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049 輸送艦隊を作ろう―――『無人偵察機母艦』(肆)

お読みいただきありがとうございます!



 タテヤマ女史は、サキシマ警戒艦隊の司令として赴任してから起こった一連の事変についてナカイの活躍をまとめて話した。これも、モノローグ風に語られている。実際、番組として放送される際には、記録画像なんかをここに嵌めこむんだろうなと思いつつ、表情固定で話を聞いている振りをする。


「正直、戦艦二隻に、軽巡洋艦と駆逐艦四隻で挑むというのはいささか無謀であったと思うのですが、その辺りいかがでしょうか」


 そらそうだ。戦艦には戦艦を持って当たらないとその防御力と耐久性だけをとっても無理筋なのが常識だ。サキシマでナカイが取ったような指揮を士官学校や軍大学で回答すれば、間違いなく教官にしばかれるだろうし、試験なら当然『否』と判定されるだろう。


「はい。オキナワに十分な戦力があるのであれば、敵と接触を保ったまま後退するのが最適解であったと思います。ですが、オキナワには我々と同規模の警戒隊がもう一隊のみであり、尚且つ、交代したばかりで補給と乗員の休息中でありました」


 二つの警戒隊で交互に哨戒しているのだから当然だ。その上、戦艦二に対して、軽巡や駆逐艦が倍あったとしても、戦闘力の比較の上では大した差にはならない。


 あの時の判断は、遠征途中で回廊内において単縦列で前進してくる戦艦に対して、機能不全を起こす攻撃を行い、オキナワ攻略に支障をきたす程度のダメージを与えることにあった。


 艦船の反応炉や主砲、索敵や照準用の機材が不調なり故障なりすれば、工作艦などを随伴していない艦隊であるなら、オキナワ攻略の速度を大きく遅らせることができると考えたからでもある。


 そもそも、オキナワにあるキュウシュウ星系と繋がるHDゲートを宙国艦隊に利用できないようにするには、あの戦力では破壊するしかなかっただろう。急を告げる連絡艇をキュウシュウ星系に向け発進させ、その後、HDゲートを使用できないようにする。でないと、キュウシュウ星系に戦艦二隻がそのまま移動してしまいかねないからだ。


 あの時の戦力からすれば、戦艦一隻と軽巡二隻程度を残してオキナワの警戒隊を封じ込め、残りでキュウシュウ星系にそのまま進撃することも十分可能であり、その場合、奇襲を受けたキュウシュウ星系はかなり危険であったと推測される。


 その辺りまで考慮して、ナカイが機動支援艦隊司令官に補されることになったんだろうな。実質的には二階級特進に近い評価になる。


「ですが、我々は訓練も十分であり、戦艦を足止めするに足りる戦力も有しており士気も十分でした。仮に全滅したとしても、進行速度を遅くする事ができれば、キュウシュウ星系から増援も可能であると判断し、足止めとして行動したのです。結果として、戦艦二隻を一時戦力として無力化し、

その間にオキナワの戦力を上げて撃破、また、後続の巡洋艦群も敗走に追い込むことができました。あの時、そう判断していなければ、今頃はニッポンの大いなる危機であったと考えています」


 と、自分の業績を自分で褒めることも忘れないところがナカイらしい。これにはタテヤマ女史も苦笑い。まあ、褒められすぎるという事はない。そのくらいのことをサキシマ警戒隊の五隻は成し遂げたと思っている。


「ツユキ艦長はその時どうされていたのですか?」

「私はナカイ司令の率いる部隊と別れ、『雪嵐』僚艦『浜嵐』とともに、サキシマ回廊の出口で推進力を切った状態で待機していました。相手に存在を悟らせないためです」


 ということで、ここであの日の戦闘を簡単に振り返ることになる。恐らく、再現CG映像でも流れるんだろうなこの裏で。


「宙雷の効果があるかどうか心配でしたので」

「……ツユキ艦長。その先は他言無用です。効果があった。そして、あなたは乗艦である『雪嵐』が船体にダメージを受けた結果、艦橋をパージし戦場を僚艦に回収され離脱した……ということです」


 や、やっぱ、船体の反応炉暴走させて体当たりさせたのはNGらしい!!


