004 サキシマ回廊の戦い(完)
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「第一波、先頭『チンエン』型戦艦に弾着します。三、二、一」
雪嵐が先頭、浜嵐がその次の戦艦に各八発のミサイルを放った。対宙ビーム射程外からの再加速にAIの射撃システムが不意を突かれたのか撃墜は一発のみ。しかしながら、七発は戦艦の装甲と防御スクリーンにより大きなダメージを与えられていないように見られる。
「続いて第二波……弾着します。三、二、一」
EMP弾が先に戦艦二隻を覆うように遠距離から爆発。一瞬にして防御スクリーンと対宙レーザーの発射が途切れた。
「やっぱ、電磁波対策してねぇのかよ」
「変態すぎるほどやるのは、ニッポンくらいでしょ?」
過剰品質の何が悪い! 軍艦なんてのは、二重三重に安全対策を施して当然だろう?
軍艦と言えども消耗品扱いの奴らからすれば、無駄なコストだと言って省略して安く造ったりするんだろうか。
戦艦二隻の動きがとまったところに次々93式宙雷が命中していく。
「うひぃ」
隣の予備席からうめき声が聞こえる。艦首に命中、おそらくレールガンの発射口が破壊された。加速するレールが歪んだだろうな。艦尾の推進機に二発命中、大爆発を起こした。
やや小さいとはいえ、巡洋艦の十倍の体積を有するのが航宙戦艦なのだが、ミサイル数発で動力を失うというのは、かなりラッキーだと言える。
「本隊突入します」
主砲を先頭の戦艦に向け連続発射しながら、回廊に向け三隻が突入していく。二隻の戦艦は沈黙しているものの、いつ、復旧するか分からない、さらに、後方からは随伴の巡洋艦が追いついてくるのが観測できる。
「本隊の前に出る」
『了解。骨は拾ってやるよツユキ!!』
いや、骨じゃなく脱出艇を拾って下さい。
『我が友よ、いつでも反応炉は使用できるぞ!!』
大丈夫かな。いや、大丈夫だろ。軽巡一隻と駆逐艦四隻で、戦艦二、重巡三、軽巡五の打撃艦隊とやりあって、戦艦二隻大破は確実だろ?駆逐艦一隻喪失でも大儲けだよな。軍法会議とか……ないよね!
本隊が先頭の敵戦艦二隻の右舷で砲火を交わしつつ回廊内に侵入するのに対して、駆逐艦二隻は左舷の回廊脇を擦り抜けるように奥へと進む。
『こちら旗艦・矢矧、雪嵐応答しなさい』
「こちら雪嵐、艦長のツユキ」
『……あなた、どこへ行く気なの? 宙国への亡命なら一人で行ってもらいたいのだけれど』
そんなわけあるか!!
「後ろの巡洋艦にお届け物だ」
『そう……よろしく伝えてちょうだい』
つべこべ言わずに了承してくれる良い上司だが、あとで始末書なり譴責なりされるんだろうなと少々気が重くなる。
戦艦の火力が復活しつつあるようだが、俺達の船が通過した後、後ろから大爆発が起こる。
「うわぁ。レイさん過激だな」
どうやら、矢矧の93式を至近距離から遅発信管で戦艦の動力部に撃ち込んで擦り抜けたらしい。同じ爆発がもう一度。これで、二隻の戦艦は確実に行動不能だろう。
「あいつ、レールガン好きそうだよな」
「絶対にね」
至近距離で撃ちあうような戦い方が好みの我らが司令。長距離から亜光速のビームを撃ちあうようなちまちました戦いがお好きではない。駆逐艦にはありえない戦闘だしね。
「前方に巡洋艦群」
『タイミングは』
「離脱から三十秒後に起爆で頼む」
『了解した!!』
加速も終了し、既に慣性で前進している二隻の駆逐艦。スラスターを使って『浜嵐』が回頭する。
『いつでもうけとめてあ・げ・る♡』
「うぜぇ」
『このまま宇宙の塵になりたい?』
「謹んで受け止めてくださいませ」
『すなおでよろしい』
相対速度を会わせて、浜嵐の作業腕で雪風の艦橋を保持させる。この作業腕はミサイルを収容する際に使用するクレーンの事だ。
『はいよ、確保!!』
「艦橋パージ」
「パージ!!」
ガツンと言う衝撃と共に船体から艦橋が離脱。『浜嵐』の後部デッキに保持された後、浜嵐は回廊出口に向け最大船速で前進を開始する。遠ざかる『雪嵐』(船体)。
そのシルエットは徐々に小さくなり、三十秒後、後方で大きな爆発が発生する。
「うわ、大丈夫かな浜嵐!」
『うむ、EMP対策はばっちりなのでおじゃる』
「……さ、さすが宙二さんですね」
いや、デブはその部署に所属しているだけだから。技研の皆様の御助力のお陰でしょう。
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戦艦二隻は自律航行が不能となり、後続の巡洋艦も半数が無力化され、残り半数は緊急でJDをし目の前から消えてしまった。おそらく、JDの元へ引き返したのだろうけれど、けっこう危険なのではないかと他人事ながら心配している。
