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062 機動支援艦隊の補強―――『戦時計画艦』(完)



「清霜は右に展開、本艦は左から回り込んで不審船に接近する。砲撃は任意で。反撃再開に注意してくれ」

『清霜右舷から迂回し、不審船へ接敵します』


 砲塔の位置からすると、左右に大きく分かれた方が反撃を分散できると判断する。三連装砲塔が艦首に一基であると無人機からの映像で判断できたためだ。


『砲塔動いていないわね』

「なら、砲塔の向きを避けるように移動しようか」

『当然ね!!』


 射線を避けるように移動するが、偏向ノズルが無い分いつもより動きが鈍く感じる。以前は無かったのだから、慣れとは恐ろしい。贅沢は敵だ。


 『清霜』が想定より不審船に接近する速度が速い。砲身が動いていないだけで安全とは言い切れない。


「『清霜』陽電子砲の射程ギリギリで射撃を継続しろ。反撃が無いとは言えない」

『……了解です……あっ』


 不審船の後部から弾けるような噴出を確認、大型宙雷が発射されたようだ。ルーシとその系譜を引くヒンドゥ連邦の小型艦は、USAやニッポンのそれと比べかなり重武装だ。


『USS-800Pオニキス』ルーシ製対艦宙雷は、中射程・三連装で使用される。リーダー宙雷とその随伴宙雷という組み合わせで、リーダー機の誘導に追随して他の二発が攻撃を行う。


『清霜』は、深追いをして手痛い反撃を喰らったと理解、宙雷の移動速度は陽電子砲を下回る事を考えると、転進して多少の時間を稼ぐこともできる。


「『清霜』に伝達。無人機をデコイに使え」

『き、清霜了解。何とかしてください宙佐、回避できません!!』

『800Pを迎撃する能力が清霜にはないわ。気の毒ね……けど、無駄死にじゃ無いわよ!!』


 AI副官、どっかの大気圏突入みたいなこと言うな。そういえば、あの時の副官、パトロール艦隊の司令になってたよね次の登場で。副官繋がりかェ。


「宙雷にケツを向けてこっちに向かえ、後方に対宙パルス砲指向。そんで、備砲の陽電子砲も撃て。無人機ぶつけてでも宙雷を阻止してしまえ」


 相対速度はかなり低くなるだろう。追いかけて来る宙雷をケツに張り付けた状態で逃げ回ればいい。その間に、対宙パルスと主砲、無人機をぶつけて数を減らす。


 上手くいけばいいんだが。


『大丈夫、推進器の方向からぶつかれば、宙雷なら艦首をパージすれば最悪脱出できるから』


 シールドがあっても無くても宙雷には効果が無い。その代わり、実体弾は当たり所が良ければ、艦首は生き残れる可能性が高い。後ろから命中すれば、艦首だけ逃げ出せるかもしれない。敵に後ろを見せるのはどうかと思うかもしれないが、そんな精神論はどうでもいい。どの道、その効果が検証できれば、戦訓として教導隊に取り込めるんだから無駄死にじゃない。


「けっして無駄死にではないぞ!!」

『……まだ死んで無いからあぁぁぁぁ……』

「『晴嵐』は不審船への主砲による攻撃継続、備砲の単装砲は、可能であれば、『清霜』を追っかけて来る宙雷を狙撃してくれ」

『無駄にはしないわ!』


 宙雷が抜けてくる可能性がある。一本でも多く、撃墜しておきたい。


 PASHUUU!!

PAPAPAPAPAP!!!

 PAPAPAPAPAP!!!


 小さな閃光と大きな光条が『清霜』から放たれる様子がモニター越しに確認できる。


 BOOWWW!!


『無人機が一発阻止』

「尊い犠牲だ」


 どうやら、光の輪の正体は無人機が宙雷を阻止した爆発のようだ。残り二発。


『狙うわ』


 艦首を『清霜』の後方に向け、モジュールの陽電子砲で宙雷の撃破を副官は狙う。


 BASUUU!!


『清霜』の後方、漆黒の空間を光の槍が貫いていく。


 BOOWWW!!


 更に一基の宙雷が破壊される。そして、残念なお知らせ。


「『清霜』に宙雷命中。撃沈です……」

「「「……」」」

『ま、まあ、頑張ったわよ。艦橋は残っているから問題ないでしょう?』


 確かに。あとで回収するか。先ずは、目先の不審船撃沈に注力する必要がある。第二撃だって注意しなければならない。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 遠距離からの一方的な射撃。どこかのGP-01Fbのような状況。もう、滅多打ちです。なんで爆発しないんだよ。


『さすが防御巡洋艦ってところね』

「……いや絶対違うだろ?」


 本来なら反応炉に命中して爆発四散してもおかしくないダメージなんだが、もしかするとハリボテなのかもしれない。


『どういう意味?』

「ガワは防御巡洋艦、そして、主砲を何斉射かできる程度のエネルギーを蓄える装備がある。近づいてきたところを大型宙雷で仕留めるという軍艦の形を模した罠じゃねぇかと思う」


 移動はオンボロ商船を使い、接敵後は外装としてパージ。軽巡洋艦クラスの艦船の登場に驚いた警備艦艇が接近してきたところで主砲のダミーで反撃し、ある程度のところで鎮圧される。


『勝利の予感に酔いしれている敵に大型宙雷を叩き込んで黙らせると』

「そんな感じだと思う」

「司令、では……」

「ビーコンを設置して移動だ。旗艦に通信、航宙艦型のトラップを発見、反撃により『清霜』撃沈されるも、乗員は無事。罠と『清霜』クルー回収の為、当該宙域に来られたし……だ」

