051 機動支援艦隊の発足―――『嚮導艦』(壱)
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シコク星系から再びホンシュウ星系へと向かう俺達なんだが、今回の目的は二つある。
一つは、『機動支援艦隊』の発足式であり、また、それに伴うレイ・ナカイの宙軍准宙将への昇進と司令官の辞令式の為である。ついでに言えば、俺とヤエガキは宙佐・戦隊司令となり、ミカミは准宙佐に昇進することになる。
戦隊司令は宙佐職なんだよぉ!! 宙軍士官学校卒の場合、退役迄に宙佐に至るものが半数弱なので、まあ卒業席次からすれば、俺達はその範疇に十分入るから不思議ではないのだが……ちょっと早すぎ。
有事と言うのもあるのだが、准宙佐までの昇格は戦功次第でドンドン上がるという部分が大きかった気がする。ナカイはプラス艦隊派への牽制という宙軍省を始めとする官僚の意向もあるんだがな。
宙佐から上に上がる確率は四割強。大体、全体の二割弱というところが毎年次の確率らしい。将官は……勘弁してほしい。閣下呼びはちょっとなぁ。ベレー帽被った男並みに似合わない。あれはうだつの上がらない若手研究者風だが、おれは超フツメン(平均よりやや下)のちょっとだけ優秀な男だからな。
とはいえ、組織としては尖った使いにくいやつよりも、何でも平均的に熟せる方が使いではいいんだろうけどさ。ナカイのサポート役としてはそれで十分だ。
今一つは『迅鯨』の進宙式にナカイが出席するそのお供だな。シャンパンがパリンと割れてくす玉の中から『命名***』と垂れ幕が下がるあれだ。来賓の奥さんがその命名役を果たすケースが少なくないが、今回はナカイが女性であるという事もあり、司令官自らが未来の旗艦(仮)に命名をすることになる。今からつばつけとこうというところだな。
それと、公務も今まで以上に増えるその一環でもある。
首席幕僚殿は今回も御留守番。ナカイと同じタイミングでは昇格せず、といっても十分早すぎる宙佐なので特に問題ないのだが、機動艦隊の首席幕僚なら本来准宙将クラスでなければ第二指揮官としては微妙なので、代将相当に当たる『先任宙佐』に一先ず昇格することになる。らしい。
ナカイのゴトウ先遣艦隊の指揮官になった時と同じだな。
ということで、俺はナカイの後ろに立って、辞令を受け取る姿を見ている。
「レイ・ナカイ。貴官をニッポン宙軍准宙将に任ずるとともに、新設される機動支援艦隊司令官に補任する」
「謹んで拝命いたします」
という感じで、きらびやかな礼服ということもなく、単に袖章の帯が一本増えた程度の変化だが、ナカイも『閣下』と呼ばれる立場になった。そして、『輸送艦』とはいえ、自身の機動艦隊を手にする事になったわけだ。
このまま何年か務めれば『宙将』に昇格して、陸上勤務に回るか正式な機動艦隊司令官もしくは要塞司令官を経験して……退職……させてくんねぇだろうな。戦時中だし今。
「アツキ・ツユキ。貴官をニッポン宙軍宙佐に任ずるとともに、新設される機動支援艦隊戦隊司令に補任する」
「謹んで拝命いたします」
俺も呼ばれて辞令を交付される。まだまだ先は長いんだこれが。なにしろ、『新設艦隊の発足記念パーティー』もこの後、催されるからな。ナカイのお披露目式でもあるので、宙軍省の官僚たちが手ぐすね引いて待っている。
これも広報の一環。ニュースネタの提供。
明日のニュースで『機動支援艦隊』の発足とその意図が流され、ナカイが司令官として喧伝される。ついでに、先日の対談の内容が国営放送のニュース番組の特集で流されることになる。
「ルミ・ミカミ。貴官をニッポン宙軍准宙佐に任ずるとともに、新設される機動支援艦隊戦隊司令部幕僚に補任する」
「謹んで拝命いたします」
という感じで、きゃるぴんは「ニュースに出ちゃいますかねー」と浮かれているが、ナカイのところだけに決まってんだろ! もしくはワンカット1秒くらい出るだけだろと思う。というか、軍服着て並んでいる映像とかどうでもいいだろ。
とはいえ、これも機動艦隊の脳筋野郎どもには腹立たしいんだろうな。自分たちが補任されてもニュースで取り上げられる事なんて絶対ないからな。オッサン映してどうすんだよという事なんだが、自分たちの需要の無さに思い至らないらしい。
