063 偽装砲台の捜索―――『攻撃輸送艦その弐』(壱)
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『偽装砲台と不審船に関する警備哨戒計画』という、なんとも言えない名前の作戦がスタートした。
ガワとして使われた艦船がヒンドゥ連邦で既に退役後解体処分された防護巡洋艦『ラジプト型』の一隻ではないかと特定される。ヒンドゥ連邦に問い合わせという形での対応になるだろうが、既に退役解体処分となっていた艦船がニッポン宙域に現れたのは何故かという話になる。
四隻での行動となるが、今回は安全な距離をとり、旗艦『知床』も同行。長期の作戦を想定しているからだ。いちいちサセボ迄戻る時間がもったいない。今は、艦隊司令官閣下とモニター越しに打ち合わせ中だ。
『推測でしかないのではあるのでけれど』
ナカイと第二機動艦隊司令部の間での想定は、解体時に反応炉の処分を確認するため、それは取り外された状態で解体業者に引き渡されたのだと考えられる。その上で、解体せず宙国のスクラップ業者に売却。
反応炉以外の装備をそのままに『浮砲台』として利用しようと計画したのではないかというのだ。
「で、移動のためにセコハン宇宙船に積み込んで、砲撃だけ使用できるように船体をマウントしたというわけか。これなら、自分の反応炉がなくても移動できるし、一見、普通の不審船だもんな」
『ええ。廃棄され解体されずに浮砲台化したもの、もしくは、その砲塔群と管制設備部分を切り出して浮砲台としたものがいくつか持ち込まれるのではないかとう想定ね』
おまけに、その制御に人間の『脳』が使われていたりしたら嫌だな。とはいえ、脳を保存するには船が休眠状態では困難だろう。なら、それは考慮しなくても良いかもしれない。
「統制していたのは、普通のAIだったのか?」
『二世代ほど古いAIだと分析されているわ。枯れた技術を用いた方が、長期の放置にも耐えられるという判断ではないかしら』
あんまり疑似人格を与えすぎるのもどうかと思うしね。命じられたことを機械的に適切に行うのであれば、それで十分かもしれない。悪くないよね。
結論として、四隻での警備哨戒活動を継続。一月ほどかけて、星系の辺縁部を重点的に探ってもらいたいとのこと。その際に、無人機をピケットラインとして運用していくので、無人機散布を増やしてほしいというサセボの幹部の意向を受けた。
結果として、『雪嵐』を三胴船にして、そのカーゴスペースを無人機母艦として使う事にして、他の三隻は今まで通りの運用を行う事になった。
『雪嵐』に三モジュール十二基、その他『清霜』『朝凪』にも各四基が搭載されているので、都合、ニ十基をばら撒いていく。捲き終わったなら一旦、『知床』と合流し、補給して再び散布することになる。
「『大鳳』使えばいいんじゃないですか、司令」
「俺もそう思う」
星系防衛艦隊には強襲揚陸母艦『大鳳』に加え、同艦隊の軽巡洋艦『伊吹』『鞍馬』も『利根』ほどではないが無人機母艦としての能力がある。
「『大鳳』は即応戦力という位置づけがあるので、今は動かせないということだとさ。オキナワとゴトウ、両方に侵攻があった場合、第二機動艦隊だけではどちらか墜とされる可能性もあるって統幕の判断だ」
「なら……仕方ないと思いましょうか」
「そう思ってくれると助かる」
航宙士と軽口を叩きつつ、一ケ月の長旅の始まりにやれやれと思う。とはいえ、旗艦が同行するので、定期的に四隻のクルーは交代で『知床』艦上で休息をとることができる事を想えば、そんなに悪い事ではない。
レトルトではない食事、バスタブのある入浴設備、アルコールのある休息環境が数日おきに得られる。補給も気にせず、何かあればバックアップも心配がないという状態は随分と精神的な負担が軽くなる。
