052 機動支援艦隊の発足―――『嚮導艦』(弐)
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『迅鯨』の進宙式に出席し、ナカイが命名。再びニュースで取り上げられ、未来の『機動輸送艦隊』の旗艦であると紹介された。もうこれで、『迅鯨』をナカイから取り上げる事は出来なくなったな。ざまあ。
こうしている間に、一期生が正式に『機動輸送艦隊』に配属され、替わって二期生が『教導隊』に配属される時期になった。半年たつのがはえェ。
そして俺が『第一機動輸送戦隊司令』ヤエガキが『第二機動輸送戦隊司令』となった。まあ、戦隊といってもいまだ各四隻編成の戦力的には未充足の戦隊だ。
「ツユキ戦隊司令」
「なにか、ヤエガキ戦隊司令」
「いや、呼んでみただけ。似合わないなって」
「おい!!」
ナカイの腰巾着道を究めた俺達がおこぼれで戦隊司令になったと、世間では思われている。特に宙軍の機動艦隊配属組。
だがしかし、言いたい。お前らも駆逐艦で装甲巡洋艦撃沈してみろって。あと、戦艦二に二隻の駆逐艦で突撃して足止めてみろって。
宙佐になるのも、平均より十年は早いからな……ナカイに至っては十五年は早い。アラサーの准宙将って聞いたことがない。野戦任官ならあるらしいが、現実的じゃないよね。
命令するのに階級が必要ということもあるのだが、階級さえあれば適切な指揮が採れるのかって問題もある。命令するのに階級が必要だが、命令の内容が階級だけで担保されるのかというと疑問だ。
准宙尉に宙佐の階級を与えても、できることが宙佐になるわけじゃない。そういう話だな。
なにが言いたいかって? 戦隊司令の仕事ができるから戦隊司令に補任されたってことを、世に知らしめなきゃならないってことだよ。まあ、そう遠からず宙国艦隊の侵攻が始まり、俺達も前線の後方に出撃することになる。
――― いったいどこなんだよ、前線の後方って!!
いや、わかってますよ。こういうのって、前線の戦闘に関わらない位置で待機している輸送艦隊に敗走……転進してくる味方艦隊が『邪魔だ!!』と退路を塞ぐ輸送艦を砲撃したりするんだよね。
まあ、近距離で戦艦の主砲クラスじゃないと、『晴嵐級』の艦橋周辺に展開される「シールド」を貫通できないから、多分大丈夫じゃないかな。むしろ、宙雷で正面からぶっ飛ばしてやんよ。
輸送艦の際にも、モジュール1個分は宙雷発射機を装備しておく。一個戦隊九隻で三十六発分、戦艦にぶち込んでやる。
等と物騒なことを考えていると、背後から声がかかる。
「つまらない事を考えていないで、新任士官どもに喝を入れる方法を考えなさい戦隊司令」
「……畏まりました司令官閣下」
そう、『雪嵐』の艦橋に司令官閣下がいらっしゃる。まあ、輸送艦が旗艦か駆逐艦が旗艦かで悩むところだが、敢えて言おう! どっちもねぇよと!
とは言え、特設艦・特務艦といった民間徴用艦船ばかりを集めた艦隊の場合、一番大きく司令部設備も置きやすい客船なんかを旗艦にしていたみたいだけどな。なので、『知床』でいい気もするが、あれで実際の訓練に立ち会うのは難しいし、コストもかかる。あれは、置いておく船だよね。何も輸送しないんだしさ。
という理屈で、今の時点で『雪嵐』は『嚮導艦』として仮旗艦扱いとなっている。でもさ、戦隊司令部と艦隊司令部って同じ艦にあったとしても別フロアだろ?
実際、『巡視船』『情報収集』『無人機』のモジュールを装備しているので、情報収集モジュールにある旗艦装備で一通りのことができるし、巡視船モジュール内の施設で司令部人員も余裕をもって生活できているはずだ。なのに、なんで艦橋に居座るんだよナカイ!!
