055 機動支援艦隊の拡充―――『攻撃輸送艦』(壱)
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『攻撃輸送艦』……なに言ってんだ、攻撃艦なのか輸送艦なのかどっちかはっきりしろと、言いたいお気持ちはよくわかる。俺も最初聴いた時には『は?』っておもったわ。
その昔、大東亜戦争の時代よりやや後のこと。USNは上陸作戦を行う専用艦艇・揚陸艦のなかで商船構造を持つ大型のものを『攻撃輸送艦』Attack Transport:APA……アパと名付けていたATAではない。その後、国を亡ぼすアジアでの戦争の時代において『LPA(揚陸輸送艦)』と名称を変更した。
とは言え、のちの強襲揚陸艦と比べればささやかな揚陸能力であり、大東亜戦争期に大量生産した標準船を改造し、二千人ほどの兵士とその兵士を砂浜に送り出す小型艇二十数隻、その船を下ろすデリックを装備していた。似た艦種に『攻撃貨物輸送艦』(AKA)とものも存在したのだが、これはのちに『貨物揚陸艦』と名称変更された。よかった。
その元祖というか先駆けとなったのは旧帝国海軍が建造した『神州丸』からはじまる『上陸用舟艇母船』であり、陸軍特殊船という陸軍管轄の船も存在するのだが、民間商船の枠で戦時徴用を前提として艤装し建造された一連の大型輸送船になる。
航空機を搭載し、小型の武装艇や舟艇を載せ短時間に単独で上陸地点を制圧できる工夫が凝らされた『強襲揚陸艦』の元祖とも言えるシリーズだ。その有用性は大東亜戦争劈頭だけでなく、戦没する迄続いている。
そんな先達にあやかり『攻撃輸送艦』という名称もありだと思う。だって輸送艦隊だし一応。
「無人偵察機で『強襲小隊員』を牽引する……か」
「リスクはあるが、試して損が無い作戦だと思うが」
「あー 情報収集もリアルタイムでできますし、95式宙雷の弾頭を無力化ガス弾や高熱を発する焼夷弾頭にかえるとかすると、いろいろはかどるかもですね」
「……なるほど」
『晴嵐型』を強襲揚陸艦仕様にする場合、接舷するか、艦同士の間にワイヤーでも張るような形でないと強化服の宙兵隊員を乗り移らせるのは手間がかかる。
とは言え、敵艦が対宙レーザーなどで反撃している最中の移乗は、隊員にも船体にもダメージが出ることになる。パルスレーザーの射程外から無人機を発進させ、それに牽引ロープで数人ごと引っ張らせれば上手くいくんじゃね?
と思ったわけだ。
古典的SF傑作作品の中で、戦場を離脱する兵士を巨大人型兵器が牽引していく設定があったのをヒントにした。とっくに著作権切れだがな。
「むふぅ」
「……できるだろデブ」
「無論!!」
四発のミサイルサイトのうち一つを牽引用ワイヤーの収納スペースにしておいて、人力で引き出す形であれば即対応できそうだという。いや、あの機動兵器は推進器の位置が干渉しないが、無人機で引っ張ると、推進器と干渉するんじゃねぇのかと思うが気にしない。
「支援用の弾頭は?」
「焼夷弾は既存の航宙機用のものから転用できるであろう。商船制圧用のものがあったはずだ」
「ああ、なるほど。無力化ガス弾も用意できそうだね」
海賊・武装商船制圧や暴動鎮圧用の装備は宙兵隊ではなく、憲兵の装備仕様範囲だ。宙兵になくとも、技術工廠的にならすぐにでも用意できるということだな。
「というか、最初からPFS使えば良くない?」
「「「それだ!!」」」
ヤエガキ、ナイス!! PFSなら小隊程度問題なく移送できる。それに、双胴艦や三胴艦なら問題なくPFSを運ぶこともできる。無人機に支援させ、遠距離からの偵察ユニットなんかも組み込めば、立派な『攻撃輸送艦』になるんじゃないでしょうか。
基本的には、敵艦の掃討・情報収集、小規模な拠点の制圧なんかが仕事になる。幸い、シコク星系にはその手の訓練場所に事欠かない。ホンシュウ星系なら「この残骸危険」とか「これ、サルベージしておこう」と宙域をクリーニングする動機づけが大きく働くのでそういった対象がとても少ない。
それに引き換え、シコク星系は『人の数よりウシの数が多い』などと言われる星系全体がチバラキといった風情のある星系だから、残骸なんて言うのはHDゲートと軌道エレベーターを繋ぐ航路上以外は割と放置されている。
