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060 機動支援艦隊の補強―――『戦時計画艦』(弐)

誤字訂正・ブクマ・評価・いいねをありがとうございます!



 俺達がサキシマ回廊で戦ってから一年くらいしか経っていないはずだが、サセボの雰囲気はがらっとかわっていた。気分はもう戦争?


「ピリついてますねぇ」

「まあな。被害拡大中なんだろうから、当然だな。第二機動艦隊も面子がかかっているから、巡洋艦出して索敵してるんだってな」


 正直、サセボの基地内はひりつくような殺気を漂わせた宙軍士官や、疲労の色が濃い下士官が多く見受けられた。まあほら、俺達みたいに暇なし前提の警戒隊なら馴れっこだが、訓練メインでスケジュールのしっかりしている機動艦隊所属の艦船の乗員には不規則な勤務で辛いんだろうな。


――― 甘えんな!!




 警戒隊は交代で数日ごとに三交代勤務を繰り返しているので、そこまで大変ではないが、機動艦隊のように長期の訓練以外は待機するのが当たり前の艦隊所属の場合、消防署員のような日勤夜勤明け休みのような勤務体制なので、しっかり休める前提が崩れると疲労が溜まるんだろうなと思う。


 クルー制をとっている星系防衛艦隊ならともかく、機動艦隊は乗員固定なので、連続稼働するときついんだろうと思う。警戒隊?やってることは星系防衛艦隊なんだが、シフトが機動艦隊のブラックな職場環境だ!!


 その分短い所属年数でも上に上がれる。稼働時間が多いからな。時間換算すると、機動艦隊の倍近く働いていることになる。そりゃ、士官学校出て十年で提督になる事も不可能じゃない。


 その昔、宙軍がまだ『自衛隊』と呼称していた時代、下士官の定年は五十三歳だった。尉官・佐官の場合も五十代半ばで退職することが多かった。まあ、実際、老人が戦争するというのは肉体的にシンドイ。判断力も低下するし集中力も欠落する。


 民間や一般の公務員のように六十代まで働くのは……ちょっと無理がある。


 そこで導入されたのが『アンチ・エイジング』を希望者に行うという方針だ。そもそも、軍人で現場を希望するという人間が少ないという事、宇宙空間での身体的疲労が年齢が上がるにつれ加速度的に増加するということに対する補償のようなものだったらしい。


 実際、一人の職業軍人を育成するコストを考えれば、アンチエイジングを行う事で稼働年数を十年から二十年延長できるメリットが施術による経済負担を上回るということになると算出された。元気で留守がいい。


 また、高齢化社会と呼ばれて久しいUC時代において、精神的肉体的な若さを維持する中高年を増やすという効果は、軍を退職後の第二の人生が豊かなものになり、軍人の離職率低下を促す事に繋がった。


 職業軍人の経験者が社会に多く残るということは、戦時の動員による効果を高める意味も有する。平時には一般社会で活動しつつ、戦時には相応の経験と技術を持つ元職業軍人が社会に多く存在するということは、軍縮と有事の戦力増強に高い効果があると言えるだろう。


 まあ、お手当もらえるしね。


「準戦時下という感じね」


 士官室で書類を作成していると、ナカイが声をかけてきた。え、だって、『雪嵐』には士官室無いから、漫喫の個室みたいな部屋嫌だろ?


「俺達ばかり働かされるのは業腹だからな。いいんじゃねぇの」

「そうね。あなたにばかり、手柄を立てさせるのもどうかという声もあるから良いのではないかしら」


 いやいや、お前の手柄だろナカイ。多少は貢献していると思うし、お陰様で先任宙佐まで務めれば、退役時には『准宙将』で辞められるかもしれん。そうすると、退職金も恩給もウハウハなんだが。あと、ローンの審査も通りやすくなるだろうな。


 プラチナ老後生活!!




