054 機動支援艦隊の発足―――『嚮導艦』(完)
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機動輸送艦隊発足から二ケ月、ようやく艦艇が揃い始めた。
旗艦 『知床』【大型支援艦】
就役後配属予定
『三浦』 大隅型【拠点建設母艦】
『迅鯨』 迅鯨型【無人航宙機母艦】
第一宙雷戦隊
旗艦 『雪嵐』以下、『朝凪』『夕凪』『清霜』
第二宙雷戦隊
旗艦 『浜嵐』以下、『神嵐』『松嵐』『朝霜』『秋霜』
第一戦隊が四隻なのは……カスミがちょっと強烈で新人AIが負担になるからというのがあるな。AIのいいところが「やめます」と言わないところだ。
実際、『松嵐』の艦長ナツキがいるので、教育が分担できるという面と、おれがナカイのフォローをする点で隻数を減らしているという事もある。
実質一個戦隊規模でしかないので、まだまだこれからだな。
「久しぶりだねツユキ宙佐」
「ああ、サキシマ以来だなヤマト宙佐」
そう、思っていた通り、ヤマトが大隊長を務める部隊がやってきた。本来准宙佐クラスが大隊指揮官なのだが、おそらく一個戦闘団相当に拡充するんだろうな。国や時代によるが、大隊もしくは連隊規模の戦力に独立した支援組織を付随させた独立した運用を可能とする戦闘単位だな。
「キュウシュウ星系に行かされるんじゃねぇの?」
「いや、拠点奪還用の戦力だからこっちで正解らしい。どの道、ただの輸送艦隊なんて編成するつもり、君と君の上司には最初からないことくらい俺でも理解しているさ」
「だろうな。気が付いていないのは……」
「艦隊派のロートルだけだ。まあ、トラックかタクシーくらいにしか輸送艦を考えていないからな。戦艦だけでは戦争は出来ないって死ぬまで気が付かないであろう、しあわせな世代だ」
まあそうだな。戦艦乗って『閣下』って呼ばれたいという、ある意味純粋な少年の心をお持ちの方々だ。俺達に任せて、エダジマでもサセボでもいいからすっこんでればいい。
ちなみに、今までは『宙陸機動戦闘団』は機動艦隊の戦艦もしくは宙母に乗せられている拠点奪還用部隊とされていた。ところが、機動艦隊が増設されることと、宙国艦隊の撃退の際に即座に必要となる戦力ではないということで、第一・第四機動艦隊のみ残して第二第三機動艦隊から下ろす事になった。
第一はホンシュウ星系、第四はホッカイドウ星系にある機動艦隊だから、ようは後詰用の艦隊にだけ残したってことだろうな。それと、俺達の「機動支援艦隊」にでも運ばせようという事での編成替えだろうと推測する。
艦隊派のエリートたちは、ナカイの活躍とその後の新設艦隊司令官への補任が相当気にいらないんだろう。余計なお荷物を降ろして前のめりで宙国艦隊にぶち当たりたいと見た。
「しかし、強襲揚陸に使える艦船がまだないんだなこれが」
「いや、あの軽巡への移乗の訓練で十分だ。『強襲揚陸モジュール』の用意もいくつかあるんだろ?」
「前回使用した二セットだけだ。艦艇の充足率が25%で、実際、艦艇を動かせる乗員も育成中だからな。だが、訓練にはしっかりつきあえるぞ。AIの教育もすすめないといけないからな」
ヤマト驚いてる場合じゃない。二線級部隊なんてこんな扱いだろ? 今までは『晴嵐型』の実験部隊扱いだったから装備も潤沢だったけど、いまは、そんな余裕はないのだよ。予算も余裕もない。全然ない。
「二隻分だと二個小隊か」
「技術工廠に頼めばもう少し増やせるだろうが、お前のほうから宙兵隊経由で申請してもらえると助かる」
「ああ、早急に上申する。一度に六十人の訓練しかできないのでは、小規模な襲撃程度しか訓練スケジュールに組み込めないか」
乗せる分には『知床』にでも載せればいいだろうが、正直、艦船を使った訓練というわけにもいかないしな。
午前午後で二交代で行うとしても、宙兵中隊が二百人規模だから、半分くらいしか回らない。一週間順繰りにやっても、三個中隊は訓練できない。
「早急にもうあと二隻分用意してもらいたいものだな」
