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035 ゴトウ宙域駐留―――『防宙艦(仮)』(参)

お読みいただきありがとうございます!



『こちら旗艦『利根』、『雪嵐』被害状況を報告せよ』

「『雪嵐』から『利根』へ。装甲巡洋艦並みの砲撃を受け、シールドが一時的にダウン。現在復旧、船体へのダメージは無し」

『了解。自艦の防御を優先し、速やかに後退せよ』


 後退せよって言われてもなぁ。艦を回頭させなければ後退することはできない。そして、この艦の防御は艦首シールドのみしかない。そう、前を向かなければ即座に死が訪れかねない。困るだろ?


『操艦、もらうわよ』

「任せる。ピッタリくっけちまえ」


 恐らくは架装された砲は旋回砲塔など載せられていないはずだ。艦側にピタリと付けてしまえば、近接火器もないと考えられる。仮装巡洋艦でも、武装商船でも主砲もどきは積んでいても、対宙パルス砲などは積んでいる可能性はかなり低い。宙賊対策の自衛用が主だろうからだ。


「対宙パルス砲は商船だと使い所が難しいもんね」

「推測だが、わりといい線行っていると思うから、副官様にお任せだ」

「艦長、主砲の射撃継続しますか?」


 俺は是と答え、対宙パルス砲も射程内に入った時点で備砲のあるあたりに撃ち込むように指示をする。


 不審船の反撃はかなり間隔のあいたものであり、AI副官様の操艦で機先を制した軌道変更を行い、最初の一撃以降の射撃をことごとく躱していく。


『発射間隔も掴めたし、制御の癖もだいたい読めたわ。もう当たらないわよ』

「主砲以外の火器にも注意だ」

『もちの!! ろん!!』


 『雪嵐』の単装砲の射撃が連続し、既にかなり大きくなって見える不審船の船体に一発、また一発と吸い込まれていくが、動きを止める様子も、怯む様子も見て取れない。


 推力偏向ノズルの効果もあり、艦は不審船の側面に向け機動している。スラスターではこんなに簡単に進路変更をするのは難しいだろう。燃料の残を考えてしまう。


『これで、艦首の主砲は使えなくなったでしょう? あとは、何が出るか……』

「艦長、船体中央に、多連装宙雷発射機見えます」


 航法士からの報告、ショボい自艦の光学照準器では捉えるのが遅くなった。


『撃ち飛ばすわ!!』

「発射されました」


 艦首を再び不審船の側面と正対するように修正、前方に向け、三門の単装砲と、正面に向けられる四基の四連パルス砲が射撃を開始する。


「発射された対艦宙雷の数……八……七……」


 主砲の射撃で一基を削り、さらに近づく宙雷を対宙パルスが近いところから削っていく。エネルギーの礫を投げつけるように、宇宙空間に光の線が細切れになり宙雷へと吸い込まれていく。


「五……四……三……」


 二発の宙雷が撃ち落とせなかったようだが……


『うぉりゃああ!!』


 AI副官が出してはいけないような声を上げ、ギュインと船体が歪んだような気がするほどの軌道。


 急激な軌道変化で到達場所に目標がいなくなったと思った対艦宙雷に、対宙パルス砲の光の礫が命中していく。


「……全弾破壊されました……」

『そのまま、やり返しに行くわよ!!』


 もう誰が艦長かわからない。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 不審船に近寄る前に、主砲の位置を想定し、丁寧に近寄り対宙パルス砲で打ちのめしていく。仰角をとれない位置からの連続射撃で、船体の外殻ごと破壊しながら、バリバリと砕くように打ちのめしていく。


「さすが、モジュールにジェネレータ追加してある効果だね」

「ご利用は計画的にだがな」


 短時間に相手を破壊するだけのエネルギーを近距離からぶつけるための砲である。つまり、ほんの少し掠ればOKのような目標を相手にする。それが、近くから一撃も外れないような射撃を繰り返しているのだから、質が悪い。


