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042 教導隊はつづく―――『標的艦』(壱)

お読みいただきありがとうございます!



 いまだ追加の『晴嵐改型』駆逐艦が届かない為、訓練は『雪嵐』『浜嵐』とPFS、シミュレーターを利用した内容が中心になっている。とはいえ、宙雷に関する初期教育や、主な『モジュール』を装着した状態での行動についての演習なども交代で行っている。


 十人の搭乗員がのることができるため、三人つまり戦術士・航宙士・通信士でチームを作り、その三人に俺とヤエガキ、もしくは副長が艦長としてついて実際の艦船を使った宙域行動の訓練を行っている。


 二隻じゃ艦隊運動の実習も出来ないので、そういうのはPFSで練習することになる。まあ、ほら、ここから出ていく人にとってはそっちが大事な知識と経験だったりするからだな。


 半年の教育期間が終了し、一般の艦隊勤務となった場合、俺達教導隊の教育内容の質が問われるからな。そういう面倒ごとにならないように、最低限押さえるところは抑える。むしろ、出ていく奴らには艦隊運動の練習以外はお客様になってもらう。邪魔だからな。




「漸減邀撃作戦ではないのよ」

「当たり前だ。前に出るのは機動艦隊の奴らで、そこで撃ちもらした敵艦を狼群よろしく、俺達が仕留める。その方が効率がいい」


 広々とした会議室、そして、嗜好品の種類も充実していてうれしい。さすがホンシュウ星系だな。新造艦だもんな。


 星系邀撃作戦の計画書を作成しているわけだが、どうしても機動艦隊の作戦行動計画と擦り合わせると、色々問題が表面化する。


 大体、戦艦に戦艦をぶつけるために建造したんだろ? 漸減するのならお前のところの随伴艦の宙雷戦隊でやれよ。


「機動力の劣る『晴嵐』では、足手纏いになるので、こちらは後方での撃ち漏らしを相当する役割と、軌道上に接近する敵艦隊を迎撃しますとでもしておけばいいんじゃないですかね」

「それはそれで、軌道上に展開する『天照宝珠』の縄張りに入る事になるから、守備範囲をある程度定めておかないと揉める元だよ」


 流石首席幕僚ですね。つまり、星系の外縁に機動艦隊による迎撃部隊、その背後に、星系艦隊と俺達の防衛艦隊が展開し、最終ラインの衛星軌道上に展開する要塞衛星『天照宝珠』による迎撃があるということだろうか。


「いえ、どの道、星系艦隊は連携も難しいでしょうから、衛星軌道まで下がっていてもらう方が良いでしょう。艦隊決戦後の生存者救出などで活躍してもらうべきですもの」

「それがいいよ。『晴嵐型』じゃ、救助活動もままならないもんね」

「ですです。わたしたち、ぶん殴るしか能がありませんからね」


 『晴嵐型』って攻撃偏重の艦だし、それをバンドルしたのがナカイ隊の防衛艦隊になるだろうからね。全力で攻める防衛艦隊という矛盾。


「攻撃は最大の防御ですもの、問題ないわよね」


 ナカイの言葉に思わず問題しかないまであると口にしそうになるのを慌てて押さえる。まあ、宙軍全体としては機動艦隊で処理できると考えているんだと思う。しかしながら、星系防衛戦用の遊撃戦力としてナカイの提案した『駆逐艦による防宙迎撃戦』という制服組の支配から外れた戦力を育成しておきたいという思惑が宙軍省の背広組にはある。


 隻数に対して、『晴嵐型』は相当に割安であるし、運用も難しくない。それに、モジュールを交換すれば輸送艦、耐用年数経過後は民間に払い下げたり、雑役船に艦種変更しても構わない便利な艦だ。だから、お財布に優しいナカイの提案にGOサインが出ているわけだ。


「あの提案って実行されそうなのか」

「ええ。表面上は別々の予算で通しているみたいだけれどね」


『知床』型とは別に、大型輸送艦の建造計画が進んでいる。【拠点建設母艦】とも称される民間商船をベースとする移動する工廠の如き艦船だ。要塞建設に利用でき、また、星系によって不足する生産能力を補完する役割を担っている。


 星系間の行き来が戦争時に発生した場合、生産能力の弱いシコクやホッカイドウ星系において、装備の損耗が回復できず稼働率が下がる可能性がある。消耗品である宙雷や陽電子砲のコイルなどの欠乏や艦船の修理部材の不足などだな。


