069 アンドロイドの行方―――『双胴工作艦』(参)
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「機動支援艦隊第一戦隊司令、アツキ・ツユキ宙佐です。これから力を借ります。宜しく」
簡単に自己紹介をする。バイオロイド三体、アーマロイド七体が目の前に並ぶ。バイオロイドのうち一体が女性形、二体が男性形だ。アーマロイドは……2m越えでプロレスラーのような巨体をしている。あるいは力士。
「この分隊を指揮する、トモコ・クサブエです。宙佐にお目にかかれて光栄です」
けしからん女性バイオロイドはトモコちゃんでした! ハスキーボイスではあるが、良く通る声だ。恐らく、戦場でもそうなのだろう。そういう仕様になっていると思われる。
男性形は、『トガリ』と『イビガワ』というこれは苗字だけか。名前は? とも思うが、男の名前とかどうでもいいか。もしかすると、指揮官が女性形というのは意味があるのかもしれない。
「それで、階級と指揮系統はどうなるんだ?」
「戦隊に派遣されている間は、君と君の次席指揮官が司令役だ。その指揮下に彼らは入る」
「階級はどうなる」
ヤマト曰く、宙兵の階級が仮に指揮官を上回ったとしても、艦隊の活動に関しての指揮権は発生しないということだ。あくまで、宙兵はお客様扱いであり、艦隊には干渉できないということだな。そこは、宙兵隊全体に言えることなのだが、アンドロイド宙兵がどう認識しているかがわからなかったので敢えて言葉にしてみたわけだ。
「クサブエ宙尉、トガリとイビガワは宙曹、他は宙兵だ」
ということは、クサブエは中隊指揮官クラスの指揮能力を持っており、野郎二人は分隊長クラスの指揮能力って事だな。アーマロイドは完全に兵士の役割りのみを担っていることになる。
例えば、指揮する上位三人が破壊された場合、指揮系統はどうなるのだろう。もしくは、クサブエが破壊された場合、イビガワとトガリのどちらが指揮権を有することになるのだろう。
面倒な事だが、戦闘により指揮権が移動する場合、事前に決めておかねば戦場で混乱が発生する。ダメコンの観点からも必要だしな。
「イビガワが先任、トガリがその次だ。士官下士官が指揮をとれなくなった場合、戦隊司令に直接指揮権を委譲する形だな」
アーマロイドを戦隊司令が直接指揮する状況にならないよう、全力を尽くしてもらいたい。
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アンドロイドとは、人型のロボットであるだけではなく、人に似た疑似的な人格を有する存在であると言えるだろう。
アンドロイド自体はUCの早い時期から導入されていた。それは、超光速航行技術が未発達であった時代において、人の寿命を越える探査・移動を行う際、アンドロイドを用いた行動計画が有用であったからだ。
一台が宇宙船一隻に相当するほど高価なアンドロイドを数体から数十体載せ、冷凍仮死状態にした宇宙移民を載せた遠距離開拓船団が離れた星系に向け地球を旅立って行ったというのが、UC初期の状況であった。
JDとHDゲートの技術が確立した後、わざわざ高価な人に似せたロボットを使用することは大いに減っていった。
これは、コストの面と宗教的側面で否定されたという事がある。
コストの面で言えば、未だにアンドロイドは人間の宙軍兵士より数倍は高価である。宙軍兵士の生涯賃金と教育育成費用を合算して数億UC円であるとすれば、アンドロイドは二十億UC円程する。単純に考えて人間を育成する方が安上がりだ。それでも、航宙機や宇宙船よりは相当安いが、行う事が人間と同じなら人間にやらせた方がいい。
ニッポンにおいては有事の為に一時的に投入され、平時になれば恐らく休止状態にされ保管される事になるだろう。
ニッポンの場合、危険な任務を人間に行わせることによる戦死者の存在は民主主義国家として無視できない。軍人が死ぬのは仕事と言えば仕事だが、両親、妻子、兄弟、友人、その家庭が所属する地域社会に精神的にも経済的にも大きな負担をかけることになる。
そのコストは一人の戦死による金額の数倍では収まらないだろう。社会的コストは膨大な金額になる。故に、アンドロイドが直接的に高価であったとしても、兵器としては安価であるがゆえに、危険な任務にアンドロイドを向けるのは至極妥当な判断となる。
宙華の場合、専制君主による独裁国家であるから、兵士の死に関してはさほど問題にはならない。恒常的に国民……農奴を酷使することもあるのであるし、ニッポンやUSAの人間と比べれば平均余命は半分程度の年齢であるとされる。四十代まで生き残る者は半分以下とされる。