『ショボい主砲もこの距離なら問題ないわね』


 ショボい言うな!! 商船の自衛用に積む程度のショボい単装砲をそれでも六基積んでいるんだからね。後期型では備砲の数は六基から三基に削減されるらしい。まあ、自衛用のニューナンブ的主砲だから。砲撃戦用にはモジュールで搭載することになるだろうな。その代わり、対宙パルス砲を三基搭載することになるらしい。


 追撃の対艦宙雷の射撃もなく、輸送船であったろう船体の表面はグズグズになっている。


 さて、このまま甚振って沈めてよいものかどうか。判断しかねる。


『巡視船モジュールの臨検用パワードスーツで臨検してみる?』

「……意味ねぇだろ。軍艦ならともかく、この手の偽装移民船か密輸船には大した情報はない。沈めるだけでいいだろう」

「艦長、旗艦から撃沈許可出ています」

「OK、命令を速やかに達成しよう」


 と考えていると、『初嵐』から連絡が入る。


『ツユキ先任、こっちで狙撃しましょうか。そちらの主砲では、反応炉の破壊に捲き込まれるんじゃないですか?』


 そうです。反応炉を破壊するために威力を持たせるにはかなり近寄らねばならない。その時、反応炉の爆発に『雪嵐』が巻き込まれかねないという懸念はある。いや、懸念しかない。


「『初嵐』に頼む」

『了解しました。先任から旗艦に連絡お願いしますね』

「わかった」


 と、装甲巡洋艦を撃破して『強化陽電子砲』に自信があるカツウラから譲ってほしいというお願いがあったので、先任艦長として快く譲る事にする。


『今の仕様って、ぜぇんぜぇん使えないわね。まあ防宙艦ってそういうボジションだから仕方ないとはいえ、気に入らないわ』


 いやいや、ノリノリで船体対宙パルスでメッタ撃ちしてたじゃありませんか副官様。この船じゃなきゃ、遠距離から一撃で沈められたんだよな。臨検させるならこの艦でもいいけど、沈めるつもりなら『初嵐』でよかったよな。


 俺から仕上げを『初嵐』に委ねると『利根』に伝えるとあっさり承認。どうやら、先ほどの対艦宙雷回避の機動データが採れたとデブが喜んでいるらしい。俺達死ぬところだったんだがなぁと腹が立つ。


「不審船撃沈されました」


 モニターには離れていく不審船を大きな光の槍が突き抜けていき、その後、大きく爆発するのが見て取れた。うん、この艦の主砲で破壊できる距離だと、確実にあの爆発に巻き込まれて沈んでいたよな。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 正直、武装商船や仮装巡洋艦のような半ば民間船のような船に、戦場から逃げ出した装甲巡洋艦を横合いから殴りつけるような戦闘ばかりで正直……嬉しい。え、だって、危険じゃないはずの今日の不審船に対する警告だって、至近距離から強力な陽電子砲を撃ち込まれたり、対艦宙雷の乱れうちだって受けたじゃん。


 それを、まともな戦艦や巡洋艦から至近距離で受けるなんて、考えただけでぞわっとするだろ? もれなく死ねるんじゃないかって。


 艦隊同士の正面決戦なんてのに参加したがるのは、自分の乗っている艦が沈むわけないと思えるほどの大艦巨砲主義の権化のようなものか、あるいは、無条件に自分の幸運が続くと思えるおめでたい奴くらいなものだ。


 駆逐艦や航宙機ってのは消耗品の類だ。つまり、損耗率**%以内ならOKとかいう物差しで運用されている兵科だってこと。それでも、死なないように手を尽くすし心も配るが、こればっかりは運が関わるしな。


 できるだけ与しやすい相手と戦いたいもんだ。


 え、だって将棋だってそうでしょ? 与しやすいところから崩していくものじゃない。がちがちに固めているところに無暗に突っ込むってのは……美学ではあるし、崩さなきゃならない局面もあるけどさ。死にたくないわけヨ。自分も、周りの人間も死なせたくないわけ。


 そういう意味で考えると、制服組のエリート気質の奴らは、自分の乗艦が沈むとか思わないだろうし、沈みそうな艦に乗ってねぇよな。駆逐艦とかコルベット、航宙機で戦争しろよそういう気質の奴は。ほんと、安全な所にいる奴ほど好戦的だよな。


 駆逐艦乗りは平和主義者で、運命論者かもしれないな。必然だなんてちっとも思えないが。威勢のいいだけの馬鹿上官の出世のために捨て駒になるのは御免こうむりたい。


 俺は、生き残って退役して、運転手するんだよ!!


