039 シコク星系艦隊―――『教導艦』(弐)
お読みいただきありがとうございます!
資料映像の効果。トクシマの星系艦隊から退役希望者多数発生。
教導隊に関しては、ほぼゼロであった。やめそかなって奴はそれ以前から「おもてたのとちゃう」と散々口にしていた奴であったし、ヤエザキのパルスレーザーの射撃も「お花に水を上げた」程度のものだと予備士官たちは理解できたみたいだ。
わざわざ民間宇宙船を下りて宙軍に志願したのだから、覚悟の上であったということだろう。最初から宙軍に入ったものより、気持ちの固まり方がしっかりしている、覚悟できているという事だろう。
「レーザー降って死固まるってやつだね」
「どんな奴だよ。まあ、いいさ、この先この程度の訓練なら問題にならないって分かって良かったぜ」
ナカイ司令、過激な事には定評がある。実際の訓練には、もう少し時間がかかるよな。艦船も揃っていないし。
一応、この教育隊で八隻の『晴嵐改型』を受領する予定なんだよ。そこで習熟訓練を行い、一先ずは八隻、さらに人数を加えてもう八隻の合計十八隻に『知床』を加えて一個艦隊を形成するつもりなんだ。
旗艦に一隻軽巡くらい廻してもらえるかもしれないがな。
「駆逐艦だけの艦隊か。陸軍だと、あれだね張付歩兵とか後備歩兵とかそんな感じだね」
要は、移動手段や独自の補給手段を持たない動員された兵士で形成されるような歩兵師団だという。装備は二級品、兵士はロートルという、頭数以上の意味のない部隊であったらしい。
「いやいや、俺達は突撃砲みたいな感じだろ? 少ない工程数、強力な主砲、低車高で避弾経始も悪くない。戦い方さえ正しくあれば、並の部隊より成果が出せる。そういう艦隊運用を考えればいい」
「言うのはただだからねぇ」
まじヤメロその言い方。
正規の軍人として教育を受けていないからこそ、固定観念に左右されにくい部隊に出来るんじゃないかと俺は思う。あれだ、セオリーと言うのは強力なものだが、その分研究され対策をほどこされやすい。
戦艦を中軸とする部隊を攻略する手段を『晴嵐』で考えるというのが、この教育隊の課題なんだろうな。まあ、まともに艦隊として運航できるようにするのが先決か。
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★
『宙技士』という船員資格がある。基本的に、艦長・機関長・航法士・通信士といった船を動かす幹部は、みな何らかの『宙技士』資格の保有者である。
そういう有資格者を臨時任官させて艦隊に配属させるのは難しい。今回、教導隊に配属されたメンバーは五十名。半年後、もう五十名が入隊する。
なら、宙軍の宇宙軍艦乗りにはその資格がないのかと言えば、軍艦は軍の内部における『運航資格』の保有により民間同様運営している。とはいえ、民間と軍には異なる点がある。
軍特有の艦隊行動、陣形・占位運動などは『宙技士』には無い項目なのだ。民間の宇宙船は、船でマスゲームをするような真似はしないからだ。
「厳しさに対する理解度は進んだのよね」
「だが、正直、あんな経験は一生に一度くらいだろ?」
主に『雪嵐』の艦橋からの記録映像に魂消た予備士官の皆さんだが、それ以上に自分たちはどのような場所に向かっているのかが明確になり、気持ちが落ち着いたようだ。
俺達が民間の宇宙船乗りを甘く見ていたように、あいつらも軍を舐めていたということなんだ。浮足立つ、浮ついていたというところだろう。それが、一気に腹が据わったということなのだ。
なにが起こるかわからないから、あらゆる出来事に対応できるように訓練するというのは崇高な姿勢だが、その実、余り効率的ではない。精々、90%くらいの確率でおこる事象に限った方が効率がいい。それ以上であれば自力で何とかするか、運が悪かったと諦める。
今回、民間からの予備士官を中途採用で正式任官させるという計画は、当然、統幕や艦隊派の発想ではなく、背広組・宙軍省の役人とその系統の財務・経産省あたりの発想らしい。
正規の軍人・軍艦を拡大するのには予算も人も足らない。その上、いつまでその体制を維持すればいいのかも不透明だ。主力艦だけでも二倍となる艦隊を維持する予算は当然二倍。そんなもの、何年も続けていては国家財政はどうなるかということだ。政治家も経済界も瞬間風速で特需が吹くものの、いつまでもというのは困りものなのだ。
その点、民間からの志願者で編成された小規模な星系防衛艦隊の増設というのであれば、『専守防衛』『財政防衛』という面で有意義でもある。
出身星系の防衛を主とするのであれば、練度も士気も高まりやすい。何週間何か月と艦隊行動するのでなければ、習熟だって行いやすい。相手は遠くから一か八かの大遠征で疲労も高まるであろうし、補給だっていい加減だ。こちらは「逸を持って労を待つ」体制を維持できる。
いきなり惑星軌道上に大艦隊が現れるのはおとぎ話の世界だけの話だ。大質量の天体の傍にいきなりジャンプ・アウトすることはまずできない。それも、惑星攻撃できる大艦ならなおさらだ。
とまあ、そんな研究を進めてきたのがナカイ司令である。この『教導隊』のアイデアもナカイと、俺を含めた周辺グループの共同研究が元になっている。ということで、俺は根っからの駆逐艦乗りというわけだ。だって、艦隊行動なんて興味ねぇから。宇宙戦艦でマスゲームやって何が楽しいの?
