034 ゴトウ宙域駐留―――『防宙艦(仮)』(弐)
宙国の『北洋艦隊』八隻にもなる新型戦艦。解っているのは艦名のみ。
『清朝級』と称するその一連の艦名だけは伝わっている。
『天命』『崇徳』『順治』『康熙』『雍正』『乾隆』『嘉慶』『道光』と清朝の八人の皇帝名を冠している。
「清朝は一二代までいましたよね。同型艦は十二隻ってことですかね」
「そう考えるのが自然ね。推測で考えるのには限界があるでしょうし、実際それを正確に推測することに大して意味はないでしょうけれど、十二代いる皇帝を八代で斬る必要性はないもの」
仮に、『大和型』並の八隻でも、ニッポン宙軍に倍する戦力。保管中の「長門型」四隻を現役復帰させてもまだ数が足らない。
とはいえ、防御する側に利があるのが攻城戦・要塞攻撃の基本だよね。要塞に艦隊を引き付けておいて、持久戦に持ち込み、後詰の軌道艦隊とで挟撃するという戦い方になる。
ゴトウに来るか、直接ツシマに来るか。もしくは、考えにくいのだがタイペイ星系に攻撃を加えるか。そろそろ、タイペイ星系からの人と資本の回収も進んでいるので、東洋艦隊の侵攻があればおそらくタイペイは放棄するという選択をとるだろう。
そうなると、オキナワも最前線になる。
『東洋艦隊』『北洋艦隊』が同時侵攻する可能性を考えると、単純に後詰決戦を考えていいとも思えない。
「とにかく、ニッポンの場合、新造艦の就役迄時間を稼げという方針ね」
「いや、こっちの新造艦も宙国の艦隊建造ペースを考えると有利にならないじゃない?」
「逆侵攻は出来ませんからね。なにしろ我が国は『専守防衛』が国是ですから」
そう、専守防衛の為なら国が滅びても構わないくらいの勢いの時代もあった。核戦略に組み込まれている国なのに、「持たない、持ち込ませない」
とか言っていたらしい。いや、普通に持ち込むだろ? いちいち船から降ろさないぞ……と思わない宗教染みた反戦思想だったな。
『武器を持つから戦争が起こる。武装を放棄すれば平和になる』
ってのは、平安時代の貴族の発想だ。常備軍を廃止した結果、『羅城門』の世界となったのが平安時代だ。な、同じこと言っている自称インテリが沢山いたんだぜ? 同盟軍がいるから攻められなかっただけって理解しろよな。
つまり、全力で殴り返されると思うから攻撃を躊躇するんだよな。
右手で握手、左手に銃が基本だよな。それに、価値観を異にする勢力とはそうでなければ一方的に撃たれるだろ? そんな話、人類の歴史においては沢山あった。
ニッポンが平和であったのは。地球上において大きな海に囲まれていたからだよな。陸続きの敵国が存在していた向こうとは環境が違う。そいういう意味で、文化の異なる民族同士は別々の星系で生きていくという事で現在の世界があるわけだ。
まあ、キュウシュウとホンシュウでは結構違うしな。ニュートーキョーとニューオーサカでも違うが、殺し合いになるほどでもない。まあ、マナーが緩いのは後者だ。遠回しな嫌味とかも多いしな。
チバラキは……平和だよ。うん、いいところだ。
霞ヶ浦航宙学校くらいはあるけどな。
「実際、建造計画ってどうなってるのでしょうか?」
沈黙していた新人艦長二人。カツウラが声を上げる。
「計画では……いまの艦隊規模が1.5倍程度に拡充されるわ。それに、『晴嵐型』が艦隊主力になる勢いね」
「「「「えー」」」」
不満? まあ、しかたないよね。だって、不便なんだもん。
漏れ聞くところによれば、戦艦四、宙母三、打撃巡洋艦(装甲巡と重巡の中間艦種)六、軽巡六、駆逐艦三十六の『強襲打撃群(ASG)計画』が既に進められているという。三個機動艦隊増加計画だそうだ。
「これで勝つる?」
「互角かも」
「運用次第だよね。戦艦八隻と正面から殴り合える戦力じゃないもの」
ヤエガキ冷静だな。まあ、俺達は上の命令に従うだけだから、細かい事は気にしない。やれと言われればやるだけだ。
「『晴嵐型』の集中運用も検討されているようね」
「なにそれ、怖いんだけど」
航宙機と艦艇の中間的運用。イメージで言えば『陸攻』的運用だそうだ。正確に言えば『重航宙攻撃機運用構想』というらしい。裸褌か、ワンショットライターかって感じなんですけどぉ。
「今双胴艦運用を試しているでしょう?」
「そうだな。あれはあれでいい発想だと思うぞ」
艦政本部(宙軍省の外局で、艦船の製造計画を担う部署。技術工廠はこの下請けでもある)には、『晴嵐型万能論者』というとんでもない馬鹿がいるのだという。俺もそう思う。
「三胴型……これはV字型に三隻を組み合わせたもので、5箇所のカーゴスペースを一つの艦として運用する仕組みね」
「三隻で運用した方がいいんじゃねぇのか」
「……そ、それはそうなんだけれど……」
どうやら、重武装化しても十人で運用できるという人的消耗の少なさが押しらしい。
「Y字型もあるみたいです。トリ型とか……そんな感じで」
鳥じゃねぇよ。『トリグナル艦』な。
これだと、カーゴスペースは6箇所となる。いや、まあ、双胴艦なら8箇所使えるじゃん。何でダメなの、人が半分で済むからね☆
「このゴトウ先遣隊で先行運用試験をすることになります。一応、艦政本部からの『支援』と言われているのだけれど、実際は……」
「「「「実験マウス」」」」
ですよねー。
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「パルスレーザーってどうだ?」
『ザックリした物言いね。まあ、本来駆逐艦が装備するようなもんじゃないわね。でも、このモジュールで発射する分には問題なく運用できると思うわ。まあ、無人の随伴艦・防宙艦でもいいと思う』
我がAI副官の感覚からすればそうなるようです。確かに、旗艦の横を伴走して敵機の攻撃を避ける時だけ動くなら、これは『利根』の分体みたいなものだし、さほど自律的な指揮が必要とも思えないな。
『ゆっくりしても、いいんじゃない? オンボロとはいえ、二対二で装甲巡洋艦仕留めたんだし、少しゆっくりすればいいわよ』
そうか、そんなもんか。
「あー いいお湯でした」
どこの温泉宿だよ副長!! 頭バスタオルってどういうこと!!
