057 機動支援艦隊の拡充―――『攻撃輸送艦』(参)
数少ない艦船で、シコク星系の暗礁宙域をコツコツと捜索することを継続しつつ、宙軍の統幕に「無人武装商船」がシコク星系で発見された一報を上げている。
星系艦隊の数少ない艦船も、申し訳程度だが俺達と宙域を分けて捜索活動を行うことになった。元々、HDゲートまでの護送も頻繁ではないのでやりくりできる範囲だが、これが交通量の多い星系の防衛艦隊なら手が周らない事になっただろうとは思う。
『洒落にならないよねー』
「まあな。けど、訓練にも身が入ると思えば、悪くない」
『悪いでしょ! 隊司令なんて代理でも務めたくないのに。艦長なり立てなのに無茶振りだよ』
「三日で一人前だから問題ない」
『……だよねー』
ナツキは第二宙雷戦隊の副司令となっている。新人艦長なのに。理由は、教導隊出身の艦長が多く、他の艦長も似たり寄ったりのレベルだから。元戦隊司令の副長ということで強引に副司令として三つ目の隊を任されている。AI副官がいればこそなんだが。
暗礁宙域はそれなりに広く、また、無人船が全く移動しないのならば捜索漏れは起こらないだろうが、移動している可能性も否定できない。というわけで、無人機を網の目状に配置し、区切られた範囲を一つずつ潰していく形で俺達と星系防衛艦隊の部隊が調査していくことになった。
俺達が七割方やるんだけどな。でも、三割減ったと思えば嬉しい。
『船が足らないわよね』
「まあな。定数の四分の一の駆逐艦だしな」
無人機母艦か軽巡洋艦でもあれば、無人機の展開もそれなりに楽だったと思うのだが、『晴嵐型』の展開する無人機には限りがある。ゴトウ宙域で行ったような大量の無人機を用いた警戒網など無理なんだよ。
AI副官と愚痴を言いながら、一度の展開が一隊あたり八機という寂しい数で無人機を配置し捜索を行っていくので、ちっとも進展しない。
『一隻だけなら偶然かもしれないって考えているんでしょうね』
「さあ、どうだなか。機動艦隊や統幕の連中は、非対称戦なんて考慮していないだろうからな。僅かな投資で敵を混乱させるのによい方法だろうけど、今まで対策をしていない分、対応が後手だな」
これって、『通商破壊作戦』なのだろうかと俺はふと思う。言うまでもないが、敵の正面戦力を攻撃するのではなく、その後背に存在する民間商船を攻撃する戦い方。海上における非対称戦とでもいえばいいのだろうか。海軍力で劣る側が仕掛ける事が少なくないが、大東亜戦争においてはニッポンが戦争の後半において大いに為された攻撃でもあった。
『戦略爆撃』という、敵国本土にある大都市や工業施設を長距離爆撃機をもって破壊する行為は、相手国の継戦能力を奪うと同時に、戦争に対する意欲を大いに奪う事になっただろう。とはいえ、民間人・非戦闘員に対する攻撃であり、戦争犯罪とも呼べる行為だと俺は思う。
やらかした側は『正義の戦い』を標榜するが、いつかニッポンに復讐されるんじゃないかと心配したとか。ニッポン人は水に流す文化なので一神教とほど恨みを残さないのだが、万単位で民間人を虐殺したやりかたはどうかと誰もが口に出さずとも思っている。
同じような無残な戦いが起こらないように、妥協すべきところは妥協した結果がいまの星系単位の宙域国家ってわけだ。物理的な距離って大事。各星系で自給自足できる体制を整えているので、貿易はあるが圧倒的に経済は内需に依存している。特別な科学的独走態勢でもとられないように牽制する意味と、相互理解のために人と物と金が行き来しているという面がある。
言い換えれば、それを制限している宙華宙域は、最初から交流を制限し『助けず・教えず・関わらず』の非華三原則を極力貫いているのがニッポンとUSAの立場でもある。
そこで、ヒンドゥ連邦辺りは迂回貿易で小銭を稼いだり、ルーシ連邦が黙認密貿易で利益を得たりしている。
結果として、機関部はヒンドゥ経由のUSA製中古、武装はヒンドゥ経由で入手したルーシ製もしくはそのヒンドゥコピーという組み合わせの宇宙船が武装商船として放流されているようだ。
