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050 輸送艦隊を作ろう―――『無人偵察機母艦』(完)

誤字訂正・ブクマ・評価・いいねをありがとうございます!



『機動支援艦隊』というものが何なのか。


 輸送艦や工作艦、無人機母艦などを集約して配置し、後方から前線までの補給とその安全確保を行う組織になる。占領地を有するような戦争を行う場合、陸軍がそうした組織を運用した記録がある。二線級部隊と補給・修理部隊に治安維持の憲兵組織、教導部隊などがそこに含まれる。場合によっては軍政を一国に対して行う場合すらあるな。


 ニッポン宙域であるからその辺りは問題ないのだが、戦場となる星系においては戒厳令や軍による一時的統治が為される可能性もある。その時、ある程度の役割を果たすのが『機動支援艦隊』と一時的に『宙兵隊』の派遣部隊もそこに加わるかも知れない。つまり、ヤマトの奴が絡むかもしれないってことだな。


 可能性的には、予備役艦の管理運営なども移管されるかもしれないな。まあ、維持管理だけだから、戦闘力は無いんだけどさ。


「今までの艦隊運用とは変化するわけでしょうか」


 タテヤマ女史の質問にしばらく考えてからナカイが答える。


「統合幕僚本部を始め、宙軍全体としてどうするか、未だ固まっているとはいえません。USA宙軍のように、外征能力を有する艦隊の場合、長期の域外行動を可能とする強力な補給・修理能力を有する部隊を育成し確保しています。専守防衛を前提とするニッポン宙軍において、各星系とその星系にある要塞を保持する戦力があれば十分でありましたし、長期的継続的戦闘を前提にした戦争計画を有していないというのが実態です」



 外征の場合、敵地に侵攻しその地域を確実に占領ないし敵勢力を排除するに年単位の作戦を考えなければならない。USAはそういう事を前提に戦闘部隊だけではなく、支援部隊・制圧部隊を編成している。


 対する俺達は、敵を撃退すればよしという前提であるし、敵は一度撃退すれば戻ってくることはないという前提で考えてきた。少なくとも、俺達の士官学校以来の士官教育や幕僚教育で受けた内容は、一度の会戦で決着がつくものであると無意識・無条件の前提にしていた。


 ところが、宙華帝国皇帝の親征であるのならば、ニッポン宙域制圧が完了するまで何度でも何年でも戦闘が継続する可能性がある。


「今回、二隻の宙国艦艇を鹵獲し、また、いくつかの艦船の残骸から回収した情報から推測すると、宙華の戦闘艦は私たちのそれとは意味が違うということが理解できます」

「と、いいますと、どういう意味でしょうか」

「……戦闘艦でありながら、大航海時代と呼ばれる時代における私掠船もしくは、新大陸に渡り原住民を支配した探検家のような存在です。我々は南米大陸におけるインディオのような存在だと認識されている可能性が高いのです」


 少数の武装した騎士・兵士の集団が数万に及ぶ新大陸の先住民を圧倒し国を滅ぼし支配下に収めた。その上で、奴隷同然に酷使し、鉱山開発や農地の開拓などに投入し多くの先住民が飢えと病気で死んでいったと記録されている。


 その上で、先住民の女性に自分たちの子を産ませ、その子供を奴隷頭として支配させるという対応もした。男は過労死する迄酷使し、女は自分たちの子供を産ませる。同じ事を、中国と呼ばれる地域においても後年、宙国の先達は少数民族に対して行った記録がある。文化や言語を奪い、宙国人を送り込んでそれまで住んでいた住民の生活を破壊する。


 おそらく、それが『宙華思想』と呼ばれる発想なのだ。反吐が出る。


「ニッポン人自体を宇宙から消すつもりで戦争を仕掛けてくるということを想定しているのですか」

「歴史的に見て、それが宙華思想だからです。宇宙の全ては本来宙華皇帝のものであり、それを取り戻すための戦争を行うとい……幼児のような思考ですね。なので、話し合う・妥協点を見出すということは考えられません。徹底的に抵抗するか、あるいは滅ぼされるか。本来、遠く離れた星系同士で不毛な戦争をする必要などないのですが、これは利害の問題ではなく、在り方の問題です。その行動を開始した皇帝が死去するまでは、政策が変わる事は考え難いでしょう」


 古代の中国において、国が亡びる直接の原因は外征の失敗だな。勿論、為政者がわけのわからないことをやって国を疲弊させるということもあるが、国の最盛期に名君と呼ばれる君主が外征を指導し、そこで大いに国力を消耗し国が衰退することになる場合が少なくない。


