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038 シコク星系艦隊―――『教導艦』(壱)

お読みいただきありがとうございます!



 辞令交付から二週間、今、ナカイ隊こと『特設教導隊』は何故かホンシュウ星系ではなく、シコク星系の『トクシマ』要塞にやってきている。


 シコク星系はホンシュウ星系と近い星系だが、人口も少なく守るべき場所もかなり少ない。警備に廻されている宙軍艦隊も四つの星系のうち最も少ない。ということで、設備に余裕があるというのが一つの理由だろう。


「まあ、ホンシュウ星系は予備役艦の現役復帰とか、新造艦の公試運転なんかで忙しいですからね。キュウシュウはオキナワ・ツシマの後方補給基地としてフル稼働ですし、消去法でここに押し込まれちゃったわけです」


 ホンシュウ星系でオフを楽しむ副長の野望は潰えたらしい。


挿絵(By みてみん)


【ニッポン宙域周辺図】



 シコク星系・トクシマに配属されている艦船は、星系防衛艦隊としてフリゲート四、コルベット四が全兵力で、HDゲート周辺と本星の間の警備が主な任務だ。


 とはいえ、おもな産業が農林水産業であり、それ以外の取り扱いが殆どない星系間交易となるため、民間船を襲うような宙賊擬きも存在しない平和な星系だ。訓練し放題。


 それに、ホンシュウ星系では訓練宙域も相当設定されているので、新設教導隊は過疎しているシコクへ行けという上のありがたい配慮でもある。


「でもなぁ」

「何か問題でもあるのかしら?」

「……いえなにもありません」


 ちなみに、新設の教育隊の名前は『星系防衛教導隊』だそうです。

宙軍大学校の下部組織に当たるらしい。


 宙軍には「宙軍予備員」という仕組みがある。これは、平時においては民間宇宙船の乗員を務めているが、有事には召集される予備役相当の人員の事だ。


 これは、各星系にある国立宇宙船学校の卒業生が該当する。宇宙船乗組員になるには様々な経路が存在するが、国立宙学卒業者の多くは船長・航宙士となり、宇宙船の運営を行う存在になる事がほとんどだからだ。国立現役生は『宙軍予備生徒』となり、また、それ以外の宙学生徒は『予備練習生』として予備下士官課程相当とした。

 

 今回、教導隊に参加している方達は、民間で宇宙船に乗っていた経験があり、相応の資格を持つ二十代の『予備士官』の資格を持つ人たちなのだそうだ。


 なんでかというと、予備士官というのは宇宙船乗員としての勤務日数に応じて実役としてカウントされ、軍務につかずとも予備士官として昇進することができるらしい。とはいえ、四十代五十代でアンチエイジング措置していないベテラン船員を宙軍で採用するわけにはいかない。経験年齢だけで宙尉はともかく、准宙佐や宙佐になるからだ。


 まあ実際、小さな組織である『晴嵐型』駆逐艦の艦長を腹の出た初老の船長上りが務めるのは難しいだろう。相応の年齢なら、個室風呂付生活が当たり前だし、相応に給料も貰っているからな。


「しっかし、全部『晴嵐』でやらせるとは思わなかったな」


 晴嵐のモジュールの中には『情報収集モジュール』という仕様がある。


 巡洋艦並みの通信・索敵装備をパッケージ化したモジュール。簡易司令室モジュール、通信モジュール、索敵モジュール各一基を装備し、旗艦機能を担う事が可能というものだ。


 居住スペース生活環境は『晴嵐』並みになるが、寝泊まりできなくもない。もっとも、日帰り訓練の間は、その辺り気にする必要もないのだが。つまり、俺の不満は『雪嵐』にそのモジュールが組み込まれ、教導隊の『旗艦』相当となり、司令部が座乗していることにある。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 『知床』型補給艦という船が宙軍にはあるらしい。大型支援艦というのが正式な名称なのだが、これは小型艦艇の燃料弾薬食料、医療施設、小型舟艇の整備施設などを有する艦隊同伴型の補給支援艦だ。