回収した部材から分析できたのはそんなところだ。
ヒンドゥ中古の武装商船を無人艦に改装し、ニッポン宙域への通商破壊に放流する。中古船を売るなと規制できるのはニッポン国内だけであり、USAはさまざまな思惑の星系が存在することもあり、ニッポンの助けをすると限らない存在もある。多くは考えて行動するが、金が無い星系なら喜んで片目をつぶって横流しするだろう。
流れ着くのはUSA宙域ではなく、その手前にあるニッポンなんだから、『直ちに問題にはならない』と考えているんだろう。ニッポンが宙華に取り込まれるには時間がある。そうなる前に分割占領という解決手段がUSAにはある。なら問題ないじゃない? といったところだろうか。
政府がUSAの宙域政府と話をしたとしても、経済的な問題は個別の星系政府との内部調整となり、おそらく数年単位で時間がかかる。その間に、宙国艦隊がニッポン宙域に攻め寄せる事になるだろうことは目に見えている。
さあ、どうするんだろうな、政府も宙軍もさ。俺達は上に従うだけだからな。
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その後、シコク星系で見つかった無人武装商船と似た存在が、キュウシュウ星系だけでなく、オキナワ・ゴトウ・ツシマ要塞宙域は勿論、ホンシュウ星系においても確認され撃破された。
回収された残骸からは幾つかの宙域国家製部品の組合せによる武装商船であるという事以外共通点は見つからず、被害も現時点ではさほど出ているとはいえなかった。
とはいえ、放置するわけにもいかず、機動艦隊の補助艦艇からPFSまで動員し、暗礁宙域や航路外の宙域までローラー作戦的掃討が行われる事になった。
『まあ、みんな大変みたいだよ』
「みんなって誰」
『そんなこと言ってる場合じゃないよ戦隊司令!!』
「あー 俺には何も聞こえない、見えない」
久しぶりにナツキ副司令と会話する。え、だって、全ニッポン宙軍的にナカイ隊並みにこきつかわれてるからちょっと嬉しい。機動艦隊に配属された『俺はエリート』みたいな奴らも溝攫いさせられているかと思うとすっきりする。
そもそも、艦隊随伴型の駆逐艦やコルベットは索敵能力や砲戦能力、無人機運用なんかを前提にしていないから、商船だけど備砲は軽巡並みとかだと、かなり厳しい。宙雷以外はアウトレンジされるし、ヘタすると相手の自動索敵能力により先制攻撃される。
紙装甲なんてものではない小型艦艇が軽巡並みの陽電子砲を斉射されれば、撃沈必須だからな。正直、軽巡と無人偵察機を訓練がてら星系内で展開させた方がいいんじゃないかと思うが、巡洋艦をつかいたがらないだろうな、機動艦隊の禿どもは。雑用は雑役艦にやらせろくらいの感覚だ。
まして、同じ『晴嵐型』とはいえ、ホンシュウ星系の奴らは宙雷モジュールだけ装填している標準装備だけしか用意されていないから、こっちみたいに、強化陽電子砲モジュールや無人機モジュールなんて装備されていない。それは『本物』の戦艦・巡洋艦が装備しているから「なんで必要なんだ?」
というはなしになる。
多用途任務艦としての役割を機動艦隊やホンシュウ星系で与えられる余地がないと言い換えてもいいだろう。
「申し訳ないが、使い場所と使い方を間違えているなあいつら」
『だよねー でもそれが当たり前じゃんね。うちらがおかしいんだから』
ヤエザキさんお疲れっす! 必要だからモジュール交換しつつ色んな任務こなしているだけだからね。本来、戦艦巡洋艦も動かして、その無駄に高性能な索敵能力や戦闘能力を生かしてさっさと討伐すればいいのにな。その決断が下せないから『機動支援艦隊』にGoサイン出ちゃうんだけどさ。
わちゃわちゃと懐かしい面子で雑談をスクリーン越しにするのは、旗艦に集合するよう命ぜられたので、『ドウゴ』の軌道上に集合しているからだ。
「艦船不足が深刻のようね」
「それはそうだろうな。そもそも、戦闘艦では無人商船探しに相当の負担がかかる」