 だがしかし、これだけいろいろなモジュールの組合せで『晴嵐型』を運用することを考えてるってことは、主流派の機動艦隊どもとは違う思惑で宙軍は動いているのかもしれないな。

 

 戦艦や宙母はマスコミ受けも国民受けも良いし、尚且つ、敵もその姿を見れば警戒する。けれど、『晴嵐』は半ば民間船みたいなものだ。正直、とち狂ってるんじゃないかと思われかねない姿かたちをしている。まるで戦闘艦とは思えない。コンテナ貨物船みたいな艦だ。


 それでも、攻撃手段さえ整えることができれば、先手を取って優勢に戦う事は出来る。常に攻勢に出なければならないのは、防御に回れるほどの能力が無いからなんだが、航宙機よりはましだ。


 その昔、陸上航空機だけの攻撃で二隻の大海軍国の戦艦を沈めたことが大東亜戦争のニッポン軍ではあったんだが、そのニュースを聞いた敵国の宰相は生まれてきて一番のショックを受けたらしい。


 航空機だけで何年もかけ建造し、さらに何千人もの乗員を教育した結果を百機ほどの航空機に沈められたわけだからな。航空機も相応の損害を出しているけれど、全滅したわけじゃないし、損害からすれば二隻の戦艦の対価とすれば驚くほど僅かなものに過ぎない。


 ということで、俺達に期待されているのは、戦艦や巡洋艦の露払いとしての駆逐艦ではなく、航宙機の代替として攻守に生きる存在になることかもしれない。


 乗員十人で単独JDも熟せる艦種なわけだからな。可能性だけは無限大だ。




『やはり、その武装では危険だったわね』

「……おい……」

『いえ、今回は私のミスだったわ。最初から遠距離射撃で沈めてしまえば良かったのですもの。ごめんなさいね』


 ということで、やっぱ、あの装備でいくら民間船っぽかったとしても、怪しい船に単独で近づくのは無謀だったという結論が出た。宙雷でもあれば、距離をとって攻撃する手段も十分あったんだが、今回は外していたからな。


 それと、索敵用モジュールが無いと、個艦では十分な情報を収集できず、結果として相手の反撃の予兆を把握できないから危険でもある。


「本来、二隻の隊で行うところだったからな。最初から『初嵐』の射撃ありきで組み立てれば、もう少し安全だったろうな。過ぎたことだがな」


 珍しく反省モードのナカイである。とはいえ、対宙パルスレーザー砲の攻撃効果が検証できたのでそう悪くはない。あの距離まで近づいて商船に乱射するなんて、確実に今後ありえない対応だしな。


『晴嵐後期型に対宙パルスレーザー砲を搭載する案は前向きにできそうね。正直、いまの単装砲六門よりは三門に減らしてその分対宙パルス砲を載せた方が戦力的には効果があると思うわ。その検証に繋がった……』

「とは思わない。が、非武装商船には十分効果がある。今後は使う機会もあるかもしれん。良い検証の機会だったな」


 ナカイの後ろにデブがいた気がするがガン無視。


 今日のことは一つ貸しということになった。それと、酒保からお詫びのスウィーツが乗員分届くらしい。引き籠り気味の男どもには、酒よりも甘いものの方が好まれるということがバレているようで少々悲しくもある。ヴァレンタイン代わりだと思う事にしようか。




【作者からのお願い】

更新できるように頑張りたいと思います。応援していただけると嬉しいです。


 一日一(・∀・)イイネ!!もお願い申しあげます!


『わりと読めた』、『この続きを読みたい』と思われましたら下記にある広告下の【☆☆☆☆☆】で評価していただけますと、執筆の励みになります。よろしくお願いいたします!



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