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028 ゴトウ先遣艦隊―――『双胴砲艦』(完)

ブクマ・評価をありがとうございます!


お読みいただきありがとうございます!



『うひょー』

「……確かに、すげぇ威力だ。駆逐艦が出していい火力じゃないな」


 あと、ヤエガキ。女の子が『うひょー』と言っていいのはユリッペだけだ。


 ゴトウ先遣隊にとって、最も懸念されるのは宙華艦隊の戦艦が来襲した場合の防御策が無いということである。戦艦を沈めるのは戦艦の仕事であり、多数の航宙機を用いた雷爆撃で痛めつけた後、大型宙雷で撃沈するという手段もないではないが、その為には複数の航宙母艦か基地航宙隊による航宙攻撃が必要となる。


 しかし、航宙母艦は根拠地設営部隊の移送用であるし、戦艦はおろか装甲巡洋艦すら配備されない。予備役から復帰した長門型戦艦が艦隊に加われば問題ないのだが、半年程度は艦隊の編成に時間がかかる。


 乗員の訓練だけでなく、随伴艦も用意しなければならない。また、タイペイ星系にかなりの戦力を注入した消耗も回復していないのだから、そうそう上手くいかないのだ。


 その改善策として出されたのが『晴嵐型駆逐艦の砲艦化』という計画であった。只の大艦巨砲主義じゃないんだぞ!!


『しっかし、ヤクトセイランって感じだね』


 ヤクト**は、駆逐戦車に付けられた愛称そのものだな。戦車の車体に本来の旋回砲塔に乗らない大型砲を車体にマウントすることで、戦力を強化する目的で製造された戦車だ。


 突撃砲と何が違うかって? 突撃砲は歩兵直協の『砲兵』扱いで、歩兵部隊の使う対戦車砲や自走砲の扱い、駆逐戦車は機甲師団装甲師団の戦車部隊の扱いになる。要は、形は似ていて性能も似ているが、役所の管轄が違う。軍隊は巨大な官僚組織なので、そんなこともおこる。


「ヤクト、前に……とか言いたいのだが」

「戦隊か艦隊司令になってくれれば問題ない。なれよ」


 どこか駆逐艦乗りとはいえ、大型艦の主砲の威力には男心をくすぐるものがある。男の子の心と言った方が良いだろうか。


 とはいえ、当面は難民船を見つけて沈めるという、気の重い仕事が中心になるがな。




 航行中に遠距離から索敵モジュールで発見した小天体を標的とし砲撃を行いつつ、ゴトウ宙域迄移動を数日かけて継続する。


 砲の威力の確認は勿論、照準センサーの調整、コンバーターや陽電子砲のコイルの異常などを確認しつつ、連射や標的を変えながらの交叉射撃(二隻の砲撃を連動させたもの)を試したりする。


 将来的には、四隻の駆逐隊もしくは八隻の戦隊に搭載し、連動させることで、装甲巡洋艦並みの火力を戦隊で発揮するという事も想定するのだ。その場合、四隻ないし八隻全てが『照準モジュール』を搭載する必要がないため、戦隊全体としてさらに火力が増す事になる。


 元々、宙雷戦隊に旗艦としての軽巡洋艦が配備されている理由は、通信索敵能力の貧弱な駆逐艦を宙雷の移動発射台として割り切り、射撃統制は旗艦で行うという理由もある。


 一隻が正規の駆逐艦の数分の一でしかない『晴嵐型』に、多少高価なモジュールを積んだとしても、一個戦隊で精々軽巡洋艦一隻分程度だろう。装甲巡洋艦はその数倍。割りの良い取引と言えなくもない。装甲は紙だが。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 実は、『利根』にはいくつかの『晴嵐型』テスト用の新規モジュールが積まれているという。八隻のうち、四隻が双胴型であり、そのうち二隻が『強化陽電子砲モジュール』、残りの二隻は無人『偵察機モジュール』を積載している


 これは、PFSを元にした今までのものより小型であり、無人の哨戒線を作る目的でばら蒔かせられる人工衛星のようなものだ。そして凶悪なことに、発見した目標に『宙雷』を撃ち込む事ができる。


