065 偽装砲台の捜索―――『攻撃輸送艦その弐』(参)
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操作パネルに接続したパワードスーツwith航宙士が、データを『雪嵐』へと転送しつつ、さらっと内容を確認している。優秀で何より。
『……ヴィラト型の二番艦ヴィクラントですね。この区画は』
想定通りだな。宙華艦とは違う、そこはかとないルーシ臭。なんだがパーツが無駄にデカい気がする。手の大きさの問題? ニッポン人と比べると、大体不器用だよなあいつら。日本人の平均以下でも世界標準では器用に入るらしい。
ヴィラト型は航宙母艦ベースの巡洋戦艦なんだが、同型艦というよりも同じコンセプトで様々な国の航宙母艦を買取して類似の武装を施した艦船と言えるだろう。なので、ヴィクラントはベースがルーシ連邦の航宙母艦であったはずだ。
『武装は……ヤバ目ですね』
だろうな。本来なら、十数門の強化陽電子砲と、数十の陽電子砲、それに倍する対宙パルス砲も装備しているはずなのだ。それが、先ほどの発砲からすると、強化陽電子砲で稼働していたのは二門、パルスレーザーで一群八基程度であっただろう。それでも、95式宙雷の半数は撃破したのだから、相当の威力だったはずだ。
なら、本来なら百を越える宙雷の一斉攻撃も無傷で回避できるってこと?巡洋戦艦ヤバ!! 戦艦はもっとなんだけどね。
「吹き飛ばした商船区画のデーターは引き出せないか?」
『俺の能力とパワードスーツの機能ではそこまで特定できません。回収して情報部に分析させましょうよ。守備範囲外ですよ』
「それはそうだな。よし」
一先ず、AI副官経由で『知床』のナカイに、状況報告を行う。それに、この艦のどこからどこまでを回収するのかは俺の判断ではできないと思う。廃艦とはいえ、一応巡洋戦艦の生モノだ。技術工廠は勿論、艦隊派の連中も、廃艦となったとはいえ、ヒンドゥ連邦の主力艦の能力を推し量る
一端としたいだろう。
その技術が宙華に流出している可能性というのも懸念されている。ヒンドゥ連邦は、USA・ニッポンから中古の艦船を購入し自軍の装備としている。ヴィラト型なんかは、その典型だ。また、新造艦をルーシから購入したり、整備性・価格の安いルーシの陽電子砲・宙雷に中古艦の装備を更新している事も少なくない。
なので、USA系の中古艦の船体に、ルーシ製・ルーシ設計の自国製武装を搭載している事が多い。無骨なルーシ製の装備を流離な外観のUSA製中古戦闘艦に搭載すると、チグハグ感が大きい気がする。バランス悪いところが、味だったりするんだが。
『司令、必要なデータの転送終わりました』
「なら、この区画は一旦退去するか」
破壊された後方の商船区画に行くか、それとも、主砲区画へ移動するか。折角だから、ルーシ製の陽電子砲を見ておきたい。おそらく、宙華艦もUSAのものではなく、純正の保守部品の入手が容易なルーシ製を装備している可能性が高い。
あの、回収した装甲巡洋艦と同様な陽電子砲であれば、宙華艦の能力をルーシの巡洋戦艦から確認できるかもしれない。清朝皇帝シリーズの戦艦の能力査定の良い資料になるだろうからな。
『この後、どうするのかってナカイ司令から報告の要請よ』
不意に、『雪嵐』のAI副官から連絡が入る。
「経緯はそっちで説明しておいてくれ。艦橋を出て、主砲の区画へ移動する。情報収集の為だ」
『必要ないんじゃない? どの道『知床』で回収する予定なんだから』
それはそうだが、実際回収できるかどうかわからねぇじゃん。途中で爆砕する可能性だってある。自爆装置が付いていたりとかだな。
「あー」
『何ですか司令』
「いや、先に、商船の破壊されたであろう反応炉を確認しておこう」
『……了解です……』
不本意だろ、俺もだよ。けど、回収しに接近してきた『知床』が、この船の反応炉の爆発に巻き込まれたりしたら嫌だろ? この浮砲台が発見し、撃破された場合、最後に反応炉を暴走爆発させて、回収した艦隊諸共消し去る威力を発生させるのではないかと思うんだよ。