「あー 今日は非番だから」
「おう。けど、艦橋はお仕事中だ」
「いや、ほら、現場の声って大事だと思うけど?」
そういう声は戦闘艦には不要じゃねぇの? 確かに、長期の哨戒任務に浴室付きの休憩施設って必要かもしれねぇな。
「デブ、例えば、PFSのカーゴスペースにユニットバス付のビジホサイズの個室ユニットって配置できねぇか」
「不可能ではない。むしろ、必要か」
双胴艦に配置するPFSのカーゴスペースは基本完全空いている。勿論、敵艦に移乗する際に使用する事もあるので、全部を使うわけにいかないだろうが、半分とか三分の一くらいのユニットは配置できるのではないかと思う。カーゴスペースの奥1/3で二階建てくらいの大きさで行けるんじゃない?
どうやら、PFSを要塞宙域の外周に有人監視施設を配置するのだというが、そのベースをPFSで考えているらしい。そのカーゴスペースに休息施設を設置するのは必要になるからな。
「けど、監視任務にずっと配置ってのは心削れるんじゃないか」
「ふむ、宙兵隊で一線を退いた下士官が充てられると聞いておる。予備役や後備役から希望者を原隊復帰させて配置させるようであるな」
折角、予備・後備となったのに、原隊復帰するって……世間の風は冷たいんだろな。俺、退役したら運転手に雇ってもらえるように頑張ろう。
防宙艦って暇なんだとつくづく感じいる。
『旗艦『利根』から入電。所属不明の商船と思わしき艦船確認。『雪嵐』はこれに接近し、停船もしくは退去を促せ……だそうよ』
「えー 撃沈しちゃダメなのか」
『沈められる装備、今載ってないわよ』
確かに。『対宙パルス砲』以外だと、備砲単装陽電子砲だけだもんな。いや、撃沈可能だろ? 流石に。
「艦首回頭、不審船に向け前進。民間・国際・非常チャンネルで退去を呼び掛け、停船もしくは退去を命じてくれ」
『了解よ。凡そ二十分で主砲の射程内に入るわ』
「そのタイミングで、警告射撃を実施。当てても構わない」
艦内には第一戦闘配置を指示する。一応、なんかあったら危険だし、休憩は中止だ。
「商船、改造商船か海賊船、あるいは」
「仮装巡洋艦かもね。そこそこ大きいし、でも船足は遅いね」
副長が到着。ダメコン的に艦長と副長は分かれて配置されるべき? 生憎、他にいる場所ってねぇんだわこの艦。十人しか乗ってないからな。
「副官、反応は」
『……いまのところ無視ね。いい根性しているわ』
迷い込んだ船ではないという事か。なら、本気で当てても構わないだろう。
「初弾は船首を狙え」
『そこしか狙えそうにもないからね』
こちらの通信兼情報士が旗艦『利根』に状況報告をする。
「旗艦『利根』に報告。所属不明の商船、こちらの問いかけに反応なし。主砲の射程に入り次第、射撃を開始する」
『こちら旗艦『利根』、主砲の砲撃で停船しない場合、接近してのパルスレーザーでの商船掃射実施を命ずる』
「……不審船へのパルスレーザーによる攻撃、実施します……ですって艦長」
まじかぁ。まあ、深刻なダメージを避けるという意味で、近距離からの出力の低い対宙パルス砲での掃射による威嚇攻撃を試せという事か。
「近距離からの対艦宙雷発射もあり得るから、悪い選択じゃないって感じ?」
悪い感じだろ? 隠蔽された近距離からの対艦宙雷発射に対抗するため、あらかじめパルスレーザーの発射を優先しろって意味か?。 いや、主砲で撃てばよくない?
「事例報告したいのかもしれませんね」
「そういう意味か。商船への自衛装備の搭載を自省してもらいたいってところか」
流石情報士! いや気が付けよって空気だな。うん、正直すまん。
副砲の射程内に侵入した不審船に向け、警告射撃を実施。不審船の艦籍・艦種は相変わらずの不明。そして、返信も無しである。
「次は……」
『シールド!!』
AI副官が艦首シールドに、更に追加モジュールの『シールド』を重ねる判断をする。直後
BASHUIIIINNNN!!
不審船から放たれた陽電子砲と思わしきエネルギーの槍は、二枚重ねたシールドを飽和状態するほどの威力を持って『雪嵐』に命中した。
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