とはいえ、宙国は敵前逃亡や降伏した場合に惨いので、多分、生き残ってもいいことなさそうである。ニッポンに生まれてよかった。
「それで、何か言い訳はあるのかしら」
「……いえ。俺の勇み足です司令殿」
今俺は、矢矧の司令私室に呼びつけられ正座をさせられている。
「何故、我までも」
「共犯だからでしょう」
「はい……」
ニカイドウも道連れである。
しかし、この後、打撃部隊の後から揚陸艦を伴った空母機動部隊がオキナワ要塞に接近してきたり、後方勤務かと思って油断していたらツシマに増援として送り込まれて酷い目にあったりしたのは……いい思い出なわけがない。
サキシマ警戒隊の任務は解かれたが、『チーム・ナカイ』として、ナカイ司令の部下であり続けるのだからこの先もこんな話が続いていくんだろうな。軽巡洋艦で戦艦に肉薄攻撃するのはこれっきりにしてもらいたい。
【了】
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【世界観】
人類が宇宙へと進出して二千年ほどが経過。現在は『UC2022』となっている。
宇宙進出は先進国を中心に宇宙移民が進められた。増えすぎた人口を地球では賄えなくなったことに加え、ムスリムの人口爆発からくる宗教間戦争を回避するために、キリスト教国を中心に進むことになった。
太陽系の存在する銀河渦状腕を起点とし、中心部方向にキリスト教圏の国々は進出。自国の首都や大都市名などを惑星名・星系名に転用し、同国人同文化圏同士で結びつきあい開拓が進んでいった。
各恒星系を幾つかまとめた宙域単位で『宙域国家』が建国された。移動方法はHDと、整備された星間高速路で結ばれるようになる。星間高速路は高次なHDを設置された機械で行う加速装置のようなものである。
銀河の中心部に向け開拓を進めた旧西欧先進国群は、USA(UNITED SPACE ASSOCIATION:統合宇宙連合)を形成。首都星はフランク星系のルーテシアである。人口規模は約六十億と推計される。
『旧太陽系』と現在は称される「地球」は「ソロ」とも言われ、現在は宗教的聖地として保護・監視されている。
太陽系から銀河の外延部に向け移動したのは、中国と呼ばれる地域とその周辺で影響下にあったアジアの諸国である。
この国々はUSAのような発展を遂げたのであるが、その宇宙開発技術と装置を旧中華人民共和国の共産党に依存していた結果、『大宙華帝国』の建国とともに、その宙域国家に組み込まれていった。推計人口二百億人。
USAが各出身国の文化や制度を維持したままの緩やかな領邦国家群であったのに対し、宙華においては、宙国人による文化侵略・浄化活動が行われ、宙華皇帝の元、万民奴隷の如き地域となっている。
『宙域国家ニッポン』
日本人を祖とする単一民族により開拓された四つの星系からなる宙域連邦国家。USAとは宙間防衛条約を締結している。ヒンドゥ連邦と反対の回転面に位置する。
各惑星ごとに自治政府(星系政府)が存在し、内政に関しての自立した権限を有している。首都星『ニュートーキョー』の連邦政府には『大統領府』が存在し、他の宙域国家との外交・防衛に関する権限や宙域間貿易に関する協定などの話し合いを行っている。
【『雪嵐』(ゆきあらし)とは】
晴嵐型一等航宙駆逐艦八番艦として建造。UC2012竣工。
オキナワ宇宙要塞にて「サキシマ回廊警戒隊」所属の一隻として配属されている。
ニッポン宇宙軍の標準型航宙駆逐艦……ではなく多用途任務艦 M²S (Multipurpose Mission Ship) エムトゥエスとされる。多用途任務艦は、低脅威度の不審船・密輸船への対応から災害対策、工作活動、艦隊戦における様々な用途に用いることができるモジュール化したコンテナをカーゴスペースにセットすることで複数の任務をこなせる艦種として設定された。ニッポン宙軍では帝国海軍の駆逐艦同様、洋上邀撃からネズミ輸送まで想定している艦隊の背骨を担うワークホース。
他国の駆逐艦と比べ、思い切った設計思想で作られた艦であり、対艦宙雷(対艦ミサイル相当)の発射器にHD可能な船体と戦艦並みの残存性能を持つ指揮所兼脱出航宙船となる艦橋から成り立っている。
乗員はわずか十名。実際、三名での操艦が可能であり、三人で三交代任務を行うことになる。航海・戦術・機関科各三人に艦長の構成。マンパワーの不足は外部による誘導(指揮指令艦)と、作業ロボット・AIの搭載で賄っている。地球の海軍でいうところの潜水艦乗りに近い生活環境の為、少数精鋭を謳われながら不人気職のエリートといわれる。お給料がとても良い。
