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040 シコク星系艦隊―――『教導艦』(参)

お読みいただきありがとうございます!



 結局、民間も宙軍も過去の経験にとらわれているってことには変わりがないみたいだな。シミュレーターの意味を理解し、面白くないと思った何人かは辞表を出したが、教育期間中は「予備士官教育相当」として中抜けを拒否された。傷病を原因としない中途退役を認めない旨、契約書に咬ませておいて良かったねと俺はおもった。


 書面を作ったクルリンさすがっす。首席幕僚のクルリ宙佐な。




 元々、この『晴嵐型』駆逐艦の集中運用って発想は、俺の宙軍士官学校のレポートに端を発している。


 エポックメイキングな運用の多かった大東亜戦争時の帝国陸海軍だが、『渡洋爆撃』なんてことも行っているな。


 大東亜戦争の初期、第二次上海事変と呼ばれる宙国……中国国民党軍を名乗る賊にニッポン国民が襲われるのを避けるために中国の上海に軍を派遣した際に行われた攻撃だ。国民党軍支配下の飛行場を攻撃する際に、海を挟んだ台湾の台北から陸上攻撃機を派遣した作戦だな。


 作戦機数も十機前後で護衛戦闘機もない状態なので、流石に何機か撃墜され、当時主流であった『高速爆撃機には戦闘機の護衛は不要』という見方はなくなり、後年の『零戦』の開発に繋がるわけだ。


 国民党を名乗る賊軍は自慢の戦闘機では爆撃を防げないと分かり、その後も継続されるんだが、その後、米軍爆撃機によるニッポン本土空襲をもたらす事にもなったし、その爆撃機の出撃地を占領するために中国奥地へと陸軍が進出する口実を与えることになった。

 

 陸軍は広大な中国本土、海軍は広大な太平洋で戦争を行えば……そりゃ負けるよな。兵站は短くしろって死んだ婆ちゃんにあれほど言われていたのに、英機と五十六の奴が言うこと聞かないからさぁ。




 その後、陸上攻撃機と名付けられた海軍の双発中型攻撃機は、植民地となっていた東洋の国々にニッポン軍が進出する際に大いに活躍したわけだ。航続距離が長く、海を渡って攻撃できるこの手の機体はニッポンの電撃的進出にとても理想的な戦力だったわけだ。


 その後、航空機だけで二隻の戦艦を沈めた『マレー沖海戦』の主役でもある。それまで、航空機の魚雷や爆弾だけで戦艦が沈められるとは考えられていなかった。らしい。


 勿論、航空機の発射した魚雷でダメージを受けたのち、水上艦や潜水艦の攻撃で撃沈されることはあった。船足が遅くなる程度の軽微なダメージでも、戦艦の射程から逃げられない速度になれば撃ちすくめられたりするわけだ。


 二隻の戦艦、その随伴艦に駆逐艦四隻。ちょっと少ないのは大人の事情だ。とはいえ、シンガポール軍港に戦艦二隻が逃げ込めば、その航空基地のエアカバーの下、攻略の大きな障害になる事は間違いないし、敵軍には大きな士気高揚をもたらす結果となるはずだった。


 それを、七十五機の陸上攻撃機で瞬く間に撃沈し、撃墜された機体は僅か三機に留まったというのは驚きだな。航空攻撃に対する防御ノウハウが不足していたというのもあるだろう。




 とはいえ、『専守防衛』を主とする俺達が、遠征のための長距離攻撃なんてものを考えるわけがない。ようは、遠征してくる宙華艦隊を、このような発想で迎撃すれば良いのではないかと俺は考えたわけだ。


 毎日自宅に帰れるしな。星系防衛に徹するというのは一つの答えだろ?


 それが過去できなかった理由の一つは、資源を確保するためだな。生産拠点や整備拠点が本土に集中しており、一旦本土まで資源を輸送し、そこで作られたものを前線にまで送り届けなければならない。


 大東亜戦争終盤、戦争継続能力を奪う為、ニッポンは海運を殺され、製造能力を持つ都市を無差別爆撃されたわけだ。その反省から、今は、各星系単位で独自の生産能力を有するレベルに維持している。


 ホンシュウ星系と切り離されたとしても、キュウシュウ・ホッカイドウ星系は問題なく独自に継戦能力を有するレベルの資源・生産設備を有している。シコクは……まあほら、人も少ないし製造設備も御察しである。


