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053 機動支援艦隊の発足―――『嚮導艦』(参)

誤字訂正・ブクマ・評価・いいねをありがとうございます!



『スイミー』とは魚の餌の商品名ではない。確かによく食べる大好きスイミーだが。


 童話『スイミー』は、ニッポンに馴染み深い作品であるのは作家ではなく、翻訳者である谷川俊太郎の文が小学校の教科書に掲載されたからだな。正式な題名は『スイミー―ちいさなかしこいさかなのはなし』だ。


 仲間を失った『スイミー』が隠れ潜んでいた仲間に似た小魚たちと出会い、大きな魚に食べられることなく自由に海を泳げるようになるため、群を作り大きな魚の振りをする決意をするという展開だ。


 作者の意図は、群で撃退する事ではなく、変わり者のスイミーが群を失い一人世界を彷徨い自分を取り巻く環境を改めて認識するというところにあったみたいだが……ニッポン人はそっちにはいかなかったんだよ。


 ということで、俺は『晴嵐』という雑魚を機能別モジュールを組合せ大型戦闘艦のように運用しようと考えている。まあ、小型艦の集中運用が必要な局面もあるだろうが、その時はそうするだけだ。


「あれ、良く見るとキモいですよね」

「……失礼だろ」


 確かに、小さな魚が集まってっての、教科書だと一部だけ挿絵が入っているけど、本来は絵本だからね。小魚が群れる絵は虫が集っているみたいできもい事はキモいっすわ。


「四隻で軽巡、八隻で装甲巡なら、この艦隊で十分一個機動艦隊相当の戦力を発揮できるわね」


 ただし防御力を除くって奴だな。いや、正面装甲だけなら装甲巡洋艦並みだから。敵と常に正対しないとけません。ナカイもその辺は分かって洒落で言ってるんだよね。まじじゃないよね。





 ということで、四隻単位の密集隊形での艦隊運動の訓練中。基本的な操艦はAI副官任せ。つまり……AI副官同士が色々やり取りをしている。


『あんたたち! びしっとしなさい!!とくにマアサァ!!! 』

『は、はいぃぃぃ』

『了解』

『うち、輸送艦のはずなのにぃぃぃ』


朝凪・夕凪に加え『清霜』が加わる四隻のフォーメーション。『清霜』のAI副官は『セイ・キヨシモ』。別に聖女ではない。なぜに一人称が「うち」なんだよ。


 ヤエガキ率いる第二戦隊が強襲側、そして、密集して対宙パルスで迎撃するのが俺達第一戦隊だ。


挿絵(By みてみん)


 最弱迄パルスレーザーを弱め、チュンチュンとばかりに艦首シールドで射撃を弾く。


『弾幕薄いわよ! なにやってんの!!』


 UCならではのお約束。艦長で戦隊司令と役職的には被るが、俺はそんなこと言わない。


『主砲、対宙パルスに混ぜて発砲』

『ええぇぇぇ』

『了解』

『! 了解すんな!! 演習でしょこれ』

『演習ではない。繰り返すわよこれは演習ではない』


 カスミ……演習だろこれ。


 第一戦隊は対宙砲火に主砲を混ぜ始めた。シールドに過負荷をかければ当然シールドが破壊される。しかし、それが狙い。AI副官が回避運動を試みると正対していたため効いていたシールドの無い側面に対宙パルス砲が命中し始める。


『み、みなさん。回避運動を試みてはいけません。これは罠です!』


 腹黒副官AIが第二戦隊のAI副官に働きかけるが、既に時遅し。『浜嵐』を除く四隻がなんらかのダメージを受ける結果となる。


『シミュレーション終了。全艦お疲れ様でした』


 おう、これはシステム上の演習だからね。乗員は勿論乗っていないし、各艦習熟訓練中の裏で、AI副官だけで演習をしていたわけだ。AIとはいえ、学習させる必要がある。特に、既存の方法論にはない『輸送艦』に「スイミー」させるんだからな。目玉はカスミなんだろうな。いや、腹黒いの『黒』つながりで『浜嵐』かもしれん。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 今まで撃っても当たらないからって主砲の陽電子単装砲で対宙射撃したことなかったが、集中運用するとなればその考えはありかもしれん。AI副官に教わる俺、艦長の鑑だろ?


