AI副官同様、事後の教育の成果は『個体差』として生まれるらしい。なので、『指揮官タイプ』であるバイオロイドの出荷時の性能はほぼ公差の範囲に収まっているのだそうだが、その後の訓練課程で差が生まれ、さらに実戦経験を経て能力差が広がる傾向にあるのだという。
「クサブエ宙尉は、佐官クラスに抜擢することも今後の成長を考えると実現可能の範囲になります」
「機式宙兵戦闘団の指揮官とかでしょうか。宙華の艦隊に星系や要塞が占拠される事態になれば、尖兵は彼女たちになるかもしれませんね」
今のところその気配は薄いが、今後、そのような可能性も少なくない。
敵対する勢力の人間を殺す事は三原則に触れるため、実際、戦場に立つのは生身の宙兵との混成軍となるだろうか。施設を破壊し、武器や装備を破壊、内部に侵入することは可能でも、人間を殺すのはやはり人間でなければならない。
「そうか、だからあいつは命令に殉じて投降したのか」
「……いまさらね。気が付いていなかったのあなた」
ヌゥワが何故抵抗せずに俺に従ったのか、それは三原則が守られた『タイペイ製』アンドロイドであったからだ。もし仮に、そうした人間を保護するプログラムがないアンドロイド……禁式アンドロイドという名称で呼ばれるのだが、ようはニッポンやUSAでは製造が法で禁じられているアンドロイドであったなら、俺達はかなり危険であったろう。
であるならば、宙華純正の殺人アンドロイドってのも存在する可能性があるわけだ。その辺り、宙軍幹部や技本の人型兵器を開発している研究者はどう考えているんだろうか。
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「人型兵器の開発において、殺人可能なアンドロイドが実戦投入される
危険性は常に考えられています」
ファイトクラブの後、機動支援艦隊幹部とハシリミズは会合を開ていた。俺の感じた危険性は、ナカイたちも共有する者であり、直接兵士として前線に出る可能性のあるヤマトは特に気にしていた。
「宙国に関しては、アンドロイド製造の意思はあったとしても、設計製造管理、素材・部品・組立工程、整備システムに関しても外部依存でした。ですが、侵略を開始したとするならば、アンドロイド製造に関しても戦闘艦同様一定の目途が就いた可能性も否定できません」
ニッポン企業はともかく、利に敏いUSAやヒンドゥ連邦、もしくはルーシの軍事産業・企業体が高額な対価を得て秘密裏に技術供与・移転している可能性が無いとは限らない。
「その危険性を踏まえ、今回の宙兵隊に対する機式宙兵の導入を宙軍と政府が決定した経緯があります」
「表立った発表はないが、事実か」
「……この場に限った秘匿すべき情報として、開示してもいいのではないかしら。どうでしょう、クルリ先任」
ナカイの独断では難しいのか、情報士官であるクルリ先輩に確認をとると首席幕僚は同意を示し「私から」と自ら説明し始める。
「この会合で話したことは、外部に秘匿してもらうからね。公開したら、懲罰対象だから、最初に言っておきます」
と区切りを入れる。拠点奪還用の宙兵隊戦力の増強を考えるに、艦船の搭乗員以上に育成が困難であると判断した宙兵総監と統幕会議は、政府に対し、拠点奪還用のアンドロイド兵による宙兵大隊建設構想を提案したのだという。
とはいえ、その予算は『戦艦』と比べれば……同程度であり、戦艦はあくまで防御戦力であると考える政府と宙軍省は、支配された拠点及び星系を奪還する戦力として機式宙兵を加えた宙兵旅団の編成を想定することにしたのだという。
「宙兵旅団」
「そう。既存の連隊にアンドロイド兵の大隊を加えた規模だから、戦闘団レベルだけどね」
機式中隊は、人間の中隊司令部と三個小隊の機式宙兵からなる尖兵中隊に相当する強化部隊だ。中隊司令部はパワードスーツで武装しており、移動司令部と支援中隊を兼ねる。
中隊三個で連隊なんだけど、二個機式中隊と一個宙兵中隊、これにパワードスーツ装備の装甲支援中隊、独立砲兵中隊、旅団司令部、工兵中隊が加わった感じだという。
「全員が、アンドロイドか装甲強化服、パワードスーツを装備した強化旅団になります」
その戦力は、通常の宙兵連隊三個分、実質師団規模を上回る戦力だと評価している。
「母艦が完成するまでは継続した戦闘能力は維持できないから、現状はまだ編成中だね。わかるでしょ?」
アンドロイドもバイオロイドであろうが、アーマロイドであろうが稼働させれば損耗する。その整備と保守点検、修理する機能を大隊規模で有する母艦がなければ一度の作戦で使用不能になってしまう。
「新造の戦艦ないし高速戦艦を充当するみたいね」
「時間かかるな」
「そう。だから、支援艦隊がその準備に当てられるわけ」
今の話を総合すると強化旅団の整備設立には時間がかかるし、その準備を機動支援艦隊で行うってことで、もしかすると……
「強襲揚陸母艦はこの艦隊の所属になると現状されています」
「げぇ……」
拠点奪還用の戦力を育成する艦隊って事は、その任務俺達に振られるってことだろ? なに嬉しそうな顔してるんだよナカイ!! 死んじゃうだろ!!
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