 外征しなければ、最盛期とされた時期以上に国家が豊かになる可能性があったんじゃねぇかと思う。最盛期だから外征したのではなく、外征しちゃったから結果としてそこでピークアウトしたというだけなんじゃねぇのかな。


「確定事項ではなく、あくまで歴史的に見た傾向です。が、国家の存亡に関わる問題でもありますから、冗長性を持たせる為にも、『機動支援艦隊』という戦力的縦深を有する意味は深いと考えます」

「……な、なるほど。宙華五千年の夢とでも言えばいいのでしょうか」


 黄河流域が『中原』と呼ばれていた時代、その地域だけが『宙華』の領域だった。ところが、様々な民族・勢力が発達した地域である『中原』を支配しようと攻め寄せるようになり、攻め寄せた地域が『宙華』に加わる事で、広大な地域を『宙華』と見做すようになった。


 地形的に『ここは宙華じゃないだろ』とせざるを得ない地域に接する迄『宙華』の範囲と認めさせようとした。同じことを、宇宙世紀においても押付けようとしているのが宙国なのだろう。


「戦闘艦に乗って片道切符の棄民が武力を行使するためにニッポンに攻め寄せてくるわけですから、打ち払うしかありません。開国ではなく宙華に対しては鎖国するのが正しい解なのだと思います。ある時期までは学ぶことがあった地域ですが、その時期以降、貿易をすることはあっても学ぶことはさほど無くなってしまったのではないでしょうか。むしろ、厄災をもたらすことが顕著となってきているのですから、国交を制限した昔の為政者は宙国を見る確かな目が合ったという事でしょう」


 そもそも、民族的には入れ替わっているのが地球上に存在した中国だ。北方から押し寄せた遊牧民族の支配により、古代の中国人は消え去り、中華の地に住む元遊牧民の国になってしまった。つまり、同じ家に住んではいるが、住民は入れ替わっているってこと。なのに「中国半万年の歴史」とか笑わせてくれる。お前らじゃねぇよ。


 ということで、考えていた以上に深刻な話であり、おそらく『機動支援艦隊』の設立と、機動艦隊増設に関する国会質疑などで宙国艦隊来寇に対応する内容が細かく説明され、国民に広く伝えられるのだろう。


 その一助として、この内容も放映されることになるだろうから、その線に則って話をする……という打ち合わせになっている。恐らく、タテヤマ女史には事前に知らされていなかった内容なのだろう。演技ではなく、本心から驚いたように見える。もし演技であるのなら、相当の役者である。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 ナカイは今後の打ち合わせのために、きゃるぴんを連れ宙軍省経由で統合幕僚本部へと向かった。俺? 俺はこのままヨコスカで新規に引き渡される予定の『晴嵐型』の確認立会に向かう事になる。


 新しい『晴嵐改型』である『朝霜』『秋霜』『清霜』の三隻が教導隊の所属になる。どうやら『嵐』を付ける名称が尽きたらしい。


「『星系防衛教導隊』のツユキだ。ナカイ司令から教導隊所属になる三隻の状況を確認するよう命ぜられている。案内を頼みたいのだが」


 と、事前に艦政本部から連絡が言っているはずなので、対応してくれると聞いている。ヨコスカはアウエイなので、知り合いもいないのだが……いた。


「おお、アツキではないか」

「油売ってろデブ。売れば少しはやせるんじゃねぇの」

「むふぅ。新規引き渡しの艦の内覧であろう? 案内してしんぜよう」


 いや、若い事務のお姉さんとかの方がいいんだが。とはいえ、アンチエイジングの効果が出ている関係で、俺の見た目は世間で言うところの新社会人みたいな感じにしか見えない。そして、准宙佐の制服がコスプレにしか見えないのが難点。ナカイはもっとひどいな。ニュートーキョーのビックサイトに集う美少女コスプレーヤーにしか見えない。もしくは、ミリタリー誌の表紙のグラビア女性みたいな感じだな。


「まあ、いいか。俺が准宙佐とか言っても信じてもらえなさそうだもんな」

「確かに! 我もアンチエイジングをしようかと思うのだが」

「アンチエイジングしても痩せるわけではないぞ。そもそも、若い頃から代謝が悪いから太ってんだろ? エイジング関係ないからお前」

「げふっ」


 え、なんでダメージ受けてるんだ。少なくとも子供の頃からお前デブだろ? エイジングの要素ミリ単位でないぞ。生活習慣と体質だろ。




 そこには、三隻の新品の『晴嵐型』多用途任務艦が並んでいた。


「変更点は、備砲くらいだよな」

「運用は更に省力化されておるな。それと……」


 人的な確保が困難な場合、艦長+三人×2クルーの合計七人での運用を前提に手を入れているらしい。索敵警戒関係はほぼAI副官任せの監視になるようだ。今と変わらないんじゃね?


