029 ゴトウ宙域哨戒―――『偵察機母艦』(壱)
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『10式無人偵察航宙機』が四基刺さった【無人偵察機母機モジュール】のカーゴは見た目すごくキモい。丸い頭に半円形のスラスターノズルユニットが付いた物がよっつならんで『雪嵐』の腹に収まっているわけだ。
二隻のバディのうち、今回習熟を兼ねて『初嵐』が『陽電子砲モジュール』を装備し、三つのカーゴを全て射撃用・照準用で埋めている。副官AIの教育の意味もあるので、暫くは配達は『雪嵐』その護衛役を『初嵐』が行うことになる。
『配達ちゃちゃっと終わらせて早く帰りたいわね』
AI副官にやる気がない。あればあったで怖いけどな。
「平和が一番だよ、カスミちゃん」
『それはそうだけれど、駆逐艦AIとしては、納得いかないわね』
「いや、ニッポンは専守防衛・無駄な争いを好まないから。ウォー・モンガーじゃないから」
その昔、USAという国は、建国から二百年間で国内外で戦争していない年が二年しかなかったらしい。どんだけ戦争好きなんだお前ら!!
もはや、戦争していないと落ち着かない、禁断症状が出るレベルで戦争し続けていた国だ。宇宙に進出して良かったことと言えば、全てが『フロンティア』すなわち、開拓できる空間であったことだろう。
開拓者精神旺盛な旧USA民は数十の星系に散らばり、過疎で条件の悪い星系にどんどん進出していった。そして、悪条件も克服しテラフォーミングを成功させ、第二の故郷を建設していったわけだ。
戦争好きというか、争う精神には辟易するが、開拓者魂というものは人間の底力を感じさせ嫌いではない。俺はやらんが。
無人哨戒機センサーの範囲は凡そ0.05AUほど。光の速さで1時間強の距離となる。とはいえ、相応の出力を発している宇宙船の類でなければ判別は更に短い距離でなければならない。
周辺に漂う星間物質や岩石などと異なる自立した動きを定点観測で分析、明らかに異なる動きをしているものを画像分析や熱源分析で判別し、人工のものであるかを判断する。
照準器用の観測機材と比べれば性能は低いが、継時観測することで時間をかけ判別することができるわけだ。
走査観測するサイクルと設定距離により内部のエネルギー消費量は変化する。一ケ月の設定で定点観測するのであれば0.05AUほどであるということだ。
陽電子砲を始めビーム兵器の射程はこの観測距離のさらに千分の一ほどしかない。さらに、ゴトウ宙域は星間物質が比較的多いので、射程は更に短くなる。大出力の装甲巡洋艦用の主砲を駆逐艦に無理をして搭載する理由はそこにある。
遠距離から広範囲に敵を索敵し、あらかじめ仕掛けた宙域で待ち構え、タイミングを合わせ宙雷と大出力陽電子砲で奇襲をかけるのであれば、脆弱な低コスト駆逐艦でも先制攻撃によるアウトレンジ戦闘が可能となるだろう。
問題は……男気JDによる主力艦が突然相手の射程内に現れた場合だろうが、これも、周辺に散布した無人機から95式宙雷による牽制などを利用し、交戦を切り上げることもできるだろう。
「とはいえ、結構な数散布するわけじゃない?」
「まあな。今は千個程度で、建設予定の場所の限られた範囲だから、楽だけどな」
副長が「暇だ」と愚痴り始めたので話し相手となる。亜光速まで加速したとしても、一時間半から二時間に一基を敷設する間隔なのだから、暇なのは当然だ。三交代二十四時間連続で行っても、実際、設置はAI頼みで特に問題なく行われる。
問題があるとすれば一月後の改修交換の際だろう。回収は多少時間がかかるから、一日十二個はむりだ。その半分程度が良いところだろう。
「この数だってさ、要塞の周辺0.5AUの範囲に展開するだけで1000個必要になる密度だもんね」