言い換えれば、反政府勢力や非合法組織の潜伏先にはもってこい……ということもなく、人もたいして住んでおらずHDゲートと軌道上は星系艦隊が護衛船団を組んで警戒するのでメリットが無いということでとても安全に今のところ維持されている。
とはいえ、男気JDで武装商船や偽装難民がキュウシュウ星系を透過して現れないとも限らない。下手をすれば、過疎地という事もあり星系自体を占領下におく戦力が現れないとも限らない。
俺知ってるから。まさかの中立領域を軍事制圧して、宇宙要塞を占領して通行不可能の宙域を無効化するという「天才」の発想。いや、それ単なるズルだから。チートだから。
少なくとも、壁で囲んでいるわけではない宇宙空間に突然大規模な艦隊が現れないと誰が保証するのだろうかという話だな。ナンキン・シャンハイからだってオキナワをスルーして浸透できないというわけではない。損害度外視、もしくは、軽微な損害で四つの星系のうち一つをニッポンが取られたとなれば、宙国内の士気は高まり、ニッポンは奪還作戦を発動する必要に迫られる。
正規の九州方面への攻勢と同時期に行われれば、戦力を分散することになりかねない。世論は、『シコク星系を見捨てるのか』と憤り政府に対し強い感情を向けて来る。また、自領を守れないニッポンに対すUSAやヒンドゥ連邦が友好関係を切り捨て、自分たちもニッポン占領に動き出す可能性もないとはいえない。
一番の懸念は、シコク・キュウシュウを宙華が、ホンシュウ・ホッカイドウをUSAが分割統治するという危険性だ。その上で、ニッポン人同士を武装させ、どこぞの分断国家のように代理戦争の道具に仕立て上げる。
大東亜戦争の後、回避された事態がこの宇宙世紀において再現される危険性もないわけではない。
「磨いて損する牙はないからな」
「……まあそうだな。宙華だけが的とは限らない。俺達は、国民の生命と財産を守るための戦力だからな」
ハヤト・ヤマトが艦隊に行かなかった理由は、そのあたりにあるんだろうな。つまり、古き良き自衛隊魂が色濃い軍人だってことだ。それが正常だと俺も思う。宇宙戦艦に乗ってヒーロー気取りの老人ってのは痛いしな。そんな人ばかりではないのだが、そう言う奴ほど声がデカく人を集めやすいというのもあるんだよ。
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一期生の際は、たった二隻しか駆逐艦がなかった。故に、PFSやシミュレーターを用いた訓練が主体であった。今では、九隻の『晴嵐型』と旗艦『知床』もある。随分と『機動支援艦隊』も艦隊らしくなったものだ。
ということで、駆逐艦を三隻ごとの『駆逐隊』に編成。俺とヤエガキ、そしてナツキを指揮官として訓練を行う事にしている。一期生が艦船に配置されたといっても見習だしな。見習でも普通に動くのは、AI副官のお陰なんだが。
ということで、三隻で艦隊運動の練習をしながら、今日は『宙兵隊』の小隊を『雪嵐』の双胴艦仕様のPFSに乗せて、暗礁宙域のパトロールだ。何もないはずなんだが、障害物が多い宙域で何か不審なものが無いかも今まで星系艦隊のしょぼさからメインの航路以外スルーされていたこともあり、問題が無いかチェックする事にした。
ホンシュウ星系やキュウシュウ星系の外縁から漂着する宇宙船の残骸なんかもあるので、中に入って航海記録などを採集することも仕事の一つだと言えるだろう。
『僚艦「朝霜」から入電。古い商船らしき艦艇の残骸を発見とのことよ』
「位置を確認。『秋霜』と情報共有。本艦も向かう。以上」
ということで、漂流船なのか、残骸なのかそれとも……折角だから宙兵部隊に頑張ってもらおう。
宙兵隊の『強襲小隊』の指揮官はアスワ宙尉。多分、ヤマトより年齢的には上なんだろうと思う。宙尉が中隊指揮官として一番面白いと宙兵では言われている。自身で掌握できる人数としてはその辺りが限界で、准宙佐になると大隊規模の指揮官と言われているので、手に余り始める。
