068 アンドロイドの行方―――『双胴工作艦』(弐)
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今一つは、軍での現役復帰、もしくは定年延長を行い後方勤務に退役した人材を据えるという形で一時的に増員するという形だ。これは、既に始まる予定もあるのだというので、ナカイが宙軍省に提案するのは民間軍事会社による警備艦隊の設立になるだろう。
「で、もう一つというのは何だ」
「艦船の運営に、一定数のアンドロイドを導入する事よ」
既に、AI副官という形で人型でない人格を有するロボットは導入されている。船体自体がロボットみたいなもんだよな。それに、アンドロイドを乗員として加えるという事になるだろうか。
「どうしても、機関科員や情報通信科員が隻数を増やすと不足することになるわね」
「そうだな。その二つは再就職も簡単だし、戦闘艦じゃなきゃって人間も戦術科や航宙科よりずっと少ないだろうな」
元々、戦術科や航宙科の人員が多く、再就職が面倒なのも多いからこそなのだ。特に戦術科な……民間船にニーズ無いからなー。
「機関科員なんかは、退役した人たちだと知識は古かったりするから、かえってデータ更新の容易なアンドロイドの方が向いているだろうな。なんなら、修理ロボット兼務でさ」
「そう、発想はその辺りにあったの。情報通信関係も、アンドロイドなら休息不要であるし、艦や艦隊内の通信の齟齬も発生しない分、連係ミスも起こりにくくなるのではないかしら」
確かに。とはいえ、バックアップ要員は欲しい。機関科・情報通信科で各二体、それに人間が各一人、他に艦長と戦術・航法科員が各二名とかだな。
「六人ないし七人にアンドロイドが四体か。可笑しくはないな」
「あとは、予算が取れるかどうかね」
「とれるだろ? 機式宙兵の能力も付与すればわざわざ宙兵隊を配属させなくても、臨検要員が確保できる」
「小型艦ならばその方が有効ね。アンドロイドの整備モジュールを搭載しなければならないでしょうけれど」
アンドロイドも放置しておけるわけではないので、カプセルベッド型のメンテナンス設備を設置しなければならない。乗員が減る分一台をその為に使えば問題ないだろう。金銭面以外では。
「アンドロイド乗員ねぇ……保守的な艦隊派は反対しそうだな」
「宙兵隊で『機式宙兵』を導入するのだから問題ないでしょう。反対するなら対案を出してくれればいいのよ」
それもそうだ。
回収した巡洋戦艦の一部を伴って、俺達は一先ずサセボに入港したんだ。武装も消耗しているし、モジュールも差し替えて整備しないといけないからな。巡洋戦艦とやり合って、そのままってないよね。あちこちガタついてるじゃんね。
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サセボのみならず、機動艦隊と星系防衛艦隊において『巡洋戦艦並の主砲を有する仮装巡洋艦と遭遇する可能性がある』という事が知れ渡り、警備を行う補助艦艇の乗員には激震が走った……
――― 俺ら毎回なんだけどな……
『晴嵐型』であれば、艦首シールドである程度、巡洋戦艦クラスの砲撃も抑えることができるのだが、武装商船程度を想定しているフリゲートやコルベットクラスの艦船においては、抵抗も反撃もかなり厳しいと考えられている。
まず、先に発見する事自体がかなり困難だと言える。
『晴嵐型の索敵モジュールは優秀だもの』
フンスとばかりに胸を張る……ような口調で意気揚々と話すのは、我等がAI副官殿である。今回は、重武装かつ四隻で警戒していたから対抗できたものの、いつもの『軽巡並陽電子砲』装備であったなら、手も足も出なかった可能性が高い。
俺達は無人機による強襲を普通に用いているけれど、星系防衛艦隊の補助艦艇には一二機程度しか搭載しておらず、非武装の機体も少なくない。あくまでも、無人偵察機の扱いだ。
「しかし、アンドロイド宙兵の導入であるか」
「文句あるなら、お前も自分で無人艦の捜索してみろ。AI副官と僚艦の前面バックアップあっても、相当危険だぞ」
