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030 ゴトウ宙域哨戒―――『偵察機母艦』(弐)

ブクマ・評価をありがとうございます!


お読みいただきありがとうございます!



『敵装甲巡洋艦、単縦陣で移動中。現在の移動速度であれば、三十分以内に本艦の大型陽電子砲の射程に入ります』

『頭を押さえるべきね。でないと、逃走されるわよ』


 AI副官二人からの情報伝達。普通のAI副官っていいね。


 『雪嵐』が前に出て、その後方やや斜め後ろの位置をとる『初嵐』。射程の範囲を抜けてしまえば、速度的に無理して追いつくことは難しいだろう。端っこをかすめるようにされかねない。


「敵艦の砲配置、射角と有効射程を表示」

『OK!! 任せておきなさい』


 先日回収した軽巡洋艦からのデータを反映させ、スクリーンに敵装甲巡洋艦の移動速度・方向、そしてその場合の砲の射角射程をプロットする。


「正面からの射撃を前提にしているか」

「装甲艦であるから、後方以外はしっかり砲が向けられるように配置されているのであるな」


 とは言え、二隻が単縦陣なら、正面から向かえば、後方の艦船は先頭の艦が邪魔で動きにくいだろう。


『側面からなら、「初嵐」の大型砲の射程距離の方が長いわよ』

「牽制させて船足を落とさせて、その間に『雪嵐』が頭を押さえるように移動するか」


 俺達の左手から右手に移動している二隻だが、このままではリューシュンへ逃げかえらせてしまいかねない。幸い、こちらの方が優速であるから、問題なく頭を押さえる事は出来るだろう。


『どの道、晴嵐型は艦首にしかシールドを張れないんだから、突撃しながら「初嵐」は砲を撃ちつつ距離を縮めればいいわよ。その間に、あたしが進行方向を横切るように頭を押さえるように移動するわ』

「近づいてから無人機で一斉攻撃か」

『斜め後方から、推進器を大型砲で狙撃して、足を止めます。その後は、乗り込んで回収ですか。そっちはツユキ先任にお任せしますね。いいとこ、見せてください☆ミ』


 『初嵐』の艦長から「ツユキぱいせんのちょっといいとこ見てみたい」というリクエストもあるので、足を止めるのに成功したなら、艦内捜索はこっちでやるかたちになるかもしれない。


 その時はPFSタクシーは出してもらおうか。





 あちらの索敵範囲に引っ掛からないようにやや遠回り気味に『雪嵐』は移動。推力偏向ノズルのお陰で、加速しつつ斜めに横切るように移動を行っていく。水平面に対して斜め上に正確には移動している。


 『雪嵐』と『初嵐』は分離し、気付かれて増速される前に極力距離を詰めるように移動を開始する。


『正面の火力はそこそこだけれど、側面や後方にはあんまり砲を向けられない設計ね』

「ふむ、ルーシ艦をコピーした艦も少なくなく、設計思想が似ているのであろうな」


 正面に向けての突撃能力を高め、ダメコンや整備性はあまり考慮しない、低コスト割きり使い捨て風の艦が多いのだ。貨客船はUSAのコピーが多いのだが、戦闘艦に関してはルーシ連邦からの技術供与・複製のような艦が少なくない。目の前の二隻も、そのうちの一つだ。


『足も遅いタイプだし、メンテも今一だろうから速度も出ないわよ』

「艦長の想定だと、下級の乗員が粛清されているだろうから、戦闘には対応できないだろうって思うのね」

「ああ。逃げるだけなら、AI操艦で十分だ。撃ってみれば答えが出るだろうさ」


 前方に火力を集中させ、本来は艦の索敵を随伴艦に委ねている設計思想と分析されている宙国装甲巡洋艦「来遠」及び「平遠」。全周索敵能力が弱いとみられる。要は、射撃統制用の索敵能力に準じた範囲で死角が存在する。


 前方・後方・側面に関しては比較的長い距離を索敵できるが、上面下面にかんしては航宙機・対艦宙雷の迎撃に十分な近距離の索敵能力に限定されているとみられる。




 二隻の宙国艦の斜め上に移動しつつ、その移動先を妨げるように無人航宙機の残存六基を射出する。駆逐艦の速度にスラスターの加速を上乗せし、十分前面を妨げることができる速度まで加速する。


『無人機の管制は任せなさい』


 副官頼りの艦長だが、それが普通。


 『雪嵐』は更に手前で二隻の航路と交差する角度に進路を変更、搭載されている六基の単装砲の射程にギリギリでの発砲を始める。


「こっちに気が付いたみたいだね」

「遅いがな」


 艦首をこちらに向けることはなく、そのまま進路を変えずにこちらに向け散漫な発砲を開始する。推力偏向ノズルを利用し、速度を変えずに敵艦と正対する方向に艦首を向け、シールドの展開を開始する。


 こちらの備砲では全くダメージを与える事は出来ないが、装甲巡洋艦の主砲であれば、一撃で致命傷になりかねない。とはいえ、初撃は大きく外れ、二撃目も同様。その後、射撃がとまってしまう。


「AI任せであろう」

『AIがそれどころじゃないんじゃない』

「「「なにそれ」」」


 万能AI 副官なのだが、それは艦の性能を十全に発揮できる整備状態であればということなのだという。メンテナンスもせずに凡そ二ケ月近く戦闘行動中である二隻は、機関部や兵装に相応問題が発生しているのだろう。交換すべき部品を交換できずにいれば、無理な加速や主砲発射を制限すると考えられる。