【多用途任務艦の概念】
旧USNにおいて使用されていた小型多用途艦艇LCS(沿岸域戦闘艦)に似たコンセプトの多用途艦。前線への輸送や海賊対策、輸送艦の護衛に機雷敷設・宙兵隊の輸送、無人偵察機の母艦、大型レールガンの発射母機などモジュールの交換により様々な任務に就くことが可能となる。
本来、『93式宙雷』の発射機コンテナが収まる区画をユニット化し、様々なモジュールを組み込む事で多彩な任務に対応することを可能とする。ニッポン宙軍の先祖である地球時代の旧日本海軍において、太平洋戦争全期に渡り様々な任務に就いた特型駆逐艦と呼ばれる『ワークホース』の姿に重ねられる。
船団護衛、島嶼地域への補給・兵員輸送、敵艦隊への襲撃、警戒活動など、停泊地で油を文字通り売るだけであった戦艦・巡洋艦に比べ、圧倒的な稼働状況であったことはよく知られる事でもある。
その直系の子孫が『晴嵐型』となるだろう。ニッポンの伝統工芸品『こけし』に似ている。「宇宙こけし」なる仇名もあるとか。
乗員十名、JD機能付推進器、
姿は三枚おろしの魚のような形。頭の部分に艦橋、背骨の部分にHDと主動力源に単装両用陽電子砲六基を装備。胴体部分に三基の対艦宙雷四連モジュールスペースを三又形状に配置し、その間に二基の陽電子砲が装備される。乾電池のケースの様なイメージ。
反応炉が稼働状態であれば、艦橋前部に戦艦並みの障壁を展開することができる。艦橋が本体とパージされた場合、動力源消失により機能が失われる。
【宙雷モジュール】
三か所の船体モジュールスペースに、『93式対艦宙雷』四連装発射管をマウントする仕様。『駆逐艦』としての任務を行う場合の標準仕様。
【陽電子砲モジュール】
三か所のうち、1ないし2箇所のモジュールに巡洋艦の主砲相当の単装陽電子砲ユニットを配した仕様。砲塔ではなく船体にマウントされている為、突撃砲よろしく艦首を向けた方向への射撃しかできない。照準微調整程度は可動する。
【レールガンモジュール】
陽電子砲と同じく装備する。こちらは、速射性より待ち伏せ攻撃などでの実体弾によるダメージを狙った仕様。陽電子砲との混載はできない。ミサイルより弾数は増加するが、陽電子砲と比べれば攻撃回数は減少する。
【誘導機雷モジュール】
ツシマ回廊を封鎖する為に敷設されている『15式複合感応宙雷』。その回収と敷設を行うユニットを収めたモジュール。対艦宙雷再装填用の作業腕が機雷の回収・敷設に有効利用されるとか。
【強襲揚陸モジュール】
一つ辺りに、完全武装の宙兵隊一個小隊三十人+複合作業艇を収めたモジュール。分隊規模による、惑星降下ポッド仕様も存在するらしい。また、強化戦闘服のコンテナを搭載することも可能。海賊への臨検や、小規模な強襲作戦に用いられる。
宙兵隊員は通常旗艦に搭載され、作戦実行時にモジュールに収容される。
【輸送モジュール】
いわゆる輸送コンテナを収容するモジュール。標準的な輸送船の二十分の一程度の積載量でしかないが、脅威度の高い地域における補給作戦の実行の際に用いられるとされる。
【無人偵察機母機モジュール】
偵察・監視任務に使用されるモジュール。無人小型偵察艇・偵察機の発射母機となり、偵察機が送る情報を収集する任務を担う。警戒隊の派生任務として比較的多い役割り。本来、旗艦が搭載する偵察機だが、単独での警戒実施の場合、『宙雷』『偵察母機』モジュールの組合せなど混載される場合もある。
【医療・避難モジュール】
小惑星や人工衛星などで突発的事故による怪我や避難を行う場合に装着されるモジュール。簡易ベッドや医療ポッドを収めた簡易病院船仕様となる。さらに、医師看護師を配置する『簡易診療所』仕様も存在する。
【情報収集モジュール】
巡洋艦並みの通信・索敵装備をパッケージ化したモジュール。簡易司令室モジュール、通信モジュール、索敵モジュール各一基を装備し、旗艦機能を担う事が可能。但し、生活水準は晴嵐型並みに低下する。司令部人員二十名。
【工作艦モジュール】
艦隊に同行し、損傷を追った艦船の応急修理等を行う事を目的とするモジュール。作業用の大型腕、予備鋼板、補修部材とその装着・交換を行う工具を備えている。作業員用の仮設船室も有する。
と、このようなコンセプトを生かした短編の積み上げでお話を構成できたらと考えています☆
【作者からのお願い】
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