「艦隊行動は第一第二戦隊が完全充足するまで難しそうね」
「実際、一個戦隊だしな。『迅鯨』がないと、艦隊の指揮偵察能力も足らない。司令官の仕事にも支障をきたすだろう」
「そうね。『知床』『下北』と『迅鯨』が揃って支援艦隊としてはようやく機能するのですもの。今は開店休業に近いわね」
『下北』は大隅型拠点建設母艦の一隻で、機動支援艦隊への配属が決まっている艦なのだが、現在艤装中で実際、シコク星系に回航されるまで半年程度かかるとされている。
「時期的には二期生の配属後、丁度いいんじゃないかと思うがな」
「三期生を加えて演習航海といった感じになるのかしらね」
今まではトクシマの基地の一角で教育訓練を行っていたわけだが、『大隅型』や『迅鯨』であれば、二百人程度の新人の教育と宿泊施設を確保することはどちらでも容易だと言える。
そうなれば、トクシマ要塞にこだわる必要はなくなる。『機動支援艦隊』は名目上シコク星系に配置されることになるのだが、司令部のオフィスこそトクシマ要塞内にあるものの、配置された職員以外の司令部要員は全て艦上にいる。司令部機能は現在『雪嵐』内にあるんだなこれが。
ナカイはお嬢なのに狭いところでも大丈夫なんだな。まあ、士官学校入学以来、こんな人生なのでもう慣れたというところか。
既に二期生が各艦でクルーに加えられ実地研修中である。シミュレーターと艦船を使った教育をローテで二グループに分け行っている。採用人数が二倍に増えたからな。一期生も立派な新人クルーだし。
一期生と二期生の違い。これは、採用の時点でかなり変えたということもあるが、何よりの違いは『教導隊』を卒業した後の配属先が基本的に『機動輸送艦隊』勤務である事と、その存在が既知のものとして知られていることにある。
言い換えれば『サキシマ回廊の英雄』の旗下に所属するというモチベである。艦隊設立からこっち、マスコミで色々取上げられているからね。二期生はナカイ司令官に対する期待値が高い。
それに、いわゆる予備士官からの登用を減らし、小型艦艇の航宙士を中心に採用を進めたという点も恐らくプラスで働くだろう。艦隊派のおっさんの亜流みたいなのはいらん。
「司令、今日はよろしくお願いしますね」
「は! 承知いたしました閣下」
「……二人の時は今まで通りでいいのよ。疎外感を感じるわ、わざとでしょう?」
閣下呼びが気に入らないらしい。俺も知り合いに『司令』呼びされてもやっとしたから理解できないではない。
「わかった。今まで通りだな」
「この艦隊にお互い所属している間は、これまで通りにお願いするわ」
「承知した。まあ、今までの面子だけなら問題ないんだがな」
「問題が起こりそうな存在は余所にくれてやったので、問題は起こらないのではないかしら」
確かに。一期生の使い勝手の悪そうなおっさんたちは、星系防衛艦隊や機動艦隊に送り込んでやった。解っていなさそうだが、本流の士官学校卒からすれば、予備士官のような『偽物』を仲間扱いしないって事を考えると、居心地は相当悪いはずだ。今まで自分たちが民間時代行っていたような対応を、今度はされる側に立つわけだからな。
「それなりの経験を持っている船乗りなのだから、軍を退役しても再就職は容易なのでしょうね」
「いや、どうだろうな。待遇ばかり求められるのもうんざりするだろう?」
民間と軍の両方の経験を生かせる職場って……水先案内人とかならいいかもしれないな。とはいえ、船長を経験して王様気分を味わった奴らが喜んでつく職業でもない。あれは職人気質が求められる仕事だしな。
「あの方達の人生はあの方たちのものですものね」
「その通り、何を望むのも勝手だがここでは望む物が得られないことくらい理解できたんじゃねぇの」
自身のキャリアに箔をつけるとともに、今まで以上に厚遇される事を期待してたんだろうな……ありえないけど。何のために民間から補充するようなことをしたかって、戦争のためじゃんね。
そもそも、必要となるのは補助艦艇の数であって、主力艦はそう簡単に増員できないんだから、そんなところに配属されるわけがないし、配属されたとしても要は補助要員だ。
「そのうち、艦隊派や統幕の奴ら、俺達に頭が上がらなくなる」
「……どういう意味ですか?」
何故かきゃるぴんも艦橋に現れた。こいつの場合、首席幕僚殿の視界に入らないように適当な理由を付けて逃げてきたんだろうな。仕事しろ!!
