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046 輸送艦隊を作ろう―――『無人偵察機母艦』(壱)

誤字訂正・ブクマ・評価・いいねをありがとうございます!



 プランB的星系防衛計画:仮称星系防衛邀撃作戦計画の実行において、阻害要因になる要素は実はけっこう少ない。


 艦隊主流派からすれば、民間からの中途採用組・予備士官を使って輸送艦や艦隊随伴ができない『半民艦』という蔑称を付けられている『晴嵐型』駆逐艦での後方での支援業務……という名の雑用をする為の部隊という認識。まあほら、いいんだよそれで。


 星系防衛艦隊から新設機動艦隊への移動が増え、その人材欠乏を埋める為に、正規の軍人以外から人員を充足させないといけないからな。

 

 PFSの操艦と変わらない簡素なシステム、最低稼働人員がわずか四名の半ば民間の小型輸送船と共用構造で作られた『半民間艦艇』……つまり半民艦だな。それが晴嵐型なわけだ。


 フリゲートは勿論、コルベット以下、PFS以上というのが宙軍艦隊派という名の主流派の認識であり、軍関係者の一般認識もその通りだ。なんといっても、概算要求で四個戦隊が軽巡一隻分で賄える予算でしかないというお財布に優しい艦隊だからな。


 もちろん、モジュールをそれなりに揃えれば予算は高騰するが、それはそれ。新造艦ではなく消耗品枠だからさほど問題ない。燃料費とかそんなの同じ枠組みであり、建造してしまえばこっちのもの。


 使った無人機とか、宙雷なんかは宙軍全体の予算から支払われるわけだし、個々の艦隊にまでさかのぼっていろいろ言われないわけです。


 人件費だって戦艦一隻に乗る人員が二千人、宙母も艦載機の人員加えれば五百人を越える。それが、三十六隻で最大三百六十人しか不要であるし、近距離の邀撃戦ならその半分以下で稼働できる。


 旗艦や支援艦、無人偵察機など情報ネットワークが無いとまともに機能しないが、邀撃戦というものは、遭遇戦のように突然鉢合わせで始まるわけではないから、計画的に迎撃するのが基本だ。


 四つの戦隊単位で進撃路の後方から敵艦隊に追従し、単縦列なら最後尾の艦艇を襲い、輪形陣ならその外周の艦艇から削っていく。そういう戦い方だな。


 無人機による外周の艦艇への飽和攻撃なんて言うのも多用途艦ならではの戦い方になるだろうか。一隻から十二機、四十八発の95式対艦宙雷を発射する無人機を発進させる。旗艦を除く八隻であったとしても、三百八十四発半数が接近前に撃墜されたとしても二百近い宙雷が一時に殺到する。

沈まないわけがない。


 十分の一のニ十発だとしても巡洋艦以下の艦艇では対応不可能だ。


「シミュレーターの結果はどう?」

「戦いは数だよ兄貴って名言知ってるか?」


 ナカイは首を横に振る。冗談だ、ねぇ笑ってよレイ!!


「どういう意味なのかしら」

「え」

「その言葉の意味よ。大体は推測できるのだけれど、誰の発言かしら?」


 真面目だよな……


「架空の世界における指揮官のセリフでな。要塞司令官兼艦隊司令を努めてい男が、独裁国家の総帥である実兄に向かっていう言葉だ。国力十分の一が大国相手に独立戦争を挑んで、まあ、序盤は革新的な兵器の投入で大勝し、独立に王手をかけるんだが失敗。まあ、地球上にスペースコロニーを落としたり、自分たち以外の宇宙に住む人民を虐殺したりしたのがまずかったよな」

「どうやら、共産独裁的思想の国家なのね」

「ナチス的でもあるな。優生論的な宇宙生まれの人類の革新みたいな事を掲げているからな」

「……なるほど。それで戦いは数というわけね。確かに、ソ連に侵攻した第三帝国が敗れた理由も兵器の性能差より、それなりの戦力を損耗関係なく継続して戦線に投入し続ける力比べになったからですものね」


 広大な国土と、人命人権度外視の作戦を強要できる独裁体制、国土防衛という心理的物理的優位性はあっただろうな。


 そういう意味では、戦車工場と戦場が間近にあったスターリングラードの戦いのような状況を設定できれば、負けはしないかもしれない。その工場は、巨大な輸送船に積載され、艦隊と共に移動するのであればなおさらだ。