「シールドの隙間を突くために主砲発砲だけど、実際、シールドの無い面ならショボい陽電子砲でも撃ち抜けるかもだよね」

「まあな。それと、射撃されている当たっているという感覚は実ダメージがなくてもいやなもんだろ? 嫌がらせの一環としてありだな」

「うわぁ、我が兄ながらひくわこの戦隊司令」


 なにいっちゃってるのナツキたん。人の嫌がることを進んでするのが戦争でしょうが。


 新人艦長が多数いるので、今回のAI副官演習の映像を見ながら、実際九隻でどのような艦隊運動を行うかを検討する場を設けているわけです。商船出身の艦長も混ざってるしな。えーと、クドゥ宙尉とかだな。一応、年齢と経験、半年の訓練機関での成績で宙尉か准宙尉スタートに振り分けた。クドウ宙尉はさっさと先任になってもらって、戦隊指揮官くらいになってもらわないと正直駒が足らないんだよ。


「AI副官任せで済むのは助かるが、俺達の仕事は何なんだ」


 と、戦隊司令様にタメ口をきくのがムカつくが、まあそれは追々わからせればいいかと思い半年。正式任官してもまだ改善できておりません。ぶっ飛ばすぞ!!


「クドウ宙尉、ツユキ宙佐に対して失礼だ。お前、アラサーになっても学生気分が抜けない馬鹿か?」

「……し、失礼した。戦隊司令殿、その点教授して貰えるだろうか」


 俺はヤエガキに目を向ける。お前も戦隊司令だろ?


「そうだね、簡単に言えばAIは決断をしない。普通はね。だから、艦長が、戦術士が航宙士が機関士が情報士が命令をする。決断し、命令をするのが仕事。AIは慮ったりしない。だから、正確になにをどのようにしてもらうか命令するのが仕事だよ」


『雪嵐』のカスミは、色々自己主張が激しいので誤解しがちだが、勝手に行動することはあまりない。たぶん。


 提案や選択肢を提示することはあったとしても、決断するのは人間。言い換えれば、下士官兵が担うことを省人化された『晴嵐型』多用途艦ではAIが熟してくれる。だから、人間がする仕事は指揮命令なんだよ。


「だから、平時の勤務はホントやることがない。問題があれば教えてくれるし、報告は正確。ただし、打てば響くような反応を引き出すには……」

「AIとの関係を深めないと無理だ。なにができて何ができないのか、どこまでできて、どこから先は人間の仕事なのか。理解することがまずある」


 その上で、AIのできる範囲を拡大しなければならない。教えたことしか出来ない部下みたいなもんだ。指示待ち人間とも言うが、指示したことは正確に行ってくれる。だから、裁量を与える範囲を設定し直し続ける必要がある。設定してしまえば、あとは人間のようなご判断をしない分、安心して任せておける。


 ミスが起こるとすれば、指示側・設定側の問題って事だ。


「なにか……思っていた仕事と違います」


 と、別の教導隊出身の新人艦長が口にする。


「ねぇ、なんであなたの思っていた通りの仕事を軍がしないといけないわけ?理不尽な事なんて他の艦隊に比べたら、全く無いじゃない。甘えるな」


 ナツキ怖えぇ。日頃ニコニコしている分、こういう時のギャップが逆に怖さを倍増させる。ほら、いい年したオッサンがプルってるじゃん。ナカイなら言われる覚悟ができている分耐えられるが、ナツキの場合完全不意打ちなので、ダメージがでかいんだろうな。


 ほら、空気がピリついてきた。


「先ずは習熟訓練をして貰っている最中だからな。実際艦を動かすのはAIだし、AIも習熟中だ。それに、実際に戦闘になれば、考えたり悩んだりする時間なんて無いからな。まあ、慣れてくれ」

