056 機動支援艦隊の拡充―――『攻撃輸送艦』(弐)
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強化陽電子砲は、装甲巡洋艦の主砲並の威力を持つ。戦艦以外であれば確実にダメージを与えることができるの力を有する。また、モジュールの陽電子砲は軽巡洋艦の主砲並であり、威力射程ともに恐らくは仮装巡洋艦擬きの武装商船には十分な威力を有する。
『火力はともかく、照準器が揃ってないようね』
「だろうな。もしかすると、自動で反撃するようなシステムで動いているのかもしれない。一撃入った段階で、射撃を一旦停止してくれ」
『朝霜了解』
『秋霜了解しました』
跡形もなく破壊したのでは、発砲の原因も探れない。可能性としてはゼロではないが、ニッポン人の捕虜がいるかもしれない。運悪く仮装巡洋艦につかまった民間船の生き残りだ。
宙国人は弱い者いじめが大好きと聞いたことがある。ニッポン人捕虜を虐待目的で生かして乗せている可能性も否定できない。悪趣味だがな。
『秋霜の初弾命中。船体の一部爆散』
おいおいと思いつつ、外板が装甲ではなくモノコックの外殻にすぎない民間商船(仮)故に、この結果は仕方ないかと思う。武装商船の砲撃は命中の後しばらく沈黙したが、暫くすると少々間欠的な反撃となりながらも発砲は続いている。
『一気に仕留める?』
「いや、碌な整備をしているとも思えないからな。発砲が続けば、砲身かコイルが駄目になるだろう。それまで、単装砲での威嚇射撃に変更。
本艦も発砲開始」
『命中もやむなしよね!!』
『晴嵐型』の備え付けの単装砲は、正直言って威力が低い。なので、先ほどのような爆散はしないで、ほどほど穴を開ける程度で済むはずだ。
『朝霜』『秋霜』も同様、備砲の単装陽電子砲による発砲を開始。散開しつつ、距離をとって反撃を促すように射撃を継続する。
『そろそろ、無人機が到着するわ』
「こんどこそ確認できるか」
『最初に宙雷で砲撃を黙らせたらどうかしら』
「採用」
95式宙雷は航宙機もしくは小規模艦艇用の小型宙雷だ。威力もそれほど高くないが、それは一発で撃沈せしめる事を目的とするのではなく、艦艇の防御火力を削ぐためにあると言える。もしくは、センサー類を破壊し反撃を無効化するために用いられるのだ。
93式のように『必殺』を求めない代わりに、画像誘導のような小技が効くのも航宙機用ならではだ。
「発砲源に向け一発ずつ全機発射」
『「朝霧」から無人機に全機に発射命じます!!』
『雪嵐了解!!』
偵察機から宙雷がパシュッと発射される。これが主力艦ならば無人機ごと対宙射撃で爆散しかねないのだが、対宙パルスによる射撃は観測されない。
「敵船に命中します」
一発、二発と次々に着弾…… 砲撃は停止する。
「敵砲撃沈黙。無人機近づけますか」
「二機で全周から偵察。映像をメインスクリーンに投影。各艦は射撃体勢を維持しつつ、警戒継続」
無人機が近づき、やがて残骸となり果てた宇宙船であったものを捉える。
『反応炉は稼働しているみたいだけど、動いている人間やアンドロイドらしき存在が見当たらないわね』
船はかろうじて稼働していたが、それを動かしていたものがいなかった。幽霊船かよぉぉぉ……
『あ、船体に文字が見えるわね』
どうやら、USA所属の艦船であったようだ。もしくは、USAの艦船を捕らえた上で何らかの破壊工作にでも転用した敵国の宇宙船だな。
