067 アンドロイドの行方―――『双胴工作艦』(壱)
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「まったく、あなたという人は」
「いや、この艦隊の戦力だと色々無理があるだろ今回の場合」
はい、司令官閣下に報告に伺ったんだが、怒られ中です。気持ちは理解できるが、輸送艦ベースの自衛装備しかない旗艦が来ても、むしろ損害が増えるだけだから。四隻の駆逐艦がこの艦隊の全戦力であると言って過言じゃないだろ?
そもそも巡洋戦艦並の火力を持つ浮砲台が、知らない間にキュウシュウ星系のないぶに侵入していたこと自体が大問題なわけだ。
「とにかく、突入部隊だってあなたともう一人だけだったのでしょう?」
「それはそうだ。他の艦だと、そもそも突入部隊を編成できるだけの練度の乗員が不足しているからな」
『雪嵐』は戦隊司令の乗艦ということもあり、教導隊出身の新人は三人としており、俺ともう一人ベテランが抜けても艦の行動に支障はない。他の艦だと、ベテラン二名も抜ければ、新人ばかりになる。なので、いくらAI副官が頼りになるとはいえ、一人二人のベテランに数人の新人を任せるわけにいかないという状況もあった。
「理解できるわ、けれど、同意は出来ないわ」
「そうだろう。俺も同意したくない。今後は、どうするかだな」
明らかにそこに存在するのであれば、宙兵隊を同行して臨検ミッションを行えば良いかもしれないが、警備行動した上で不審船を発見したり、無人観測機を設置する間、駆逐艦の艦内に余計な宙兵隊員を配置するのは艦隊にとっても宙兵隊にとっても問題となる。
宙兵は常在戦場の兵、常に訓練していなければ練度が維持できない。小型艦の艦内で待機し続けるのでは、練度低下は避けられない。また、突然の臨検に対応するためには、メンタルの持ち方だって今までとは考え方が変わって来る。そもそも、そんな任務のために訓練をしていないのだろうから、どうかと思うわけだ。
「実験部隊を受け入れるしかなさそうね」
「……またかよ……」
「そう、またよ」
そもそも、『教導隊』からの『機動支援艦隊』も実験艦隊だからね。そこで、さらに何らかの実験を行うのは吝かではない。
ナカイ曰く、「アンドロイドの臨検部隊」なのだという。なるほどね。
「バイオロイドとかなのか?」
「いいえ、普通の機械の義体になるわ。でないと、待機時にもいろいろ問題が発生するから」
バイオロイドというのは、一見生身の人間に見えるアンドロイドで、実際、人造人間と呼ぶに近い存在だ。「まるで本物の人間みたいだ」というセリフと共に、アンドロイドの振りをした人間が演技する古典映画に出てくるそれだと思えばいい。
今回登場するのは、人型をしている機械とわかるアンドロイドであり、工兵や修理要員として宇宙空間で船外活動をする課員の補佐をする役割りをになう機械兵の事を指すだろう。
「初めて聞くが、宙兵隊所属の機械兵ってことか」
「そうね。星系防衛艦隊のフリゲートに配属する宙兵隊が決定的に不足しているのよ」
なるほど。フリゲート二隻にコルベットを付けて星系内を巡回させるとしても、一個小隊を載せたとして交代要員を含めれば中隊単位での派遣が必要となる。四星系に、オキナワやツシマにまで派遣するとすれば、連隊単位で戦力が割かれるようになる。それは無理だろう。
「指揮官はベテラン……の方を充てるようにして、臨検を行う下士官兵をアンドロイドに担わせる部隊編成になるわ」
つまり、ロートルや予備・後備の指揮経験のあるベテランを指揮官に配して手足となる下士官兵をアンドロイドにする事で、戦力を増強する事にしたということだろう。宙兵は希望者も少なく、戦力を増強するのはかなり難しい。これが、家に帰れる惑星防衛の地上勤務の兵士だとパートタイム含めて集まるのだが、宙兵はなぁ……男の美学の世界だから。
なので、ヤマトには似合っても俺には全く似合わない。
「それを載せる計画があるんだな」
「ええ。今回、宙華艦隊もアンドロイド兵を用いた侵攻作戦を行っている可能性があると判明したのだから、こちらもその形で戦力を育成することに抵抗が無くなるでしょう。むしろ、兵士の損耗を考えれば、アンドロイド兵を投入することに『コスト』以外抵抗が無くなるでしょうね」
