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044 教導隊はつづく―――『標的艦』(参)



 この教導隊司令部ってさ……女子率たっけぇよな。まあ、ナカイの身内で集めただけだからこんなもんかもしれない。


 今何をしているかというとだな、ナカイと俺が学生時代から温めている『戦艦を駆逐艦で滅多打ちにする方法』を星系防衛計画に落とし込む作業だ。構想としては既に提出されたものがあり、その結果としてこの教導隊が編成されたのだから、俺達が今やっている事は、実働艦隊として編成された場合に、実行すべき作戦計画の立案なんだよ。


「必要なのは、見栄えのする餌ね」

「けど、実際プライドのお高い機動艦隊司令官に、敢えて逃げろって作戦として命じなきゃならないわけでしょ? 最初から受け付けてくれるかっていう不安はあるよね」


 はい、首席幕僚から当然の問題提起はいりました!


「一番面倒がないのはさ、圧倒的多数の敵侵攻軍にこっちの機動艦隊がズタボロにされる状況って感じだよねー」

「それはそれで、混乱状態ですから、こちらの新兵どもが浮き足立っちゃいませんかね」

「そこは……AI副官頼りだろ?」

「……この男は、俺に任せろくらい言えないのかしらね……」


 もしもし司令様。無いものねだりはやめましょう。俺はヤマトじゃないからね。但しイケメンに限るって大昔から言うでしょ? 


 ヤエガキの言う通り、実際敗走していればリアルに仕掛けることができる。


「『狼群戦法』の場合、艦隊の集結地点、移動経路に沿って現地集合する必要があるからな。星系内の環境を整備して、無人の監視衛星や、主星に至る経路も特定して、その経路に沿って敵艦隊を漸減する戦闘を俺達でしなきゃならないから……事前準備で八割、いや九割決まるな」


 囮が弁えてくれていれば何も問題ないんだが、偽計を腹芸で熟せる提督ばかりではない、むしろ、レアキャラまである。作戦を理解した上で、偽の逃走をリアルに演じられる指揮官が必要だ。


「第二機動艦隊司令なら……面白がって受けてくれるんじゃないですかね」


 第二機動艦隊の司令は……マトイ・ウカイ宙将か。厳めしい外見だが、茶目っ気と悪戯心豊富なオッサンだ。楽して勝つ派でもある。キュウシュウ星系であれば、上手く演じてもらえるかもしれない。


 幸い、キュウシュウ星系なら多少土地勘がある分、ナカイ隊の展開の下準備も少なくて済む。


「では、わかっている範囲で、ツシマ側のHDゲートからキュウシュウ本星までの星系内航路図をプロットしてみましょう」


 HDゲートは恒星や惑星の引力の影響を受けにくい場所に設置されていることもあり、港湾施設のある本星との間に相応の距離があり、また整備された航路が存在する。民間船も宙軍艦艇も通常はそこを通ってキュウシュウ星系に至るものだ。


 逃走路もその経路になるであろうし、どこに待伏せする集合点を置くか事前に計画しておかねばならない。


「今の戦力であれば、急追する際に脱落する機関不良の艦艇を後方から沈めて回るくらいしかできそうにもないな」

「……そうね。捜索能力が旗艦装備の観測機器だけですものね。有人無人の偵察機をある程度持たないと、どうもならないわね」


 キュウシュウ星系に配置されている観測機器は、サセボ要塞の司令室で管理している事だろう。つまり、余所から来た増援艦隊に伝わるには相応のタイムラグが生じるであろうし、最初から伝える気がない可能性もある。自身の索敵情報を元に作戦を進める方が適切で適時な判断と対応ができるのだから当然だ。


 因みに、『狼群戦法』というのは大東亜戦争の際に、同盟国であった国が敵国の商船団を攻撃する際に取った戦法で、狼の群れが草食動物の群れを襲う際に、背後から追跡し群れから脱落した個体を狩る行動になぞらえた戦い方を意味する。


 民間商船の場合、経済的巡航速度というのは水上の場合凡そ決まっている。水の抵抗と浮力が釣り合う最も効率の良い経済巡航速力12~16ノットとされており、その速度近辺に船団の商船の速度が集中する。とはいえ、機関の不調やどの位置にある商船かで船団から脱落する船も存在する。船団の後方や外周に位置する船が狙われる。


 当然、警戒する護衛艦艇もその辺りを踏まえ警戒するのだが、戦争の序盤においては護衛艦艇が不足しており、十分な護衛を配置できず相当の損害を出したという。その後、護衛の改善や索敵方法の改善で攻撃の難易度が高まり徐々に無力化されていくのだが。