「宙兵隊には悪いが、残骸から情報となるようなものを回収してくれ。それと反応炉がどこの国のものか特定したい」
宙兵隊は漸く我が仕事の時間だとばかりにPFSを発進させた。
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これまでは、俺自身がパワードスーツを稼働させ証拠の回収や潜入を指揮していたのだが、やっぱり専門家に任せるのはいいなと思う。楽だし。本来は、船舶工兵と呼ばれる宙軍の艦船に乗る工兵隊が担う場合が多いのだが、大型輸送艦などに乗っているのでなければ現場に現れることは無いと言える。
特に、輸送艦隊だと思われている『機動支援艦隊』には、今のところ船舶工兵を配属させる予定はない……らしい。が、機動艦隊よりも支援艦隊に配属させておく方が使い勝手も機能面も優秀だと思う。
――― 船が足らないからだよね。知ってた。
そうだ、名ばかりの機動支援艦隊故に乗せる船も、配置する基地も足りていないんだからしょうがない。とはいえ、船舶工兵に近い事を宙兵隊はある程度こなす事ができる。戦闘のウエイトが高い宙兵と、支援や後方での仕事のウエイトの高い船舶工兵の違いと言えばいいだろうか。
艦船を動かし戦闘すること以外の仕事に関して、俺達はある意味何もできない。宙軍において艦船に勤務するものが三分の一、基地や拠点で維持管理業務を行うものが三分の一、そして航宙機や宙兵隊の維持運営を行うものが三分の一。ここに船舶工兵も含まれる。
機動支援艦隊がシコク星系を根拠地として整備が進むなら、宙兵隊のあとに工兵隊も配備される事になるんだろうな。
『こちら強襲小隊アスワ。反応炉周辺区画を切り離した。工作艦による回収されたし』
「こちら戦隊司令ツユキ、承知した。『朝霜』を向かわせる。『朝霜』、反応炉区画をサルベージしてくれ。旗艦に接収してもらうので、障害物の無い宙域まで引き出してくれ」
『朝霜了解』
宙兵隊は、細かな残骸から回収できそうなものをPFSへと収容している。中には中身のない宙間服などもあるようだが、デザインが古く中にアンドロイドなり死体なりが入っているものは見当たらないらしい。
「ちょっと派手に破壊し過ぎたか」
「あるいは最初から無人艦であったかであるな」
デブの言にも一理ある。過去のUSAなりヒンドゥ連邦の貨客船を無人操船による武装商船として送りつけたものかもしれない。それ自体に意味が無くても、心理的な不安感を高めるといった可能性もありえる。
その昔、大東亜戦争において、ニッポンは「風船爆弾」というのを敵国に向けて放ったことがある。気流の関係でいくつかは辿り着いたようで、現地では原因不明の山火事が発生したと記録されていたらしい。実は、ニッポンが放った攻撃の結果であったと後日しって大いに驚いたとか。
防衛手段が手薄なシコク星系であれば、上手くいけば相応の損害をだし、戦力をこの星系に差し向ける事に至るのであれば、オキナワ・キュウシュウ方面の戦力をいくらか拘束する可能性も出てくる。他の星系から戦力を差し向けるとしても、増援に影響が出るわけだから同じような意味があるだろう。
「旗艦『知床』に連絡。不審船の残骸を回収、反応炉から艦船の特定が必要であると考える。旗艦による回収を必要と考えると」
『了解。さて、へびがでるか蛇が出るかね』
それ、『鬼が出るか』ね。両方蛇じゃねぇか!!