「この艦隊で募集する人間の数は後せいぜい四百人というところだ。だから五期以降の配属先は余所になる」
「それがどうかしましたか?」
機動支援艦隊の大型艦三隻と宙雷戦隊四個三十六隻に必要な人員は凡そ七百名から八百名の間。このうち、大型艦二隻は未配属である。駆逐艦だけなら次の期で揃ってしまう。人員だけな。
「戦隊司令の言いたいことは、この教導隊の人事考課の権限は教導隊司令である私にあるという事なの。私が『戦闘艦に乗艦する適性なし』と評価して卒業させた場合、その人間を戦闘艦に乗せることは困難になるわ」
「あいつらだって、戦闘艦が仕上がって来るニ三年後に人手が不足する事がわかっている。士官学校の定員を倍増させ、四年を三年の短期教育で済ませたとしても、1.5倍になる艦艇数を維持する人間を揃えるのに十年以上かかるだろう」
その間に開戦となれば、既存艦隊の戦力低下に、未充足の新造艦を揃えた艦隊で迎え撃たなければならない。
戦闘艦、特に戦艦は稼働する時間が平時は短い。金がかかるからな。動かせば動力関係もヘタるし、射撃をすれば砲兵装関係も損耗する。だから、訓練も慎重になるわけだ。
俺は思うんだが、優秀な奴らを大型艦に配属するのは、動かさない船で経験が少なくともまともに運用させる為じゃないかと思う。優秀か否かの差は士官学校程度なら、その習熟時間の短さで評価されるだろ? そもそも、基礎課程で奇抜な発想など否定されるからな。
動かせば金がかかる大型艦を動かして訓練しなくてもそれなりに扱える。言い換えれば、輸送艦や小型戦闘艦のように平時でも警邏や輸送で移動し、常に何らかの問題対応に迫られる乗員は最初ポンコツでも経験により大いに成長することになる。
そういう意味で、経験を持っている民間からの採用者は新造艦や経験者の抜けた機動艦隊の大型艦に必要とされているのだ。
それがナカイのさじ加減で供給を絞られるとするなら……どうする?いや、実際にそれをするしないにかかわらず、ナカイに首根っこを掴まれていると感じるならどうなるかだ。
「じゃあ、教導隊に別の司令を送り込めばいいじゃないですか」
「私の部下になるのよ? 艦隊派の誰がそれを望むのかしら。最終的には私が監査するのだから、それなりの影響力は残るのですもの。かなり嫌な役割よね」
だよな。ナカイの部下で監視を受ける役目を受ける奴がいるかどうか。少なくとも先任宙佐クラスでだ。本来なら、機動艦隊の戦隊司令か、機動艦隊司令部の主要幕僚。恐らく、准宙将確定の人間ばかりだ。
それが『教導隊司令』のような二線級の役職に就いたら、機動艦隊幕僚長や艦隊司令官への道が遠くなってしまう。もしくは上に上がれなくなる。そういうポストではないからだな。
ナカイが昇格したのは、新設艦隊だったからであり、本来なら教導隊司令から艦隊司令官にはならない。
「なるへそ、良く考えてますねこの組織配置」
「だろ。会心作だぜ」
ナカイ組によるナカイの為の新設組織だからな。
「問題は、輸送艦隊として立ち上げている点で、武装に関する充足が遅れていることかしらね」
「艦艇数もおなじだから仕方がない。戦隊単位での訓練はこれからだな」
「なにするんですか?」
『晴嵐型』駆逐艦は一隻一隻は雑魚以下のザコだからな。これを一個戦隊を一つの艦のように運用することで、戦力として効果的に活用することになる。
「例えば、対宙パルス砲な。あれ、一隻に三門しかないだろ?」
「はい。はっきりいってショボいです」
知っとるわ!! だがしかし、八隻なら二十四門、半分の四隻でも十二門となる。
「四隻を一塊として機動させれば軽巡並み、八隻なら装甲巡洋艦並みだな。つまり、『晴嵐』自体をモジュールとして考える。指揮観測する部分、主砲を担う部分って感じで一隻の大型艦のように活用するわけだ」
そう、俺は思った、これは「スイミー」なんだって。え、知らないのかよ。ニッポンの初等教育の教科書に必ず掲載されている小魚が集団で大きな魚に立ち向かうお話だよ。あれは、ニッポン人の琴線に触れる作品だよな。柔よく剛を制すとかそういう感じがする。
誰だ、大は小を兼ねるとか言ってるやつ!
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