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066 偽装砲台の捜索―――『攻撃輸送艦その弐』(完)

誤字訂正・ブクマ・評価・いいねをありがとうございます!



『し、司令……』


 航宙士が動揺する。聞こえてきたのは宙国語と思わしき言葉。しかし、生きている人間とは限らない。


 宙華製アンドロイド、もしくは、タイペイ星系に輸出された宙国向けのアンドロイドかもしれない。


『おい、両手を上げてゆっくり姿を見せろ』

『我不知道是什麼』


 は? わからねぇよ。


『翻訳ぶち込むわよ』


 優秀なAI副官が、自動翻訳してくれるらしい。ありがてえ。


『何、判らない』

『……ああ、これでわかるか?』

『わ、わかります。あなた方は……』

『察しているだろうが、この艦が攻撃したニッポン宙軍の者だ。で、あんた、人間かロボットかどっちだ?』


 白い全身タイツ(硬質)を着た女性のような外観のそれは、ガチッと音がしそうなほど動きが急停止する。


『わ、わたしは……ロボットです……タイペイで製造された商船機関員の補助要員アンドロイドです』


 俺は無言で近寄り、右ひじから先をレーザーブレードで斬り飛ばす。


『な、何をするんですかぁぁぁぁ』

『事実確認だ。人間なら良からぬことを考えているだろうし、アンドロイドなら、片腕が無くなったくらいじゃ問題ない。手足斬り落とした方が安全なくらいだ』

『やめてあげなさい。そうね……爆発物や機能はなさそうね。多分、普通に無人艦の機関員として送り込まれたアンドロイドなんじゃないかしら』


 パワードスーツのセンサー類、X線透視装置なんかを勝手に操作して、副官が安全確認をしていたようだ。


『他のアンドロイドか乗員はいないのか』

『……ここには私しかいません』


「ここには」という言葉が気に掛かる。じゃあ、どこに他の奴らはいるんだよと。


『この艦にアンドロイドは何体、人間の乗員は何人いた』


 これなら、漏れないだろう。運航に関しては別のアンドロイドの担当であり、兵装関係の動力担当であったこいつは、戦闘開始前に現場に移動していたため単独生き残ったという事らしい。


『反応炉のあった後部の船体に私を含めて六体のアンドロイドが配置されていました。人間は乗っていません』

『間違いないな』

『ありません』


 まあそうだよな。片道特攻確定の任務で、尚且つ何日作戦行動に必要なのかわからないのだから、生身の人間がいればネックになるだろう。実際、こんな場所に潜んでいたら、俺達みたいなもの好きが捜索しない限り、年単位で潜伏できていた可能性がある。


 砲墳兵器であれば、使用による消耗が無ければ十年単位で状態を維持できるだろうし、トラブルがあった場合はアンドロイドがある程度保守整備して戦力を維持するということだったのだろう。


 これなら、男気JDで機雷のようにニッポン宙域に無人砲艦をばら撒いても年単位で攻撃可能となるだろう。軽巡洋艦クラスの主砲を持つ無人武装商船型浮砲台を大量に送り込まれたとしたら、各星系は居住惑星に閉じ込められてしまう可能性が高い。


 その上で、HDゲートを占拠し自軍の支配下におさめてしまえば、戦力を容易に送り込むことができるようになるだろう。先ずは、ツシマ、そしてキュウシュウという感じで支配域を拡大することも容易だろう。


『この場で破壊されるのと、軍の技術者に解体されてデータを抜かれるの、どっちがいい?』

『……ちょっと!! アンドロイドにも限定的な人権が認められているのよ。

その言い方、問題あるわね』


 あー そうするとこいつどうなるんだ? こんな状況想定してなかった。

普通に捕虜扱いでいいのか。


『悪い、先ずは名前からだ。俺は、ニッポン宙軍、アキト・ツユキ。で、お前の名前は?』

『ヌゥワと申します』


 ヌゥワか……日本語だと発音しにくいのは元が宙華発音だからだろうな。


『では、ヌゥワに聞く。投降する意思はあるか』

『既に本艦は戦闘力を失っており、また上官も戦死しているようです。私の判断で投降し、本艦をニッポン宙軍に明け渡す事に同意します』


 なるほど、アンドロイド士官相当ということなんだろうな。先任の士官が全滅した結果、繰上りで艦の指揮を執る立場であると判断し、投降するということか。


『カスミ、これで問題ないか?』

『そうね、降伏を認め、身柄を保護しなさい』

『だそうだ。頼む』

『ですよねー 俺の仕事です』


 工作用のワイヤーで上半身を拘束、足も必要以上に開けないようにワイヤーで括る。牽引していけばいい事だから問題ない。


『暴れると、手足全部切り落とすからね。予告したぞ』

『降伏したからには、無駄な抵抗はしません。ご安心を』


 もしかすると、降伏した場合、アンドロイドの支配権も移譲されるのかもしれないな。なら、ニッポン宙軍所属って事になるのだろうか。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 ヌゥアはツルっとした外見をしているので、人型なんだが人間味はない。全然ない。声は可愛いんだけどな。


『ヌゥアはどこで生まれた……製造されたかとかわかるか』

『タイペイのUTMC製です』


 UTMCは比較的廉価で高性能な船舶用民生アンドロイドを供給していたメーカーだ。ニッポンでも中小民間宇宙船では載せていることもあるが、公共用としては扱う事はない。また、載せている艦船は大手のネットワークから排除されるのは、情報安全保障上当然と言えるだろう。


 USAも似た環境で、禁止はしないがネットワークからはじき出される。非関税障壁だと文句を付けて来る事もあったが、『経済ではなく安全保障上の問題だ』と一蹴していた記憶がある。


