024 掃海作業は続く―――『双胴艦』(完)
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俺の掃海作業は今日も続く。三日働き一日休みだ。
「で、結局どうしたのさ」
『AIと友達になりましょう!!』
いや、AI副官、確かに似ているが、天然脳だから。NIだから。副長にはスメラギ宙尉の置かれている状況を話し、当然の如く妹様は激昂し、「何もしないわけないよね」と俺に宣われた。最優先で仕事をする事にした。
「ミカミには、情報部のやり方としてどうなのかと聞いたんだが、筋が悪いらしい」
『どういう意味よ』
どうやら、機動艦隊付の情報担当官はデータ分析専門の情報将校らしく、数字や画像を解析するのは得意だが、対人に関しては専門外らしい。そもそも、そう言う仕事を司令部は情報将校に求めていないからな。
そして、自分たちが報告書を作るために必要な情報を聞き出した後に関しては、本来、捕虜となった将兵の保護プログラムに沿って行われる手続きが、人間ではなく接収した艦船を保管しているだけの処理になっているらしい。
『AIじゃないのにね』
「……そうなるか……。お役人仕事だね」
軍人も役人です。公務員だよ!! でも、同じ軍に所属する軍人に対する配慮ではない。
「ミカミルートでも非公式に情報部の上層に『スメラギ宙尉』の問題がつたわるように話をして貰ったが、時間がかかる」
「当然だよね」
『それじゃ駄目じゃない!!』
なので、正式な『ナカイ司令』ルートで話を上げた。
一つは、スメラギ中尉の『人権』が保護されていないという問題だ。宙軍も政府も、今後スメラギ宙尉の存在を『大中華帝国の蛮行』として国際社会に大々的に告発するだろう。
元々、タイペイ侵攻で経済的交流が途絶しかかっているうえ、他国民を拉致勾留するだけでなく、生体兵器とする人体実験まで行い実際にその兵士を自国との戦争で活用するような非人道的という程度では済ませることのできない『悪魔の帝国』なのである。
USAを形成する星系の多くは「キリスト教」を信奉している。その人々と政府にとって『悪魔』の国とされた場合、一切の妥協無く戦う意思を固める相手となる。悪魔と妥協する、手を結ぶなどということはありえない選択となるからだ。
そうすれば、ニッポンだけで対峙する必要が無くなり、宙国の圧力を分散することができる。少なくとも『USA』は共に戦うであろうし、『ルーシ連邦』もキリスト教圏であるので、宙国を表立って支持することはありえなくなる。
ヒンドゥ連邦は元々宙国とは辺境において軍事衝突を繰り返しており、味方にこそなれ宙国に与することは考えられない。
恐らく、その辺りを情報部の上層部及び政府関係者は軍と協議しているはずだ。実態調査の報告が上がり、具体的な方策を検討中なのだろう。
しかし、その生き証人であるスメラギ宙尉の存在を保護するという事は現場任せですっかり考慮されていないのだろう。
だから、気が付かせてやればいい。
スメラギ宙尉の存在が壊れてしまえば、この話のコアの部分が破壊されてしまい、ただの誹謗中傷論と一蹴されかねないことをだ。
会議の前に証拠保全しろって事だ。スメラギが精神的に健全でいられる為には、出来ることが幾つもある。それをおざなりにして、本来であれば最優先である心のケアを一切していない情報部の現場担当者が不適当な存在なのだと知らしめればいい。
報告書は俺が書いた。だが、告発するのはレイ・ナカイ司令だ。
このチョンボを失点として追求したい勢力が存在するだろうから、そこに話を持ち込めば一発だろう。
将官になるには、引き上げてくれる存在が必要だ。その為には自身の手柄も必要だが、誰かを蹴落とす為の材料だって集められなければならない。上の為に。ナカイ自身は不得手だが、そういう持駒があると知られるだけでもいい。今回は、そう言う機会を提供できればと思う。
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『あなたの提案、すべて受け入れられたわ』
「俺じゃない、俺達の提案だ」
『……あなたがそう言うなら……そうね。私たちの提案が全て受け入れられたわ』
次のタイペイ寄港時に、俺とミカミに加え、尋問を行った司令部参謀と司令部付情報士官が立ち合い、前回のリクエストの答えに関して返答し、司令部からは正式に『謝罪』するというものだ。
誠意を見せろぉ!! ってやつだな。
『ふふ、向こうの司令部と情報部は大変な失点扱いになったみたい。政治案件を甘く見過ぎていたようね』
宙国を人道的な観点から制裁対象にするための錦の御旗を、自ら地面に叩きつけ足蹴にしていたようなものだから、配慮のできない存在であると、『スメラギ委員会』で大いに叩かれたようだ。
『スメラギ委員会』とは、「ニッポン国民に対する非人道的行為を行う宙国にかんする制裁検討特別検討委員会」の通称であり、今回の事で表面化した非人道国家大宙華帝国に関する制裁を検討する国会内の委員会で、宙軍幹部や国務省の高官も参加しているものだという。話大きくなってる!!