艦隊だと駆逐艦の艦長は『晴嵐』に限らず百に足らない人数の組織だが、それを越えて巡洋艦クラスになれば、副長や各部門長に委ねる部分も多くなるし、人数も増えるので目が行き届かない組織になって行く。
とは言え、宙兵隊が好きな人間が宙尉に留まる現象は割と多く、アンチエイジングの技術の効果もあり、肉体的に十分耐えられる状態で経験ある現場指揮官を確保できるという点で悪くはない。
現場を離れれば准宙佐となり、何年かして先任になっておけば退職時に昇進して宙佐で退役となるので悪いプランではないのだそうだ。脳筋の考えることはわからん。プロスポーツの選手が現役にこだわり、引退後にスタッフやコーチになりたがらないというのに似ているかもしれない。
俺にはよくわからないけど、自分ができたことが指導する選手に出来ないのがストレスとかあるみたいだな。名選手が必ずしも名コーチ・監督にあらずなんて言われるのはそういう事のようだ。勿論、先達として育てるのが上手な人だってたくさんいるけどな。
『こちら強襲小隊。情報を確認した』
「『雪嵐』艦長ツユキだ。最初に、こちらのセンサー類で確認しつつ、無人機を寄せて偵察する。宙兵隊の発進はその後になる」
『了解だ』
死んだふりという事もあり得るし、周囲に別の戦力が潜んでいる可能性もゼロではない。こちらは見つけられていないが、相手からすれば、隠すつもりもない駆逐艦三隻が……輸送艦三隻が寄ってきたように見えているかもしれない。シコク星系の外縁部は交通過疎地なので、襲撃するために潜んでいるとも思えないがな。
――― そう思っている時期が俺にもありました☆
破損している艦船は中型の貨物船のような外観であり、攻撃で破壊されたというよりは、何か小天体にぶつかって艦首が破壊されているように見える。つまり、推進系統には損害が無く、反応炉も稼働しているようなのだ。純正の装備であれば分からなかったが『情報収集モジュール』に装備された赤外線センサーと磁気センサーが動力が生きている可能性を示している。
『無人機、先行させるわ』
「何かあれば、破壊される前に宙雷発射を許可する」
『いぶりだしてやるわよ!!』
何かいるかどうかわからないけど、センサーに感有ということであれば警戒する必要が当然ある。「だろう」索敵ダメ、「かもしれない」と思って行動しないとな。
『頭は船足より速く』って言葉がある。先を読め、予想外に備えろって意味の士官候補生の頃に教わる言葉だ。この任務は教導隊の訓練でもあり、宙兵隊との共同作戦演習でもある。一期生だって宙軍軍人としてはまだ半人前だ。そういう意味で、艦長であり隊司令である俺が範を示す必要があるわけだ。
「艦形に該当データは」
『ニッポン船籍には無し。USAでもないわね。かなり古いものだわ』
そうかと相槌を打ち、漂流船だとすれば時代がかったものだと理解する。しかしながら、反応炉が生きているということは、ポンコツながら最近まで現役であったのか、もしくは、寿命の長い反応炉か、はたまた、たまたま反応炉が何らかの理由で休止していたものが再稼働したのかそのいずれかだ。復帰した理由が偶然ではなく、誰かの手が入ったものでないとも限らない。
「宙兵隊、無人機での偵察後、反応が無ければ発進。指示はこちらで出す」
『強襲小隊了解した』
と、断りを入れた上で、最も距離の近い先行する『朝霜』から無人機を発進させる。三隻とも宙雷は装備しているものの、『朝霜』は工作&無人機、『秋霜』は強化陽電子砲モジュールを装備している。朝霜・雪嵐・秋霜の順に漂流船に対して距離をとっている。
無人機が漂流船に接近する迄、十分といったところだった。『朝霜』から通信が入る。
『無人機、漂流船に接近。画像データ受信します』
「正面に出してくれ」
その指示を出している間に、目の前の画面で小さな閃光と爆発。
『無人機撃破されました』
「『秋霜』、強化陽電子砲での射撃開始。『朝霜』もモジュールの陽電子砲で漂流船を射撃せよ。出来る限り発砲先を狙え」
無理だなと思いつつ、俺は、自艦の搭載する無人機を四基すべてを発進させる指示を出した。
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