「実際、機動艦隊相手の演習をしてみたいな」

「……勝てなければ立場か苦しくなるわね」

「まあな。今のままでもなんとかなるが、フリーハンドを狙うなら、こっそりやっていくにも限界がある。つまらん横槍を入れられるくらいなら、どこかで主流派に喧嘩を売って、プランBとはいえ、艦隊決戦に勝る内容だと認めさせる方が良いだろうな」


 とは言え、最低でも二個戦隊十八隻くらいないと、数の優位性が出せない。集中運用が肝なのだから、一個戦隊でも微妙なのだ。


「一先ず十六隻ないし十八隻は用意できないと仕掛けようがない。それと、最初は無人機の宙雷攻撃とか数で押す戦いで虚をつく感じだな」

「ええ。戦争をスポーツと勘違いしている愚か者どもに正義の鉄槌を下す必要があるのですもの。無人機の集中運用もできる駆逐艦隊なんて……艦隊の駄馬どもにはできないことだから、当然ね」


 巡洋艦をサラブレッド視し、駆逐艦を駄馬ワークホースと蔑む姿勢が艦隊にはある。まあ、戦艦乗りが最上位で、装甲巡洋艦、巡洋艦がそれに続き、駆逐艦、コルベットとマウントをトリツトラレツするわけだ。


 故に、機動艦隊の駆逐艦乗りは星系艦隊や俺達のような機動艦隊外の駆逐艦乗りを蔑む。まあ、ほら負の連鎖みたいなもんだ。


「ほんとうにくだらないわ」

「そういうな。上昇志向の表れの一つだ」

「あなたに欠けているものでもあるわね」


 グハッ、俺は『軍人は公務員です、士官学校はお給料がもらえます』

という理由で進路を選んだ人間だからな。学生なのに給料もらえる、趣味に金が使えるなんて思った俺が馬鹿でした! 


 そういえば、古典文学の中に宙軍の前身である自衛官がコミケに向かう途中で異世界からの侵略に巻き込まれていくというストーリーの作品があったが、意外と軍人にも二次好きは少なくない。現実社会から乖離している生活を送っているので仕方が無いんだろうな。時代を越えた心理。


――― 俺は悪くない。軍隊生活が悪い。


「それはともかく、モジュールはともかく、10式無人偵察機が百機単位で必要なんだが。充てはあるか?」


 一隻二隻分ならデブ経由で工廠が用意するだろうが集中運用となれば話は別だ。専用の整備施設も必要となる。できれば、無人偵察機運用艦か母艦が欲しい。


「公試中の新造艦があると思うの。理由を付けて、こちらの宙域で完熟訓練を行うように手配すれば可能かもしれないわ」


 ナカイ曰く無人偵察機母艦『迅鯨』が試運転中とのこと。ゴトウ宙域に派遣する予定という事だが、無人偵察機の整備要員の育成も含め暫くホンシュウ星系近辺で訓練を続けるつもりだという。


「そこからついでに無人偵察機もこっちにながしてもらえねぇかな」

「……できれば、艦丸ごと貰い受けましょう」


 無人機運用は必要条件だからな。機動艦隊の眼としても必要だが、個艦防衛能力が低く、また機動性も艦隊に随伴できるほどではないという。それはそうだ、その両方を兼ね備えた『航宙母艦』があるのだし、無人機母艦として割り切った設計でなければ艦種を分ける必要性がない。


 つまり、ゴトウに派遣する意味がないという事でもある。下手すれば、習熟する前に撃沈されるか自損事故を起こす。


「前線に出すような艦じゃないんだろうな。宙母の代わりにするくらいなら、最初から『蒼龍』があるじゃねぇか」

「拠点建設母艦の就役が遅れていることの弊害みたいね。無人機の母艦では代わりにならないでしょうけれど、あの根拠地司令は……」

「艦隊派でもウルサガタだったな。まあ、そうなるか」


 艦隊の編成部署に文句を言いに行ったんだろう。結果、これでも出して置けという事になった可能性が高い。まあ、員数合わせという奴だな。


「あの辺うろうろしている間にニ三ケ月すぐに経つだろ。意味がない」

「本当にね。『大鳳』でも出しておけばいいのにね」

「そりゃ無理だな。気持ちはわかるが、あれは前線向きだが、あらかじめ前に配置しておくには少々な」


 それよりも、予備役艦から現役復帰した長門型を早急に移動させて与えておく方がずっとましだろう。あれは、現地で現役復帰作業できるだろ? 居住空間も補給物資を置くスペースも無駄に大きいんだからよ。


