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059 機動支援艦隊の補強―――『戦時計画艦』(壱)

誤字訂正・ブクマ・評価・いいねをありがとうございます!



「何かつまらないな」

「……PFSのAIですからね基本は。というか、『雪嵐』『浜嵐』の副官AIが濃いだけだと思いますよ?」

「ですよねー」


 新造された『簡易晴嵐型』の船体を船渠で確認している。この後艦首に『雪嵐』の艦橋を据え付け、実際の運用を比較するのが目的だ。


 船体を構成する鋼材も質を落としたものだというのは一目瞭然。そもそもJDを行わないこと、内航船扱いの艦種に該当する為、不必要なダメコン能力も取り除いているということもある。


「戦時急造艦とでもいえばいいんだろうな」

「耐用年数も十年程度と考えておるようだな。その分、工作数を減らしてある。何かあれば、PFSで離脱する前提だな」

「雑な印象を受けますね。仕上がりとか段違いです」


 積木細工と段ボールくらいの差は感じるな。ちょっと言い過ぎか。


「ダメコン簡略って、操作系統を減らしたりとか、緊急時の制御系を簡易化しているとかか」

「然様。無理に改修してもその時点で修理する事は難しい。乗員と艦首のPFSさえ回収できれば、それ以外のものは後日、ジャンクとして戦後にでも処理するという考えだな」

「なるほど。使い捨てに近いですね。晴嵐じゃないと無理ですね」


『晴嵐』はお安い。元が並の艦隊随伴型駆逐艦の五分の一、簡易型はその三分の二だから、七分の一くらいか。一個戦隊が駆逐艦一隻強で揃う。修理するより、新しい船体を与えた方が戦力としては有効活用できる。まさに、戦時急造艦だな。


 その昔、大東亜戦争期に建造された一連の艦種に『戦時設計』という仕様があった。規格化や工程数の簡略化を行い、戦時中の数年間使用に耐えられれば良しとする設計だな。


 極端に短い製品ライフサイクルを想定して設計・製造されたモノたちだ。


 鉄鋼の節約を行い、安全性や耐久性の優先順位を下げ、薄鋼板を採用、鋼材の使用量を低減する。


 保安機器の省略。これは、元々省略されているので、撤廃か皆無と言える状態かもしれない。反応炉の緊急停止装置などは残してあるだろうが、ダメージを受けた場合の復元能力はほぼなくなっているだろう。


 工数を削減し作業の迅速性、簡便性を優先する。これと表裏なのは精度低下の許容。すなわち、今までであれば軍用宇宙船を建造する精度をもてなかった民間の宇宙船製造企業も動員する事が可能となる。防衛兵器も地産地消で熟せる割合が高まれば、冗長性も高まるというものだ。


「やっぱ、軍艦作り慣れているところとは仕上げが違うな」

「民生品と比べると無駄に気を使ってますからねー」


 公官庁に納める物というのは、原価から積み上げて適正な利益率を見込んで値付けができる。先ず、この位の値段ありきという考え方ではない。勿論、民間の宇宙船より長いライフサイクル、拡張性を要求されている故の割高さということもある。


 十年持てばOKというのであれば、工期とコストをある程度削っても問題ないと考え、必要以上に見た目の仕上げなど手をかけないという事からくる雑な仕上げということも理解できる。これはこれで味がある。


「実際、艦橋にしか基本いないからな」

「ですね。まあ、PFSが基本ですから、まんまかアレンジかの違い程度ならどちらでもいいですよね」


 という感じで、一先ず運用してみることになったわけだ。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 デブに聞いたところによると、初期の『晴嵐型』と比べこの『簡易型』の製造工程数は半分になっているのだという。JDとシールド機能を排し、モジュール構造を一部固定化したこと、PFSを艦橋にそのまま配置することで省略できる制御系などによるものらしい。