ただ、口にすれば不安を周囲にまき散らしかねない。このまま、商船の反応炉からの取り回しが、どのように使われ、そして今となっては途絶しているのかってところだな。
艦全体のセキュリティが途絶している状態なら、何の抑制する余地もなく反応炉の暴走からの爆発で、攻撃してきた艦隊の艦船を巻込んだ自爆を起す事が容易であると言える。
何もないのが一番なんだが、念のために反応炉の状態を確認しておくことにした。
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半ば解放空間となっている商船区画であった場所なのだが、反応炉自体は稼働しているようで、そこから巡洋戦艦区画に動力を供給しているパイプかケーブルが断たれている結果、主砲や対宙パルス砲が沈黙したままであると思われる。
『大丈夫ですかね』
運が悪けりゃ死ぬだけだ。幸い、パワードスーツなら、普通の宇宙服より放射線や爆発による熱には耐えられる可能性がある。とはいえ、この距離なら絶対無理だろ。突然爆発するとしたら、故意に破壊するような仕掛けが為されていたらという場合だろう。
反応炉の自爆暴走などというのは、自沈処理の一つであり、死なば諸共的な行為だと言える。無人艦でそれはないだろうとたかを括る。
『反応炉、問題なさそう?』
「これから確認だ。そっちはどうだ」
AI副官からの連絡。お前はかあちゃんか、いや実の母親より余程面倒見が
いいんだが。
『機関の到着まで六時間といったところね。周辺にトラップのようなモノや、
他の不審船が無いかどうかは無人機含めて警戒させているわ。今のところ
異常なしね』
「了解。反応炉の安全確認をしたら、前部砲塔群を確認しに行く。
恐らく、ルーシ製の装備だろうが、破損事故が無いとも限らないから、
今の状態で映像記録を残しておこうと思う」
『リアルタイムでバックアップするから、リレー状態にしておいて』
「わかった」
何か異常があれば、こっちのパワードスーツの操作をハッキングしてでも
対応する気なんだろうな、我が副官殿は。正直、ありがたい事だ。
反応炉はUSA製だと思われる。型が古いので、詳細は情報部で調べてもらうしかないだろう。ヴィクラントがどのような改装を受けたかは、ヒンドゥが開示しないだろうから推測になるだろうし、そもそも、この商船の反応炉が何処から来たのか特定するのも難しい。
ニッポン製であれば、多少は可能だろうが、それでも正規の中古宇宙船に搭載されていたものが、その艦船の損失か処分の後、反応炉がどこか別に用いられたか、そのまま処分船の一部としてこの巡洋戦艦の動力源に転用されたかは、改造した人間でなければ判断できないだろう。
これまでも、これからも中古宇宙船がヒンドゥ連邦に持ち込まれる事は続くだろうし、廃棄処分された宇宙船がその後、どこかの解体業者の手を経て宙華に流れていくことも阻止できないだろう。
まともに解体して得られる金銭より、そのまま宙華に転売する方が幾倍も儲かるのだから、止めることは難しいだろう。処分業者は、その辺りも見込んで高く買い取るであろうし、高く買い取る業者が競争入札で負ける理由がない。
解体に関してはある程度追跡確認は行っているが、それが反応炉の撤去と処分までとなれば、武装は下げ渡し時に撤去されているので、躯体だけがどこかへ流れて行ったとしても、そこまで面倒見切れないと言えばいいだろうか。
『司令、前部砲塔群ですよね。外から回った方が早くないですか』
「いや、通路の途中に何か参考になるようなものがあるかも知れない。
放棄された作業機器とか、無人操縦を行った機械とかだな」
『ドロイドが操船していた可能性もありますもんね』
ドロイド、もしくはアンドロイド。思考力を持つ自立型AIを頭脳とする人型若しくは半人型のロボットのことだ。大型戦闘艦や一部の上級司令部においては、アンドロイドの副官を用いていることもある。また、生身の人間では困難なダメコンの作業用にアンドロイドを配備している場合もある。