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 ナカイ司令官とその幕僚―――俺も含まれている――― が、第二機動艦隊司令部を訪問している。その昔、通信環境の改善とともに艦隊司令部が艦船の上から陸上に移された時代もあったが、UCにおいては地理的時間的距離が中世に戻り、艦隊内に司令部を常設するようになった。通信速度と艦隊の移動速度が完全に一致する時代、惑星上に司令部を置いても何の命令もできないからだ。


 古典的地球時代の映像作品などで見る、いかにも本土の施設ですよという風情の建物内の司令室で作戦を衛星画像などで見守るお話は、「ああ、昔はこんなことできたんだ」というレトロ感を感じさせてくれる。今でも、同一星系内であれば近い事が可能だが、それでも数分程度のタイムラグが発生するので、一光秒程度の距離離れない位置での指揮が望ましいとされる。


 結果として、移動要塞の如き『戦艦』の艦内に機動艦隊司令部が設置されるのは当然の帰結だろう。星系防衛艦隊が惑星上もしくは、首都星周辺にある防衛要塞内に司令部・指揮施設を置くのとは対照的だと言える。


 当然、星系防衛艦隊の司令官は年次・席次では上であるとしても二線級の『ロートル』が引退前に務める役職とみられ、敬意は得られても実際のチカラ関係では機動艦隊司令官に分がある。上に行くには機動艦隊司令官である事が前提であると言えるだろうか。


 とは言え、年齢は五十代、軍歴は三十年を越える宙将もしくは先任准宙将が任ぜられるのが通例であり、三十手前のましてや女性の新任准宙将が新設の『機動支援艦隊』司令官となるのは異例のこと。先任に挨拶に伺うというのは当然であるが、この先もナカイが相手先に向かうという事が十年単位で続くことになるんだろうなと思いつつ、俺は第二機動艦隊の旗艦『武蔵』の通路をテレテレと歩いている。


 先任司令官殿にご挨拶に同行している最中というわけだ。





「機動司令艦隊、キュウシュウ星系哨戒任務応援の為到着いたしました」

「任務ご苦労。今日は挨拶だけというわけにもいかん。現状のキュウシュウ星系における『不審武装商船』の出没状態と対策について話し合おうと思う」

「承知しました」


 第二機動艦隊司令官ヒビキ宙将から伝えられた内容は想定内。わずか五隻とは言え、稼働率低下著しい第二機動艦隊の補助艦艇たちを考えると、司令官としては一刻も早く戦力化したいというところだろう。


「とはいえ、第二と支援艦隊を混ぜるわけにもいかん。そこでだ……」


 会議用のパネルに、キュウシュウ星系の宙域図が表示される。


「我々はダザイフとオキナワ・ツシマ・ホンシュウ星系にむけてのHDゲートにいたる主要航路の維持に専念したい。それ以外の宙域に関しては機動支援艦隊の哨戒宙域とさせてもらおう」


 おい!! と思うのだが、全宙域くまなくという戦力をキュウシュウ星系では維持できなくなっているのだろう。


「星系防衛艦隊所属の艦艇はどのように使われるのでしょうか」


 キュウシュウ星系の防衛艦隊は実質機動艦隊並みの戦力を有している。とはいえ、タイペイやツシマへの艦隊派遣で消耗した艦船と交代させている事などもあり、フリゲート以外は整備中といったところのようであり、稼働している艦船は主要航路の船団護衛に専従している状態だという。


「それと、言いにくいのだが……索敵能力が不足しているのだよ」

「宙母を中核とした編成であればそうなるのでしょうね」


 フブキ宙将の説明にナカイも理解を示す。幕僚が資料を提示しながら、艦船の消耗状態についての説明が続く。推進器や陽電子砲のオーバーホールに半年から一年のローテーションによる改修・改装を順次行う必要があり、著しく稼働率が下がりつつあるのだという事が理解できる。


 一度や二度の会戦なら対応できるだろうが、毎日のように出撃し警戒・警備を行うように艦隊主力の艦艇はつくられていない。カリカリチューンのレーシングカーを街乗り・日常使いすればコスパも悪化する。


 そういう意味で『半民艦』と揶揄される『晴嵐型』の系統は、ワークホースとして高いポテンシャルと稼働率を示す事ができる。推進器は安物だし、交換も簡単にできる。保守パーツも民生品を流用できるのも強みだな。


 出力の規制も民生用の制御を外せば問題なく軍用の性能を出す事ができるし、燃料も民生用を使う事ができる。そもそも、標準装備の備砲は威力より耐久性・整備性を優先にしている仕様の陽電子単装砲だ。