無駄な労力だろ? 規則正しい進路変更とか、的になりたいのとしか思えん。
というわけで、民間出身の皆さんには頭の中に消しゴムをかけてもらわねばならない。記憶はともかく、正しいとされている事は消してもらう。
『何やらせる気かしら』
「単なるシミュレーターだ。アーケードゲームみたいなもんだな」
そう、ユニバーサルシミュレーターを用いた宇宙船の操艦シミュレーションを実施する。正しい艦船の操作が、戦闘機動としては正しくないという事をより理解してもらうためにだ。
民間宇宙船なら、『急』の付く操作は戒められる。急旋回、急加速などだ。急な操作を行う事で不安定になりに崩れや思わぬ事故が起こること、経済的な問題もある。推進器への負荷や燃費悪化などであろうか。また、急な挙動を行わねばならない危険察知の遅さなども怠慢とされるかもしれない。
「あれだ、昔の戦闘機乗りの話を考えればいい」
『あんたの好きな大東亜戦争? だっけ。古代の戦争じゃない』
そうです。いまから二千年は昔の戦争だが、学ぶべき事は少なくない。その後、誘導弾が主力となってしまったこと、空対空戦闘での接近戦・格闘戦が発生することが少なくなったこともあり、ある意味陳腐化したレシプロ戦闘機の搭乗員の心得だが、宇宙での艦船運動にだって応用が利かないわけじゃない。
戦闘機動というのは、墜落する寸前の危うい機動での攻撃機会の取り合いという考え方だってその一つだ。安定した飛行状態を維持していたら、容易に行動を予測され撃墜できる位置から射撃されてしまう。
編隊を組んで飛んでいる時に、自分たちの翼の陰や太陽の位置に敵機が潜んでいないか警戒したりするのも、その状態で先手を取られれば確実に墜とされるから最初に戒められる行動であったりする。宇宙にはあんま関係ないけどな。翼ないし。
飛行機を横滑りさせ、急降下させ、急旋回、急上昇させながら自機の位置エネルギーを速度に換え、運動エネルギーを高度に変えつつ、相手の背後をとるために危険な機動を繰り返すことになる。
いや、最初の一撃でダメージが与えられなければ、そのまま空域から遠ざかり安全な位置からサイド攻撃するという発想も正しいかもしれない。相手が見つけられない宙域から自軍は観測所から送られてきたデータを元に奇襲をかけるという『北ベトナム方式』だって有効だろう。
兎に角、真っ当に安全に運航するようなことなら、AI任せで全く問題ないわけだ。それで戦争をするのであれば、相手が予想しにくい機動をするために人間が任意に操艦することになる。
民間宇宙船では「正しい」とされた予測できる運航はAIに委ね、人間は頭のおかしいとされる機動を任意に行わなければならない。まあほら、それが無ければ無人機でできるんだからさ。やらなきゃね。
『ふーん、それであんなに必死にゲームしてるんだ、あいつら』
「まあな。民間でしっかり経験詰んだ優秀な船長や航宙士ほど難しいことになるんだろうな」
これは、ナカイも考慮しているんだが、安定志向の改善できない高位の予備士官を艦長にするのは危険だろうということだ。とはいえ、集団で一撃離脱するような戦法であれば問題なく任せることもできる。AI副官任せと大差ないとしても仕方ないけどな。
なので、宇宙船の航宙士として経験が少なくとも、操艦にみるものがあれば『艦長代理』のような形で艦長役を委ねる方向で検討している。
目の前では、宇宙船の艦長・航宙士として操艦に自信があった者たちが何度も繰り返し撃破され、シミュレーターの躯体を激しく揺らしている。マッサージチェアだと思えば悪くないかもしれないが、シェイクされて胃液が逆流してヘルメット内に嘔吐物があふれているゲロリストも多数見えている。
