表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/102

006 巡洋艦を回収する―――『工作艦』(弐)




『ツユキ、先導を頼む』


 宙兵宙佐殿から直々のお声がけをいただく。言われなくともちゃんとやるぞ。


「おう、任せておけ」


 俺ともう一人は、船外作業用にも使える、所謂パワードスーツに乗り込み、宙兵隊の突入支援に、向かっている。このパワードスーツは、船外作業や工作艦として艦船の修復、貨物の積み込みや装備の回収などにも使われる便利な必需品だ。フォークリフト免許並みに宙港では必要となる。免許は簡単に取れるが、操作になれるかどうかは別の話だ。


 駆逐艦乗り、特に多用途任務艦の船務員(大体全員が相当)の男は確実に使えるようにさせられる。じゃなきゃ、裸で作業しろと言われるくらいだ。


 人間が運転台に着席し、卵のような形の胴体に手足がついたイメージ。頭の部分は大昔の宇宙服のように半球形のキャノピーとその外側に金属の防御シェルが付いている。宙兵仕様は360度視界が保てる戦闘仕様だが、俺達作業用は安全のため前部だけが透明で左右と後方は覆われている。愛称は『オーバー・オール』だ。サロペットなジーンズとは関係ないよ。


 スラスターを吹かしながら、俺ともう一体が軽巡洋艦の下部のハッチまで辿り着く。牽引してきたワイヤーを張り、宙兵の先遣小隊がこちらに渡ってくる。


「軽巡の様子はどうだ」

『今のところ動きはないわね。反応炉も停止しているし、艦内の動力源も二週間はもっていないでしょうね。でも、何があるか分からないから……慎重にね』


 AIとは言え、女の子の声で心配されると、目がウルッと来てしまうのは年のせいだろうか。


 内部の様子を振動、小さくあけた穴から内部を覗いて確認する。エア漏れ? ファイバースコープ入れておくくらいの穴、宙国製ならあちこち空いてるにきまってんだろ!!


『内部に振動なし。熱源反応なし。空気は……希薄だ』


 恐らく、反応炉の停止で空調も止まっているからだろう。酸素を吸引できる装備でもなければ低酸素で意識を失っているだろう。


「ハッチ爆破でいいか?」

『エア抜きするからそれでいい。そのあと、格納庫周辺から制圧していく』

「了解」


 本当はしたくないのだが、振動で伝わるってやつをする。男同士が顔よせ合うのは不本意なのだが。これも給料分の仕事ってやつだ。




 BONN!!


 ハッチを爆破し、二体のオーバー・オールで無理やり開口部を広げる。装甲が薄くて大変助かります。反応炉周辺くらいしか十分な防御を行っていないだろうし、止まってしまっている今となっては頼りのシールドも展開できないからな。


『突入班前進、艦橋を目指す。第二小隊、開口部から入り格納庫から順次制圧』


 相方のパワードスーツを開口部に残し、俺は宙佐殿と同行。歩く工具箱として活躍する所存。


 艦は四層構造のようで、ニッポンの軽巡とあまり変わらないという。


『あくまで、古い設計のものだな。ニッポン宙軍だと既に退役しているタイプだ』

「……詳しいな」

『今回、突入用の資料で目を通した』


 宙国の艦船は、その昔USAからの払い下げや、海賊対策用にとノックダウン生産を許された古い艦船を焼き直しして再生産しているのだという。本来の船体のサイズに不釣り合いなほどの重武装を施す為、安全マージンが少なく、タカログスペックほど戦力にならないと揶揄されている。


 宙域観艦式などで見せる分には『立派』なのだが、実戦ではどうなのかと疑問を持たれていたりする。今回の軽巡接収は、その辺りの事実を検証する為の任務になるわけだ。


 とはいえ、この手の艦船が「型落ち」である可能性は高く、今後はこれ以上の艦船が建造・投入されてくることは容易に想像できる。今回のようにEMPで無力化というのも……半分くらい? 無効化されるだろう。ちゃんと作ればな。