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パーティーには撮影クルーも入り、ナカイを中心に様々な軍のお偉いさんや宙軍族議員がワラワラと集まってきている。あー ナカイ的には将来この手の人間と関わりを深めないといけないのかぁ。運転手には関係ないが、顔と名前くらいは覚えておくべきなんだろうな。まあ、俺が接するのは、こいつらの秘書や事務員なんだろうけれど。
「ナカイ家のご令嬢が司令官とは、御父上も御歓びでしょう」
「責任重大だと受け止めております。家名に恥じない働きを期待すると父には言われております」
「はは、サキシマ回廊の英雄なら安心してお任せできます閣下」
お、さっそく閣下呼びかよ。実際、女性の将官はそれなりに存在するし、陸上勤務であれば半数は女性将官が席を占める。というか、艦隊派に入れないからな。あそこは、脳筋おじさんの巣窟だから。
しかしながら、『艦隊司令官』それも新設の艦隊の司令官に補任される女性将官は史上初めてであり、尚且つ、史上最年少の将官となるのだから『英雄』でなければ不可能だったろうな。
古典的SF作品においても、輸送部隊の指揮官を女性士官が務めるという設定は少なくない。また、名作古典作品においても、主人公の少年を庇い、輸送隊の指揮官が乗る輸送機が盾となり戦死するというシーンが登場する。まあ、輸送機が戦闘機の盾になるのはどうかと思うがな。
「しぇんぱい」
「なんだ、エチケットルームは部屋を出て右……」
「ち・が・い・ま・す!! もう!!」
くきゃるぴんがもじもじしているのが珍しく、つい揶揄ってしまう。
「いやー 司令の育ちが良いのは知ってたけどさ、パーティー慣れしているって感心したよ」
ヤエガキが小声にならない小声で話しかけてくる。幸い、ざわついている会場内ではさほど目立っていない。煩いに感謝。
「そうそう、わたしもそう言いたかったんですよ」
「地元に帰ると、父親の後援会関連のイベントに呼ばれるからな。子供のころから馴れっ子みたいだぞ」
「ああ、そういうことだよねー」
むしろ、ナカイに関してはこっちが本命であるくらいだからな。将来、族議員として立派にお国とチバラキと実家の為に貢献するには、こうした場に身を置き布石を打って行かなきゃならない。
なので、おそらく内心腹立たしく思っている統幕メンバーや機動艦隊司令官たちとも笑顔で歓談しなきゃならないし、嫌みも総スルーしなければならない。こんな具合にだ。
「しかし、いくら後方とはいえ、女性の将官に艦隊を指揮させる時代に立ち会うとは思いもよらなかった」
「確かに、過去の事象から未来を推測するのであれば、そのように感じる事もあるでしょう」
みたいな感じだな。ジジイは「後方とはいえ艦隊司令官に女がなるような時代に巡り合わされて不快だ!」 みたいな感じだし、ナカイは真っ向から「てめぇみてぇな脳筋テンプレ親父には、過去の事例を孫引きするぐらいしか脳がねぇんだろう? 士官学校の試験じゃねぇんだよ現場は!言い返しているいるわけだ。
因みに、士官学校の試験の解答は試験を作成した教官の思想・性格を加味して作成しなければ高評価を得ることは出来ない。望むものを与えなければ正解とはいえ『優』も『良』ももらえず『可』止まりなのだ。
軍人も役人の範疇だから、上司の望む答えを回答するという配慮が求められるんだよ。現場に出ればそれはどうとでもなる。何故なら、結果がすべてであり、戦功が全てを肯定するからだな。
教官に文句を言われても『軽巡と駆逐艦五隻で戦艦二巡洋艦八を撃退してから言え』と反論できるからな。それと、あの時の実践内容を答案に書いたとしても、絶対評価してもらえない。むしろ、「なに考えてる」と呼び出される迄あるだろうな。
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ナカイの名前がニュースのトップになり、『史上初の女性艦隊司令官・最年少将官の誕生』という見出しと共に『サキシマ回廊の英雄』と改めて二つ名がついたレイ・ナカイである。