 やつれた顔をしている幕僚は、航宙か機関関係の幕僚だろう。そもそも、宙軍艦の整備は年度毎に計画が立てられており、その計画に沿って事前に部品の製造がおこなわれている。定期点検やオーバーホールだって、それに沿って計画されているのだから、「部品が無い」「修理するドックが無い」で稼働率がどんどん下がるのは当然なのだ。


 USAあたりは小型艦の推進器を『晴嵐型』のように交換する形で戦力を維持できるよう設計を行っているというのは、隻数と広範な領土宙域を持つ故の選択だったのだと思うのだが、戦闘を前提とすれば、消耗の激しい小型艦の整備性を最優先にするという発想は正しいのだろう。


 高性能な『吹雪型』駆逐艦や『松型』コルベット、特に前者は重武装・高性能の艦隊随伴型駆逐艦であるが、日常の用に適していない。高性能と高整備性を両立できなかったからだな。その分、コルベットは多少ましだが、それでも船団護衛・哨戒にはまだ高性能すぎるようだ。


 言ってて悲しい『晴嵐型』の低スペック。だがそれでいい、それがいい。


 二つのキュウシュウ星系の艦隊合わせてもコルベットの定数は僅か八隻、とても哨戒・捜索・護衛を行うに足りるはずがない。


 たった四隻の『半民艦』だって、戦力からすれば五割増しになるわけだからな。


「以上だ。出来る限り長く、多くの宙域を捜索してもらいたい。機動支援艦隊と『オルトロス』ツユキ司令の活躍に期待する」

「承知いたしました。だそうです、司令」

「……ご期待に沿えるよう尽力いたします、閣下」


 アドミラル・トーゴ―を彷彿とさせる「髭のダンディ」ヒビキ宙将は、睨むような視線で俺達にそう伝えた。使い潰されねぇように精々頑張るさ。


――― アドミラル・トーゴ―って変わり者伝説あるよね。さすが天性の指揮官。




「せんぱい、ダンディ司令官に名前知られてましたね。オルトロス・ツユキって」

「なにそれ、美味しいの?」

「……神話に出てくる双頭の神獣、番犬の一種よ」

「犬扱いかぇ……」


 まあ構わないけどな。双頭なので、ナカイ隊の俺とヤエガキを示す仇名らしい。ナカイの番犬的な意味だよな。俺はともかく、ヤエガキは……嫁の貰い手に苦労するはず。もしくは、婿のなり手。


「知らなかったんですか?」

「知らんな。新聞とかニュース見ないし、美女と野獣的なニュアンスなんだろどうせ」


 サキシマ回廊からの一連の戦闘で、ナカイ旗下の駆逐艦艦長二人は、セットで報じられたらしい。いろいろやらされてるからな俺達。


「せんぱいは、司令と一緒にTVにも出ていますからね」

「おまえもな」

「それはいいんです!! 私は『ナカイ司令の横の美少女は誰』って話題になった程度で、取材もニ三件しか受けていませんから。あ、ちゃんと軍の広報経由の依頼です」


 え、そうなの、きゃるぴんもさり気に露出度上がってるんだ。俺と同い年で『美少女』とか図々しいにもほどがある。アラサーの美少女ってなんだよ。そういうのは、ロリババァみたいなカテゴリーなんだろうか。


「と・に・か・く ナカイ司令とお二人は、それなりに知名度高いんですよ」

「助さん格さんみたいなもんか」


 ナカイが水戸黄門、ということはきゃるぴんは「うっかり八兵衛」枠だろう。思っているが口にはしない。風車だったら危険だから。


「赤鬼青鬼や阿吽より良いでしょう? 駆逐艦は猟犬と例えられることもあるのだし、そこまで的外れではないと思うのよ」

「犬でも狼でも構わないけどな。まあ、名前が売れて足しになるならとくに気にする事でもねぇよ」

「とかいって嬉しいんでしょ、せんぱい」


 いや、俺の退役嫁に知られたら恥ずかしい。嫁のお父さんが良く知っている同世代だったりすると超気まずい。





 『知床』経由で『雪嵐』に戻った後、今後のスケジュールをクルーに説明すると、「また辺境めぐりですか」と声が返って来る。訓練するのにはちょうどいい環境じゃない? ツシマやオキナワ、ゴトウよりよっぽどいいと思うけどな。装甲巡洋艦と出会うとか、そういう方が嫌だろ? 何が不満なんだよな。



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