 艦内設備が脆弱である『晴嵐型』駆逐艦の支援目的で建造される。 その大きさは中型宙母ほどもある。なお非装甲。


 これが、『教導隊』の旗艦になる予定だ。近日、お目見え予定。それまでの仮旗艦として『雪嵐』が使用されている……はず。


「狭いながらも楽しい我が家って感じだね」

「住めば都ともいいますから」


 いや、俺は『知床』が早々に就役してくれることを願っている。二番艦以降は少し時間がかかるだろうけれど、一番艦は不具合続出でもとっとと完成させるだろ? 進宙後にいろいろ問題が続発して、起工済みの二番艦以降に改修が次々降りかかるというのが基本だ。何の基本かは知らんが。




 基本的に、予備士官から中途採用させてもらった人達は、年齢的には二十代後半の人が多く、同世代と言ってもいい。見た目は俺らより上だが。で、階級的には艦長に当たるのは宙尉がほとんど。予備士官だから、平均的な軍の昇格より若干遅いからこんなもんだろう。


 戦術士・航法士・機関士は准宙尉が該当する感じだ。


 最初に覚えてもらうのは「PFS」を用いた運航の習熟だな。『晴嵐』は特殊な艦艇で、艦橋のつくりそのものは現役のPFSをそのまま使用している。JDシステムなどは速度の差からかなり異なるし、火器管制システムなどは完全別物だが、飛ばすだけなら同じなのだ。


 他の宙軍艦とも民間宇宙船とも異なる。それに、PFSは全員操縦できないと脱出艇としても利用されるので困るのだ。


「お安いですし、これは数が揃いますからね」


 そう。宙軍の艦艇としては最安値と言われる『晴嵐型』は、コルベットの3/5の金額なんだが、その『晴嵐』一隻の値段で十五隻揃うのがPFSだ。めちゃ安い。実質的には艦載艇に最低限のJD能力を持たせたものに近い。何と言っても、JD能力のない航宙機より安い。


 というわけで、全員がPFSの操縦をマスターできるように、朝から晩まで訓練しているわけだ。月月火水木金金は伝統!!


『なんだかへたばってきてるね。気合い入れてあげようか?』


『浜嵐』艦長のヤエガキは、自分だけハブられていると思っているのか、最近ご機嫌斜めである。コタツミカンしてるわけじゃないから。俺の心が安らげないだけだから。


「ヤエガキ艦長。具体的には」


 ナカイの問いにヤエガキがさらりと答える。


『出力絞ったパルスレーザーで対宙射撃する……とか?』


 その昔、実戦的訓練を行うために、実弾を頭上すれすれに発射しながら匍匐前進させたという。銃弾飛び交う戦場で硬直して何も考えられなくなる状態を訓練で体験させておくためだったとか。


 でも、いまやらなくてもいいでしょ? 


「やってみましょう。出力は最低に絞って」

『OKー』


 後期型と同じ仕様にアップグレードされたので、三門の単装陽電子砲、三門の四連装対宙パルスレーザーに艦の備砲が変更されている。そのパルスレーザーで射撃をするという事だ。


 俺? やらないよ。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 ということで、訓練終了後、訓練生の皆さんから一斉に抗議の声が上がった。うん、やりすぎんなよって俺も思った。口には出さないけど。

 

 先頭に立つのは、訓練生のまとめ役的立場のクドウ予備宙尉。ちょっとヤンチャしてました系の人っぽい。なんとか英伝に出てくる航宙機のエースっぽい感じだな。


「どういうことだ!」


 という感じで、上官に詰め寄る姿が民間っぽいよな。目の前にいるのは先任宙佐。宙尉からすれば雲の上の存在だ。


「クドウ予備宙尉。司令に対して無礼だ。ここは娑婆じゃない」


 と、腰巾着としては一応牽制しておく。


「あーもしかして怖かったぁ。ごめんごめん、娑婆の人にはちょっと怖かったねー。もうちょっと手加減してあげればよかったけど、あんな花火みたいな銃撃でピーピー騒いでいるようなら、さっさと荷物まとめてお家に還んな!!」


