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031 ゴトウ宙域哨戒―――『偵察機母艦』(参)



 千切れた構造材、はがれた外装が引き攣った傷口のように広がる。どこからでも入れるのだろうが、比較的大きくなだらかな場所にPFSを着艦させる。


 今回は、PFSの船体中央にあるカーゴスペースからパワードスーツが四体登場することになる。


 何せ、十人で動かしている駆逐艦である。PFSの操縦に『初嵐』から二人だしてもらっているので、内部捜索は『雪嵐』からおれを含めて三人+デブしか出せない。無人機も艦内じゃあ動かせないし、痛しかゆしだ。


 監視用の無人機一機は外周に待機させているが、あくまで監視用。内部捜索は人力とPFSの端末頼りになる。


『ニカイドウ、どこに向かうか』

『ふむ、艦橋が妥当であろうがサブシステムの方が良いかもしれんな』


 前回の軽巡の際もそうだが、システムを乗っ取られるという発想がないのが宙国艦なので、艦橋でもいいんじゃねとは思うのだが、万が一生き残りがいると面倒なので、そこに向かいたくないという判断はある。


 PFSの位置をマーキングし、俺を先頭にして通路を移動する。既に動力も絶たれており、保守設備も稼働していない廃墟同然なのだが、驚くほど人間の気配がない。


 電源等断たれていることから、端末ではどうもならないだろうとニカイドウは話す。


『パワードスーツのジェネレーターで起動できればいいのだが』

『いや、予備電源的なものはそういう場所にはあるだろうから、数時間復旧させるくらいは可能だろう』


 瓦礫をかき分け、どこかに死体がないのかと怯えつつ、俺達は十数分で士官室のような場所に到着した。中はいわゆる装飾が中華風のものであり、歴史と伝統を演出した? 中華飯店のような存在である。


 因みに、宙華とは断交して久しいが、ニッポン人による中華料理は継続してニッポン人の胃袋を掴んでいる。餃子の宙将や宙慶飯店などは人気の外食屋さんだ。俺も偶に喉が渇く餃子を食べてビールを飲む。塩分過多になりそうだよなあの味。


『ここでどうだ』

『うむ、試してみるか』


 ニカイドウが自分のパワードスーツから電源をとり、端末を操作する。簡単な艦内の見取り図、そして、航海記録などを読み取る。


『逃げまどっていたようだな。それに、随分と前に下士官兵は退艦させたようであるな』

『……退艦か……』


 聞こえはいいが、ような何もない宇宙に艦載艇か何かに詰め込んで放出したというところだろう。だから、死体が見当たらないわけかと納得する。


 端末で、予備の戦闘指揮所(CIC)の場所を確認し、そこへと移動する。艦橋には人が残っている可能性が高いので、敢えて向かわない。そのまま放置すれば先は長くないので、危険を冒す必要もないだろう。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 予備CICはPFSを止めた場所からほど近い、隔壁へ覆われた場所であった。


『大きさそこそこなら、そのまま抜き出して回収するか』


 PFSには作業用の機械腕もあり、5m四方程度のものならば、カーゴスペースに乗せられるだろう。


『確かに、全部を回収するのは難しいであろうが、艦に用いられているシステムの端末は回収して損はないだろうな』

 

 きゃるぴんミカミが「何で仕事増やすんですか」とマジで抗議する顔が浮かぶが、そんなの関係ねぇ! 俺の仕事は特に増えないからな。


 既にロックが外れており、中に入ると……いた……どうやら逃げ込んだ兵士がそのまま死んだようだな。酸欠か栄養不良か、艦の爆発時の放射線による影響か。まあ、死んでいるなら問題ない。


 顔色は変色しているし、気密服も着ていないから、生きている方が怖い。バイタルも反応ないしな。死んでるよ。お腹の中から変な虫とかでてこない事を祈る。あれはマジで嫌な古典映画だ。





 端末から確認できる内容、リューシュン宙域の星系図や北洋艦隊の各艦の識別データ。過去の記録……か。


『私信の類もここで管理されておるな』

『いやなシステムだな。検閲の類か。さすが万民奴隷の国というわけか』


 戦争末期が状態の国、国民という名の奴隷を徹底管理しているのだと推測できる。まあ、ニッポンも必要とあればネットワーク内に漂う個人情報を収集し、個人の行動や思考を分析するくらいはやるだろうが、基本的人権を犯す基準はもう少しハードルが高い。何か犯罪でもやらかさなければ保護されている……はず。


 簡単に言えば、二隻は指揮権を委譲された『来遠』に座乗する将官に率いられてリューシュン要塞まで逃避行中であったという。指揮官と次席指揮官が二隻の戦艦もろとも戦死したため、席次は低いが装甲巡洋艦を指揮する戦隊司令が最上位の指揮官となったらしい。


『生きて戻っても処刑だろうがな』

『いや、懲罰戦隊行きになるのではないか』


 噂ではあるが、敵前逃亡したり軍内部での権力争いに敗れた勢力を集めた『死兵』の部隊があるという。次の侵攻作戦では弾避けとして最前線で真っ先に死ぬ運命の兵士たちというわけだ。


 ニッポンやUSAにはないが、ルーシ連邦やヒンドゥ連邦には存在する。その元は、宙華発祥であるが、古くからそのような使い捨ての処罰目的の部隊は存在しているので、ある国が特別残虐というわけでもないだろう。