 艦橋がポン付けなら、そりゃ工程数減るよな。


『ううう、加速がイメージ通りじゃないわね』

「さもあらん。民生品の推進器をそのまま使っておるからな。反応炉は共通であるが、推進力は若干落ちておる」


 AI副官様からは不評。それはそうだろう。


 民生品なら耐久性・整備性・価格を優先し、加速性能は許容範囲であれば最低限にする。そのあたり、いくらモジュール多用途任務艦であったとしても、本来の『晴嵐型』船体に備わる推進器はそれなりにチューンされている。性能と価格の両面でだ。


「推力偏向ノズルもパージされてるんだろ?」

「うむ。そこまで切迫した戦闘を想定しておらぬからな。警備艦艇としては不要と判断された」


 航宙機や敵の砲撃を回避しつつ接近するような運用をそもそも考えていないということだな。シールドを排除した時点でそれはそうかと思う。


 けど、よくこんな簡易設計案即出せたなという疑問に行き当たる。


「コンペ作であるな」

「……コッペパン……」


 なにそれ美味しいの? コッペパンはパさッとしてて美味しくはないが、ジャムとかつけるには向いてる気がするな。甘いのが美味しいってのはどうかと思うが。


「『晴嵐型』の改修案の一つだな。後期型とは別の低コスト量産艦として星系艦隊向けに設計されたものだ」

「状況にぴったりだな」

「うむ。その中で、先行試作したものを今回持ち込んでおる。二期生が訓練期間を終える時期には一個戦隊ほどがこちらに揃うはずだ」


 元がPFSと民間商船の合体技だから、数を揃えるのは難しくないということだろう。PFSは宇宙船としては自家用車や自転車のようなものだ。自転車って動力源は人力で移動できるから、UC時代においても開拓惑星のみならず、軌道ステーションや宇宙港での移動に利用されているな。むしろ、動く床みたいなのはコスパが悪いので、余程の人の流れが大きな人用通路以外は使われていない。倉庫みたいな場所はもっぱら自転車に宇宙服って感じだ。


『PFSで慣れてるならそれでいいかもね』

「機種転換訓練省けるからな。攻撃輸送艦専門なら、PFSの運用だけできれば、あとは艦隊運動の必要なものだけ理解して、あとは実践で覚えてもらう」


 急ぎ現場に隻数を増やして配置するという方針が統幕から出ている。宙軍省もその背後の政府も、国民の希望と経済界からの陳情などを受けある程度スピード感のある対応を求められている。


 八隻揃ったなら、既存の『晴嵐型』の戦隊で、訓練航海を兼ねた警備行動を他の星系で行わなければならなさそうだ。マジだルイ。


 この簡易型の運用に合わせて、若干三期以降の訓練内容も見直す必要があるかな。艦隊運動なんかは二隻ないし四隻での行動以上は外してもいいだろう。


 艦隊でのHDも必要ない。代わりに、無人航宙機の運用や索敵に関してのトレーニングは増やさなければならないし、実際の訓練航海でも重点項目にする必要がある。


 一番問題なのはAI副官の質が下がる事だ。PFSのAIは『副官』と呼べるレベルではない。指示命令が的確でない場合、しっかりと反応してくれない可能性が高い。そこは、訓練内容の見直しが必要だな。


「PFSのAIを副官並みに更新するって可能なのか」

「……不可能ではないが、コストと製造時間の問題で時間がかかるな」

「試してみなければわからんが、おそらく、今の運用とはかなり変わってしまう。少人数で戦闘を行う前提で並の宙軍艦船のAI副官より高い処理能力とコミュニケーション能力を持っているだろ?」


 普通の宙軍艦船の場合、人間の補助もしくは、限定的な介入なのでアンドロイドのような個性や思考判断能力を持たせていない。疑似人格もかなり平坦なものだ。音声ナビみたいな感じなんだよな。感情薄いし。


「PFSの純正AIではないのだが、確かに能力的には数段下がることは確かだ。とはいえ、警戒行動程度であればPFSのシステムで十分であるな。それほど、多くの選択肢や対処方法もあるわけではないしな」

「ですね。ルーティンワークなら、あまり多くの機能や能力を求めない方が短期育成の場合問題になりにくいのでは?」


 きゃるぴん、すっかり存在を忘れていた……まあそうだな。そう割り切らないとちょっと無理です。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★