「この『サキシマ回廊の英雄』ってこの先、会う人あう人に言われるんですよね……わたしなら憂鬱になります」
俺でもだよ。戦中故の作られた英雄って側面もあるんだろうけれどな。国民の不安を取り除くために、後方の支援艦隊とは言え英雄を『艦隊司令官』に据えましたよと宙軍省も政府もアピールできるわけだ。
実際は、輸送艦部隊(仮)であり、お飾りの艦隊司令官だと艦隊派・統幕のおっさんたちは認識している。
そもそも、大昔の複葉機の時代、拳銃で撃ちあっていたんだぞ? つまり、最初に飛行機があり、飛行機で空中偵察されると地上部隊の配置が丸見えで不利となるから、その飛行機を追い払うためにパイロットが拳銃で相手のパイロットを撃った。これが空中戦の始まりだ。
船だって、自分の船を海賊船から守るために大砲を積んだことから始まって、物資があるときは貿易船、無ければ海賊船という時代もあったわけだ。
なので、輸送船も備砲を備え宙雷発射機を置けば『駆逐艦』になるし、無人機を多数発着させるなら『航宙母艦』になるわけだ。その辺り、宇宙船はより柔軟でもある。小型トラックに銃座を据え付けた『テクニカル』って改造即席戦闘車両も歴史上登場する。
そう考えると、『晴嵐』は「テクニカル」の末裔といえるかもしれない。
輸送船の船長さんに転職するんだ俺。運転手ダメだったらな。
ここ数日、民間の取材をかなりの数受け、疲労困憊のナカイ司令官閣下。今日は午後から半休をもらっている。実家に顔を出すのかと聞いたら「余計疲れるから今回はスルーするわ」だそうだ。まあ、行ったら行ったで休みになるわけないもんな、あいつの実家の場合。
「あー わたし実家から連絡あって、ちょっと映ってたみたいです! お母さんが喜んでました」
「あ、うちも!! あんた元気そうだねって久しぶりに話した」
きゃるぴんはともかく、ヤエガキは音信不通っぽい言い回しだな。公共の情報で家族の安否確認とか被災者かよ。
「いやぁ、艦上勤務だと寄港した時に連絡するとか、忘れちゃうんだよね」
「わかります。わたしも、幕僚になってから連絡できてないんですよね。今どこにいるかとか話せないじゃないですか」
その昔、海の底に潜む『潜水艦』という艦種があって、それ以外もそうなんだが、いつ出航していつ戻るとか一切知らせてはいけないって時代が長く続いたらしい。隠密行動が必須の艦種なので、行動を特定される情報を家族とは言え外部に漏らす事は憚られたんだと。
今は、星系を異にすれば情報伝達はメッセージカードで時間差のある一方通行の伝達しかできない。一人語りの映像メッセージで、双方向のコミュニケーションは同一星系内に限られる。それも、距離があれば何秒か時間差が生まれる。
「そう考えると、ツユキはナツキが同じ艦隊だから楽だよね」
「そうですよ! あ、もしかしてせんぱい、わたしと家族になれば連絡取りやすくていいとかも思ってませんか?」
「思ったことないな。ぜんぜんない」
そんなこと言ったら、ナカイもヤエガキも家族になっちまうだろ。大体、士官学校からこっち、同じ艦隊で勤務してるぞ俺達。
で、今は『機動支援艦隊司令部準備室』と呼ばれる仮設のオフィスの一角で三人でお茶しているわけです。
「でも、輸送艦隊で戦争するとか、発想がぶっ飛んでますよね先輩たち」
「そう? シールドの無いところに当たれば戦艦だって消滅するのが陽電子砲の威力でしょ? なら、あたらなければどうということはないよね」
「いや、当たったら消滅するじゃん」
「人間死ぬのは一度だけだよツユキ。悩んでもしょうがないよ」
いや、悩まないし。死にたくないだけ。
その昔「ミサイルキャリア」とか「空中戦艦」という発想があった。航空機にミサイルをたくさん積んで、それを射ち放つだけの母機としての役割が果たせれば良いという割きりだな。なら、積載量が大事でありそういう意味では輸送艦として役に立つ『晴嵐型』は優秀なんじゃないかと思う。当たらなければね。
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