「民間とは考え方もやり方も違う。それに、ここは既存の艦隊とも違うから常に新しい事に取り組まされることになる。過去の経験を参考にするのは否定しないが、囚われたり拘ったりすると……」

「死ぬよ。軍隊だからね。覚悟しておかないと、イザという時固まっちゃって死んじゃうよ」

「「「「「……」」」」」


 士官学校卒は入学した時から何年も積み重ねて来たものがある。その中でわりと重たいのは死生観だと思うんだよな。遺書を定期的に書くということもある。


 普通、民間で宇宙船に乗っている時に、そこまでする人はあまりいないんじゃないだろうか。


「追々といっても、もう半年以上たっているわけだし、正式任官した軍人だから娑婆の常識はそろそろ捨ててもらおうか。でないと、命にかかわる問題を起しかねないぞ」


 という感じで、さんざん古参の士官で脅しをかけておく。操艦の技術が優秀でも、民間としてはそれで十分かもしれないが宙軍ではそれだけでは十分とは言えない。冷静さとは混乱しない事ではなく、混乱から回復する時間的速さの問題だという定義があるが、それは駆逐艦乗りに必要とされる事でもある。


 大体、素人混じりの十人とか七人で軍艦一隻動かした上に、戦闘迄こなそうなんて、考えた俺でもどうかと思うもんな。だがしかし、やるんだよ。愚痴を聞いたり文句を言うのはかまわない。でも、良いからやれ。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




『機動支援艦隊(UMF:Universelift Mobile Fleet)』となってから、ナカイの仕事は激増している。編成中という事もあるが、全くの新設艦隊であるということもある。


 今までの戦隊司令の仕事は俺とヤエガキが行えばいいのだが、例えば、新設艦隊の母港となるシコク星系の『トクシマ』要塞に新しい司令部を置き、さらに数十隻の艦艇の整備施設や補給設備を整え、演習宙域を設定し法的な手続きも取らねばならない。


 定期的に宙軍省や統幕へ報告書類を上げなければならない。教導隊の司令部としては問題ない規模であったが、機動艦隊としては相当足らない。宙軍省やトクシマから応援も来てくれているのだが、正式な配属ではなくあくまでもお手伝い……


「ふぅ。申し訳ないわね」

「いつものことだ。それに……」

「ええわかっているわ。ここからが本当の勝負……でしょ?」


 艦隊は手に入れた。だが、その実『輸送艦』をまとめているだけだと認識されている。自衛のために武装するのは構わないが、あくまで戦闘艦ではない……とされている。


「航空母艦も最初はそんな感じだ」

「……そうね。画像で見ても、いろんな試行錯誤が見て取れるわね」


 もうメチャクチャだよな、フューリアスとかさ。母体となった艦種が『軽巡洋戦艦』だぞ。なにその艦種。大東亜戦争末期、起工した最上型巡洋艦の後期型を小型航空母艦に変更しようとした『伊吹』ってのもあったが、運用には無理があるだろ。小さいし。


「俺達もそんな感じというわけだな」

「それと……この案、通りそうよ」


 輸送艦隊の本拠地に、『宙兵隊』の一部を駐屯させ、派兵の際に速やかに搭載して移動するという提案だ。規模は大隊かその程度になるだろう。


「良く説得できたな」

「増員を考えているんだそうよ。その訓練施設もこの星系に作る予定と重なってちょうどよかったみたい」

「なるほどな。強襲揚陸艦代わりに俺達の船を使って実習も考えているんだろうな」

「ちょうどいいわ。こちらも訓練メニューと揚陸艦モジュールを調達する理由がつくもの」


 当然、宙兵隊を守るための兵装系モジュールや偵察のための索敵・無人機モジュールも増やせるな。いいことだ。


 気になる点が一点あるけどな。




 ハヤト・ヤマトの大隊がやってくることだよ。



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