 とは言え、人口の三分の二が住むホンシュウ星系と、その次に人口が多く、宙華領域に接するキュウシュウに戦力も生産能力も集中はしている。


 では、キュウシュウ星系やオキナワ・ツシマに対して大規模な侵攻があった場合、どう対応するのかという話になる。他には攻め寄せる勢力がないからな。


 一つは、要塞群に敵が攻め寄せる際に、敵を拘束し消耗させた後、後方の星系から機動艦隊を複数投入し挟撃することで殲滅するという方法。


 今一つは、要塞の周辺を押さえの艦隊を残したままキュウシュウ星系に戦力を集中させた場合。これは、柔軟な発想をする指揮官なら十分に考えられる話だ。それだけの戦力があればと言う事だが。


 この場合、機動艦隊同士が星系内で戦うということになるだろうが、それは単に数の問題で削り合いになりかねない。


 ランチェスターの法則だったか。古典的な戦力比の理論だけど、概ねこのあたりを考えて戦力を用意する者だろう。





 防衛戦にわざわざ戦艦に戦艦を充てる必要性はないと俺は考えた。いや、全部駆逐艦でもいいだろ? と。


 戦艦は、遠征する上での移動要塞として必要だとは思う。だが、星系を防衛するなら、衛星軌道上には『天照宝珠』が配置されているし、ホンシュウ星系には複数の要塞が配置されている。これ以上、似たものを配置するのはあまり良い発想ではない。


 攻撃・防御・補給の要である『戦艦』をいかに沈めるかという点にだけ集中すればいいと。

 

 とは言え、今はUCで戦艦の随伴艦は駆逐艦四隻ではない。撃ち放題、狙い放題ともいかない。


 大東亜戦争と同時期の世界大戦において、米陸軍航空団は四発爆撃機B-17での敵国軍需工場群への戦略爆撃を企図した。実際、行った結果は、護衛機を伴えない距離であり、往復の経路に戦闘機を配置され次々攻撃を受けた結果、その損耗率は20-50%にも及んだ。


 まあ、似て非なるものだ。攻撃に向かう間、長い時間爆撃機だけで連続して戦闘機に攻撃され続けたにもかかわらず、自衛の銃器だけで迎撃し、半分生き残った(再出撃できるとは言っていない)というだけで立派なものだ。そんなことには俺達はならない。


 俺達の役割りは、星系にのこのこやって来る宙華艦隊という『戦略爆撃機』の群れに対して効率的に邀撃し、惑星の衛星軌道に到達した時点で既に戦力としてズタボロであり、撃破されるだけの状態に持ち込む事にある。戦略爆撃機を仕留める邀撃機の役割を果たすわけだ。


 単縦陣か輪形陣か、その複合かはわからないが、邀撃戦のノウハウが利用できると思われる。


 ニッポンだって、B-29相手に相当しっかりやったんだぜ。


 東京空襲の損害や原爆投下でニッポン人は「手ひどくやられた」と思っているし、『特攻』の成果も米軍により記録隠蔽され、その戦果の大きさや米軍の抱えた損害に関して知らされていない時代があった。


 特攻機で亡くなった日本人搭乗員の数が約四千人に対し、米軍のB-29の損失数485機、製造機数2500機の二割を撃墜もしくは破壊している。乗員の死者も三千人以上が死んでいる。らしい。


 本土周辺部に隙間なく配置されたレーダーサイトと観測所、そして、その想定に沿って事前に予想された進路上に邀撃機を配置した迎撃。対空砲だって無力ではなかったし、効果があった。戦後の調査で米軍がそうしたんだから間違いないだろ? 


 時の航空軍司令官はB-29部隊の司令官に損害を軽視するなと言わざるをえなかった。航空機と考えず、軍艦と思えと。一機二機の損害ではなく、一隻二隻の損害なんだと。価格的にも、戦闘機の二十倍と搭乗員十一人の乗る機体は文字通りそういう位置づけだったんだろうな。


 まあでも、最後は力尽きニッポンは負けたんだけどな。




 ということで、駆逐艦だけで迎撃艦隊は編成できず、情報収集のための艦艇・無人機、その邀撃部隊を誘導する艦艇と指揮官、そして、星系内の停泊宙域で対艦宙雷やエネルギーの補充、損害を受けた艦艇の再整備、対艦宙雷を艦艇内で製造できる移動工廠としての能力を持つ艦艇の配備までセットで星系防衛艦隊として編成することを考えた。


 そのアイデアをナカイと育てた結果が、ナカイの出世の糸口になる研究論文に繋がったわけだ。お互い、戦史マニアであったことから、俺とあいつの間では色っぽい話はなかったとしても、共有する価値眼が育っていたわけだ。


 


☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 という感じで、食い下がるクドゥに俺とナカイのなれそめ話を聞かせてやったわけだ。だから、戦艦乗りたいなら最初から士官学校で上の席次採って、艦隊勤務で上に胡麻擦りして、上官の勧めで見合い結婚して派閥にしっかり組込んでもらうってのが大事なわけ。軍閥政治ってそういうものだろ?