では、宙華におけるアンドロイドの投入局面はどのようなものか。これは、生身の人間では食料・水・酸素の供給の問題で長期的浸透作戦に向かない場合、もしくは、高等教育を施した人材を使い捨てに出来ない場合に選択される。
臣民(人権在り)及び農奴(人権が制限)からなる機動艦隊ならある程度統制が効くとしても、少数での潜入工作に耐えられる人的資源が不足しているのだ。なので、アンドロイドを使わざるを得ない。多少のトラブルでも自力で作戦を継続できるのは、生身の人間ではないからだと言える。
ヒンドゥ連邦はニッポン同様専守防衛が基本であり、カースト制度の残る国体であるが、宙軍の各階層に適切に教育された人間を配置することは為しえているので、アンドロイドを敢えて投入することは少ない。特殊な任務に用意されている程度であると言える。
では、ルーシ連邦とUSAはどうなのかというと、技術的に用いることは可能であるし、特殊な任務に関してはアンドロイドを投入するものの、人間そっくりのアンドロイドは忌避される傾向にある。
これは、キリスト教圏であることが要因だと考えられている。すなわち、聖書には『神は自らの姿に似せて人間をお創りになった』とされているからだ。
神の御業と類似の「人間の姿に似せたアンドロイド」という者に、宗教的抵抗感があると言えばいいだろう。神への冒涜と言い換えても良い。ニッポンと同じ民主主義国家として、軍人の戦死に対する問題を有するにもかかわらず、USAとルーシー連邦は軍用アンドロイドの導入に消極的だ。その代わり、装甲強化服やパワードスーツを広範に支給し、残存性を高めている。
ニッポンは何気ない日常の道具にも『付喪神』が宿ることを是とするお国柄であるため、アンドロイドが身近に存在することに対して抵抗感が無いためこの辺り、USA人とは価値観が理解できないとされている。
まあ、生身の宙兵より、気を遣わずに済むので俺は歓迎するけどな。
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「技術本部人型兵器研究室所属、ハシリミズ技術宙尉です。今回、機式宙兵の技術的サポートの為、同行することになっております。よろしくお願いします」
技術者って小太りなのがテンプレなのかと思ったが、目の前の技術宙尉は痩身で意志の強そうな眼を持つ男だ。ちょっと、心が狭そうな印象。
「機動支援艦隊第一戦隊司令ツユキです。短い間かとは思いますが、
よろしくお願いします」
俺は、余所行きで挨拶をしておく。技術本部、通称『技本』は、宙軍省の内部にある部局の一つで、宙軍の装備品を研究開発する主導的な立場にある部署だ。『人型兵器』には、アンドロイド・パワードスーツ・装甲服などが含まれる。大型の人型機動兵器は……いまのところ計画には無い。
分離合体したりしないぞ!
アンドロイドは、現在、『雪嵐』に移動し、強襲揚陸用モジュールの実践訓練を行っているところだ。事前にホンシュウ星系で、同型艦を用いた訓練を行い、操作系プログラムも何度も修正を重ねた上での最終試験として配属されたわけだが、一応、やってみなければならない。
加えて、増設したアンドロイド用の保守点検設備の稼働状況も使用する本人? 達が確認する必要があるだろう。ということで、この場にはいない。
「宙兵隊で確認したことは事前に伝えてあると思うが、戦隊司令からの懸念事項は、なにかあるか?」
この場にいるのは他に、ヤマト宙兵宙佐と首席幕僚であるクルリ先任宙佐。クルリ先輩もさり気に昇格していた。とはいえ、複数の宙佐が所属する艦隊において、先任宙佐が必要なのは当然であり、次席指揮官であるクルリ宙佐が先任宙佐になるのは当然だろう。旗艦に搭乗しているわけだし。
で、旗艦が撃沈されて司令官と副司令官に相当するナカイとクルリ先輩の生存が不明となった場合、第一戦隊司令の俺が指揮を執る事になる。でもさ、クルリ先輩、シコク星系での訓練とか監督しなくていいのかよ。
「大丈夫だよ。二期以降は選抜も変えたし、一期で修正した訓練プログラム通りで一ケ月くらい離れてもね」
「いや、残されたヤエガキが全部任されてるんですよね?」
「そうだね。まあ、彼女もそういう事を勉強する時期なんだよ」
ぜってぇそうじゃないよね。押付けてきたんでしょあなた。優し気な外見とは裏腹に、腹黒さには定評があるクルリ先輩である。清廉潔白なナカイの次席指揮官としては適切なんだろうけどな。
俺? 俺は腹黒いのではなく、省エネ主義なだけだから。アンドロイド? 俺の仕事の負担が減るなら是非よろしくお願いしたい!!