「補助艦艇を雑にあつかって、戦艦を大事にしすぎるのは本末転倒だ」

「本当に。その辺り、上手く言いくるめて戦艦を出汁に『迅鯨』を手にいれられないかしらね」

「できるさ。まあ、シミュレーター上で結果を出して、提案書の態で上申してみるか」


 要は、抑止力として有効なのは『戦艦』であり、見た目補給艦・民間船のような『迅鯨』では対宙華に対する戦争抑制効果が低いとかなんとか展開する感じだな。


 その上で、宙域防衛計画における無人機集中運用の効果と、その際において『迅鯨』が持つ無人機の製造・修理・補給能力が星系防衛に必要であるとかなんとか書いて……あとは、無人機集中運用のシミュレートと費用対効果を付記しておけば、お財布に優しい提案として認められる可能性が高い。


 そもそも、無人機運用なら『利根』があるから問題ねぇだろあの禿!! こっちは巡洋艦なしで部隊編成に苦労してんのによ。なにが無人機運用だ。お前らは、戦艦の座乗席の座面をズボンで磨いておけばいいんだよ、その薄い毛でおおわれた頭皮みたいにピカピカにしとけ!!




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 額の免責拡大という恐怖におののく俺の渾身の提案書が瞬く間に作成されていくのは当然であった。アンチ・エイジングしても禿げる時は禿げる。小学校の同級生が二十代前半で禿げ始めたという恐怖実話を耳にした時、俺は心が締め付けられるような恐怖に陥ったものだ。詐欺だろアンチエイジング。


 まさか、頭皮はアンチエイジングされないのか……まあ、体質とか遺伝の問題、それと生活環境だ。艦隊派は宇宙にいる時間も長いし、不規則な生活が続くからな。おそらく、常に競争心を煽られていることも一因かもしれない。人生、禿げたらあかん。



「余計なことまた考えてるんですか!」

「疲れたんだよ……人生に」

「私も、ツユキ君の相手するの疲れたよ」


 二人の情報幕僚相手に俺は必死に計画書を作成している。そう、無人偵察機母艦と艦隊を一つ宙軍省と財務省からかっぱぐ計画だ。


「でも、そんなのうまくいくんですかね」

「四個艦隊が七個艦隊に増設されるとすれば、戦闘艦の消耗品の数も増大する。例えば、陽電子砲の損耗部品や宙雷、無人航宙機、その他にも艦隊に随伴する小型艦の燃料補給なんかだな」

「それは当然だね」

「はい。ですが、機動艦隊それぞれに補給艦を随伴させたり、消耗品をわざわざホンシュウ星系から送り出すというのも継戦能力という意味では問題があります。撃った宙雷の補充が二週間三週間先とか、反撃受けたらひとたまりもありません」


 小規模な警戒艦隊程度のストックはツシマやオキナワにもあるし、サセボの工廠で作っている部材もある。しかしながら、せいぜい一個艦隊分の生産能力だ。


 それを考えて、宙軍の艦政本部は『拠点建設母艦』を起工している。これは、大型輸送船をベースに、内部に工作機械や製造設備を載せた移動する『技術工廠』だ。一隻で一個艦隊の消耗品を一週間ほどで製造することができる。


 また、要塞の補修用部材や各星系、特に製造能力の乏しいシコクやホッカイドウ星系に災害や損害が発生した際に、必要な製造設備を代替えするために建造されたという面もある。大きさは旧式戦艦並と言えばいいだろうか。当然非武装非装甲だが。


「その『拠点建設母艦』や、いま乗っている『大型支援艦』の管理をする部隊を編成することを献策するんです。誰の縄張りか確定する前に、制服組じゃなく、背広組が管理しやすい別の部門として独立させようと話しをもっていきます」

「なるほどね。それは……宙軍省だけでなく、国土開発省や財務省も協力するかもね」

「そ・れ・と、輸送艦とその護衛任務を行う『半民艦』の艦隊なら、USAの災害発生時に救援艦隊として派遣するのも喜ばれるでしょうから、国務省も応援してくれませんかね?」


 艦隊派・制服組からは完全に妬み嫉み嫌われているレイ・ナカイだが、背広組はその見た目・出自・能力を自分たちで利用しようと考えているのが良くわかる。


 機動艦隊と切り離し、独立した艦隊として編成する『輸送艦隊』(仮)を例えば……シコク星系に配置するとか、提案するとよろしいかもしれないな。



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