 戦艦を作るってのは巨大な利権なんだよ。それに反する行動をするという奴らを統幕の主流派であり、制服組の中で力を持つ機動艦隊勤務のエリートどもが許す訳ねぇだろ。だから、こんなシコクの片田舎で冷飯喰ってるんだよ。


「……なるほどな」

「まあ、外で話をしても別に構わん。これは、ナカイがどんな存在なのか宙軍内ではよく知られている話だ」

「どんな存在?」

「艦隊勤務の脳筋どもにとっては、うっとおしい女狐だし、宙軍省の役人にとっては予算を削減するための大事な神輿だ。戦艦一隻の予算で『晴嵐』なら旗艦一隻、四個駆逐隊二個の一個戦隊が……八十八個編成できる。軽巡だって、三個戦隊整備できるんだぞ」


 そう、晴嵐型駆逐艦はお安いのだ。おまけに、JDを装備しているので、星系間を移動するのも素早い。数百隻の晴嵐を集める事も物理的には可能だ。元々PFSのシステムを利用して作られた駆逐艦なので、最低三人でも運用が可能。だから、戦艦一隻の運用人員二千人もいれば、五十個戦隊くらい運用できる。


 実際、航宙機並みだとすると、一個戦隊と言っても一個中隊程度の感覚だな。


「だから、でっかい商船の感覚じゃ全然合わない。その為の、航宙機シミュレーターでの訓練だ。誰も航宙機に乗せるつもりで訓練なんていない。そう言う意味では、採用基準を変える必要があるかもな」

「……どういう意味だ」


 簡単に言えば、高等宙専なんかを卒業している高級船員の予備士官は大型輸送船みたいな運用には向いているが、『晴嵐』にはあわないということだ。むしろ、星系内の小型船で曳宙船や連絡艇の乗員から希望者を募った方が良いかもしれない。


「二期生の募集にはまだ間があるから……」

「高級船員は無用の長物か」

「いや、適材適所だろ? 大型艦もどんどん就役するから、配置転換をするだけだ。教育訓練期間は軍務として認められるから、半年後の配置先で調整する方が良いだろうな。途中でやめたという経歴は、軍に再入隊するさいに恐らく刎ねられるからな。その辺り、不適応者に伝えておいてくれ」

「……了解した。見た目と違って随分厳しいんだな先任殿は」


 いやほら、俺、ナカイの腰巾着だから。あいつの性格が移ってるんだと思うぞ。





 クドゥとの話から得た、二期募集要項の見直しについて俺はナカイと話をすることにした。


「確かに、階級や経歴からすれば予備士官からの採用というのは適切なのでしょうけれど、私たちの求める駆逐艦搭乗員としては不適合ね」

「少々艦長職につけるのに、階級が足らない者が多くなりそうだが、その辺はなんとかなるだろう?」

「訓練中は『艦長代理』で准宙尉で実質艦長を任せて、有事には司令官権限で野戦任官。『宙尉』でどうかしら」


 野戦任官と言うのは、戦争中で上位の指揮官が戦死した場合、指揮を執る事の出来る士官や下士官を臨時で階級を上げる措置だ。役不足を解消するという意味がある。役足らずか。役不足は、格上の役者に格下の役を与えるという意味だからね。


 その辺り、あとで文句が出ないように、採用要綱の見直しと同時に宙軍省とお話し合いをする事になりそうだ。半年後の入隊としても、二期の採用の公示は既に行われているし、採用活動は一二ケ月後には開始される。ということで、ナカイ司令はこの仕事に暫く専念することになった。


 俺? 俺もシミュレーターに乗っかって訓練生の気持ちに沿ってみることにしたぞ。あ、遊んでるわけじゃないんだからね!!


【作者からのお願い】

更新できるように頑張りたいと思います。応援していただけると嬉しいです。


 一日一(・∀・)イイネ!!もお願い申しあげます!


『わりと読めた』、『この続きを読みたい』と思われましたら下記にある広告下の【☆☆☆☆☆】で評価していただけますと、執筆の励みになります。よろしくお願いいたします!



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