 まあ、宙華艦隊に関してはその辺り何度かは引っ掛かるだろう。


「なんでそんなこと言い切れるんですかね」

「あいつら、ある意味で皇帝以外は相対的な存在なんだよ」

「なんですかそれ?」


 近代的な軍隊というのは指揮命令系統が明確なんだ。だから、司令官の命令に反する職業軍人などと言うのは滅多にいない。やれば軍法会議で処罰されるしな。


 ところが、中世の寄せ集めの軍隊の場合、司令官の権威が絶対的な物でない場合も多く、自分に都合の悪い命令を無視したり、目先の利益に囚われ個人的感情で全体の方針から逸脱することも容易に起こる『マイルール上等』な軍隊である場合が少なくない。


「つまり、ツユキ君が言いたいのは、宙華の艦隊は一隻一隻が独立した有力者の個人的所有物で、司令官と言えども、個々の艦船を統率する事が容易ではないという事ね」

「はい。織田信長の軍団と武田信玄の軍団の差ですね」

「……は? なにいってるんですか。宇宙戦争と古代の戦争一緒にしちゃだめでしょ」


 ミカミ、ナカイ司令が冷たい目で見てるぞ。日の元に新しきものなしと昔から言うだろ。歴史は繰り返すんだよ。


「武田は守護大名だけれど、豪族連合の盟主に過ぎなかったわね。息子の勝頼の代にあっという間に瓦解したのは、豪族が見限ったからよね。織田信長の軍団は、みな信長から与えられた武将や兵を運営する近代の軍に近い存在だったわ。だから、信長の死後も、後継者を立ててシステムを維持しようとした。徳川はその折衷のような感じかもしれないわね」


 まあ、俺とナカイは戦史マニアだからな。趣味が近いというので、話が士官学校時代から割かし合うわけだ。同好の士という奴だな。


「ニッポンやUSAの軍隊じゃなくって、鎌倉武士みたいなものって考えればいいわけですね」

「その可能性が高いということ。皇帝以外はみな平等なのでしょう? 権力基盤が異なれば、個々独立した存在ですもの。公爵と男爵で爵位の違いはあっても、皇帝の前ではともに臣下に過ぎない。上下の関係は成り立たないということになるのではないかしらね」


 そうそう、部署の違う管理職みたいなものだな。自分の所属する部門の上位者でなければ命令する権利がない。あったとしても、あくまで要請の類いであって絶対的なものではないというところか。


 皇帝の名代として指揮官は出征しているだろうが、その威を保てるかどうかはその司令官個人の資質に左右される。近代的軍隊ではそのあたり、個人の資質に左右されないように指揮命令系統は整理され、教育も為されているわけだ。


「最初は宙雷で足の止まった艦船を撃沈して回るってところだね」


 機動艦隊を主軸に艦隊同士の決戦を試みている主流派には全く受け入れらえない思想だが、戦争はスポーツではありません。わざわざ、侵略軍にこちらは合わせてやる必要はない。


「ナポレオンのロシア遠征、第三帝国のソ連侵攻、大東亜戦争の大陸太平洋での二面作戦。根拠地から離れた遠征軍が大敗するのは良くあること。成功したのは当時において異次元の補給能力・生産能力を持っていた後の超大国だけね」


 宙華帝国にそれを求めるのは難しい。可能性としてあるのは、優秀な皇帝が親征を企図した時だろう。ニッポンを隷属化にすることができれば、帝国の歴史に名を刻むだけでなく、銀河の歴史に残る業績になるだろう。良い業績かその反対かは後世の歴史家に委ねることになるだろうが。


「仮に、皇帝親征が行われ大遠征艦隊を迎え撃つことになった場合も想定しておこうよう」


 ニッポン人のDNAには、不吉なことを口にする事を忌避する傾向がある。『縁起でもない』と言い、学術的には『言霊』ともいう。実現願望ではないが、言葉には願望実現能力があり、口にしたことが事実となるから、悪いことを口にすることを控えるという意識が強い。


 つまり、リスクマネージメントという視点では欠陥民族というわけだ。


「負ける可能性を低くするために、どういう状態なら負けるかを想定するのは必要。しかし、そんな作戦研究をしている……」

「宙軍の内部には存在しない」

「まあ、どうしたら勝てるかって考えることはさ、相手の戦力を勝てる範囲に限定して想定することになるからね。出来レースって言うかさ」


 ヤエガキさんちょっと言葉が過ぎますわよ。まあほら、一星系で維持できる艦隊規模の想定がタイペイ経由で収集された宙国の経済規模推定で大体わかるわけ。


 比較的経済規模の大きいシュン宙域 宙域首都星『ニューシャンハイ』やグゥヲ宙域 宙域首都星『ニューナンキン』においては、ホンシュウ星系と同程度。機動艦隊なら三個程度用意できるだろうと推計されている。