これで旗艦が戦闘艦ならもっと気が楽なんだがな。『迅鯨』は無人偵察機母艦であるが、防宙艦並みの自衛能力を有し、自身の無人機による攻撃力を加味すると、軽巡程度の戦力を有している。非装甲の大型支援艦である『知床』と比較すれば、戦闘艦構造を持つ『迅鯨』は相対的に堅牢であると言える。
補給だけなら『知床』でも問題ないのだが、実際に戦闘が絡む可能性を考えると、『利根』や『迅鯨』の火力と比較して随伴艦を伴わない状態の『知床』は艦隊旗艦として脆弱すぎる。
だがしかし、だからといって後ろに下がるような珠じゃねぇんだよなナカイは。
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無人武装商船や、偽装浮砲台と思わしき不審船と出会う事なく、俺達は順調に無人機ピケットラインを敷設していった。定期的なメンテ・交代は、サセボのフリゲート・コルベットの星系防衛艦隊所属艦が計画を立てて実行することになるのだという。
『大型支援艦』もしくは『拠点建設母艦』の習熟訓練を行う計画もあり、無人偵察機の回収・再配備は、それらの艦船を充当するのだろう。俺達の役割りは、その行程の眼鼻を突けることにある。
ゴトウ要塞宙域でも行った作業だが、あの時は二隻の四隊で行ったこともあり、1000個の頒布も一月ほどで行う事ができた。今回はその四分の一程度の効率にならざるを得ない。
一番作業効率が良いのは『知床』が直接頒布することだろうが、これは万が一に武装した無人艦や浮砲台と接触した場合とても危険なことになる。軽巡の陽電子砲クラスで大破、大型宙雷なら撃沈されかねない。
という理由から、チマチマと俺達で敷設するしかないわけだ。
『セイ、次はあんたの番よ』
『は~い~』
無人観測機の敷設も、新人AI副官の教育訓練メニューに該当する。今回は『清霜』の担当、AI副官の『セイ・キヨシモ』がカスミの指導の元、無人観測機を設置していく。
「なにも無ければ、無人艦でも施設できそうですね」
「なにも無ければだな。何かある前提で、今回は俺達が出張っているってことだが、ほんと、無人艦みたいなもんだ」
実際、商用の宇宙船の船長の仕事というのは、平時99%定型業務であり、人間が立ち会う必要があると法律等で定められたルール故必要となる業務ばかりだ。そこをおろそかにしないニッポン人と、そうではないアバウトな民族で非常時に差がつくわけだが、何もなければ表面的には差が見えない。
『「朝凪」から「雪嵐」戦隊司令に報告。商船形状に見えるデブリを発見しました。
画像、送ります』
「こちらツユキ、了解した。無人機を発進させる。警戒を継続してくれ。『夕凪』はデブリに向け強化陽電子砲で射撃の体勢をとれ」
『こちら夕凪、了解です』
もっとも高威力・長射程な『夕凪』の装備する『強化陽電子砲モジュール』は、装甲巡洋艦の主砲に相当するものだ。
装甲巡洋艦の主砲の威力は重巡洋艦の主砲の250%の威力、軽巡洋艦の威力の800%の威力を有する。『晴嵐型』の主砲……比較にならないね☆
無人機が接近し、より詳細な観測データが転送されてくる。
「かなり大型の商船デブリ……か」
『反応炉が稼働中みたい。熱源が確認できるわね』
AI副官が熱源探知の情報を表示する。お、平熱より高めですねあなた。
「『夕凪』に伝達。強化陽電子砲で観測中のデブリを攻撃せよ。当てても構わない」
『夕凪了解。発射カウントダウン、5.4.3……発射!!』
軽巡洋艦の主砲とは比較にならない大きな光の槍が空間を切裂き、デブリに向かい突き進んでいく。数秒後命中……のはずなんだが……
『デ、デブリにシールド発生!!』
耐えるのではなく、ビームを逸らすように展開されたのであろう、光の槍が後方へと抜けていく。