 技術工廠が製造する各種装備の製造設備を収容する動く工廠『拠点建設母艦』と呼ばれる『大隅型』輸送艦になる。


 本来、生産設備の内要塞における移動工廠として利用する目的で建造されたもので、一番艦はゴトウ宙域への派遣が決定している。二番艦三番艦に関しては、製造能力・補修能力の低いシコク星系、ホッカイドウ星系へと配置することになる。


 航宙機や無人偵察機、備砲の消耗部品、対艦宙雷に戦傷を負った艦船の補修部品の作成など多種多様な設備を搭載することになる。勿論、レトルト製造設備や病院機能も持たせるのだという。


「私の艦隊にも一隻必要だと思うのよね」

「必要だろうな。あれだ、運用テストと言って、一番艦はともかく、二番艦以降は一旦こっちで預かればいい」


 借パクじゃないよ、色々経験してお互いに高め合おうじゃありませんか。


「いい考えだね。現状教導隊だから、テストや演習に協力することも吝かじゃないぞぉと」

「ついでに、いろんな装備作ってもらいましょう。それも練習ですからね」


 理由が付けば、ある程度何とでもなるんじゃないか。


 因みに、『大隅型』は『知床』の二倍の大きさを持つという。新型宙母に匹敵するとも聞くな。


 星系に宙国艦隊によって封鎖された場合、消耗した装備を前線に近い場所で補充する移動工廠があれば、柔軟に戦争継続ができる。陽電子砲が重宝されるのは、その弾丸が反応炉により生成されるエネルギーに依存しているからだ。ようは弾切れの心配が最も少ない装備である。


 勿論、亜光速で叩きつけられるのであるから、逓減・拡散されるとはいえ、戦果が即時判断できる点も、宙雷やレールガンのような速度の遅い兵器に対して大きなアドバンテージだ。


 宙雷はかなり大きな装備であり、また移動速度は航宙機より早いものの、遠距離では到達までに目標が移動してしまう距離も大きい。レールガンは陽電子砲と対艦宙雷の中間的存在になるだろうか。


 そうした意味では、遠距離で陽電子砲、接近した距離で宙雷・レールガンという組み合わせになるだろう。とはいえ、それは陽電子砲と同じ運用を実体弾兵器に当てはめた場合だ。


 発射から到達まで時間差があるということは、悪い事ばかりではない。それは、今回ナカイが提案する作戦計画に反映されているわけだ。


「この艦と『大隅型』を手に入れたということは、『邀撃作戦計画』は容認されたのか」

「一応ね。プランBは必要だという宙軍省と統幕の妥協の存在だけれど、【大型支援艦】も【拠点建設母艦】も機動艦隊を増やすよりも余程有用な艦種ですもの。生産設備ごと宇宙空間に逃がしてしまえば、戦力の抗甚性も格段に高まるわ。わざわざ精密機械である宙雷を軌道エレベーターで地上から持ち上げる手間もかからなくなる。スパイ対策にも有効なのだから、実施しない理由がない……」

「って財務省と経産省のおともだちに吹き込んだのか」

「ええ。使えるものはなんでも使わなければね」


 宇宙戦艦を乗り回して喜んでいる脳筋どもには、退役後は精々年金と軍需企業への天下り顧問くらいしか考えていないだろうが、ナカイは政治家として活動する素地を、軍人である間から進んで提案書の類を作成するようにすることで、政策立案能力を育てる良い機会だと思っている。


 議員立法が少ないと二千年前から言われていたニッポン政界だが、議員立法を多数国会に提出し、最高学府を卒業したエリートを自負していた官僚を向こうに若くして財務大臣・総理大臣となった大政治家がその昔いたんだよ。


 まあ、晩節を汚したり、愛国政治家を邪魔に考えた超大国の工作組織に罠に嵌められて失脚したなんて陰謀論も存在したな。娘も政治家になったが、大衆迎合しかできずに大成しなかったと言われているから、余り持ち上げるのもどうかと思う。ニッポン人は判官贔屓という癖があるからな。


「環境は整ってきたから、あとは、それを実現できる艦隊を編成するだけ。まずは、その構成員の選抜と育成なのよね」

「まあな。二期生からは当てはまる人間も増えるだろう。あとは、内部での配置転換か」

「ええ。航宙機やPFSの操縦手から適性の高い希望者を募るという手段も考えているわ。それは、この二期と並行して打診中。特に、PFSの操縦手は期待しているの」


 だよな。艦隊希望の奴ではなく、あえて小型偵察艇の操縦を試みている奴には、俺達のやりたいと考えている事の適性が一番高いだろう。何百人も乗っている戦艦の一部として安心感を得たいと思うメンタル持ちと、小型艇を自分の居場所と考える者の間には水と油ほどの差がある。