「俺達が話すより、宙兵から話をする方が早い。あいつら、面子とかプライドが傷つくようなときは、ものすごく仕事するからな」
「了解だ。それで……」
「ナカイか? いま話したような内容が各部署でテンコ盛りだ。会うと、そうとう不機嫌な対応されるぞ。今回の件を改善してからの方がいい」
ナカイは世話になれば礼をするような義理を欠くような真似はしない。ヤマトの手回しでモジュールが用意されたとなれば、機嫌よく会って礼をするだろう。
「なら、四隻分追加すれば一個中隊、それに指揮用のモジュールも追加で用意させよう」
「それなら、一隻で二個小隊、三隻で六個小隊、戦隊旗艦に指揮モジュールを収めておくようにするか」
「できれば無人機も搭載してもらいたいんだが」
「ついでにそれも申請してくれ。索敵モジュールもだな」
「了解だ。書き上げたら一度チェックしてみてくれ」
ということで、使える者ならヤマトでも使う。実際、宙兵隊内でのヤマトの評価は高く、将来的には幹部確実な男なので、ナカイや俺達から申請するよりもずっと上手くいくはずだと思う。世知辛いぜ。
「発足式の映像見たよ。それと、インタビューも」
「そうか。ナカイの将官デビューだしな、取材内容的にも俺はよかったと
思っている」
「それと、君が『小官』とか言っているのが面白かった」
失礼だな相変わらず。俺だって公式の場では小官くらい自称するわ!! 一般的には好青年で通っている男だが、俺の前ではちょいちょい腹黒であることを隠さない。士官学校の頃からだな。
「また一緒に組んで仕事できるのは楽しみだ」
「そうか。辺鄙な二線級艦隊へようこそって感じだがな」
「はは、まあ、表向きは……だろ?」
そうだな。今のところはそうなるように尽力中だ。だから、お前も役に立ってもらうか覚悟しておけ。
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『もっと寄せなさい』
『む、無理ですぅ』
『無理というのは嘘吐きの言葉らしいわよ』
そんなこと言ってもだな、結果論だから。俺は不死身だって言ってても、いままで死んでいないって確率の問題だったりするじゃん。今までとこれからが連続している現象ならともかく、常に独立した確率なら過去の結果は参考にならない。
「だが、無理でもやってもらう」
『仕事だからね。もちろんやるわよ!!』
『ひぃぃぃ』
なんでAIがビビってんだよ!! 変なキャラ付けすんな。
高速で移動し急減速しつつ、宙兵を敵艦に見立てた『知床』に送り込む練習。これが、寄せるのが難しい。俺達が軽巡に寄せた時よりは、推力偏向ノズルに変わって機動や減速が楽になってるはずなんだがな。
結局、二隻で交代しながら訓練するしかなく、一月くらいはこのままのようだ。とはいえ、腕が鈍るということもあり、新人教導隊員がPFSを使った訓練を行うのに便乗、カーゴスペースに宙兵小隊を載せ、移乗の訓練を行うことにした。まあ、PFSは数あるからな。
しかしながら、PFSのAIは『晴嵐型』よりもずっとシンプルなサポート能力しかないので、艦が小型であることによる操作性のメリットをサポート力不足で相殺してしまう。
「けど、民間出身の宇宙船乗りも悪くないのは意外だ」
「採用を変えたんだよ。一期は予備士官の高級船員中心だったんだがハズレが多かった。で、二期以降は小型艇の経験者中心に採用を変えたんだ。それだから慣れているというのもある」
「なるほどな。大型船ならともかく、君たちの艦隊の主戦力は小型艦的な多用途艦だからな」
そう、特に大型貨物船なんてAIが既定の通り運航してくれるので、船長なんかは資格者として必要なだけの存在だ。弁護士事務所の仕事の大半は弁護士本人じゃなく、事務の人が書類を作って弁護士は自分の名前でその書類を出すって感じだろ? 法曹資格が必要な仕事だからな。
船長もそういう宙技士の資格持ちが必要だからという意味が大きい。まあ、非常事態でAI任せに出来ない時に真価が問われる仕事でもあるんだろうが、そんな事は一生に一度くらいだろ?