やっぱ、ちょっと捻くれ感のある奴の方が撃破されにくいな。クドゥ予備宙尉はそういう意味では弁も立つが腕も立つようでなによりだ。面倒なベテランどもはクドゥに丸投げだな。俺はノータッチ。
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★
「ツユキ先任! 訓練内容を再検討いただきたい!!」
見た目は俺より一回りは上だ。特に頭部。アンチエイジングしていないと、まあ、こういうこともある。おそらく同世代なんだろう、安定した良い操船をする予備士官の一人だ。
「えー ナカイ司令と宙軍の教育局が考えたカリキュラムだから無理」
「……無理って」
「ん、軍だからな。あんたが民間船の船長なら、雇い主の船主? まあ所有する船舶会社とかそういうのと交渉すりゃいいけどさ。軍も役所なわけ。あんた、自分が都合悪いからって、役所にやり方換えろって言っちゃうヤバい人なわけ。見た目によらず尖がってるんだね。あ、尖がっているかもな」
そのおっさん(年齢的には同世代)の頭頂部は地肌で尖っている感じがする。
「そ、そのような意味では……」
「まあ、教導隊第一期だから実験的要素もあるから意見としては聞くけど、まず、所定の書式で教導隊司令当てに意見書として挙げろ。口頭なんて論外だ。ここは宙軍、軍隊はもっとも古典的官僚組織だ。世界史で習うだろ?」
経営学やロジスティック論でも習う。高等宙専(宇宙船の高等船員を養成する学校。国立と公立・民間とある。予備士官になるのは、国立卒)なら当然の予備知識だ。
民間は、雇われ船長とはいえフリーランスとして高給取りであるし、専門職として選べる立場だからな。俺も退役して民間資格の『宙技士』とって、星系内航路の定期船の船長とかやるんだ。運転手ダメだったときにはな。
「ツユキ准宙佐。聴きたいことがある」
お、クドゥじゃねぇか。なんだよ、お前は慣れ親しんだ感じで問題ねぇだろ? もしかしてゲーセン通ってたクチか。リア充でも仲間連れてワイワイゲーセンで楽しそうにしている奴らいたな。市ね!!
「この航宙機シュミレーターに何の意味がある?」
そうです。え、だってめんどくさかったんだもん。航宙機は、PFSよりちょっと小さな宙母に乗っている機体だ。相手が小型機を出してきた場合、こちらも邀撃用に出す必要があるし、大型艦を攻撃する際も小型航宙機での飽和攻撃というのは悪くない手段だ。まあ、戦艦主流の艦隊戦では消耗したあとに仕留めて回ったり、逃走する艦船を追撃したりする『軽騎兵』のような役割りかもしれない。
「俺達の乗る船はでかい航宙機であって、輸送船でも戦艦でもないからな。ちんたら安全に運航する癖がついている奴を炙り出す為にやらせている。まあ、適性が無くても艦長にはするが、運用的にはミサイル運搬船の船長という役割になるか。『晴嵐』ってのは、マスケット銃みたいな集中運用を前提としているからな。数が必要なんだ。だが、それしかできない人間は最初の時点で把握しておかないと、促成栽培なんでな。全体の足を引っ張らないように仕分けする必要があるんだよ」
多用途艦である『晴嵐』に乗せるか、ミサイルキャリアとしての簡易型に乗せるかの仕分けって事だ。戦場のど真ん中に後者はいかないからそれはそれで幸せだと思うぞ。
だからクドゥ、そんな怖い顔すんなって。お前は戦場のど真中行き確定だからな。
【作者からのお願い】
更新できるように頑張りたいと思います。応援していただけると嬉しいです。
一日一(・∀・)イイネ!!もお願い申しあげます!
『わりと読めた』、『この続きを読みたい』と思われましたら下記にある広告下の【☆☆☆☆☆】で評価していただけますと、執筆の励みになります。よろしくお願いいたします!