「アンドロイド宙兵の指揮系統の問題を確認したい。配属中は戦隊司令の指揮下にあるというのは承諾したが、例えば、次席指揮官が戦隊では宙尉であったりする。クサブエ宙尉との兼ね合いはどうなるんだ?」
宙兵は艦隊の指揮権に干渉しないとはいえ、階級の問題は存在する。アンドロイド兵が人間を指揮するという状況は起こるのかという疑問があるわけだ。
「ツユキ司令、御懸念の点をつまびらかにさせていただきます」
ハシリミズ曰く、アンドロイド含め『ロボット』と呼ばれる自律的人工物に関しては、『ロボット三原則』が適用されるのだという。即ち……
1. ロボットは人間に危害を加えてはならない。また、その危険を看過することによって、人間に危害を及ぼしてはならない。
2. ロボットは人間にあたえられた命令に服従しなければならない。ただし、あたえられた命令が、第一条に反する場合は、この限りでない。
3. ロボットは、前掲第一条および第二条に反するおそれのないかぎり、自己をまもらなければならない。
「それは分かる。階級との関係で言えばどうなるんだ」
どうやら、ロボットは命令に服従しなければならないという原則が生きることになるのだという。一兵卒でも人間が命令すれば『宙尉』のアンドロイドはそれを守らねばならないのだ。ハシリミズが説明する。
「AI副官を含め、機式宙兵もそうですがあくまで人間組織に適合させる為の方便だと思って下さい。戦艦という名称を用いた戦闘艦をどう用いるか『戦艦』だからという物差しで人は判断します。『指揮官ユニット』という名称より、『宙尉』が中隊規模の指揮官であるという認識から来る、アンドロイドの持つ能力の推定に生かしてもらう為です」
「あくまで、アンドロイドの能力が『宙尉』としての責務を果たすに相応しい性能を持つという意味だよ。なので、『宙曹』が指揮できる範囲は精々、小隊か分隊レベルであるのに対し、『宙尉』であれば中隊から大隊の範囲で指揮できる能力を付与しているというわけだ」
ヤマトも自分の部隊に『クサブエ』たちを組み込んだ大隊規模の演習を実施しており、指揮能力に関しては把握しているのだという。
「アーマロイドに関しては分隊もしくは班の指揮が限界です」
「戦車の小隊長クラスだと思えばいい」
「わからんが、わかった」
宙兵隊なら『戦車』だろうが、艦船乗りで置き換えるなら、航宙機の小隊長ということだな。十を越えると「たくさん」となり、把握できなくなる感じだ。
「当面、そういう状況になることはないだろうと思われます。宙兵隊や星系防衛地上軍などにおいては懸念されますが、機式宙兵は艦隊への配置が優先されておりますし、最優先は機動支援艦隊となりますから」
機式宙兵も『支援』の枠って事だな。アンドロイドに頼りたがらない傾向の強い「機動艦隊」にいきなり配置するのは抵抗があるだろうし、元々宙兵を配置している艦隊だから、縄張り意識も強いのだろう。
戦艦内部には十分な居住スペースと訓練設備が整っており、また、星系から動かない時間が長い事を考えると、アンドロイド宙兵を配置するメリットもあまりないだろう。
『晴嵐型』にしても『機式宙兵』にしても、既得権を持つ艦隊派からすればよけいな存在だから、こっちに廻されるんだろうなと思う事にした。
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