 それ以外の後方の開発の進んでいない星系が数十あると推計されているものの、開発の進展度は低く精々が近代以前の生活レベルを維持するのが限界程度。言い換えれば、その星系が経済力を高め単独で宇宙進出できる経済段階に発達すれば、ニッポン宙域の数倍規模の艦隊を派遣するくらいの潜在能力を持つようになりかねない。


 故に、タイペイ星系経由での制限貿易にこだわり、製造設備や技術移転に一切応じなかったということがある。生かさず殺さず程度の経済発展に留めておいたわけだが、おそらく、何らかの方法でUSAとヒンドゥ連邦を通過し、ルーシ連邦との技術的提携を進めているのではと推測される。


 そもそも、宙華単独では巡洋艦迄しかUSAから供与されておらず、リバースエンジニアリングもその段階にとどまっていた。巡洋艦で星系占領は無理であり、海賊や地方反乱の鎮圧程度なら巡洋艦で十分な抑止力となるからである。


「そういえば、装甲巡洋艦はどの国の技術だったんですかね」

「軍機に関わる事だから……はっきり言えないのだけれど……」

「ニッポンでもUSAでもなきゃ、ヒンドゥかルーシだろ? ヒンドゥはルーシの技術で製造された旧式の戦艦や装甲巡洋艦を持っている。中央はこちらよりであるとしても、地方の星系はルーシや宙華と秘密裏に手を結んでいる勢力がいるかもしれないな」


 などと、適当な思い付きを口にすると、司令も首席幕僚も表情を変えたので、当たらずとも遠からずだろう。


「装甲巡洋艦に同行できなかったのは残念でした。確かに、軽巡は古いUSAの艦船がベースになっているとは思ってたんですけど、戦艦や装甲巡洋艦はみてないからですね」


 装甲巡洋艦に乗り込んだ際には良く解らなかったな。そもそも、ルーシの戦闘艦なんて俺も良く知らない。ニッポンの艦艇かUSAの艦艇ちょこっとくらいしか見たことがないしな。




「では、皇帝親征の戦力を前提に考えましょう。そうね……十五個艦隊くらいかしら」

「星系五個分くらいは引き連れてくるだろうな。前線に皇帝が出てくるわけがないから、実際は三個艦隊を指揮する部隊が車掛かりで襲ってくるわけだ」

「クルマが狩り?」


 どんな「このはしわたるべからず」だよ。新手を絶え間なく繰り出す事で、敵を疲労させ突破するような戦い方だよ。


「戦力はタイペイ-オキナワの侵攻と、ゴトウ-ツシマの侵攻同時に行うことができそうだね。それに、ゴトウもツシマもそのまま艦隊を残して連絡線を維持したままキュウシュウ星系へ侵攻もできるじゃん」

「十五個艦隊だもんねぇ。ゴトウとツシマに封鎖用の一個艦隊。タイペイは三個艦隊で早々に制圧して補給の拠点とUSAからの反撃を受け止める防御拠点にするから……六個艦隊くらい? 沖縄に一個艦隊を差し向けて封鎖して……それでも……」


 六個艦隊がキュウシュウ星系に侵攻できる。ニッポンの機動艦隊が現状四個、星系艦隊から抽出すればと思うが、既にゴトウに派遣した根拠地隊改め第五機動艦隊(仮)があり、新造艦中心に二個程度しか用意する事は出来ない。


「つまり、私たちの考えている事って……そういう時のための保険みたいなものなんですかね」


 六個艦隊でキュウシュウ星系に攻撃がなされた場合、機動艦隊を同数集めて反撃したとして、同じ程度の損耗とすれば、一度の決戦ですり減ってしまう。


 半分程度の艦隊、三個機動艦隊と星系艦隊で防衛戦を行い、要塞や衛星軌道上の『天照宝珠』等を用いて反撃するというのが理想的だろうが、キュウシュウの惑星上にはそれなりに被害が出ることになるだろう。


 戦後、撃退に成功したとしても、民主主義国家の軍隊としてその戦争は批判される事はあっても賞賛される事はあり得ない。という結論ありきで考えれば、同数の機動艦隊を用いて決戦を企図するという方法は十分にありえるだろう。



【作者からのお願い】

更新できるように頑張りたいと思います。応援していただけると嬉しいです。


3月以降は一日おきになりそうです。


 一日一(・∀・)イイネ!!もお願い申しあげます!


『わりと読めた』、『この続きを読みたい』と思われましたら下記にある広告下の【☆☆☆☆☆】で評価していただけますと、執筆の励みになります。よろしくお願いいたします!



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― 新着の感想 ―
[一言] 初めまして。 面白く読ませて貰っています。 船団の速度ですが、22ノットは無いです。 今の独航船なら22ノット巡航ですが、当時貨物船・貨客船で22ノットと言えば超優秀船の最高速力。 多くは経…
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