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064 偽装砲台の捜索―――『攻撃輸送艦その弐』(弐)

誤字訂正・ブクマ・評価・いいねをありがとうございます!



「こちら、『雪嵐』戦隊司令ツユキ。旗艦『知床』に報告。我、巡洋戦艦型浮砲台と交戦中。艦種ヒンドゥ連邦『ヴィラト型』と推定。主砲による遠距離砲撃を受けている」


 報連相は交戦中でも大事。


『……こちら……『知床』……交戦……』


 あー さっきの交戦でエネルギーの干渉が出てるのかもしれねぇな。まあ、いいや。この後の報告は事後でお願いします。


『ひぃぃぃ』

『だまりなさい!!』

『……』


 いや、俺も心の中で「ひぃぃぃ」ってなってるから。恐らく、『清霜』の艦橋でも艦長以下全員そうだから。そのくらい戦艦の主砲の威力はすさまじい。俺も、シミュレーターで散々経験していなかったら完全に戦意喪失しているな。消えちゃうぞーって感じだもんな桐原君。


「93式宙雷、各艦二発を発射。宙雷に紛れて、本艦と清霜は接近する」

『清霜了解』

『『了解ですぅ』』


 93式宙雷は無人機ほどもある大型の対艦宙雷。要塞攻撃にも使用される威力と射程を有している。そして、出来れば囮になって攻撃を引き受けてもらいたい(希望的観測)。


『また、反応炉自爆攻撃すればよかったかしら?』

「いや、あの時ほど絶望的じゃないし、あんまりやると、報告書が大変だ」


 AI副官の提案、一瞬俺も考えたが、そこまでの相手じゃない。あの時は旧式とはいえ戦艦二隻に巡洋艦が八隻。今回はなんちゃって巡洋戦艦一隻だ。やれるだろ?


 後方から『朝凪』『夕凪』から放たれた93式宙雷が擦り抜けて前方へと進んでいく。


「無人機、宙雷発射します」


 半包囲の体勢から、一斉に各四発の宙雷が放たれる。三十発を越える宙雷が宙母改装巡洋戦艦へと進んでいく。散発的な対宙パルスの発射、小さな爆発が見て取れる。が、そのすべてを落とす事ができるようには思えない。


 一発、また一発と十を越える95式宙雷が命中する。


 しかし、93式の三割程度の破壊力しかない95式は、耐久性と防御力のある船体に致命的なダメージを与えるには至らない。


『敵艦発砲!!』


 俺達の発射した四発の93式宙雷のうち二発が巡洋戦艦の主砲の射撃で消し飛ぶ。が、未だ二発が残存、その後さらに四発が接近していく。


 主砲の発射間隔は数分程度かかっている。


『へんなもの背負ってるわね、あの船』


 無人機から転送されてきた画像には、巡洋戦艦らしき船体の後ろ半分がヤドカリの背負った巻貝の殻のような姿で塊を背負っているのが見て取れる。ヤドカリって、けっこう人工物でも自分の宿にするワイルドな生き物だよな。


 おそらく、商船の反応炉区画を取り込んだものだろう。


「『朝凪』光学照準で巡洋戦艦後方の塊、狙えるか?」


 巡洋艦レベルの『雪嵐』に搭載している光学照準器より、『朝凪』に積んでいる【光学熱源観測・照準モジュール】の解像度の方が格段に高い。


『こちら朝凪、あの不格好な後ろの塊ですよね。捉えられます』

「なら、『夕凪』にデータとリンクして強化陽電子砲で吹き飛ばしてくれ」

『朝凪了解しました』

『夕凪、射撃準備完了次第発砲します』


 数秒後、後方から光の槍が前方のヤドカリの親玉に向け撃ち放たれていく。


『難しいわね』

「距離あるし、あっちも多少回避運動しているからな」


 93式宙雷の着弾タイミングに合わせて、第二射を行うように『夕凪』へ伝達。そろそろだ。





 六発93式宙雷のうち、対宙パルスで二発が撃破、さらに、土壇場で主砲を発砲され、三発が消し飛ぶ。


『一発だけね』

「十分だ」

「『夕凪』、第二射発射されます!!」


 着弾のタイミングに合わせるように、夕凪の二射目が発砲され、宙雷が前部の砲塔群あたりに命中、そして、『夕凪』の主砲は爆発で船体が横を向いたタイミングで、見事ヤドカリの宿を吹き飛ばす事に成功した。


『やっぱ、後付けの宿にはシールドが張れなかったみたいね』


 こんな事もあろうかと準備できているはずもない。巡洋戦艦部分の防御は問題なかったとしても、後付け部分は手が回っていないと想定して間違いが無かったってことだな。


「『夕凪』は主砲発砲を中止。『朝凪』は巡洋戦艦からの反撃を確認してから応射のデータを送れ」

『『了解ですぅ』』


『雪嵐』と『清霜』はそのまま接近しつつ、巡洋戦艦の側面へ回り込むように移動する。敵艦の軸線上にいては、まぐれの一撃で消し炭にされかねない。


「艦長、乗り込む気ですか?」

「……まあな……お前も付き合え」

「了解っす」


 俺とパワードスーツ仲間の航宙士が声を上げる。『雪嵐』でサキシマ警戒隊から行動を共にしている古参のメンバーだ。軽巡に乗り込んだ時も付き合わせた気がする。


 流石に、『雪嵐』『浜嵐』は戦隊司令が指揮を執る前提で、あまり新人を入れていないので、こういう時に無理が効く。新人ばかりで敵船の船内捜索なんてできやしないし、ベテラン連れて船内捜索している間、指揮する艦の副長がド素人というわけにもいかない。何かあればAI副官が具体的な指示を出せるとしても、人間の士官が指示を形式上出さないとよろしくない。