「了解です!」


 ということで、『雪嵐』で『清霜』の艦橋を回収し、現場で『知床』の到着を待つことにする。これがPFSの艦橋なら、そのまま放っておくんだけどな。





 思っていたより早く『知床』が到着。二隻の『晴嵐型』である『朝凪』『夕凪』も随伴している。


『うう、早く回収してもらいたい……』

『しょうがないじゃない、ボカチン喰らったの、あんたが不用意に近づいた結果でしょうが。受止めなさい』


 我がAI副官が、『清霜』のAIにビシッと一言いい含めている。いや、ここしばらく言い含め続けている。罠とわかっていれば対策も出来たんだけどな。


「司令、『知床』からです」


 艦橋のメインスクリーンには数日振りに見る見目麗しき艦隊司令官様が映っている。


『お疲れ様。「清霜」はこちらで回収して、船体を整備して接続すればいいのかしら』

「ああ頼む。PFSではない正式の艦橋だから、居住性に問題はなかったようだからクルーは問題ないと思うぞ」

『旗艦で精密検査を受けてもらうわ。流石に、宙雷の直撃を受けて撃沈された艦の乗組員を、そのまま復帰させることはできないもの』


 そうですか、そうですよね。いくら労働基準法の適用外とはいえ、後遺症なんかが後で現れれば、その時の対応の責任を問われる可能性がある。というより、責任うんぬんより、体調不良や潜在的な傷害の有無を確認する事も大切な監理業務ですよね!!


 幸い、『知床』には医療設備も軍医も搭乗しているので、十人ばかりの精密検査は余裕で終わるだろう。




『知床』から発進した工作用のPFS二隻と『雪嵐』は、マーキングした宙域まで移動する。また、『朝凪』『夕凪』も後に続く。この二隻は警戒用の隊であり、『雪嵐』が搭載していない、無人機を『朝凪』が先行して飛ばしている。


 二隻の『晴嵐型』駆逐艦は、以下のモジュールで対応している。


『朝凪』 【照準】【無人航宙機】【宙雷】

『夕凪』 【強化陽電子砲】【ジェネレーター】【宙雷】


 やっぱ、強化陽電子砲を装備した艦とバディ組みたいよな。要は、軽巡の主砲二門か、装甲巡洋艦の主砲一門かの選択になる。このケースが多いのであるならば、二隻ではなく、四隻で隊を組んで捜索する方が良いのでは無いかと思う。四隻でも、そうとう経済的な艦隊だけどな。


『あの二隻の組合せだと、完全分業よね』


 AI副官カスミの指摘の通り、索敵照準する司令艦と、砲撃に専念する僚艦という組み合わせになる。個別では戦力として成立しないほど分業が成り立っている組合せだ。


『「清霜」の陽電子砲モジュールを工作モジュールに差し替えると、かなり柔軟な対応ができるんじゃない?』

「沈められていなければな。結局、この状態なら何も変わらないだろ」

『そんなこと言ったら、何もできないのと同じよ!!』


 二隻を四隻に切り替えるとするのであれば、もう少しモジュールを見直す必要があるだろう。





 無人機が接近、95式宙雷を二発撃ちこんでみたが、反撃は確認されず。警戒を継続しつつ、二隻のPFSと「『雪嵐』が不審船の残骸……残骸になりつつあるダミー防護巡洋艦に接近。


「パワードスーツを発進させ、内部の確認を行ってくれ。一隊は内部に、一隊は牽引作業の準備を行え」

『作業を開始します』


 PFSの格納庫から各四機の工兵用パワードスーツが発進する。周辺を四基の無人機が警戒のために配置され、異常を確認している。


『反応炉の反応が無いわね』


 反応のない反応炉は……なに? やはり、反撃は蓄積されたエネルギーによるものだったのだろう。囮であるなら、その程度の能力で十分だ。


 問題なく内部に侵入した工兵は、主だった区画を切除しPFSのカーゴスペースへと収納できるだけは収容し、残りは牽引ビームによる『晴嵐型』の二隻『朝凪』『夕凪』による曳航を行うことになる。


「反応炉は確認できずか」


 工兵の捜索では、防護巡洋艦のガワだけが利用されており、主砲のエネルギーは蓄積されたものを利用したと確認される。偽装に用いられていた商船には反応炉が搭載されていたので、それも回収することになるだろう。おそらく、以前捕獲したニコイチサンコイチの商船なので、部材の凡その出どころ程度しかわからないだろうが。


『さて、お家に帰りましょうか』

「帰れないよね。またサセボに戻って、今日の回収した部材の分析とかしないといけないんだよね」


 とはいえ、第二機動艦隊かサセボの技術工廠もしくは情報部にでも解析してもらえばいいだろう。


 それよりもだ、一隻不審船が見つかったのなら、その陰には三十隻の不審船がいると思えという警句がある。統幕も政府もそう判断して、俺達に仕事を押付けて来るんだろうな……


「とにかく、サセボに戻って『清霜』を修復して、四隻まとまっての警戒捜索を行わないと、次はもっと危険だろうな」

『どうかしらね。使われている戦闘艦の母体が戦艦や装甲巡洋艦でないといいわね』


 やめて、そういうフラグ立てるの。戦艦の主砲なんて装備されていた日には、一瞬で消し炭にされてしまうからね。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 「『*晴嵐*』は不審船への主砲による攻撃継続、備砲の単装砲は、可能であれば、『清霜』を追っかけて来る宙雷を狙撃してくれ」 『雪嵐』と『清霜』の二隻が不審船と遭遇したのですよね? 晴嵐…
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