 八隻の『簡易型』が到着。一先ず、これを用いた訓練を早々に開始する。数が不足する分PFSでの訓練を初期段階で行っていたこともあり、また二期生は元々PFSタイプの小型星系内航船の乗員が多かったこともあり、むしろ抵抗が少なかったと言えるだろう。


「案ずるより産むが易しだったかな」


 ヤエガキ、そりゃ運航するだけなら輸送船と変わらんのだから問題が出る方が問題だろ。今まで何やってたんだって意味でだよ。


「いや、問題は実際に敵艦に遭遇してからだな」

「その通りね。練習で躓くようではこまるけれど、実戦ではどのような問題が発生するかわからないものね」


 操縦性は簡略化されたPFSを拡張したものだから問題ないのは当然。しかしながら、推進器が簡易化された影響で反応が鈍くなっていること、そのワンテンポの遅れがどのような影響を与えるかは使ってみないとわからない。


 シールドありきで近寄るのも難しい。理想で言えば、四隻の隊のうち、経験のある既存の純正二隻で捜索をメインに行い、残りの二隻は簡易型でフォローに専念するという形でもいい気がする。


 航宙機ならそんな感じで小隊を編成するんじゃないか? 運用としては艦船より航宙機寄りになるかもしれない。


「当初は簡易型だけで編成し攻撃輸送隊? で運用してみようと思うの。というより、その仕様で星系内の警備ができるかどうかのテストをするように指示を受けているのよ」


 ナカイにはそんな指示が艦政本部と統幕から出ているのだという。


「だが、この星系内でというのは少々難しくないか」

「その通りよ。なので、第一戦隊の四隻と旗艦でキュウシュウ星系へ移動して、運用試験を行う事になるわね」

「あちゃー 私ら第二戦隊は置いてきぼりか」


 旗艦に四隻を載せて星系間を移動することになるからということもある。それに、二期生の訓練も継続中だしな。首席幕僚をトクシマに残し、第二戦隊と教導隊の指揮をお願いすることになる。


 旗艦と言っても、テストベースみたいな役割りを担うようだ。簡易化したモジュールの実働試験も兼ねるので、相応の交換用モジュールも『知床』に積んでいくことになる。





 八隻のうち四隻の船体部分を『知床』に積み、残りの四隻は既存の船体を用いてHDすることになる。万が一という事態もないわけではない。やっぱ、HD無しで行動するというのは、機動支援艦隊の旗艦に随伴する身としては微妙なわけだ。


 キュウシュウ星系で船体を簡易型と交換し、艦橋部分は正規のものを用いて運用テストを行う。PFSを用いた簡易型との運用の差異も確認する必要があるので、比較できる既存の艦橋と差し替えてみるという事だな。PFS自体は、何隻か旗艦に乗せてあるから問題ないとも言える。


「久しぶりにキュウシュウに向かうのだが……」

「なにも感慨はありませんね。まあ、危険度は爆上りしているみたいですけれど」

「であるな」


 情報幕僚のミカミと技術宙佐のデブも当然のようにキュウシュウ星系に向かう。どうやら、無人か有人かは判明しないが、星系外縁部で武装した所属不明の商船から民間船や星系艦隊の艦艇が砲撃を受けているという。幸い、撃沈まで至っていないが、星系の緊張感は高まっており、ニュースにならない日はない。


 第二機動艦隊や星系防衛艦隊の小型艦艇による警備行動も増えているものの、捜索能力は限定されるため、偶然遭遇した場合の反撃程度しか行えていないらしい。


「また、ナカイに手柄を立てさせるために、敵を見逃してくれているって感じかな」

「あー そんなこと言って、また出世しちゃったらどうするんですか!」


 手柄を立てたら出世する……とは限らないんだけどな。特に、宙佐以上は簡単には昇格しない。三十前後で准宙将って歴史的な出世なんだから、この後はないだろ? 俺も今すぐ退役したいくらいだもんな。この先はないからね。



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