 古典的SF作品に登場する電脳空間的自律思考型AI搭載多脚戦車のように、全体が一となり、一つが全体となるような思考の融合とかなされるのはあまりよろしくない。


 そもそも、『晴嵐型』では一ユニットのAI副官が全ての艦の制御を『補佐』しているが、他の艦船では少なくとも『戦術』『航宙』『情報通信』『機関』の複数のAI副官が存在し、各科毎に独立している。なのでAIによる戦闘艦の乗っ取りや反乱などは起こらないように『内務』により制御されているらしい。


 らしい……というのは、俺は他のタイプの艦船で科長以上を務めていないので、AI副官がどんな感じなのかよくわからないからだな。


 言い換えれば、最少人数四名の人員と、一つのAI副官がいれば成立する戦闘艦である『晴嵐型』は、AIの思考が進化し人間的な存在になった場合、人間に対して従わなくなる可能性がある。いや、カスミあたりは、従わねぇんじゃねぇの、現時点でさ。


――― AI副官との信頼関係構築の重要性ってマストだと思うんだよね。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★





 接近してからの、備砲単装陽電子砲を用いて『雪嵐』『清霜』の二隻で攻撃を行うが、反応はない。おそらく、商船区画の反応炉からの動力が喪失し、巡洋戦艦部への伝達ができなくなっているからだろうと推測。


『油断できないわよ』

「消えちゃうからな」


 近距離から巡洋戦艦の主砲を受けたなら、一瞬で宇宙塵に変換されるだろうな。ヤバ目にヤバい。


「『清霜』は後背に回り込んで確認。ヤドカリの宿を良くチェックしてくれ」

『清霜了解』


 僚艦に周囲の警戒を委ね、『雪嵐』は巡洋戦艦へと接舷を試みる。破壊された商船の外装などが多く散乱しているので、パワードスーツで空間を横切るのはちょっと難しいからだな。




 パワードスーツ二機が『雪嵐』を離れ、目の前の巡洋戦艦に取り付く。巡洋戦艦の亡骸くらいが正しい表現だと思うが。


 円形もしくはテルテル坊主のような形をした戦艦と比べ、巡洋戦艦はタケノコもしくは椎の実のような形をしている。戦艦の砲は半円を描くように配置されているが、巡洋戦艦は正面により集約される。これが、艦種が小型になるにつれ正面だけに集中するような形状へと変化していくことになる。


 船体に埋め込むように正面を主砲が向いているというのが多い形状だ。ショボい備砲とはいえ、三基の単装陽電子砲が自在に旋回させることができる『晴嵐型』が少々特殊であると言えるかもしれない。


 なんなら、至近距離から今でも狙っているんだが、撃ったら俺達が危険なのでやめてもらいたい。あくまでもポーズであって欲しい。


『何かあったらすぐ連絡するのよ』


 お前は俺の母ちゃんかと言いたくなるのだが、実の母よりよっぽど長い時間接しているので、既に母親なのかもしれない。AI母カスミ。口うるさいのは母親であって、妻とか恋人じゃないよね。


 まずは、艦橋らしき部分へと突入。適当な開口部から内部へと侵入。どうやら、巡洋戦艦自体は兵装類以外稼働状態には無いらしい。無人艦だから当然と言えば当然だろうか。


『司令、この先どうするんですか』

「先ずは艦橋を確認か。構造的には……」

『ヴィラト型の簡易艦内図送るわよ』


 AI副官から、簡略的なものだが艦内見取り図が転送されてきた。『知床』より当然デカい……が『飛竜』くらいの大きさだろうか。元が『航宙母艦』であるから、艦橋位置がちょっと独特なので、案内図があってよかったと安心する。


 大概、上部にあるんだが、『ヴィラト型』は艦の中央左端に存在する。正面からの攻撃のダメージは上部中央と変わらないだろうが、右舷側がまるで死角になるのはいいんだろうか。上部にあれば下部が全部死角になるんだから、あまり気にするべきじゃないかもしれないな。





 適当な開口部から、艦橋の位置はさほど遠くなかったのでホッとする。今回は、情報将校も技術将校もいないので、パワードスーツの機能と、カスミの持つ情報だけでやり繰りしなきゃならない。今までデブ任せであった事を考えると、ちょっと反省したりする……わけもなく、なんとかなるだろうと確信する。


 えっ、AI副官は万能ですから!!


 もう、実家の母親並みに万能。えー うちの母親はそうでもないから、あまり大きなことは言えない。主婦が家事苦手じゃダメなんですかぁ!!とか言われちゃうからね。人には得手不得手があるんだよ諸君。そういえば、うちの母親の得意な事ってなんかあったっけな……昼寝とか? 好きなことだよなそれ。


 エレベーターが死んでるから、階段で登っていく……わけもなく、エレベーターシャフトに入り込み、内部をよじ登る……というか、無重力なので進むだけだな。


 扉をこじ開け、通路を進むとそこはどうやら『ヴィラト型』巡洋戦艦の艦橋のようだ。これまた、ドアを強引に開けると、やはり人らしき存在は見て取ることができない。


「メインの操作パネルを探そう」

『了解っす』


 パワードスーツの動力源を使えば、内部の情報を確認する程度の機能回復を行う事はできるだろう。


『パネル発見しました。電力復旧させてみます』


 ヒンドゥ連邦の戦闘艦は様々な国の艦船を組み合わせて作られていることもあり、基本的にセキュリティが緩い。宙国もそれに近いので、比較的簡単に艦に残された情報を回収できるだろう。


 はよ帰りたい。



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