041 シコク星系艦隊―――『教導艦』(完)
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「地獄のシュミレーター訓練」
「シミュレーターな。誤字修正されるから、やめろ」
「し、しってましたー!! わ・た・し 知ってましたからぁ!!」
こんなんでいいのか情報幕僚。ナカイはホンシュウ星系に、採用要綱の見直しの件で出張っている。同一星系内でないというところが微妙に不便だよなシコク。ホンシュウ星系から離れてよそからの干渉がないというのはいいけれど。
ナカイの奴が「ついでに貰ってくわ」とか言っていたけど、なにもらってくるんだろうな。婿か。
「せんぱい、ひまですぅ」
「……仕事振られてるだろ? 五十人の訓練内容の評価」
「そんなのとっくに終わってますよ。シミュレーターの操作記録と紐づけした評価アプリ組み込んでありますから、ちょちょいのちょいです」
なるほどな。入隊前の実績と採用時の評価に、PFSの実際の運航能力試験に、シミュレーターでの適性検査と。
「まあ、向いていない人が半分以上ですね。めんどうです」
「あっちも、まさか中途採用で偵察艇擬きの駆逐艦に乗せられるとは思ってないだろうからな。そういうの向いている補助艦とか、フリゲートから機動艦隊に引っこ抜いた後の欠員補充用とか、まあ役に立たないわけじゃない。俺達には不要ってだけでな」
そう。フリゲートはJD装置も無いし、星系内巡回が主任務で軽武装の軍艦だ。ある意味、商船に近い。救難活動や警備活動が主任務で、前線に出ることはまずない。出る時は……まあ、星系陥落の時だな。
JD装置付いてないから、使い潰し確定だし。
船体は大きく速度は遅く、加速や旋回性もまあ商船に近い。だから、艦長が商船上りの予備士官でも問題はない。こんな感じで、後方の艦船から人員が抽出されて新設機動艦隊が用意されていく。
艦隊が増えれば、当然司令官に幕僚、艦長や各部門長のポストが増える。上に行きたい人間にとって、即ち艦隊勤務を希望する主流派にとっては我が世の春が如しだろうな。
シコクの星系艦隊の奴らも、機動艦隊に希望を出している奴がいて、希望をかなえられそうであった。とはいえ、シコク星系に配属されている者の多くはシコク星系出身者で、他の星系艦隊所属の乗員よりずっと希望者は少なかったみたいだ。
郷土愛って大切だと思うの。
「お前もシミュレーター乗っとくか」
「……ええぇ……PFSくらいしか乗りませんけどぉ……」
宙軍艦船も幾つかの役割りで別れて役務を担っている。きゃるぴんは艦隊勤務では戦闘に直接かかわらないし、艦の航行にも関わらない『宙務科』に所属していた。戦闘に関わる戦術科で砲や宙雷を扱う場合、小型艇を扱う必要がある。また、航行を管理する航宙科は操舵手を担うので、当然、扱える。
宙務は情報通信担当なので、艦船の運航を行う事がないわけだ。けど、艦長になる事は勿論できる。自身で『舵を預かる』とか言わないだろうけどな。
冗談のつもりであったが、実際ミカミがシミュレーターに登場した結果……好成績だった。
「ふっふっふっ、どうですかぁ!!」
「おう、いいんじゃね?」
「なんですか、それだけですか!! もっと絶賛すべきだと思いますよぉ」
いやほら、おじさん達が小娘(中身同世代)に撃ちのめされて落ち込んでるからよ。そっとしておいてほしいわけだ。
「この、心理を読むってところがポイントですよね」
らしいな。相手の呼吸を読んで、撃たれると思う瞬間に機体を滑らせる所がポイントらしい。いや、宇宙空間だとどうすんだろうな。その辺、AI副官にお任せだが。偏向ノズルのお陰で前より反応が良くなった気がするので、あれはあれでいいものだな。
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一週間ほどの後、我等が司令がしれっと大型艦に乗って帰ってきた。行きは星系艦隊のコルベットで行ったんだけどな……
『お出迎えご苦労様』
「……これが教導隊の旗艦になるんだよな」
外見は『飛竜』型宙母に似ているが、陽電子砲のような装備が見当たらない。パルスレーザー砲は同程度か。
『ええ。大型支援艦「知床」型一番艦「知床」よ。司令部もこちらに移動させるわ』
「そうだな。了解だ」
「いやー新造艦で個室ありですよねー 楽しみだなー」
情報部、情報掴んでねぇじゃねぇか。いや、もっと普通の軽巡かと思うだろ?