巡洋戦艦であれば、ニッポン宙軍の基準からして相応の数のアンドロイドを装備していてもおかしくない。人型であるメリットは、整備関係を作業を人間と同じ手順で行えるからという事がある。装具を内蔵している作業腕などを装備していれば、身一つで修理作業を行える存在だ。
生身の人間の場合、戦闘中に外殻近くの兵装などに配置しておけば命中時に即死といった可能性も少なくない。現在では、そういった場所にはまずアンドロイドが配置され、戦闘中のフォローを行っている。
『晴嵐型』? そんなものは積んでないよ! だからモジュール化しているわけだ。アンドロイドを載せておいて修繕しながら長期戦闘を行うか、母艦に帰投し、モジュールごともしくは船体ごと差し替えるかの違いだな。
後部のヤドカリ宿区画から下のフロアに降り、そのまま、先ほどの艦橋があった通路よりも右側中央に近い通路を移動する。艦橋の反対側は乗員区画であるようだ。宙母からすると、中央の全通甲板に航宙機を格納する関係で、中央を空洞にしている事が少なくない。その位置に乗員区画を設け、その上部に兵装区画を載せたという感じだろうか。
一旦降りて、進んだのち上のフロアに上がるという感じで移動することになる。
『司令、推進剤あんまり使わない方がいいですよね』
「まあな。床蹴って加速した方がいいだろうな」
『了解です! なんか楽しくなってきます!!』
パワードスーツで船内通路をスキップしている感じで移動する。シュールだが、中の人間は結構楽しいんだよ。
浮かれた気分にちょっと反省しながらも、俺達は砲塔群のフロアへと到着した。巨大な構造物の塊に見えるのだが、ところどころやっつけ仕事としか思えない不細工な構造物が見て取れる。
『ニッポンのそれと比べると相当……雑ですね』
「機能が足りていれば、余計な手間はかけないって感じだろうな」
ニッポンは職人気質を感じる機能美であるし、USAは無駄に精緻であり、手間暇かけて金掛けてという仕様である。ニッポンの艦艇を見て、開発関係者が嘆く事が良くあるらしい。ニッポン人の「ワイガヤ」気質は良い方向で兵器開発に生かされている。ナチュラル・ブレスト民族の面目というところだろうか。わざわざ構えなくったって、横断的な思考をしてしまうのが日本人って感じだよな。
ルーシ製がベースとなっているだろうヒンドゥの砲兵装群は、あえて部品を小型化したり複合機能を持たせない事で、大きくなったものの、メンテナンスや耐久性、抗甚性を持たせているように見て取れる。
どこが壊れたかわからないから丸ごと交換とかしないで、個別にメンテナンス出来るようにしている感じだな。一つ壊れれば、時間を置かずに次々部品が寿命を迎えるから、アッセン交換という方法論をとるか、敢えて壊れやすい場所を作ってダンパーにするかは設計思想の問題でもある。
金持ちならアッセン、手間暇かけて金掛けないなら後者ということだろう。
『ルーシの純正かコピーかまではわかりませんが、そっち系というのは分かりますね』
『大体ね。これも転送しておくわね』
「頼む」
AI副官は、俺達の見ている映像を記録し、『知床』へと転送している。
『そんなことより、あの奥のドロイド、確認しなさい』
「……いるな」
『いますね……』
ニッポン人の成人女性ほどの身長……160cmほどだろうか、簡易宇宙服のような外装をもつそれは、人間に似た姿形をしているが、ギクシャクしている。
『アシモ君だ!』
なんで、そんな古典的ロボットの遺物の名前が出てくるんだよ!!
しかしそれは、おかしな動きをしている。そうだな、暴漢に襲われそうになっている若い女性のようなイメージだ。
『Jiù jiù wǒ, bié shā wǒ……救救我,別殺我 !!』
おう、漢字だと何となく理解できるな。
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