047 輸送艦隊を作ろう―――『無人偵察機母艦』(弐)
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俺と首席幕僚・情報幕僚とデブは、ナカイ艦隊(仮)の旗艦を獲得する為に、計画案を策定していた。
無人偵察機母艦『迅鯨』は 拠点防衛用に設置される『10式無人偵察航宙機』の発着母艦として開発される。凡そ一ケ月の稼働期間終了後改修、再整備し再び配置することを目的として建造されている。
大型宙母に匹敵する艦だが、商船構造をもつものであり、戦闘艦としての能力はほぼない。移動する工廠・飛行場としての役割りに特化している。
その収容力は様々な資材・原料の運搬にも転用でき、また、無人機小型艇の整備改修をも行う事ができるとされる。また、巡洋艦に準じた索敵・通信システムを装備し、旗艦機能も有しているという。準戦闘艦という位置づけであり、完全な輸送艦である『知床型』大型支援艦とは異なる。
「先日の提案書、宙軍省と財務省は関心を持ってくれているわ」
「そりゃ良かった」
「ええ。まともに考えたら、私たちが艦隊司令部を持つというのは、ずっと未来のことになったでしょうし、これから起こる出来事に対しても、今まで通り命ぜられたことを唯々諾々と受け入れるしかなかったのですもの」
ここまで破竹の勢いで昇進してきたナカイだが、将官となると簡単にはいかない。今回、機動艦隊の増設でポストが増えるとはいえ、戦隊司令では今の先任宙佐止まり。艦隊司令官か幕僚長でなければ将官にはならない。
幕僚長とは戦隊司令と首席参謀の関係に近いのだが、司令官の代行を担うこともあり、次席指揮官を務める将官級のポストだ。戦隊司令から幕僚とくに機動艦隊幕僚長に抜擢され、その後数年の経験の後、艦隊司令官に昇格することになる。
ナカイの場合、要は機動艦隊幕僚長へのルートが今の段階では見つからないのである。艦隊派の中で誰をどのポストに就けるか、ある程度配分がなされており、上が詰まっているからであるが、ナカイの鬼昇進が宙軍省の背広組の意向を忖度したものであるからというのもある。
要は、艦隊司令官の引きがないのだ。
「七艦隊の補給をその為だけに部隊編成をするというのも具合が悪いと宙軍省も財務省も考えていたようだから、渡りに船というところだったようね」
「だろうな。四から七に機動艦隊が増えた上に、さらに輸送艦の配分迄個別の機動艦隊に委ねるとか、甘やかしすぎだ」
軍隊とはもっとも古典的な官僚組織であり、官僚組織と言うのは放っておけば、自己増殖しようとするものだ。ポストを増やし、権力を集約し、より大きな予算を獲得しようとする。やがて、とんでもなく非効率で不経済な存在となる。
『国難』なんて言葉を用いて国民や政治家・官僚を脅し、より多くの予算をえようと躍起になる。それが事実かどうかは問題ではなく、そう思われており、事実、予算もポストも増えているのだから、艦隊派制服組としても痛くない腹を探られないためには、あれもこれもを要求するのは不味いことくらいは理解できる。
すなわち、『俺達は欲張りではない』と自己アピールする材料を与えてやることで、俺達のやりたいことを為しうる余地を抉じ開けた……といったところだ。
「これからスケジュールは詰めることになるのでしょうけれど、組織としての実体はすでに動き始めているわ」
いきなり新組織を立ち上げるわけにもいかない。とはいえ、新組織の母体はシコク星系で油を売っている『星系防衛教導隊』ということになる。
これは、二線級部隊である『教導隊』を拡大し、補給艦の管理運用を押付けてしまえという発想に宙軍艦隊派・統合幕僚本部のジジイどもにこちらの意図を伏せて唆したからでもある。
つまり、中途採用や予備士官を現役機動艦隊に配属させるのは組織の効率的運用にならないと定義し、その上で、それならば、その教育機関を務める『教導隊』の司令部を改変し、教育訓練終了後まとめて『輸送艦部隊』に配属させるのが望ましいと思考を誘導したわけだ。
無駄にエリート意識の高い艦隊派のおっさんたちは、民間からの登用に難色を示していたので、全体として宙軍艦隊の戦闘艦が増えると同時に、一過性の民間からの中途採用でその人的欠如を埋めると同時に、組織を一時的に分けることで『素人』が艦隊に関わる不快感を味合わずに済むと考えさせたわけだ。