「俺達の仕事そのうちなくなるかもな」

『そんなわけないでしょ!! 航宙機用の流用だから、射程も威力も速度も低いわよ』


 駆逐艦の副官AIのプライドを傷つけたらしい。すまん。


「95式航宙宙雷は、重さも四分の一、射程に至っては十分の一程度に過ぎぬ。与える威力は三分の一といったところか」

「でも、機雷代わりに配備するなら、数も少なく監視も容易になるから、良い手段ですよね」

「そう思われるか妹姫」


 デブ、俺の妹に話しかけるな、尊さが減る。PFSや航宙機に搭載される標準的な対艦宙雷であり、USAや宙華においては駆逐艦などに搭載される対艦宙雷としては一般的なものでもある。


 接近してばら撒くように発射し、面でダメージを与える装備でもある。一発のデカさを狙い、高速で遠距離から秘密裏に襲撃するか、多数の航宙機や小型艦艇でばら撒いて網の中に目標を収めるかの戦術の差が出ている。


 航宙機を使う場合、ニッポンにおいても他国と同じ『投網』戦術となる。ニッポンの駆逐艦が少々特異であると言える。


 この95式四連装発射器(発射筒)に、観測用無人警戒機と移動用のスラスタ―を付けた……人生ゲームのピンを太くしたような形のそれが『10式無人偵察航宙機』だ。一つのモジュールに四基が積載される。


 警戒期間は数日から数か月の間で設定することができ、電子走査アレイレーダーの走査間隔の設定により稼働時間を変更する。使い捨てではなく、回収整備することで再使用が可能なので、これを射出・回収しつつ有人艦で巡回警備する必要がある。


 デブ曰く、先遣艦隊の『晴嵐型』駆逐艦は、この無人機を用いた警戒迎撃ピケットラインを形成し、拠点設営本隊が安全に作業できる環境を整備することが主な任務になるだろうという。


 あれだ、フラワーレンタルの花屋さんみたいな仕事だな。定期契約をし、オフィスに飾る観葉植物などを貸し出す。月に一二度訪問し、植物に水やりなどをして、弱っている鉢植えは回収して新しいものと交換する。


 世話しなくても枯れないんじゃなくって、貸し出した花屋さんが定期的に保守しているだけなんだよねあれ。


「色気のない花屋だな」

「うむ、だがむしろ、人間が行うより確実に攻撃してくれるであろう。警戒範囲は有人艦に劣るが、その分、無差別・無意識に迎撃してくれるのでな、悩まずに済むのではないか」


 敵味方識別を行い、味方でない者には95式宙雷を発射する。偽装難民船も簡単に攻撃してくれるわけだ。血も涙もない、無人機だからな。


『精々、世話してやるわよ。回収した無人機の整備はどこでするのよ』

「副官殿、簡単な整備は艦載機同様、『利根』等でも行える。そのうち、要塞の整備チームが立ち上がるであろうから、そちらにカーゴごと渡す形になるであろうか」


 送迎のマイクロバスよろしく、俺達のやることは同じことの繰り返しになるのかもしれないな。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 一週間ほどの亜光速航行により、『ゴトウ要塞』の建設予定宙域へと到達した。既に、お家に帰りたい気分だ。


 一旦、『利根』に八隻の同行した晴嵐型駆逐艦の乗員が交互に乗艦し、入浴と食事を行い、一日半舷休息となる。いやそれ、休んでねぇし。何もない場所で警戒しつつ、次の仕事への英気を養うという事のようだ。飲酒も許可され、『利根』での食事の際に支給された。俺は飲まなかったが。


「ツユキ、きちゃった」

「……おう。お疲れさん」


 俺もきちゃった! 利根の士官食堂でヤエガキに声をかけられる。


「そっちの新しい僚艦はどうよ」

「いや、素直でいいぞ若い子は」

「……一期後輩なだけでしょうが。ルミと同期だし」


 そう、きゃるぴん情報将校と同期なんだ。なぜ、初々しさが違うのか。俺の主観の問題なんだろうな。そもそも、士官学校を卒業してもうすぐ十年経つ。全員アラサーなんだから、初々しいってちょっと怖いよな。


 むしろキモい。


 周りの反応からすると、今日の士官食堂の食事メニューは「お祝い仕様」であるらしい。小さいケーキが付いちゃう的な?