「さて、早速新しい我が家へ移動しようかミカミちゃん」
「あ、ちょっと待ってくださいよ!!」
情報宙佐であるクルリぱいせんは予期していたようで、手荷物片手に仮住まいから出ていこうとしている。流石である。
『大型支援艦』というのは、駆逐隊や宙雷戦隊(複数の駆逐隊で編成)が旗艦の軽巡洋艦からでは受けられない補給や宙雷の整備等を行うために艦隊随伴時に伴う補給艦の一種だ。
特に、艦内にスペースのない『晴嵐型』の駆逐艦では専用の補給艦が必要とされており、『知床型』はその為に建造されたと言ってよい艦でもある。
二個戦隊十六隻に相当する駆逐艦の補給を行う事を目的としている。建造中のものを含め四隻の就役が予定されている。大きさは中型宙母サイズなのだが、防御構造は商船並なので、容積は取れていても防御力はそれなりでしかない。
商船構造を取り入れているとはいえ、機関は艦隊に随伴できるだけのJD能力と推進力を有している。
指揮通信能力も『矢矧』並らしいが、無人偵察機などを用いた広範囲な索敵能力では『利根』や『最上』型軽巡に及ばないという。今後、運用しつつ、偵察機に関しても検討することになるだろう。『晴嵐型』自身には碌な索敵能力が無いからな。旗艦や随伴する軽巡・その搭載機に頼る事が運用の前提となる。
『ふん、まあ、これで補給に関しては一安心という事ね』
「まあ、紙装甲だけどね。でも、これで訓練も実戦に近づけられるかもね」
「だな。実際、大型艦を攻撃する訓練も、実物が無いと理解しにくいからな」
宇宙空間では比較対象物が少ないので、遠近感がわかりにくいのでどのくらいの大きさのものか、どのように見えるのか把握しにくい。まあ、AI副官と旗艦から送られてくるデータを丸ッと信用するしかないんだが、そう言うのに慣れる必要がある。
自分が見て認識している方が間違えで、AIと旗艦からのデータが正しいという感覚だな。自分に変な確信や自信がない俺みたいな奴には抵抗がないんだが、機動艦隊志望の奴にはなじめないやつが多い。
地球上で航空機に計器類が沢山ついているんだが、空間失調に陥った場合、地上がどちらにあるのか分からなくなることが少なくないから、自分の感覚を信じて墜落することを防ぐ意味合いが相当あるんだな。
まして、天地どころか全周で自分と敵の位置関係がわからない状態に陥った場合、自分の感覚を無視してAIと外部データを信じなければならない本能に逆らう判断を選択することに慣れなきゃならないわけだ。
「ほんと、人に厳しい世界だよな」
「自負心が強い人ほど克服が難しいよね。自分に自信がない人の方が向いているまであるね」
うん、知ってた。自分を疑う訓練を重ねていかないとね。
訓練生と『雪嵐』『浜嵐』とともに『知床』へ乗艦する。見学会的な何か。
「広いな」
「確かに。これだけあれば、二度三度と出撃できるだけの宙雷を搭載しておけるのであるな」
マッチ一本火事の元ではないが、ショボい航宙機の掃射でも宙雷に引火して大爆発しそうな構造だよな。
「宙雷の保管庫だけでもまともな防護設備に収めて欲しいよな」
「ボンってなったら困るよね」
「そんな前に出るつもりはない艦ですもの、無理よ」
ということで、ナカイ司令登場。
「すっごくいいんだよ、CICとか。司令部会議室とかさ」
「それは良かったですね宙佐」
「うん。いやー『利根』より充実しているんだもん。びっくりしたよ」
『利根』の指揮する艦より多くの艦を指揮するつもりで建造されているんだろうな。あっちは、搭載している航宙機や無人機の指揮スペースが必要であったので、その分圧迫されていたということもあるだろう。