「であるな。民間宇宙船ベースの『晴嵐型』とフリゲート・コルベット以外の艦種はこの手の警戒活動に向いていない推進器の仕様。低速時に負荷がかかる故に、相対的に稼働時間が短くなってしまう」
戦闘行動時に最適化された推進器は、長時間低速で移動するのに効率がよくない。レシプロエンジンでいえば、高回転型をわざと低回転させると負担がかかり燃費も悪化する。推進器も絞って出力を利用するように調整されていない艦隊随伴型駆逐艦や艦隊型コルベットの場合、負担が大きく所定の稼働時間の半分程度で整備が必要になってしまう。
「そういえば、その昔、護送船団を組む場合、低速の商船と高速の軍艦を同行させるのは難しかったらしいですね」
そうだな。巡航速度が倍ほども違うので、行ったり来たりしながら軍艦は商船に速度を合わせたという話を聞く。無駄に距離を走るので、実際の移動距離よりもずっと燃料を消費してしまうし、機関にも負担がかかる。結局、低速の護衛専用の艦船を配備するようにしたのだが、どの道、潜水艦と機雷と空母艦載機の空襲により船団自体が組めなくなっていったので効果のほどははっきりしなかったという。
やはり、多用途任務艦を大量生産する方がいいよね。一二年かかるけど。
「問題は、敵機動艦隊が出現した場合、整備不良の補助艦艇を用いて戦闘することになるということね。エンジンの不調は作戦行動に即影響を及ぼすでしょう。そういう意味で、艦隊随伴型の駆逐艦を当該作戦から外して、別の艦艇で行うという方針が出ました。なので……」
どうやら、教導隊三期生は更に倍の定員になるのだという。それも、宙軍内部からの配置転換で航宙機やPFSを運用していた経験者を強制的に転属させるらしい。
「……大丈夫なんですか?」
「大丈夫ではないでしょうね。とはいえ、航宙機は無人機である程度代用することになっているし、艦隊随伴の小型艦からも転属させるみたいね。どの道、絶対数が不足しているから仕方ないという判断よ」
未だ有事とは言えない状況で、予備士官を大量に動員すると経済的な問題だけでなく政治的軋轢も生まれかねない。責任問題もあり得る。既存艦艇からの抽出、有事の際は抽出された艦船に予備士官・下士官を充当するという対応を決断したのだという。
「まあほら、十人か七人で一隻運用できるわけだし、宙尉でも艦長拝命出来ると思えば、悪くないって考えるかもね」
「一概に言えないよ。やっぱ、機動艦隊で戦艦や巡洋艦の専科長を
目指していたりする人たちからすれば左遷みたいなものだもん」
首席幕僚容赦ねぇ!! 情報士官だからというのもあるけど、この人艦隊乗りに対してのやさしさが足らねぇよな。事実だけどさ。
「そう考えると『機動艦隊』の一角に名を連ねているのは悪くない事かもしれないわね」
「嘘も方便って言いますから」
「嘘じゃねぇよ。まあ、どこに所属するかより、何をするかの方が大事だしな。少なくとも、他の機動艦隊の司令官よりナカイ提督の武名の方が遥かに上だ。そう考えると、成り上がり狙いの奴らからすれば、悪くないんじゃねえかな知らんけど」
駆逐艦乗りっていうのは、変人が多いというのは間違いがない。それを考えると、航宙機やPFS、コルベットからの配置転換は悪くないと思うぞ。主に、司令としてはな。訓練しやすそうだ、一期のおっさん予備士官よりはずっと教えやすいと思うしな。
「それと、三期は三ケ月後に入校します」
「げぇっ」
半年の就学期間の二期生と後半被る事になる。
「尚且つ、三期生は四カ月の短期教育と指示を受けています」
「「「「「……」」」」」
思わず口から「マジか」と漏れると、ナカイは「マジよ」と返してくる。そのお陰で、新造される晴嵐型は一度全て『機動支援艦隊』か『教導隊』に配置されるらしい。教育訓練習熟後、宙雷隊四隻単位で各機動艦隊や星系防衛艦隊へと送り出してもらう事になるという。
「じゃあ、機動支援艦隊の定数は……」
「しばらく現状維持になるでしょうね」
やっぱどこよりもオーバーワークさせられそうじゃねぇか……
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