「長時間勤務に耐えられるように、タンクベットのグレードが上がっておるし、艦橋のシートもだな」

「お、確かに。ふかふかじゃねーか」


 駄目になるシートだなこれ。


「ヒートシーターか」

「ほんのり人肌となるように設計されておる。それと、マッサージ機能だな。どうだ?」


 お、腰のあたりを揉み解すような振動と加圧。確かに、これは……


「しばらく楽しめそうだな」

「無駄なコストと今までは割り切っていたんだが、今回は試験的に小人数艦から配備する事にしたようだ。今のところ、晴嵐型だけだがな」


『雪嵐』の艦長シートもそのうちこれに変わるらしい。


「戦隊司令への就任祝いであるな」


 軍の装備でお祝いって、誰からだよな。あんまり嬉しくねぇぞ。居住スペース自体は変わらないし、食糧庫なんかも変わらないようだ。人数が十人から七人に変わって、尚且つ八時間+四時間の合計十二時間勤務になるのか、もしくは二人で三シフトに変わるんだろうか。二人で三シフトだよね?


 見た目の変更点はほぼない。運用を三人前提から二人前提に変わり、人的負担をその分AIで代替できるように変わっているのだろう。AI副官が二人になるとかそういう意味ではない。


「そういえば、AI副官ってなんで人間っぽく味付けしてるんだ。あれ、結構やりにくい時あるだろ」


 カスミは遠慮会釈なく言いたいことを言うが、弱気キャラとか困るだろ。遠慮するAIって誰得なんだよ。


「艦ごとに性格設定をすることで、運用面で変化を与えようという試みのようだな」

「……なるほど。戦闘艦なんだがな」

「いや、『晴嵐型』は戦闘艦扱いではなく多用途艦枠であるな。つまり、後方での運用前提であるから……」


 そうか。流石に宙軍と技術工廠も戦艦や巡洋艦でこんなAI副官を実験で置くわけがないな。同型艦が多くサンプルを集めやすい上に、多用途に用いられる『晴嵐』が選ばれたわけか。


 後方勤務だから問題ないだろうという建前だ。そりゃ、ホンシュウ星系の宙堡配属とかならそれでいいけどな。何かあれば前線に出る機動支援艦隊や哨戒艦隊に配属するのはどうなんだ。


「AIの性格にもよるが、長い哨戒勤務などではAIであったとしても個性のある人格を持つAIの方が乗員の疲労感が低下するという検証結果が出ておる。艦隊の上層部には不評のようであるがな」

「そらそうだろ。偉い奴は生身の人間がへこへこしてくれる部下ばっかりなのに、AIがヤンデレとかだと面倒じゃねぇか」

「将官や高級幕僚たちはAI副官との関わりも低いし、参考にはしておらん。新任の士官や下士官たちにはAIとはいえ人間っぽい感じの副官の方がどのような性格であったとしても良い効果があると検証されておるので、宙軍省としては星系艦隊のフリゲート・コルベットに運用範囲を拡大する計画となっているな」


 長時間の哨戒任務の辛さのわからない、艦隊派首脳には関係ない話だからな。AIでも話し相手になってもらえる方がありがたいわけだ。疑似的とはいえ人格を持ち、感情的になる事もまあ……あまりないからな。


「人間を殺す要素には『孤独』というものもあるからな」

「確かに。それで、心の病気で退役する奴が減れば、国の負担も軍の採用計画も改善される。悪い事じゃねぇな」


 古典的作品に『艦隊これくしょん』という、大東亜戦争当時の軍艦を少女に擬人化したゲームが存在し、一時期流行したらしい。衣装が……袖に大砲や魚雷?を装備してだな、そういう少女たちを集めて対戦するゲームだな。


 もしかして、このAI製作者は、その辺りのことを参考に開発したのかもしれない。温故知新というか、古いものを馬鹿にせず、かといってそのまま残すのでもなく時代に合わせてアレンジしつつ現代に取り入れるということはニッポンにおいては良くあることだ。


 もしかして、宙軍はそのあたりでも一儲け企んでいるのかもしれないな。



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