 そもそも、そんなヤバい人間を集めておく方が危険だと思うのだが、人権を無視できる国であれば、半死半生の人間でも使いようという事なのだ。


『ふむ、大事な部分は流石に我ではわからぬ。予定通り、この区画ごと回収すればよかろう』

『艦全体のシステムから独立しているから問題ないという事か』

『その通りだ。出来るだけ切り離してあるので、あとは物理的に切り離せば問題なく回収できるであろう』


 接続を切って独立させたという事らしい。俺は、同行した部下とPFSの乗員に連絡を取り、一先ず、この区画をデブのレーザーブレードで解体し、切り離した後、PFSで回収するという内容の作業を命ずる。


 その際、『雪嵐』から連絡があることを聴き、俺は一先ずPFSに戻る事にした。現場はデブ任せだ。





『「利根」がこっちに向かっているって。防宙艦二隻で「来遠」を曳航するから任せてほしいみたい』


 副長から、『利根』に状況報告をしたところ「すぐに向かいます」と、保育園のお迎えを頼まれたママのような勢いでナカイから返事が来たらしい。こいつもお母さんかよと思わないわけではない。


 というより、未だこの宙域に宙華艦が紛れ込んでいる事実を上に報告する必要性から、曳航以前の段階で調査人員を送り込みたかったのだろう。利根には情報部の士官も担当幕僚も乗ってるので、直接向かうほうが指揮も取りやすい。


『そうか。「平遠」は予備のCICをブロックごと回収するので、それも引き渡しするって連絡してくれ』

『……相変わらずの無茶振りだね。CIC回収って。まあ、ボロボロの船を

回収するわけにもいかないもんね。自律航行できないし』


 既に、宙雷の類や艦載艇も残っておらず、情報を抜くくらいしか役に立ちそうにもないのでこんな物だろう。


 給料分の仕事はしているはず。自信はないが。




 解体すること数時間、ようやくCICを引き摺り出し回収する段になって『利根』と二隻の防宙艦が現場に現れた。


『随分と早いように思われるな』

『遅いよりいいだろ? はよ引継ぎして、ゆっくりしたいもんだな』


『初嵐』のPFSにCICを収め、俺達は一先ず、『利根』にCICの引き渡しと、状況報告に向かう事にする。報連相って大事だからね。根拠地隊司令やツシマ要塞にも報告が必要だろうからな。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 旗艦『利根』の艦載艇発着甲板に到着。事前にCICの引き渡しの連絡をしていたので、その仕事をする為の人員がPFSの周りへと集まって来る。


「ツユキ艦長。ナカイ司令がお待ちです」


 と、幕僚だろう若い士官が俺を司令の元に連れていこうとする。


「二人はニカイドウの指示に従ってくれ。先に『雪嵐』に戻ってもらっても構わないぞ」

「我等は、旗艦で入浴と食事を済ませて帰還することにする」

「「お先です、艦長」」


 そういえば……しばらく風呂に入ってないな俺も。暖かい食事と風呂が欲しい。




 一先ず公的な報告の前に、司令官室での個人的な確認を行うようである。


「お疲れ様。毎度、宙国艦とよく遭遇するわね」


 俺の予想は、『利根』を避け先を急いだ結果、俺達の隊に遭遇したと考えているが、艦の情報を整理すれば事実が判明するだろうとは思う。


「あなたのその臭いも、漢の仕事って感じで悪くないわよ」

「おい、そんなに離れて、消臭剤を放り投げながら言うセリフじゃねーだろ」


 ぐすん、スメハラって言うんですよ……そういうの。臭いの仕方ねぇじゃん。


「冗談よ」

「どこからどこまでだよ」


 くすくすと笑う姿は、士官学校時代とあまり変わらない。もう十年も前のことなんだが、アンチエイジングの効果はすげぇとしか言えない。たまに、同世代の一般人と会うと……おっ! と思ってしまうな。親戚のおばちゃんにしか思えない元小学校の同級生とか、結構切ない。


 そう考えると、妹のナツキをはじめ士官学校での女性は未だ十代後半から二十歳そこそこにしか見えないのは正直自分の時間経過をすっかり忘れてしまう。男も同じなんだが、女性ほど価値がない。髭が薄いことくらいか。疲れを感じるのも少なくて済むらしい。同世代の普通のアラサーは徹夜とかもうすでに無理らしい。


 アスリートと軍人、芸能人の年齢は当てにならないと言われるだけのことはある。とはいえ、アスリートの場合、すり減った椎間板などはアンチエイジングの対象ではないので、まあ、怪我や故障で見た目若くても引退する。


「私に見ほれるのはそのくらいにして、話を進めましょうか」


 はいはい、と口にしつつ見惚れていたところは否定できない。まあ、見る分には申し分ない容姿だからなナカイは。


 改めて今回の敵発見から攻撃、情報の回収までの経緯を説明する。ナカイは時にメモを取り、時に質問を加え話を進めていった。


「『来遠』の鹵獲は正直ありがたかったわね。恐らく、乗員の大多数は既に退艦させられていて、一部上層部、おそらくは戦隊司令部あたりの人員だけが残っていると想定されるわけね」

「ああ。反撃は『初嵐』からもあっただろうが、散発的かつ不正確。そして、整備不良と長期の外征でまともな戦闘力を発揮できていない。部品の消耗度合いを確認することで、宙華艦隊の装備の程度も把握できるかもしれんな」

「そうね。軽巡と比べれば戦艦にかなり近い装甲巡洋艦の、一世代旧式とはいえ、ルーシから流出した戦闘艦技術の再現性のレベルもUSAや友邦と共有できるでしょうから……今回も殊勲と評価されるでしょうね」


 俺はともかく、ナカイが出世するのは望むところでもある。


 運や偶然の要素があるとはいえ、いや、英雄になる人間というのはそういうものが自分に利するという点があるよな。ご都合主義かと思えるほどの恵まれ具合。このまま、ナカイに追い風が吹いてくれると俺の将来も安泰なんだがな。




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