トクシマ周辺で活動中であった『知床』が暗礁宙域に現れたのはおよそ六時間ほど経った後。星系の首都星『ドウゴ』のすぐ傍に暗礁宙域とかあるわけないからしたかがない。宙兵隊もおよその捜索が終わり、回収できるものはPFSに回収し終わっている。
『不審船に襲われたそうね』
「……艦隊司令官がわざわざ対応する必要ないぞ。あとで調べた報告書は上げるから、艦隊編成の件に注力してくれ」
『いいえ。不審船がシコク星系に現れるとなれば、正面戦力だけでなく、こちらにもある程度艦船を前倒しで派遣してもらう必要があると交渉する材料になるでしょう?』
確かにその通りだ。宙華艦隊が目の前に現れるのではないかという妄想に近い恐怖心をニッポンは上から下まで持ちつつある。実際、ゴトウ宙域に早急に予備役戦艦を送れと政府や宙軍に国民から声が上がっているらしい。
その昔、日露戦役でも似たような現象が起こったらしいな。いるはずがない敵国艦隊を見たという漁民や沿岸にすむ住民から報告が頻繁に上がったとか。太平洋側にはいきなり現れねぇだろと思わなかったのは素人だから当然だといえる。
整備も補給も不足しているボロボロの艦隊が自軍の基地に向けて一路目指していると思わないからな。
「反応炉を分析することで、どこの船が元になっているか見当が付きそうだ」
『ええそうね。そこから、良い反応を引き出せるようにこちらで細工するつもりではあるのよ』
宙国は自国で宇宙船用の反応炉を十分に製造できない。できたとしても性能が著しく劣るものしか作れない。民間船に関しては、軍用に転用する事が難しいと思われるスペックのものをUSAが提供していた。また、ヒンドゥ連邦も自国製の中古宇宙船を宙国に輸出している実績がある。
『商船であるからある程度推定できるとは思うのだけれど、無人の武装商船が突然発砲してきたという時点で、民間商船も星系艦隊に所属する警戒隊の艦船も相当危険にさらされるわね』
星系艦隊に十隻程度のフリゲートやコルベットが配されているとはいえ、安全であるという前提での配置に過ぎない。頻繁に武装商船が出没するとなれば、『護送船団方式』を組まねばならないだろうし、星系間の移動に関してはHDゲート周辺の警備も含め相当戦力を割かねばならない。
非対称戦と呼ばれるこの手の破壊活動は、行う方は大したコストがかからないものの、防ぐ方はかなりのヒトモノカネを消費させられることに繋がる。その為に距離をとって星系単位ですみわけしているのだが、男気JDで無人艦を突入させているのか、あるいは別の方法なのかは不明だが、前線だけでなく後方であるこちらも安全が侵されているとう状況であるなら、政府も宙軍も国民も意識を早急に改めねばならないだろう。
「主砲は軽巡クラスが二門程度だったな」
『それは、仮装巡洋艦というより、武装商船・仮装砲艦レベルね。戦闘の記録映像を転送してもらえるかしら』
「了解だ。副官殿、『知床』に各艦の戦闘記録を転送してくれ」
俺の率いていた三隻の駆逐艦から映像と通信記録が転送されていった。
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さて、俺達はトクシマに戻ることになったわけだが、ニカイドウの奴は宙兵隊とともに『知床』へと移動していった。回収した反応炉やその他の資料を分析するためだ。息がしやすくなった気がする。デブはたくさん空気を吸うからな。
回収した外装の劣化状態からすると、整備状態の良しあしはあるものの、恐らく五十年くらい前のものではないかと推測されている。五十年前といっても、最新鋭で五十年間漂流し劣化したものではなく、相応の年数使用した宇宙船で進宙してから五十年くらい前のものらしい。
『反応炉はUSAのものであるな』
デブ曰く、民生品なのだが工作精度その他からしてニッポン製以下だが宙華製やヒンドゥ製よりもコンパクトで高性能、おまけに部品点数が多く高くつくのが特徴なんだとさ。その代わり、小型で高性能なものだという。ニッポンの場合、同じ性能で部品点数を減らしたり、整備性を改善することでメンテナンス周期を長くしているという。そんな話を士官学校で学んだ記憶があるような気がする。
「で、五十年くらいまでのモデルの反応炉か」
『おそらく、反応炉を含めた動力部を移植した商船を武装させたものだ』
「そんで、どこの回し者だ」
『……宙華とはいいきれぬな』
宙華じゃないってなんだよ。ルーシ連邦とは距離があるからたぶんことなるし、わざわざUSAのものを使う必要はないだろ。可能性的には、ヒンドゥが購入した中古USA船をそのまま宙華に横流しして、改装したものを無人武装商船としてこっちに送り込んでるとかしか考えられねぇよな。
『もういくつかサンプルをとってみないとなんともな。そう、司令官殿にも報告しておる』
回収した残骸からはUSA製ではない等級の低い外装板であると分析されている。今まで回収した宙華軍艦のものとは当然異なるし、粗悪なものだというのだが、これも何処製かまでは分析できていない。
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