 そういう意味では、まあ、戦隊単位での行動を良しとするかどうかはわからんけれど、人数が少ない分、そして、PFSでは手に入らないであろう敵艦撃沈のチャンスを手にしたいと思う者はそれなりにいるはずだ。


 そういう意味では、俺は『晴嵐型』が配備された時に丁度、任官するくらいだったからラッキーだと言えるだろうな。PFSはなー所詮艦載機枠だから。あとは、要塞周りの警備とか偵察任務が主。戦闘には関係しない。それは軍人として面白くないだろ? 手当も付かないし、昇格も遅れる。


 多分、その辺感じている奴らが転属希望でやってくるんだろうな。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




『大きさが……』

「おう、近寄っているのに気が付かないとほら」

『……撃墜判定……』

「お疲れ、三三九(みずく)号、お前は死んだ。次だ」


 対宙パルス砲の装備数に限って『知床』は中型宙母、巡洋艦クラスと同程度の装備を持っている。索敵能力も巡洋艦並みであるから、丁度良い『標的艦』として使用できる。


 新造艦の乗員教育も必要だしな。『雪嵐』『浜嵐』も対宙戦闘を行う。これも、今のクルーと訓練生を組み合わせた乗員で訓練を行う。後期型仕様に船体を変更したので、四連装パルス砲を用いた戦闘もデータを集めたり、AI副官の習熟が必要だからな。


 一箇所に集めた『対宙パルス砲モジュール』とは使い勝手が違うからな。


 PFSを用いた対艦攻撃演習も、慣れるという意味以上のものはないのだが、操艦システムは似ているので、まったく意味がないわけではない。まあ、こんな距離まで近寄る『晴嵐型』駆逐艦って確実に『特攻』レベルだけどな。


『こちら旗艦。飽和攻撃の状態を再現させるので、『雪嵐』『浜嵐』は対宙戦闘を最大限実行し、『知床』の直掩艦としての任務を果たされたし』

「『雪嵐』了解」


 さて、俺達の仕事の時間か。


 乗員は正規のクルーと交代。訓練生は見学に回る。


『本艦及び旗艦を目標とする小型艦多数、高速接近中。数は……八隻』


 おい、多いぞ。航宙機ならともかく、駆逐艦でこの距離まで……じゃなくって俺達は大英帝国東洋艦隊役ってわけか。


「『浜嵐』こちら『雪嵐』。直掩艦の仕事の時間だ。旗艦の推進器と反応炉の位置への攻撃進路を塞ぐように展開」

『お、珍しくヤル気だね。「浜嵐」了解』


 俺達の鼻を明かすつもりであいつらも策を練るだろう。全部を防ぐことは無理であるし、旗艦は自身の対宙攻撃で反撃できるからそこを遮る位置に取るのは当然不可だ。


  宇宙船は船体の後方に推進器と反応炉が存在するので、正面からの攻撃には抵抗力が高いが、側面後方からの攻撃に関しては脆弱になる。小型艇も航宙機もその角度からの侵入を行うのは大前提。


 だから、その位置をとりにくいように直掩艦が位置をとる。


「主砲、敵艦に向け発砲」

『……この距離じゃ当たらないわよ』

「操艦に対する嫌がらせだ。進路変更するならなおよし」

『了解。各砲塔、後方から接近する小型艦に向け発砲開始』


 直掩艦が複数いれば、多少輪形陣を意識した位置に入るのだが、二隻じゃ進行方向に対し機関の斜め後方に位置するほかない。


「こちらに、小型艇二隻……その後方に二隻接近中」

『射程距離に入り次第、対宙パルス掃射開始』

「通過時間は数秒だから、全力全開だよカスミちゃん!」

『本番モードでやり切るわよ!!』


 いや、最低限まで出力絞ってね。PFSならシールドも装甲もないから、確実に事故死扱いになるからさ。



【作者からのお願い】

更新できるように頑張りたいと思います。応援していただけると嬉しいです。


 一日一(・∀・)イイネ!!もお願い申しあげます!


『わりと読めた』、『この続きを読みたい』と思われましたら下記にある広告下の【☆☆☆☆☆】で評価していただけますと、執筆の励みになります。よろしくお願いいたします!



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