「いやー あの時はホント、どうなる事かと思ってましたよ」

「ミカミ宙尉はその時、旗艦にいたのですか?」

「いえいえ、わたしは『雪嵐』に伝令にでている間に戦闘が開始されてしまい、旗艦に戻れず『雪嵐』の艦橋にいましたよ」

「そして……艦が沈むのにも立ち会ったということですね」

「その通りです。けど、晴嵐型駆逐艦は艦橋が救命ポッドを兼ねていますし、艦橋前面に展開されるシールドの強度もあるので、命の危険はあまり感じませんでした。そういう意味で、小型艦ではありますけれど、死ににくい戦闘艦だと思いましたよ」


 と、晴嵐型良い戦闘艦説をぶち上げておいてもらう。


「そうですか、生存性の高い駆逐艦なんですね。ですが、機動艦隊には配置されていないと聞いています。何故でしょうか?」


 ナカイが簡潔に、艦隊随伴型の駆逐艦と比較すると速力と居住性に難があるという点を述べる。


「『晴嵐型』駆逐艦は、これまでの機動艦隊の駆逐艦と設計思想に大きな違いがあります。その一つは、通常四十人前後で運用する駆逐艦・コルベット艦を十人で運用します。これは、艦の居住空間を艦橋部に集中させ、船体の大部分をカーゴスペースと推進器に割り当てる事も可能としています。 結果として、艦橋周辺の防御力は装甲巡洋艦の主砲に耐えられるだけのシールドを持って対応でき、また、艦橋区画を脱出ポッドにそのまま流用することで乗員の生存性を高めていますが、長期の艦隊随伴は難しくなっています」

「つまり、星系内やある程度安全が確保できている宙域においてなら、従来の駆逐艦と遜色のない運用ができるという事でしょうか」

「いえ、むしろ『晴嵐型』の持つ本来の『多用途艦』としての能力を生かすことができるかと思います」


 ということで、『晴嵐型』のもつ、三つのカーゴスペースを用いたモジュールの差し替えにより、様々な任務をこなす事ができるという事を伝える。


「艦橋部分は技術工廠で仕上げたものですが、船体や推進器は民間の造船所を用いて建造することができます。また、平時においては輸送艦や哨戒業務を主に行うように武装を換装することもできるのです。これは、戦闘艦として『巡洋艦』『駆逐艦』『フリゲート艦』『コルベット艦』と、形状の似たサイズ違いの艦艇を設計するのとは全く異なる思想の艦艇であると言えます」

「平時の輸送任務ですか?」

「これはたとえ話ではありますが、軍艦として退役した艦齢の古い戦闘艦は練習艦や予備役として保管する以外は、全て解体処理されます。戦闘艦は商船と異なる為、経済的な運用が難しく輸送などの任務に就けることはできません。また、技術の流出を防ぐためにも他の宙域国家への輸出をニッポン国は行いませんので、解体するほかないのです」


 艦齢の古いものを中古として求める国に売ることはある。ルーシはヒンドゥや宙華に中古艦や装備ユニットを輸出することで経済的利益を得ることがある。


「ですが、民間の商船構造に近い『晴嵐型』であれば、中型輸送船として二十年ほどで一線を退いた艦艇を民間に下げ渡す事も可能となります。また、その対象を退役宙軍軍人の希望者に船主として提供することで、退役後の仕事を確保するとともに、有事の際は船主や乗員を含めて艦船ごと徴用ないし、予備役あつかいからの現役復帰を求める事も出来るでしょう」


 武装を外せば輸送船やタンカー、星系間シャトルの貨客船としても運用できる。そこに公費で補助金を出し、有事の際は戦力として徴用することで、潜在的な戦力の確保と退役軍人の就職先を確保することができるだろう。


 民業圧迫? 国家の安全保障に優先する事なのだろうか? そもそも軍の関係だけでも相当の仕事があるし、経済的不採算な路線で民間が手を出さない過疎地などにも公的な物流インフラを確保することができる。何でも民営化というのは、経済性だけで安全保障や人の生活環境を守るといった面を排除しかねないのだから、公的物流網と言うのは確保しておいて損はない。


 一朝時にはそれが戦闘艦になるわけだしな。まあ、後方での支援業務になるだろけれど。


「そうした人材というのは、軍では常に必要とされているわけですから、受け皿として『晴嵐型』を有効に活用する機動艦隊や星系艦隊とは異なる部隊の必要性も考えねばならないでしょう」


 ということで、本命の話になるわけです。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 宙華帝国の本格的な侵攻に備えるため、宙軍は三個機動艦隊を増設、また、宙華領域との境目を強化するために、ツシマの先に新たな要塞『ゴトウ』を設定することになったという話がここで説明される。