艦艇の定数が増え、長期的には宙軍の採用計画が見直され、正規の教育を受けた軍人が揃うようになれば問題は是正され、ポストも予算も増える。天下り先だって……ということだな。
「だがしかし、そうはならん」
「ええ、勿論よ。まあ、最初はいい夢見させてあげましょう。老い先みじかいおじ様方ですもの」
既に、そのプランは走り始めている。
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「えー ホンシュウ星系にお二人で行かれるんですかぁ?」
きゃるぴん煩い。横でクルリ首席幕僚がニコニコ笑っているのだが、今回のお話はこの人の筋書きだ。
輸送艦隊に当たる『機動支援艦隊(UMF:Universelift Mobile Fleet)構想』というものに今回の計画をブラッシュアップしたものだ。
これは、戦争・国防の為の艦隊であるだけではなく、宙軍が有する災害時の復興対応や社会インフラの整備のための組織としての意味づけを加えた艦隊として編成することになる。
――― 曰く
敵性勢力の侵攻や惑星規模の災害に対する冗長性を確保するために、災害復旧に必要な資材を製造する生産設備を有する『拠点建設母艦』小艦艇の乗員の休息・救命用施設を有する『大型支援艦』、加えて、情報収集・指揮能力を有する『無人偵察機母艦』を旗艦とする多用途艦『晴嵐改型』を中心とする戦闘艦で編成された支援艦隊。
特に、晴嵐型駆逐艦の有する、様々なモジュールの差し替えで、救急活動/輸送・仮設避難所や治安維持活動など通常の戦闘艦の枠を超える活動を行う事を目指す。
また、戦時においては後方支援・兵站の維持を目的とし、戦場後方で待機、戦闘後の救助活動・補給・修理を専門に請け負う事で、機動艦隊の損耗を押さえる効果を有する。
ホンシュウ星系・キュウシュウ星系における製造施設・軍事設備の集中に対する一つの対案でもある。移動できる工廠を有することで、戦略的縦深を確保し、また、友邦への災害支援などにも活躍できる余地がある。
戦闘艦を主とする機動艦隊と比べ、機動支援艦隊は外見上は輸送艦・民間宇宙船に近いものが多く、他国に対する心象も良くなると考えられる。
これは、ニッポン宙軍の前身である『自衛隊』の行った様々な災害救援活動の後嗣であり、ニッポンの持つ献身的姿勢、平和を大切にするイメージを内外に示すものでもある。
ということなのだ。
「今回の取材もその一環だよ」
「しゅざいー わ・た・し も出たいですぅー かわいい情報幕僚も、お茶の間に届ける必要があると思いますぅ!!」
お前、単にNBCで宙域ネットに顔出したいだけじゃねぇか!!
因みに、その昔『NHK』という日本放送協会なる謎組織が存在した。国営放送ではなく、公共放送という枠組みで勝手に受信料なるものを課税し、その有り余る予算で好き勝手に番組作りをしていた悪の組織だ。因みに、民放各社よりも高給取りのスタッフを抱え、一部の番組制作者は出演者に性的接待を強要したとかで、降ろされた出演者に暴露されたりしていた。
碌でもない組織であったらしい。
流石にその様な原始的組織は解体され、『ニッポン放送協会』(NIPPON Broadcasting Corporation:NBC)が設立された。これは、BBC同様、ニュース部門は国営放送、それ以外の部分は受信料・広告料を徴収したうえで作成される公共放送部門となる。
その、国営部門での宙軍広報番組の取材にレイ・ナカイが出演することになる。番組内容は、『星系防衛教導隊』司令となったナカイが、民間からの中途採用者を戦力にするために日夜務めているという話から入り、ここは教導隊の訓練風景などが放映時には差し込まれるらしい。
『サキシマ回廊の戦い』において、僅か五隻の警戒艦隊を用いて、戦艦二巡洋艦八を有する宙国艦隊に対して戦いを挑み、見事撃退。さらには、逃走した軽巡洋艦、また時期を異にするが装甲巡洋艦一隻を鹵獲し、一隻を撃破している英雄なのだ。
若き女性指揮官が新組織の立上げに参画し、さらには……ということでぽろっと口にしてしまうという風に、話が転がっていく。もちろん『仕込』だ。
「ほら、最初に口にしてしまえば、既定路線になっちゃうじゃない。これを機に、国会でも関心持ってもらって、専門委員会で議題にしたりしてさ」