だよねぇ。アンドロイド兵の良いところは、人間のパワードスーツや強化服をそのまま用いることもでき、生身でも人間用の装備をそのまま使えるところにある。問題は、コストだな。生身の兵士より数倍高くつく。
なので、尖兵のような使い方が良いのだろう。完全に独立させるよりも、ベテラン指揮官に指揮させ、出来得る限り機械的対応で済む範囲で任務を任せる方が良いと現状では判断されている。
アンドロイドと人間の差がどこにあるのかという問題につながりかねない、高度な感情を有するアンドロイドの製造には抵抗がある。思考のレベルを上げる必要が無いように、指示に対して機械的に対応するレベルで止めることで問題を回避することになるだろう。
「なので、一度サセボに帰投して、補給と整備、今回の報告とアンドロイドの調査を行っている間に、『機装宙兵』の試験分隊の派遣を要請しておくわ」
アンドロイドによる宙兵を、『機式』もしくは『機装宙兵』と呼ぶのだそうだ。分隊という事は十人……十体前後か。なら、『巡視船モジュール』を使うかすれば搭乗は可能だろう。もしくは『強襲揚陸モジュール』かもしれないな。
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既に機能を停止していた浮砲台『ヴィクラント』を回収した『知床』は、四隻の『晴嵐型』駆逐艦を伴い、サセボに向けて移動していた。
そして、俺はまだ『知床』の司令艦私室に滞在している。飯・風呂・寝るの三拍子そろった快適な高級士官用客室を宛がわれているので、文句はない。会話の無い夫婦みたいな好条件!
「この巡洋戦艦を用いた砲台? 砲艦による通商破壊作戦はどの程度の本気度なのだと思う?」
司令官閣下の話し相手になるのも、戦隊司令のお仕事の一つ。『雪嵐』じゃ艦長私室なんてないに等しいからな。通信だって艦橋で行うから、聞かせたくない話もある。ここで話すのがいいんだろう。
「武装商船や仮装巡洋艦の無人艦による通商破壊というのは継続すると考える。今回の廃艦された巡洋戦艦の戦闘区画を商船に移植するような艦は少数だと思うぞ」
「そうあって欲しいわね。星系防衛艦隊の警戒隊では全滅確実の相手ですもの」
確かに。『晴嵐』四隻のうち、巡洋戦艦並の強化陽電子砲を装備した艦とその照準可能な装備を持つ二隻の協働があって、初めて互角での砲撃戦が行えたというのもある。
それと『晴嵐型』のもつ、局所的防御シールドの効果である程度接近するまで防御が可能であったこと、無人機と宙雷による多段階攻撃が可能であった事もあるだろう。
「並のフルゲートとコルベットの警戒隊じゃなぁ」
「一方的に沈められていたでしょうね。もっとも、遠距離から93式宙雷を撃ち込む決断ができたならある程度結論が変わるでしょうけれど……」
「そんな奴は警戒隊にはいない。少なくとも、戦隊司令はそんな命令は出さないだろうな」
なんでわかるかって? そりゃ、出世しそこねたとはいえ、星系艦隊の戦隊司令になるのなら『戦術士』『航宙士』で、それなりの大型艦の長を担った経験者で、戦術士は砲術学校の専科出の場合がほとんどだろう。艦隊勤務で宙雷戦隊もしくは駆逐隊の司令以外では『宙雷科』出の戦術士が司令を務めることはまずない。
ということは、発射するタイミングを読まなければならない『置いておく』武器である宙雷を効率的に扱える人間ではないから、遭遇戦で宙雷を使うという発想が出てこないはずなのだ。まして、遠距離から高威力の陽電子砲による射撃を受けたのなら、反撃手段がないと考えた可能性が高い。
無人機を接近させ、95式宙雷で攪乱するなんてのも、マニュアルには無いので恐らくは使わないだろう。
「無人攻撃艦とでも言えばいいのかしら、仮装巡洋艦程度の能力を有する商船型宇宙船による通商破壊作戦の可能性は大きいということね」
「そうだな。タイペイ侵攻に失敗した以上、次は準備をしっかりした上で攻撃してくるだろう。そして……」