「アベシ!!」
アベシィじゃねぇ。そもそも、警戒艦隊なら四隻編成ってまずないからな。良くて二隻、隻数が不足していれば単艦で哨戒任務させられるだろ? コルベットなら宙雷抜き・無人機抜きの『晴嵐型』みたいな能力だぞ。
モジュール無しの『晴嵐型』とか、ヤバすぎる。
船型こそ、いかにも戦闘艦ってフォルムだけど、武装自体は軽装だからな。武装商船なら十分だが、戦闘艦並みの火力を有するならまるで手が出ない。見つける前に一方的に沈められるかもな、今回みたいな重武装の浮砲台相手ならさ。
「まあ、今回はせんぱいが見つけちゃったんで、事なきを得たって感じですね」
『不運菌でも湧いてるんじゃないの?』
「確かに!!」
引き算で、今回、ヤエザキ、ミカミ、デブがいないので、俺しかいないよね。俺って生粋の貧乏神なわけ?「不幸だ!!」とか言っとけばいいかな。
『まあ、真面目に仕事した結果だから別に気にしないでいいわよ』
「そう言ってもらえると助かる」
『貧乏神乙って感じかもね』
「あー 貧乏神は……ちょっと無理です」
「我は……」
いや、ニカイドウ、お前のかなり貧乏神寄りだと思うぞ。な・か・ま、な・か・ま。
「実際、アンドロイド兵って技術工廠的にどうなんだよ」
「部署が違うのであまり詳しくはないのだが……」
バイオロイドやアーマロイドはいわゆる『作業ロボット』や『パワードスーツ』といった生産系の装備とは異なり、医療系の部署が関わっているらしい。
因みに……
『バイオロイド』とは、アンドロイドの中で、有機物質を多用した生身の人間に似せた質感を持つアンドロイド。その肉体は、義体・義肢の技術を応用して作成されており、脳が生身の人間であれば「サイボーグ」の範疇に入る技術を用いて作成されている。
その昔は、慰安用なども存在したのだが、色々あって現在では法的に制限がかかっている。
『アーマロイド』は、金属製の義体に武装・防御装甲を与えた武装アンドロイド。宙兵などではこのタイプが投入されている。
ということらしい。ニッポン宙軍でも積極導入という事ではなく、実験的に第一機動艦隊やホンシュウ星系防衛艦隊などで試験運用を行い、主に、予備役艦を用いて研究が進められてきているのだという。
ある意味『無人艦』として運用することも想定しているのだろう。
「思いっきりアーマロイドが来るんだろうな。宙兵だし」
「ふむ、荒事ばかりが宙兵の仕事ではないので、バイオロイドも必要であるな。爆発物の解体や人間用の武器を用いた射撃などでは、生体に近いものでないと、適合しづらいからな」
確かに。腕っぷしが強いといっても限度がある。銃身へし曲げたり、トリガー握りつぶされても困るしな。フェザータッチとか無理でしょ、アーマロイド君たちには。
「バイオロイドでも、【08式装甲強化服】着用時並みの能力があるのでな。
何かと便利ではある」
バイオロイドに強化服着せたらさらに強化されるわけではないらしい。だめか。因みに、アーマロイドはパワードスーツいらずらしい。なら、パワードスーツ用の装備使えばいいんだろうな。
「どのくらいの割合なんですか?」
「半々か、バイオ一体にアーマロイド三体の割合になるだろう」
「バイオロイドが指揮官役なのか」
「そうとは言えぬな。人間の肉体が必要な任務をさせるために、四人で一班を組ませる為、最低一人はバイオロイドを含める事になるからだな」
人間用の歩兵用ミサイルとかPFSの操縦なんかは、バイオロイドが担うのか。サイズ的に、アーマロイドは並の人間より一回り二回り大きいんだと想像される。そうすると、操縦席に座ったり、操縦桿を握るのは難しいかもな。
ケツがデカすぎて。
「寝ないのはいいですよね。見張とか通信番とか任せられるじゃないですか」
「そうもいかねぇよ。そりゃ、艦隊の乗員として配属される奴らだな。人間より休息は少なくていいけど、定期的にメンテが必要だし、その為の保守用ベッドも備えなきゃだから、艦橋の改修も必要だろうな」
「いや、ベッドの交換は数時間で可能だぞ」