『艦を壊さないように能力を制限しているわね』

「なら、同時多数の攻撃なら……」

「飽和状態になり、対応できなくなるであろう。万全であれば問題なくともいまなら致命となるか」


 デブが言う通り、AI副官には悪いが、走らせっぱなしの敵艦は平素でも不具合続出にもかかわず遠征強行、その後悪化の一途をたどる艦の状態を下士官兵もいない状態で宥めすかし、誤魔化している逃走中の横合いからの殴りつけ。


 恐らく、残っている「よきにはからえ」的上層部とその腰巾着たちには対応することが難しい。反撃が散発的で停止しているのは、撃退するだけの戦力を残していないからと判断できる。


――― あるいは死んだふりか


『先任、こちら「初嵐」、大型陽電子砲の射程に間もなく入ります。発砲許可を』


 一撃で足を止めてもらいたい。それが可能かどうかを確認する。


『AI副官には50%の成功率と』

『こっちの観測データも廻しなさい。無人偵察機、何のために先行させているの!!』

「だって。艦長」


 AI副官に怒られる先任艦長ぇ……


「聞こえたか」

『……こちらに送信されたデータを解析し……初弾命中確率……90%』

「発砲を許可する。推進器の破壊を優先してくれ。できれば、内部のデータを回収したい」

『了解しました!』


 その間も、こちらは二隻の装甲巡洋艦に接近していく。既に無人偵察機も95式宙雷の射程に入りつつある。


「進路変更、もっと寄せろ。派手にこちらも射撃を」

「当たらないよ」

「当たらずとも、こちらに関心を向けて混乱させたい」

「それで、主砲が命中したらどうするのさ!!」


 敵艦側に極力寄せてシールドを展開するが、艦の側面は全くなにもカバーされていない。当たれば……伽藍洞のカーゴスペースだからね。貫通しても問題ない。艦首の艦橋兼脱出ポッド、宙艦は構造材と空間、後部に推進器と推進剤タンクという割り切り設計の民間規格の駆逐艦だから、問題……ない。


 突き抜けるだけだから!! 


BASHIII!!!


 艦首シールドの目前を掠めるように主砲の一撃が通過する。うん、正直舐めていた。


『そんな事より、命中したわよ』

「え、俺既に死んでるとか……」

『……先行艦の推進器を「初嵐」が撃ち抜いたって話よ!!』


 見ると、先行する『来遠』の後部を『初嵐』から放たれたエネルギーの槍が貫いて行ったのが見て取れる。小爆発を起こしつつ、船体は加速を落とし、後方から『平遠』が追い抜いていくように見て取れる。


『いいところ見せつけられただけじゃ、こっちの立つ瀬がないわ』


 前方に小さな点火光、か細い光の線が蜘蛛の糸のように残像を残しつつ『平遠』の艦首、艦橋のあるあたりに次々と突き刺さっていく。どうやら、対宙用の近接レーザーが装備されていないか、操作不良で反撃できていなかったようだ。


 ダメージによる速度低下こそなかったものの、AIがダメージコントロールにリソースを割いたのか、艦の行動が単純になる。そこを見逃す『初嵐』ではない。


 再び、光の槍が放たれ『平遠』の艦尾を貫き、ついで、その十数秒後、艦の中央を貫く。諤々と船体が揺れるのが見て取れ中央部が爆発、反応炉の破壊ではなくその周辺機器が爆発して船体が二つに割れたようだ。


『上手いわね』


 艦首艦橋付近だけ残っていれば、データの回収は可能だろう。曳航していくのに二隻は多すぎる。結論として……おそらく指揮官が座乗している『来遠』だけを残し、いま一隻は破壊したというところか。


『無人機を一基「平遠」に付けるわね。残りは回収するわ』

「任せる。初嵐を呼び出してくれ」


 俺とデブはパワードスーツを装着し、前回と同じメンバーでPFSを廻してもらって『来遠』に侵入し制圧する必要がある。


「そのまま曳航しても問題なさそうだけれど」

「無駄な手間を司令にかけさせるのもな。回収するのはデータだけで十分だろ?」

『優しいわね。惚れた弱みってやつかしら』


 ほ、惚れてねぇし、仕事を円滑にするためだしぃ!!




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 今回、無人偵察機の哨戒線は、『利根』からさほど離れている場所ではないといえるのだが、おそらく、宙華艦隊は『利根』の存在を認識しつつ、その索敵圏外と判断し、この宙域を通過しようとしていたのだろう。


 艦首を振ってゆっくり移動し自艦の優秀な艦首索敵能力を生かしていたのだが、随伴艦もなく、逃走一択となり警戒よりも速度を優先した結果、俺達に引っ掛かったという事なんだと思う。


『頭隠して尻隠さずって言うんでしょ?』


 そうかもしれない。


『初嵐』から出たPFSが到着。『来遠』の監視を『初嵐』に任せ、俺は破壊された『平遠』の艦首部分を捜索することを優先にする。回収は、本隊の到着後の判断にゆだねるにしても、消去されていない有意な情報がこちらにだけ残されている可能性もある。


 逆侵攻を望むわけではないが、リューシュン周辺の宙域の情報があれば、今後の反撃策も妥当なものになるのではないかと思うからだ。なにより、ナカイの手柄になるだろ? 


「先ずは『平遠』か。我では情報収集できぬかもしれんぞ」

「それは分かっている。だから、PFSを出してもらったんだ」


 PFSには『初嵐』の副官AIの子端末が存在する。それを使って、内部の情報を回収するつもりだからだ。前回、これは出来なかったので、PFSが使える今回は様子が違うというわけだ。


「では参ろうか」

「おう。副長に指揮権を委譲する」

「いってら」

『なんかあったらすぐ連絡するのよ!!』


 俺の副官は心配性ないいやつだ。副長にもその半分くらいのやさしさが欲しいと思う。


【作者からのお願い】

更新できるように頑張りたいと思います。応援していただけると嬉しいです。


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