 ヤエガキが鞭の役。俺も鞭の役。ならば……


「だめだよー みんなまだ軍人としての意識が低い系なんだからさ。ほら、チンタラPFS飛ばしてるから喝入れられたって分かってないんだから。言葉を尽くして、理解してもらわないとね」


 首席幕僚も鞭。


「あはは、そんな顔してわらっちゃいますよ、プゲラ。せんぱーい、装甲巡洋艦の主砲の直撃ってどんな感じか、『雪嵐』の艦橋の記録、ボクチンたちに見てもらえば良いんじゃないですか?」


 おう、シールド二枚展開していても、正直ちびるくらい怖かったぜ。


「ふふ、戦場でレーザー射撃を受けるくらい当たり前なのに、訓練弾で少し撫でただけで大騒ぎするのは士道不覚悟です」

「お、俺達は武士じゃない」


 馬鹿言ってんじゃねぇよ。


「あんたら全員『宙技士』じゃねえの? 士道不覚悟で問題ねぇだろ」

「だよねー」

「そうですねー」

「そうだね」

「そうね」

「「「「「……」」」」」


 なぜか、副長が「小さい子虐めちゃだめだよ」と言い出した。いや、みんないい年したオッサンなんだが。




 ということで、折角なのでトクシマに配属されているフリゲート・コルベットの乗員の希望者も含めて、『教導隊』として実際の戦闘の際の艦橋スクリーンから見えた状況・映像を見てもらう事にした。


 百聞は一見に如かずというやつだ。


 装甲巡洋艦の主砲は怖いのは当然だが、仮装巡洋艦や武装商船から撃ち込まれるビームや対艦宙雷だって正直、縮み上がるような内容だ。実際、直撃はシールドで回避できたものもあったが、正直ダメかと思うような状況もあった。


 副官のお陰で命拾いしたことも、一度や二度ではない。


 スクリーンが調光しなければならないほどの光の槍や、至近距離での宙雷の爆発。主砲がこちらを捕らえ、光を放つ瞬間の映像。思い出すと、夜寝られなくなりそうだから止めてくれ。また夢に見ちまうだろ?


 有志で見学に来たトクシマ所属の宙軍軍人たちは、最初はお祭り騒ぎのようなテンションの高さで会場に現れ、変な雰囲気になりかけていた。場違いというか、ナカイが激怒しないかどうか心配だと言えばいいか。


 でもな、シコク星系なんて前線から遠く離れた星系の巡回しかしていない奴らからすれば、実際相手と砲を向け合い撃ちあう状況というのはリアルにイメージできていない事なんだと理解した。尋常じゃない空気に変わったからだ。


「これ見て辞めたがる奴増えても、俺らのせいじゃねぇよな」

「当然じゃない。それこそ、士道不覚悟よ」


 目の前の映像を見て顔色が悪くなり、頭を抱え耳を塞ぐ姿も幾人か見てとれる。軍人さんってのはこんなことも経験してなお、平気な顔して生きていかないといけない難儀な職業なんだよ。知らなかったのかな?


 俺は、その昔の英雄伝説で、艦橋の司令官席の卓の上に胡坐を組んで座る東洋系の司令官を見て違和感を感じたんだが、あの状況で回りで次々味方の艦船が沈んでいくのに、他人事のように振舞うあの司令官はおかしいと思ったことを思い出す。


 まあ、立場上逃げ出すわけにもいかないという事だけでなく、自分の仕掛けた作戦の結末を知る事に熱心で、目の前のことが見えていない・関心が無いという感じなのかもしれないと今は思う。


 実際、他人の戦闘の映像だと思えば肝も冷えるが、あの場にいた俺は特に恐怖も緊張も……まあ、それなり以上には感じていなかったな。でも、この場の教導隊司令部以外にとってはショックなんだろうと思う。



【作者からのお願い】

更新できるように頑張りたいと思います。応援していただけると嬉しいです。


 一日一(・∀・)イイネ!!もお願い申しあげます!


『わりと読めた』、『この続きを読みたい』と思われましたら下記にある広告下の【☆☆☆☆☆】で評価していただけますと、執筆の励みになります。よろしくお願いいたします!



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