「タイペイ・ゴトウ・ツシマ・オキナワの同時侵攻。その前に時間をかけて通商破壊作戦もしくは、無人艦による非正規戦闘を強要するということなのでしょうね」
「今のところの在り方を考えると、その想定がしっくりくる」
ナカイは深く溜息をつき、腕を組んでややうつむき加減となり目を閉じる。
圧倒的に艦船数が少ない。艦船数は半年ないし一年程度で警戒隊用の艦船を増やす事は出来るだろうが、なにより乗員が足りていない。おそらく『晴嵐型』に縛りをかけたとしても千人単位で不足するのだ。
今の促成システムを使っても数年かかるだろう。それでは、このペースをさらに加速させるだろう無人艦攻撃に対抗できるとは到底思えない。
「なにか、良い考えがあればいいのだけれど」
俺もそう思う。攻撃する側は『宙雷』同様、ばら撒けばいいのだが、その攻撃を受ける側からすれば、排除し続けるために相当の労力を割かねばならないのは自明だ。被害が出れば政府も宙軍も大いに叩かれるであろうし、物流を担う宙運業界も大きく圧力をかけてくるだろう。
どうせやるなら、被害が出てブッ叩かれる前に手を打たねばならない。
「いくつか手はあるの」
「……あんのかよ……」
一つは、退役したベテランの起用。これには二つのルートがあるんだそうだ。
「民間軍事会社……要は警備会社を設立して、政府から請け負う形ね」
民間軍事会社というのは、今のニッポンにはないが、USAの辺境宙域などではUSA宙軍が進出していない場合、武装勢力(非合法組織や反政府勢力など)から星系を守る請負企業が存在する。星系のボディーガードのような存在だと思えばいいだろう。もしくは、SPのような警護要員だ。
金さえ見合えば即座に派兵してくれる組織であるから、巨大官僚組織である宙軍より小回りが利くし、その分、USAに支払う税も少なくて済む。USAの辺境はその辺り自立している存在であると言えるだろう。
四星系しかないニッポンには不要であるのだが、状況が違う。
「メリットは何だ?」
「契約内での防衛義務になるから、軍のような絶対的命令を受けなくて済むようになるわね」
例えば、今回の巡洋戦艦並の主砲を持つ戦闘艦が相手であるなら、おそらく警備会社の対応できる範囲を超え『免責』となり、早々に撤退することになる。あとの対応は、情報提供だけして宙軍に任せればいい。
これが、軍の艦隊なら一当たりもしないで撤退というのは言い訳が立たない可能性がある。その後、民間船にでも被害が出れば大問題になるだろう。軍法会議的懲罰もあり得る。が、民間警備会社にはそこまでの強制される義務は起こらないだろう。
これが、徴用されてしまえばまた異なるだろうが、予備役から現役復帰させられるよりは選択肢があるし、強度も低くなる。
「退役した人って……」
「出産のために退役し、その後、子育てが一段落したので再就職を考えている方達が私の考えるメインターゲット層よ」
なるほどな。これが、アンチエイジングしているとはいえ、男性の場合は退役年齢まで現役を若い肉体のまま続けるという選択をしているものが少なくない。見た目三十代の還暦おじさんも珍しくない。
しかしながら、女性の場合は四十代で宙佐あたりで退役し、結婚・出産・子育てをしながら後方勤務や軍属として再就職している人たちも少なくない。
「今までだと、艦隊勤務は無理なのよね」
「……民間会社ならその辺り融通を利かせられるから、ということか」
「ええ。定年退職後の再雇用という選択肢もあり得るわ」
そうなんだよな……宙軍にも定年はあるし、定年になる数年前には戦闘艦を下りることになる場合が多い。将官でない人は殆ど陸上勤務となるし、艦隊司令艦でもなければ、惑星・要塞上で施設の責任者となる事が少なくない。
でもさ、やっぱ最後まで戦闘艦に乗りたいってのはあるはずなんだよな。
「戦隊程度の指揮経験ならお持ちの方も相当数いるはずですもの」
「船頭多くして船山を登るってなるかも知れねぇぞ」
「そこは、年次と卒業席次で序列をつけるしかないでしょうね」
え、定年してもかよ……そこは経歴でいいんじゃないでしょうか。
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