「まあな。大質量の要塞の直前にJDする艦隊が現れるわけではないし、亜光速で接近するのであれば、0.5AUの距離を接近するのに12時間以上かかる。いくつかの無人観測機を事前排除したとしても、十分間に合うだろうし、これは、建設予定だからの密度と間隔だからな」
実際、ゴトウ要塞は、本拠の中心である「フクエ」の周囲に四つの枝要塞を設置する予定になっている。周辺の要塞を攻略しなければ四方から攻撃されるし、枝要塞を攻撃するのであれば、大要塞と隣接する枝要塞から支援が行われる事になる。
さらに、戦艦を含めた要塞艦隊『第五機動艦隊(仮称)』が配備されることになる。四つの小要塞は装甲空母とその随伴艦に相当する無人航宙機を含む戦力に匹敵するため、単純に、二個機動艦隊に相当すると計算される。
ゴトウからツシマまでは、今回敷設する無人機による哨戒ラインが設置され、ツシマとゴトウの間を無人偵察機整備を行う専用艦が警戒を兼ねて往復することになる予定だ。
商船ベースの大型宙母型のものであり、コルベットもしくは晴嵐型駆逐艦を随伴艦とするらしい。往復、半月ないし一ケ月かけて哨戒ラインを定期点検していくのだという。無人機を回収整備し、再配置する役割だ。
「なんだか工作艦みたいな感じだな」
「然様。移動する無人機専用の工廠兼母艦であるな」
「お前それに乗るのか?」
「我は研究開発職であるからな。それに、無人機は専門にチームがあるので関わりはないであろう」
デブはこのまま居座る気らしい。残念。
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無人偵察機とはいうものの、実際は「無人攻撃機」としても使用可能なのが『10式無人偵察航宙機』と言えるだろう。とはいえ、陽電子砲などと異なり、到達速度の問題、発射弾数の問題があるので、長所と短所が存在すると言えばいいだろうか。
一つのカーゴに搭載できる無人機は四基。三箇所で十二基となるのだが、95式宙雷の数はその四倍、48発となる。一発の威力は1/3とはいえ、単純な火力と、複数同時攻撃を行うとするなら、この無人攻撃ユニットも近距離なら相応の火力を有することになる。
『それに、あたしなら、十二基とこの艦くらいなら同時に操作できるわよ』
AI副官が自信満々に宣う。いや、無人機射出の間が暇なので、ついつい与太話をしてしまうわけだ。
「その昔にあった物語では、ふぁんねるとかいう無人機によるオールレンジ攻撃というのがあってだな」
それって、現実の宇宙世紀とは異なる架空の話で、人間が月と地球の公転軌道の周辺に人工の構造物を作って宇宙に進出するって物語にでてくる兵器だよな。ミュータント染みた宇宙生まれの人間が活躍する話だ。
「有視界戦闘を強いるなんとか粒子って架空の物質だかエネルギーが鍵になる設定だよな」
「そうであるな。流体力学無視の謎な飛行機が登場したり、人型有人兵器が戦争の帰趨を占めるという、この現実世界では無意味な設定と感じるがな」
地球軌道周辺で、JDもない原始時代の宇宙空間における戦闘だから仕方がない。
『なにそれ、人型巨大兵器って、強度的に問題ありそうじゃない? 何でわざわざ高コスト高難易度の兵器を開発するの、馬鹿じゃないの』
すまん、そこは男のロマンなんだよ。俺もパワードスーツで敵艦に乗り込む時なんかは、普通に気分が高揚する。その後、返り血を洗い流したりすると気が滅入るけどな。
「無人機の集中運用は研究課題となるやもしれんな」
「俺のとこでやるのは勘弁な」
どう考えても、無人機搭載した駆逐艦で大型艦に接近するなんて自殺行為だよな。無人機は小さいし、慣性で接近する分には気づかれにくいからチャンスはあると思うのだが、それ以前に、高速で移動する艦艇の移動に追従できない。
結果として、待伏せによる機雷原的集中運用か、艦に積載したまま回避不可能な距離まで接近してから無人機を射出するような戦術となる。発射母機は艦船なのだから発見されやすく、攻撃も受けやすくなる。