 最下層の甲板は兵員の居室や食糧庫などに充当されているようで……


「……」

『吐くと、余計きついぞ』


 そんなことは分かっている。キャノピー内にゲロが漂っちまうからな。昼飯抜いといてよかった。


 船内の重力は当然ゼロなので、放射線の影響か変色した肌の兵士たちが通路に漂っている。こんな死に方したくないと思うような姿だが、死んだ方からすれば、どうでもいいことだろうな。


 二層目、ここは反応炉のある階層になる。


 宙兵の一人が、反応炉のある機関室の扉をウインチで開けようとするが、俺が空けるとばかりに腕にある『パイルバンカー』で扉を撃ち抜き、強引にこじ開ける。


『あとで、怒られるんじゃないか?』

「いや、どうせ解体して分析だろ? この艦、標的ぐらいにしか使えんぞ」


 作りが雑で、尚且つ低性能であるだろうから艦隊行動に参加させると足並みを乱すことになる。出力が上がらないとか、加速が鈍いとかだ。


 艦はただでも教育に必要な時間と人員は有限だからな。そんなことは……たぶんしない。




 反応炉の分析はそれなりにするのだろうから、破損がないかだけ大まかに調査する。曳航するのに必要ないが、動力を取り戻してある程度姿勢制御できる程度にしておかないと、曳航に時間がかかって仕方がない。


「予備動力源どうするかな」

『……自身の艦からケーブルで引くとかじゃないか』


 その辺は、AI副官にお任せだな。考えるのは副官、動くのは俺という役割分担でいいだろう。どの道、俺がこの艦で操舵しなければならないんだから、なんとなかるだろう。


 反応炉が停止したのは前回の戦闘時直後であり、その後漂流していたことは確定。あとは、生き残りが潜んでいないかだけの問題だ。第二小隊は艦の『エア抜き』を行いつつ、制圧を続けているらしい。


 艦橋のあると思われる第三甲板の前方に向かう通路を移動する。


『生体反応があるわよその先の部屋』

「おっ、助かる」


 AI副官は有能だ。なんなら、俺がいらないくらい有能。とは言え、人間を殺すのは人間の仕事だ。AIには分析は出来ても、決断は出来ないように造られている。


『聞こえたか』

「どうする? 恐らく、向こうも武装しているだろう」


 パワードスーツ対決となった場合、こっちは作業用、相手は戦闘用の装甲重火器仕様であった場合、紙屑のように引き裂かれるのは漏れなく俺だ。


『艦橋以外からの操艦は可能だったな』


 戦闘艦の場合、ダメージコントロールの観点から、艦橋以外からのの場所から指揮を執ることができる場合も少なくない。駆逐艦ならともかく、巡洋艦ならあって良いはずだ。


 だがしかし、反応炉が停止し艦橋が使用不能となった時点で事実上の『撃沈』判定になり放棄するのではないかと思う。戦艦や航宙母艦のような巨大な艦ならともかく、軽巡洋艦にはそこまでのダメコンは求められていない。


「いや、反応炉が停止している時点で難しい。艦橋以外からなら機関室や戦闘指揮所などで対応可能かもしれないが……」


 機関室は死んでいるし、指揮所も艦橋の近くだから似たようなものだろう。


『仕方がないか』


 爽やかスマイルをバイザーの中で見せると、宙佐殿は指示を出し始める。


「何をする気だ」

『……所属不明の艦に潜む賊だからね。糜爛性のガスを使う』


 吸い込んだら昏倒するような可愛らしいものではない。浸透性・残留性の高いケチャップと共に人気の調味料に似たアレである。


「内部に残留したりして面倒だろ?」

『では……VMXを使うか』


 VMXは、揮発性のそれで、比較的残留時間も長い。一週間ほどか。皮膚からも浸透するので、完全防護服を一週間着続けるガッツがいる。


 俺は同意し、一先ず注入するための作業を見守る事にした。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 結論から言って、ガスの注入直後に中から装甲外骨格を装備した宙兵二人が飛び出してきた。一人は宙佐……ではなく、その部下のゴツイ下士官が、今一人は……