「そういう意味では、AI任せにしない構内の細かな作業を毎日沢山こなしてきた小型舟艇の経験者の方が、資格は無くても経験では上だと判断したまでだな」
「……艦隊の上層部にはできない判断だな。だが、それでこその新設部隊なんだろう。楽しみだ」
「おう、楽しませてやるから付き合え」
AI副官には不慣れであっても、小型艇の艇長経験者なら毎日のように行っていたことだろうから、この辺りは確認して『強襲揚陸仕様』の艦長にするようにした方が面倒がないな。
その辺りは、一期生の中から見繕うことにする。例えば……クドゥとかだな。え、できなかったら「クドウさんは出来ないんですかぁ」とか言っとけば、無理してでもやるだろ? いざという時、躊躇せずに使い潰せる存在って大事だと思うの。マジで。
実際、そうした方が本人も周りも判りやすくていいじゃんね。流石に、戦隊司令が率先して危険な仕事をこなすってのも困るし、俺のとこ他に当てになる艦長いないんだからしょうがないだろ?
どこかのやれやれ系英雄じゃないが『給料分の仕事をしよう』って奴だ。民間とさほど差があるわけじゃないと思うだろうが、軍人は労働法の適用除外だし、一部人権も制限されている分、それなりに高給になる。
加えて、階級が上がれば飛躍的に給与も増えるし恩給も増える。退職後の選択肢も当然増えるので、任官早々『宙尉』にしてやったんだから相応の働きをしてもらう。主に危険方面でだな。
教導隊での候補生時代、色々つっかかってくれて良かった。これで罪悪感を持たずに死地へと送り込めるというものだ。旗下の乗員については二階級特進で報いることになるかもな。
ほどなく、ヤマト経由で宙兵隊司令部からの半ばクレームに近い問い合わせが統幕に行われ、ゴトウに配置される第五機動艦隊所属となっている『晴嵐型』二隻、『初嵐』『谷嵐』に『強襲揚陸モジュール』各三セットを装着した状態で乗員ごとこちらに廻す手はずとなった。ナカイもちょっと喜んだ。
元々オキナワから抽出した四隻のうちの二隻で、後続の部隊が到着したこともあり、俺達のところに厄介払いされたのだろうと推察。こちらとしても、馴染みある艦船と乗員なのでありがたい限りだ。
もっとも、あいつらからすれば機動艦隊から輸送艦隊に転属になったのだから面白くないかもしれない。司令官はナカイの方がずっといいぞ?
「また元のメンバーに戻ったわね」
「一応な。『晴嵐型』に慣れているクルーがこっちに来てもらえるのは正直助かる」
ナカイも顔なじみが増えて少し気が楽になりそうだ。まあ、やっている事は新規事業ばかりだから、新しい人間関係が減るだけでも心理的に楽になることだろう。
「ヤマト宙佐は相応に期待されているという事でしょうね」
「将来の宙兵隊総監とかなのかもな。知らんけど」
宙兵隊のトップは『総監』と呼ばれる。宙将職だが、統合幕僚長になることはおそらくない。やっぱ、艦隊司令官もしくは、宙軍司令長官経験者がなる場合が多いな。ヤドカリ扱いの宙兵隊は一段下に見られる組織だからだと思われる。人数も少ないしな。
「宙兵隊は独立した組織になれば、また変わるんだろうけどな」
「USAは艦隊とは別組織で、宙軍艦隊は運ぶだけのお仕事みたいですもの。将来的には、機動支援艦隊で上陸から支援・補給迄全て贖う事もあるかもしれないわね」
そうするとだ、規模にもよるが、数個艦隊を有する規模になりかねないな。その時は、第一とか方面別に名称を付けるのかもしれない。けど、それだと支援機動艦隊の司令官席が増えちゃうから、艦隊派や統幕は気にいらないことになるだろう。艦隊派から人員を受け入れるという話になるかも知れない。
と考えると、余り早急に機動支援艦隊の規模を拡大するのは得策ではないだろうな。ナカイの存在が宙軍全体において相応に大きくなるまでは地味な後方支援に徹している方がいいと俺は思う。
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