大きさは『矢矧』の約200%、『利根』の150%といったところだ。利根と矢矧の差は、艦載機の搭載量の差だな。
「実際、余裕があるなら予備の『晴嵐』の船体を載せておくこともできるでしょうし、PFSや無人機のモジュールなども用意することになると思うわ」
「そのための人員がまだ確保できていない?」
「その通りね。どこもかしこも人員不足なの」
ナカイは忌々しいとばかりに顔を顰める。そんな顔も美人さんは魅力的だから得だよな。美人と可愛いの差は、表情をゆがめた時に差が出ると俺は思う。美人はむっとした顔や歪めたとしても美人なんだよな。可愛いは表情が変わると一気に劣化する。
若いとき美人だったが、年を取ると……ってのは本当の美人じゃないと思うんだ。だから、宙軍士官は皆美人です。ホントだよ。嘘ついてないよ!!
「こちらとしても、反復攻撃できるほどの練度じゃないから構わないだろ?」
「そうね。状況に応じて、何隻かは装備を差し替えられたり、臨時に旗艦を務める艦に【情報収集モジュール】【無人偵察機母機モジュール】への換装できるようにする必要もあるのよね」
後方の支援艦では指揮が取りづらいだろうからな。軽巡が貰えるのが一番なんだろうが、新設機動艦隊が優先だとすれば、こっちには回って来るのは当分先になる。やりくりできるのが『晴嵐型』駆逐艦の良いところだ。
教育隊の幕僚が若干名増員され、書類仕事が俺達に回ってくることも減るようで何よりだ。とはいえ、俺とヤエガキには訓練教官の役割りも振られているので、その進展状況の書類作成だってある。こんな仕事を生業としている全世界の教職員に尊敬の念を……感じるわけもない。
まあ、ガッコのせんせーに多くを求めるのは間違っているというのが良く理解できる。だって、公務員なんだからさ。責任回避のために証拠書類たくさん作らないといけないわけじゃない?
勉強は自分でやるか塾かカテキョに任せるってのは理解できるな。子ども一人一人に合わせる……そんなことやっている暇はない。俺も大人になったという事だろうか。人の気持ちのわかる。
「くだらないこと考えてないで、手を動かしてくださいよせんぱい」
「だよねー にやけてキモいよツユキ」
「さーせん。俺、やっぱ向いてないよ教師役」
「なに言ってるの? カスミちゃんが大概やっつけて貰えるようにミカミちゃんがシミュレーター使った評定システム組んでくれてるじゃんね」
はい、その通りです。まあ、数字で向き不向きがパキッと出てるんだよね。安心して他の舞台で頑張り給え諸君。
「ああ、あの評価内容ね。良くできていると教育局の局長が褒めていたわ。優秀な副官がおりますねって」
確かに。正確は謎のツンデレ設定だが、的確に提案するんだよなカスミは。他のAI副官も質問や提案次第で反応してくれるんだけれど、踏み込みが相当違うんだよな。皆迄言わずとも伝わる感じで、的確かつ押しつけがましくもない。言葉に圧があるのはそういう仕様なんだと理解している。
「うちの子も悪くないと思うけどね」
「あー うららちゃんは、クルリせんぱいみたいな感じですね」
「うーん、それってどういう意味かなミカミちゃん?」
笑顔が黒いクルリ宙佐チーっス。きゃるぴん、うっかり本人がいるの忘れてただろ? お前本当に情報将校かよ。その存在が疑わしい。
この後、ミカミはしばらーくクルリ宙佐に詰められていた。ざまあ。
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