嫌だよ、そんな接近の仕方。まだ、長距離から大陽電子砲で狙撃する方が良い。
「むぅ、無人機なら一カーゴスペースに四基十六発であるが、多連装ランチャーを船体に直接マウントする形のモジュールであれば、その数倍は搭載できるであろう?」
「そのかわり、95式の射程内迄接近しなければ意味がない。『雪嵐』で、戦艦の主砲は勿論、副砲や対宙レーザーの射程内迄潜り込むとか、生きて帰れねぇだろ」
垂直発射管のようにコンテナを並べれば、一つのカーゴあたり三十発程度収められるだろう。航宙宙雷がさほど大きいわけではない。三箇所で九十発を一気に発射するというのは、これも一つの男のロマン兵器かもしれない。
「その昔、対米戦争で用いられた航空母艦の飛行甲板横には『墳進砲』というロケット弾発射器が搭載されていたのであるな」
航宙魚雷と比べればかなり小さいものだよなそれは。とはいえ、それも三十連発でロケットで弾幕を張る役割りだったか。
「それなら、要塞や防宙艦あたりに装備する対宙火器なら意味があるんじゃねぇの? 戦艦には効果が低いだろうが、それ以下の艦船や航宙機ならそれなりに効果あるだろう」
「確かに。しかし、コスト的にあまり良い顔はされまい」
いや、無人偵察機兼宙雷を千基単位でバラまくんだから、それなりに予算あるだろ。
『どっちかというと、無人攻撃機対策じゃない?」
「それな」
「そうであるな」
同時多数に群がるように襲い掛かる無人攻撃機、撃ちっぱなしの装備の方がビーム兵器より手数が瞬間的には増えるだろう。そういう組み合わせも考えていいだろうし、弾頭に散弾が収まっているタイプもありだろうか。
「あとは、非装甲の艦船には有効そうだよね」
「お、姫。お目覚めでございますか」
ナツキ副長が艦橋に入ってきた。そろそろ交代の時間か。そう思っていると、僚艦の『初嵐』から連絡が入る。
『こちら駆逐艦「初嵐」、所属不明と思われる艦艇らしきものを発見。データを転送します』
「こちら駆逐艦『雪嵐』、艦長ツユキ、了解」
『雪嵐』では捉えられていない艦影を、『情報収集モジュール』で捕らえる事ができたようだ。
『データ確認。推定、宙国装甲巡洋艦「来遠」及び「平遠」と判定。サキシマから逃げ出した残存艦隊ね』
げぇっ……装甲巡洋艦二隻かよ。
「無人偵察機発進、目標、発見された所属不明艦。残存機全機を向かわせる……前に、艦首回頭、『初嵐』に送信、『ワレニツヅケ』」
「「はぁ?」」
戦艦ではなく装甲巡洋艦なら、『初嵐』の追加された大型陽電子砲で太刀打ちすることはできる。無人機は幸いまだ半数は残っている。攻撃のタイミングを合わせれば、一隻は確実に仕留められるだろう。
サキシマから逃走しかなり時間がたっていることを考えると、艦内の状況はかなり良くないと推測される。自動化されてされている通常航行に関しては対応できているだろうが、戦闘になれば支障が出るだろう。
「ちょっと、艦長!! 装甲巡洋艦二隻に、駆逐艦二隻で仕掛けるって正気!!」
『勝算あるんでしょう? 説明しなさい!!』
副長と副官のアタリがキツイ。僚艦からも同様の質問が入る。
「逃走した装甲巡洋艦だが、俺達はオキナワで整備し、補給と休息を得てここにいる。対してあいつらは、サキシマからの帰りだ。じゃないと、タイペイ方向から現れるわけがない」
デブがなるほどと呟く。
「既に戦闘力を維持できる人員配置が残っていないと。考えたわけだな」
「その通り。恐らく兵の大半、下士官の必要な人数を残して死んでいるか死にかけている。残っているのは上級国民だけだ。AIで対応できること以上の対応は恐らくできない」
一月以上ただよっている旧式艦の艦内で、乗員を維持できる水と食料を十分に積み込んでいるはずがないし、人命の軽い宙国艦なら既に切り捨てが行われている可能性が高いと俺は考えていた。
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