「三個機動艦隊……必要な根拠はどのあたりにあるのでしょうか」


 そんなことは宙軍省か統幕にでも聞いてくれと言う話だが、ここは、別の説明動画が差し込まれることになっているので少し休憩となる。


「はぁ、お疲れ様ですナカイ司令」

「私ばかりがしゃべっていて申し訳ないわね」

「お前のお披露目なんだからそうなるだろ? 俺達は背景みたいなもんだ」


 などといつもの調子で話をしていると、タテヤマ女史もちょっと驚く。


「お二人は随分と親し気にお話するんですね」

「彼とは長い付き合いですから。気の置けない関係という感じです」

「小官は……『それはもうやめてもらえないかしら』……そうかよ。なんだか上官を敬わないという理由で罪に問われたりしないか俺」


 とちょっと気にしたりする。


「ここは放映されるわけではありませんから、公にならなければ問題はないと思いますよ」

「いまさらじゃないですかお二人は。士官学校時代からの迷コンビですから」


 そこは『名』コンビにしておけ。上官侮辱罪とかそんな感じするぞ。


「役割分担ね。私は上に行く、あなたは現場で死ぬ」


 死んじゃうのかよ俺。まあ、そんな機会もそのうちあるかも知れないな。


「そんときゃ、二階級特進で将官に成れるな」

「あら、このまま生きて提督になる方がいいのではないかしら」


 確かに、宙軍士官学校の卒業生は一期二百名前後なのだが、宙佐迄昇格する者が退職時の特別昇格含めると四割強くらいは昇進する。その中から准宙将まで至るのは卒業生の一割五分くらいだな。現役の宙佐のうち、四割くらいが准宙将になるらしい。


 とはいえ、普通は、各階級を六年ずつほど勤めあげて昇格していくので、士官学校を卒業し准宙尉に任官してから宙佐になるまで二十年ほどかかることになる。四十前後だな。ここで退役し、第二の人生に向かうかその後将官に成ってさらに十年二十年と宙軍で仕事をするかに別れる。


 将官の大半は地上にある軍の施設の責任者・基地司令のような仕事であり、機動艦隊司令官や星系防衛艦隊司令官よりずっと多い。


 ナカイはこのまま行くと、十年早く将官になりそうだ。露骨な抜擢人事と見る向きもあるが、この数か月の戦功だけでも宙佐から准宙将になるのに十分な内容だ。


 ついでに言えば、俺とヤエガキは宙佐になっちゃう可能性が高い。他の同期より五六年早いのは、腰巾着の特権と胸を張って言えそうである。


「ナカイ司令には『司令官』の席が用意されているのでしょうか?」


 人事に関しては公になるまで口にするのは良くありません。とはいえ、この録画は、内示を前提に撮影されている宙軍省広報のものなので、それが前提なんだけどな。


「現在、私が司令を務める『星系防衛教導隊』を母体として、後方支援を専門とする新設組織立上げが為されているかと思われます」


 新規機動艦隊の増設を踏まえ、欠員補充を正規の養成とは別系統の民間で働いていた『予備士官』を採用教育し、主に『晴嵐型』多用途任務艦の乗員として教育する組織である『星系防衛教導隊』。前線の戦闘艦ではなく、その背後で支援を担う役割を求められている集団だが、拡充される機動艦隊への補給と補給路の安全確保の役割りを担う『機動支援艦隊』を設立することが決まっている。


 言い出しっぺであるナカイとその幕僚が中心となり、新設される組織の立ち上げを行う事になるという説明に繋がる。


「機動支援艦隊……ですか」

「はい、『機動』支援艦隊ですね。戦闘艦艇が五割ほど増え、それを支える補給艦や工作艦も相当増やさねばなりませんが、個々の艦隊に随伴させるのではなく、後方の支援艦船を取りまとめることで、『機動』的に対応しようという試みです」


 放っておくとホンシュウ星系に居座る第一機動艦隊に優秀な支援艦艇が配備され、そのまま前線に出向かない可能性が高いからね。戦闘は機動艦隊に、補給や修理は『機動支援艦隊』にと役割を分け、艦隊同士の垣根を取り払って有機的に支援艦艇を運用しようという試み……と表向きはなっている。


「その司令官にナカイ司令が補任されるのでしょうか?」

「内示をいただいております。まだ、十分な艦艇が集まっておりませんので、組織としてまず立ち上がる……という段階ですが、『機動支援艦隊司令官』を拝命することになる予定であります」


 『機動支援艦隊』の旗下に『星系防衛教導隊』が付属することになるので、組織的にはあまりかわらないんだがな。


【作者からのお願い】

更新できるように頑張りたいと思います。応援していただけると嬉しいです。


 一日一(・∀・)イイネ!!もお願い申しあげます!


『わりと読めた』、『この続きを読みたい』と思われましたら下記にある広告下の【☆☆☆☆☆】で評価していただけますと、執筆の励みになります。よろしくお願いいたします!



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