なんだよ、休めねぇのかよ。改装中は半舷上陸にしようと思ってたのに。
「デブはアンドロイドの経過確認に乗艦するのか?」
「いや、我ではないな。専門の技官が付いてくるだろう。予備役艦を使った実用試験はクリアしているのであるから、実際は、トラブル時の緊急対応要員として乗艦するだけであろうがな」
初期トラブルができった状態での試験運用だよね。じゃないと、たった四隻の駆逐艦しかいない艦隊で、いろいろ無理でしょ? 帰っていいかなシコク星系にほんと。
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数日後、予想以上のペースで機式宙兵の分隊がキュウシュウ星系に到着した。その中で、バイオロイドの三体を『雪嵐』に早速配属し、残りの七体は暫く『知床』に乗艦させ、PFSの操艦や宙兵としての活動がどの程度可能かナカイが直接確認するという。
「今回は面倒なことを頼むけど、よろしく頼むよ」
「ああ、これで俺も自分の命を盾に任務をせずに済む。戦隊司令が臨検を直接するなんて考えられないからな」
「……そ、そうか。相変わらずだな君は」
他に出来る奴いないからしょうがないだろ。背に腹は代えられぬし、猫の手ならぬアンドロイドの手でも借りたい、いや是非お借りしたい!!
ご存知ハヤト・ヤマト宙兵宙佐だな。こいつも、教導隊のあるシコク星系に派遣されているからとばっちりと言えばとばっちりだな。
「こっちに来ていて大丈夫なのか?」
「彼らも宙兵隊の一員で、新兵たちだからね。部隊長としては、ケアするのも責任のうちだ」
ヤマト曰く、アンドロイドの人格を安定させる為、ローティーンまで遡った仮想体験記憶を植え込んでいるのだという。その多くは、宙兵から抽出した記憶の中で生成されたものらしい。
「何でそんな面倒なことするんだよ」
「いや、何もないと記憶喪失の人間みたいに情緒不安定になるんだよ。かといって、人間同様に時間をかけて教育するのではアンドロイドを宙兵にする意味がない。その妥協的選択らしいな」
そういえば、古典的SF小説に出てくるアンドロイドか否かを選別する検査には、人間の共感性を利用するものがあったな。アンドロイドに共感性が不足しているのは、過去の経験が無いからだって推測から成り立つ判別方法だった気がする。人格的不安定さを排除するために、実在する人間の過去の記憶をそのまま挿入するという処理を施したって解決方法があったな。
とは言え、過去の経験記憶さえあればアンドロイドの感情が安定するかどうかというのは正直微妙だ。アンドロイドは死なないのだから、その辺り、命知らずに無双してくれればいい気もする。あとは、直接指揮する現場の指揮官の裁量だ。リスクの高い作戦でもある程度許容できるかもしれないし、生身の人間や装甲強化服程度では不可能な選択肢も、アンドロイドであれば可能になるかも知れない。
「無双ってわけではないから注意してくれ」
「それはそうだろう。耐久性だって稼働時間だって制限はある。生身の人間で不可能なことはアンドロイドにだってさせる気は俺には無いぞ」
そもそも、一緒に現場に出向く可能性の高いのは俺だ。アンドロイドが過半を越えた参加者だったとしても、無茶振りを許容するつもりはない。後で始末書書いたりするのも面倒だしな。
「そうだな、君は自分を危険にさらすような事は……結構しているだろ?」
「無理せざるを得ない状況に堕ちりやすいだけだ。それでも、死なない程度に済ませているから問題ない」
死んだらそこでゲーム終了です。いや、ゲームじゃねぇし。リアルだし。
「紹介してもらえるか」
「ああ、皆、戦隊司令に紹介する。挨拶してくれ」
アンドロイドとはいえ、マッチョ野郎ばかりじゃないんだな。黒髪ショートの美人さんがいるじゃないですか、おまけに、けしからんスタイルです。あーこういうのって誰の趣味なんだろうな。まさか本人? アンドロイド自身じゃねぇよな。
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