「無人機全基発進。全艦砲雷戦用意」
無人機全基と言っても、敷設中であったので、残存基数は先ほどの一基を除いて残りが八基。
「無人機を左右に展開。宙雷の射程に入り次第、全弾発射。着弾のタイミングで一斉砲撃を行う。『雪嵐』『清霜』は前進。『朝凪』『夕凪』は93式を発射し現在位置で前進を援護」
『『『了解!!(ですぅ)』』』
推進器の出力を上げる。こんなこともあろうかと、『雪嵐』と『清霜』は本来の船体を装備している。というよりも、三胴艦にする際に船体が不足していたからと言えばいいか。
「無人機カーゴの船体本艦よりパージ」
「パージ行います」
三胴のうち、中央と右舷の無人機及び接続モジュールの部分を主船体から切り離す。本来、中央に位置する主船体だが、左舷に寄せておいたのだ。これで、『情報収集』『宙雷』のモジュールに、防護シールドを装備した形で突撃できるというものだ。
推進器の出力が本来のスペックであるのと同時に、推力偏向ノズルも装備されている。『雪嵐』を盾に、『清霜』が後方から射撃を開始。そのまま、加速しつつ敵艦と思われる不審船へと接近する。
『敵艦発砲!!』
先ほど見た、光の槍に似たものが向こうからこちらに向かい突進してくる。
『当たらないわ!!』
AI副官の想定通り、光の槍はかなり離れたところを通過し、はるか後方へ突き抜け消えていく。
『出力からして、重巡洋艦以上、もしくは装甲巡洋艦か巡洋戦艦』
「……じゅ、巡洋戦艦か……艦種特定できるか?」
巡洋戦艦は装甲巡洋艦の進化上位互換といえる存在。主砲威力を戦艦並に拡大し、防御を犠牲にしつつ速力を巡洋艦並みに揃えた高速機動艦艇だ。戦艦にぶつけるのは防御能力から難しいが、それ以外の艦艇に関してはその優れた火力を用いてアウトレンジできる存在。
ニッポンでも検討されたのだが、侵攻艦隊の露払いの要素が強い艦艇であり、専守防衛を主とするニッポンには不要であるとされ、その下位互換である装甲巡洋艦が建造されている。巡洋艦以下の艦艇に対する十分な攻撃力と防御力を有する、通商破壊作戦を阻止するための艦艇と言えばいいだろう。
とはいえ、なんでこういう状況で投入しねぇんだよ!! と艦隊編成をしている統幕の部署には一言言ってやりたい。いや、生きて帰れたら必ず申し上げる!! ナカイが。
「なんで当たらない?」
『管制装置が本来のものではないか、その照準誤差を修正できるだけの自動制御を欠いているか。もしくは……』
「油断させるためのワザとだろ」
『その通りよ!!』
えー そんな子供だまし……するかもしれないな。手札を隠して確実な一撃を与えるのであれば、ワザと外すという前振りもあるかも知れない。
『夕凪、第二斉射……命中!!』
大型商船の外殻を吹き飛ばすと、中から明らかに巡洋戦艦らしき艦影が姿を現す。
「艦種判明、ヒンドゥ連邦所属、『ヴィラト型』です!!」
ヒンドゥ連邦の何世代か前の巡洋戦艦……元はUSAの『アルビオン』型航宙母艦だったよな。航宙母艦を改装し、砲戦能力を戦艦並に換装した物だったはずだ。つまり、砲撃力は戦艦、防御は重巡洋艦並みといったところだ。本来の巡洋戦艦ではなく、結果としてそこに分類されているというものだ。
「一先ずなんとかななりそうか」
『馬鹿ね、主砲は戦艦……晴嵐のシールドじゃあ、防ぎきれないわよ』
「当たらなければどうということはない」
『そうね。射撃間隔が長いのも、本来の出力を維持できていないからでしょう。躱せば問題ないわ』
退役後、反応炉を撤去した状態での廃艦下げ渡しとなるはずなのは共通。商船から引き回したであろうエネルギーでは、連射に至るまでの能力を維持できないってことだろうな。
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