「新要塞建設を記念したメニューなんでしょ? 地鎮祭じゃないけど、そんな感じなんじゃない」

「八百万の神様がこの暗礁宙域にもいるってことかよ。ニッポン人らしいな。神様いない宙華からすれば、こっちに逃げてきているのかもな」

「ボロ難民船に乗った七福神ってことかもね」

「福じゃなく、厄介ごとだから、七厄神だな」


 ヤエガキと延々下らなことを言いつつ、つい最近までこんな会話を艦長同士していたことを思い出す。すっかり忘れていたが、一週間前までは日常だったんだがな。


「この任務がおわったら、イッパツ」

「……そういうフラグワザと立てんな。そして、イッパツはねぇ」

「一発だけなら誤射かもしれないよ」


 その油断が死を招く。とはいえ、ヤエガキなら俺が退役後ナカイの運転手をすることも笑って許してくれるかもしれないな。それはそれでありか!!


「俺も退役したら……」

「なに、プロポーズ?」

「誰にいつだよ」

「私に今?」


 そんなわけねぇだろ。


「あら、相変わらず仲がよろしい事で」

「……これは司令、お疲れ様です」

「いいえ、お二人こそ七日間の亜光速航行、お疲れ様でした。明日以降の任務に向けて今日はゆっくり休んで英気を養って下さい」


 レイ・ナカイ司令登場。お、先任宙佐に袖章が変わっているな。とはいえ、代将は佐官扱いだから准宙将になるのとは全然違う。まあ、間違い探しレベルでの小さな変化だ。


「明日からは、無人機の配達係だ」

「大事な任務なのは重々理解してくれていると思うのだけれど、難民船に偽装した武装商船や仮想巡洋艦との遭遇も考慮しての対応が必要よ」

「作戦開始前に、一度ブリーフィングしてもらえると良いと思うよ……いえ、愚考イタシマス司令」

「そうですね、ヤエガキ艦長の言う通りだと思います。この後改めて、明日の招集時間を案内するので、二人も出頭してもらうことになります」

「「はい」」


 それではゆっくり食事を楽しんでくださいと言葉を残し、ナカイは去っていった。


「あのさ」

「なんだよ」

「ツユキと退役後結婚するのはいいんだけどさ」

「……おう……」

「レイ・ナカイの付き人は引退してよね」


 付き人ではないが、運転手はOKなのだろうか。ダメ?


「俺の生きがいを奪う気か」

「あんたの生きがいって、あの人のストーカーってこと? ナツキが悲しむから捕まる前に辞めなよね」


 うっ、ストーカーじゃないやい、再就職先ダイ!!





 食堂で聞いた話では、10式無人偵察機の数はおよそ千機用意されているのだという。一バディ12基を一日当たり設置することになる。八隻四組で48基、これを21日間で実行することになるのだろう。


 一ケ月のサイクルで再配置を行い、定期的に宙域内を俺達の八隻でメンテしていくことになる。ゴトウ無人機配達屋の開業というわけだ。


 一月後までには、後続の設営隊が現れるのかと推測するのだが、その間は、ナカイ隊十一隻で作戦を行わなければならない。


 三日仕事して一日休みのサイクルで無人機配達する仕事だと自分を納得させるしかないかな。この、何もない空間に無人機をポツポツと配置していくのは気が滅入る仕事だが、それ以上に、難民船との遭遇の可能性は考えただけで気が滅入ると改めて思う。





【作者からのお願い】

更新できるように頑張りたいと思います。応援していただけると嬉しいです。


『わりと読めた』、『この続きを読みたい』と思われましたら下記にある広告下の【☆☆☆☆☆】で評価していただけますと、執筆の励みになります。よろしくお願いいたします!



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