「ええ。宙軍省や国務省はその辺り、しっかり答えられるように準備を進めていただいている最中です」
要は、俺達の艦隊を艦隊派から切り離す為の枠組みを取材をきっかけに周知してしまおうという計画なのだ。
元々、艦隊派からすれば自分たちの支配領域に置きたいが、自分たちは直接かかわりたくない民間登用・輸送艦の管理運営を『輸送艦隊』としてナカイに押し付ける予定なのだが、その実、『ナカイの艦隊』として国民に認知させてしまえば、簡単にポストを取り上げるわけにもいかなくなる。
その後、組織改編をして『輸送艦隊』が『機動支援艦隊』として「第二の機動艦隊」に成長しても……もう遅いということになる。
「いままで女性の機動艦隊司令官って存在しないじゃないですか!」
「そうだね。機動『支援』艦隊司令官なら、許容さるって感じだね。艦隊派も別組織として分けるなら、内部のポスト争いの枠外にできるから、ナカイ司令が機動艦隊司令官になるのも容認する方向で調整中らしいしね」
要は、初代『機動支援艦隊司令官』にだれがなるかという問題がある。恐らく、そこから機動艦隊司令官になることはないだろう。とすれば、折角艦隊司令官のポストに就くのに、二線級の民間出身が多くを占める輸送艦艦隊の司令官など務めたくないと思うだろう。
ナカイにとってはこれは次へのステップになるが、艦隊司令官を最後に退役を考えている将官たちにとっては罰ゲームに近いものがある。そもそも、艦隊司令官退任後は退役し、艦隊と関係のあった民間企業の顧問辺りに天下りするわけだ。新設の輸送艦隊にそんな伝手もコネもない……と思ってんだろうな。
ナカイの場合、自分の実家が天下り先になるので関係ないしな。俺も運転手として採用してもらいたい。
「それで、なんでTVに出るんですか?」
「ふふ、新設の機動支援艦隊の話をここで持ち出す事になるみたいね。教導隊を母体として編成し、私が手掛けるという形で既成事実化することが宙軍省と与党の方針だそうよ」
「そうそう、ナカイ司令のご実家にも動いてもらってね。まあ、ホンシュウ星系だってニュートーキョー以外は地方星系だからね」
そうです。チバラキはシコクよりは都会だが、それでも第一次産業中心の風光明媚な星だから。なんかあった時は、こういう艦隊があると心強い。星系ごとにある程度均一に発展することが望ましいが、実際はホンシュウ星系の発展を元に、他の星系の開発が進むという傾向は変わらない。
無理して工業を発展させても、実際人が集まらないし生産性だって星系を跨ぐサプライ・チェーンは効率が悪いから成立しない故に改善できない。
非効率だからと言ってあまりにもホンシュウだけに人が集まり経済活動を行う事も本末転倒だ。やはり、宙域の均等な発展を目指す為に、資源の再配分という意味で輸送艦隊や製造設備を有した艦船の駐留は意味がある。
その昔、JPが民営化された際、地方の人口過疎地域の支局が閉鎖されることが増えたのだという。民間の金融機関やサービスならともかく、国が関わる公共サービスの一環を民営化したからと言って効率重視で民間と同じことをするなら、最初から必要ないじゃない? という事で問題になった。
民間では経済的に非効率故に取りこぼされる場所に手を差し伸べるのが国営・公共サービスであろうし、仮にサービスを止めるのであれば、住民を転居集住させるなり代替サービスを提供するなりするべきではないか。
最初からなかったものならともかく、あったものを無くすというのはどうかと思う。とはいえ、若者がいなくなり高齢者ばかりの僻地にいつまでも……というのが
分からないわけではない。
まあそんなことで、ナカイの顔を売り、その上で自身のよって立つ基盤を『機動支援艦隊』とその周辺にしっかり作っちまおうというのが今回の計画の一番のポイントでもある。
「まあ、せんぱいはナカイ司令の運転手として同行ですから、わ・た・し は秘書役でご一緒させていただきますね!」
ミカミよ、世間一般では政治家なら秘書が運転手を兼ねるものだよね。運転手と秘書が別って、どこの大企業の経営者だよ。そういう場合、運転手はその経営者の会社の社員じゃなくって、専門の業者から派遣されるプロだと思うけどな。あれだ、ボディガード兼任だったりするんじゃね?
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