 ニッポンはその後追いだ。USAとの取引が全く関係ない独立系の宇宙船乗りだけが使用しているようだ。こっそりと。


 アンドロイドは人間同様、アンドロイド用の戸籍が作成され、管理されている。納税の義務はないが、使用責任者は保護管理責任を有する。つまり、『アンドロイドが勝手にやりました』という言い訳は使えない。


『どうすんだろうな』

『どうなるんでしょうか?』


 三人……二人と一基の間で考えても仕方がない。


『まず、艦隊の情報部と技術将校による聞き取り、情報抽出があるだろう。その後、ホンシュウ星系のどこかに移送され、更に詳しい調査にさらされる。最後は……どんなアンドロイドとなっているか仕様次第だな』


 脳だけとなっても、ニッポン人はニッポン人だ。その人権は守らねばならない。しかし、目の前のアンドロイドは宙華製アンドロイドであり、なおかつ人権も限定的だ。もっと言えば、正規軍兵士ではなく、非正規戦闘用の浮砲台に配置され、後方攪乱を行っていたとするなら、ゲリラ兵かテロリスト扱いで処分されても文句は言えないだろう。


 つまり、部品取り用となる可能性がそれなりに高い。


『……そうですか……』

『ニッポンでもな、扱いに困るだろうな。突然暴走したり、何か利敵行為に繋がるプログラムが隠されているかもしれないとするなら、困るだろ?』

『それは……そうです……』


 人間とAI人格の間の権利の問題は、UC時代になってますます難しい判断を迫られるようになっている。人間扱いなら、便意兵は問答無用で処刑で構わないだろうが、情報源としては生かしておきたいんだろうなと思う。


 人間より内部情報の閲覧は機械ゆえに簡単な面もあるだろう。兎に角、宙華宙域の情報が無いに等しいニッポン宙軍・政府からすれば、生かして活用するという判断になる。


『いきなり分解はされないと思うぞ』

『腕をぶった切った司令に言われても、信ぴょう性ないっすよ』

『ですよねー』

『ふふ、信じます。信じないと、成り立ちませんから』


 話の前提として、滅しないことがあってのこの先の展開だもんな。まあ、人間ぽい奴でおかしなプログラムがなければ、新しい体で再出発って可能性もあるよな。AI人格をニッポン製アンドロイドの義体に換装してしまえば、問題の半分は処理できるだろう。残り半分? そこは信じるしか無いんじゃないの。





 俺達は、『知床』の到着をまってPFSでそのままヌゥワを旗艦へと移送することにした。爆発しても問題ないように、航宙機用の格納庫へと降ろす。ここは、航宙機が爆発しても船体に被害が及ばないよう工夫された施設だからだな。


『せんぱい、お疲れ様です』

「……なんで、そんなパワードスーツでお出迎えなんだよお前」

『いえいえ、これは宙華さんの調査用です。別に、ビビってるわけじゃありません。調査するのに、これの方が便利なんですぅ』


 そうですか。情報部用のパワードスーツはあまり見かけない。大概、マッチョスーツである装甲強化服が多いんだが。


『爆発耐性が弱いんですよ』

「やっぱビビってるだろお前!!」


 とはいえマッチョスーツは潜入用で、作業性能はやや低い。勿論、耐爆性能だって低い。なので、こういう選択なんだろう。


「爆発物は検出されなかったがな」

『爆発物でなくても、バッテリーの暴走なんかを利用した自爆システムもありますからね。油断は禁物です』


 水素吸収剤なんかだろうか。確かに、水素燃料の導入期には不具合による爆発事故が起こったらしい……とある地域に集中して。ニッポンは導入こそ時間がかかったが、そういったトラブルは商品化されたものに関しては皆無だったとおもう。


 安全に対する考え方の違いだろう。途上国か先進国かの違いと言ってもいい。人の命が安ければ、安全度外視でもコストにならないってことかもな。人権の考え方の違いで、『USA』『ルーシ』『ヒンドゥ』『宙華』そして『ニッポン』と別れているとさえいえる。


 この辺り、文化やその根底にある宗教観の差といったところに起因するかもしれない。ヒンドゥはニッポンの神道に似た多神教だが、仏教にアレンジされた祖先崇拝や自然崇拝の要素が少ない。未だに、カースト制度が残っている国であるから、その辺も全く違う。


 ルーシと宙華は一度、コミュニストによる政権がニ三世代続いたこともあり、それ以前とそれ以後では少々変わってしまったが、どちらも農奴制の影響の残る政治体制であるといえるだろうか。


 なので、その辺りも相容れない価値観の相違であるのかもしれない。


 アンドロイドの『ヌゥア』が容易に投降し、とくに反逆していないこともその辺りに理由がある気がする。ニッポン人は粘り強く最後まで戦うとされているが、宙華の場合、限界を越えた時に容易に『転ぶ』要は寝返ることが少なくない。風向きを読むというか、無駄な抵抗をしないというか、そういう要素がある気がする。


 ニッポン製のアンドロイドであれば、抵抗不可能の状態で捕縛されそうになれば、メインプログラムの消去くらい十分させる。これは、艦船のAI副官も同じだ。内部の情報を敵国に知らせないよう、情報を消去し破壊するように設定されている。


『うーん、プログラム的には問題ないようです。もしかすると、たいした情報は知らされていないのかもですね』

「そうか。なら、連れて行ってくれ。ヌゥア、元気でな」

『……お世話になりました。お元気で』


 今のところ、この艦隊にアンドロイドの部隊は配属されていないのだが、損耗が激しくなれば、一部の作業……例えば船内捜索や船体の補修工事などをアンドロイド兵に行わせるようになるかもしれないな。コストの問題ではなく、育成の問題としてアンドロイドなら促成が可能だからな。




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