『それって、そうやって使うものなのか……』


 パイルバンカーで頭を吹き飛ばして差し上げました。胸だと暫く動ける可能性があるからね。安全なのは首から上を吹き飛ばす・これなら、アンデッドでも安心だ。


 中には、泥鰌髭を生やした痩せぎすの高級士官と何人かの士官がいた。VMXガスは通路に拡散し、基本、金属の装置なので残留も余りないだろうか。


「どうする……」

『こうする』


 宙兵が内部に突入、そのまま士官たちを始末した。今回、無人の所属不明艦を確保したことになるようだ。書類を書くのは俺じゃない。確保の手伝いをした事だけ書けばいいし、曳航作業の報告書を書くのが本命の仕事だ。




 宙兵はそのまま艦内捜索に残し、俺達は曳航作業に取り掛かる。水の上で船を曳航するなら、一隻が長いワイヤーで牽引すればいいのだが宇宙船の場合、一隻では推進器の影響を真後ろで受けてしまうので二隻でV字型になるように位置取りをして牽引する必要がある。


 そう言う意味では、同型艦の多い『晴嵐型』は二隻揃える事が難しくない。


『こっちの準備は万端よ!』

『艦長お疲れ。こっちは問題ないよ』


 リラックスムードの副長に、圧の強いAI副官が対象的だな。こんな現場を目にしないで済むなら済んだ方が良い。


「浜嵐はどうだ?」

『うん、大変だったみたいだね』

『ツユキ艦長、浜嵐も準備整っておりますわ。いつでもよろしくてよ』


『浜嵐』のAI副官は「ウララ・ツチウラ」という源氏名をもつ、似非令嬢風のキャラ付けがなされたそれである。雪嵐の副官「カスミ・ソデガウラ」は口も悪く性格もまあ、悪いが割と仲良しで気に入っている。気を使わなくていいしな、現実の女より。


 だがしかし、「ウララ」はめちゃ気を使う。艦長よりも気を使う。


「それじゃ、これから牽引ワイヤーの固定作業に入るから、『浜嵐』からも『オーバー・オール』出してくれ」

『『了解ですわ』』

「晴嵐は先にワイヤーをかけるから、反対舷に回ってくれ」


 左右から『到遠』を挟むように二隻の駆逐艦を寄せて、ワイヤーを接続後、エンジンを同調させゆっくりと進んでいくことになるだろう。JDが使えないので、帰還には数日かかることになる。


 速度を出すのは問題ないが、減速が難しいのだ。牽引の事故は、停止時に発生することが少なくない。まして、動力を失った軽巡を駆逐艦二隻で曳航するのだから、止める方が大変となるだろう。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 時間をかけて慎重に曳航の準備を整えたのち、軽巡内の警備警戒の人員を残し、交代で休息をとる事になる。曳航が始まれば簡単に移動する事も難しいので、食事や休息、軽巡に留まる人員の為の『休息キット』もこちらの船から軽巡の空きっぱなしの艦底格納庫に設置しておかねばならない。


『航海日誌は発見できたな。やはり……』


 所属不明の「宙国」宙軍で間違いないようだ。どういう経緯でこの宙域まで進出したのか書き残してあるのでとても助かる。真面目に仕事をしていたようで何よりだ。


「俺は目を通さないぞ。それは宙兵隊指揮官の報告で頼む」


 俺達駆逐艦乗りの仕事は『牽引屋』『曳航屋』であり、自分で航行できない所属不明艦をオキナワまで運ぶのが仕事だ。それ以外の面倒事に首を突っ込む気も巻き込まれるつもりもない。打ち止め艦長に余計な仕事を割り振らないでもらいたい。


『そうか、わかった』


 宙佐殿は大変物分かりが良くて素晴らしい。知らないでいい事は知らない方が身のためだというのは、『腐れ縁司令』との関わりでよく理解しているからな。



【了】



【作者からのお願い】

 

 『わりと読めた』、『この続きを読みたい』と思われましたら下記にある広告下の【☆☆☆☆☆】で評価していただけますと、執筆の励みになります。よろしくお願いいたします!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。


参加中!ぽちっとお願いします
小説家になろう 勝手にランキング


― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