『USAにも非公式に打診している最中ですもの。現場の指揮官は更迭確定のようね。信賞必罰ということだそうよ』
まあ、恨みを買って何かされないように注意しよう。
あらかじめ伝えてあった、スメラギのリクエストの在った電子書籍のデータをきゃるぴんが入手しておいたので、それと幾つかのお奨めの曲と映画のデータを加え、俺達……俺ときゃるぴん他二名(隈のある大変お窶れ顔)を載せて、司令部PFSで再び『平海』へと向かった。
「いやー こんなところに係留して放置とか……ありえませんよね」
「「……たいへんもうしわけな……」」
上から散々ブッ叩かれ、この謝罪後はどこか遠くへと移動するお二人には機会音声的フラットな言葉しか出てこない。きゃるぴんミカミは、今回の情報部のやらかしに関しての調査・監察官の助手の仕事があるらしい。ナカイ司令の部下として、『平海』のキサラギ宙尉と面識があるというのも指名された理由だという。
また来たのかという顔をする宙兵、前回と同じ人物が案内してくれる。情報部のやらかし判定は既に拡散されており(ミカミプレゼンス)、俺達の後に続く二人の様子を見て察してくれているようだ。
再び艦橋に到着。俺はスメラギに、電子書籍を持ってきたという話をすると、スメラギは珍しく喜びを表に出す口調になる。
「喜んでもらえて何よりだ」
『……はい、すごく嬉しいです。生きて続きが読めるとは思っていませんでしたから』
スメラギの尋問の時とのあまりの違いに、どうやら遅まきながら背後の二人は何を間違えたのか理解したようだ。軍人は冷静でなければならないが、感情を失っているわけではない。表に出さないよう、訓練されただけなのだ。
二人は、続いて来訪目的を伝え、深く謝罪してくれた。スメラギは『大丈夫です、気にしておりません』と口にしたものの、そんな訳はないと俺は思っている。
二人を先にPFSまで送ってもらい、俺とミカミだけでスメラギと話す事にした。
「それと、必要ないかもだが、いくつかの曲と映画……コメディだと思うが、読み疲れたら気分転換にでもと思って持ってきた」
『……ありがとうございます。お二人が戻られたら、一人で大声出して笑うようにしますね』
「あ、その時は、スピーカーはオフにしてください。警備の人達が大騒ぎになりますから」
『そうですね。必ずそうします』
こうして、俺とミカミ、スメラギの三人で小一時間ほど話をした。ミカミが俺になれなれしいので「二人は付き合っているのか」とスメラギに言われたのだが、「腐れ縁」と伝えておく。
きゃるぴんは憤慨していたが、『お財布先任』としか思われていないのだから憤慨する意味が解らねぇ。
『二人は仲良しなんですね』
「えー どうですかねぇ」
「いや、休日で掛けたりするわけでもないし、顔見知り程度だろ?」
「そ、それは、そっちが上陸日とか教えないから、予定合わないだけじゃないですか!!」
そう、ミカミとはないがヤエガキとはある関係。上陸日が一緒の同期だから出かけるというシチュエーション。だって、わざわざ知らせたりすると「あ、もしかしてかまってちゃんですか。そういうのいいです」とか言われて無駄に凹むからな。足踏まれるの解ってて、わざわざ差し出す奴は……
多分ドMだが、俺はそうじゃない。たぶん。
それと、俺は、一つ聞かなければならない。
「もし仮に、家族の声が聴けるとしたら、聞きたいか?」
「……え……」
『私の生存を伝える……ということですか。でも……』
スメラギが躊躇するのは分かる。今の姿を家族に見せれば、家族は嘆き悲しむだろう。死ぬ以上の悲しみを感じるかもしれないし、家族に拒絶されることだってありえる。
「かりに望んだとして、ご家族にはどう説明するのですか。会わせろって言われたら、どうするんですか!!」
それはほら、会わせても意味ない状況で、尚且つ、声を聴かせる必要性を設定すればいい。
「スメラギは偶然救出されたが、意識不明のままずっと保護されている。だが、意識はなくとも耳から情報が伝わるというのはあり得る話だ。だから、家族にメッセージを貰って聞かせたいと……そう軍から要請する。これなら、会わせる必要もない」
ついでに言えば、保護されたのがタイペイ星系で、現在交戦宙域なので、渡航させられないとすれば問題ない。仮に、政治家や世論を使って渡航許可をとったとしても、適当な義体を医療カプセルに入れて「これです」とやればいい。
「それに、スメラギだっていまのままじゃないだろ?」
『……どういうことですか……』
「国が動いています。スメラギ宙尉は、後備役となって国内、それから友邦を歴訪し宙国の蛮行を伝えるメッセンジャーになって欲しい……というお話です」
体は、AI用に開発している『義体』が存在する。人間に近い感覚器を有し、会食にも対応できるように生身に近い活動ができるというものだ。味がわかるかどうかまでは知らん。
「今のままでは、自分の意思で生活することもできませんし、脳の安全性も保証されていませんから。一刻も早く今の艦居を変えなければなならないと国は考えています」
「準備中なんだよ。まさか、こんな事が起こるなんて想像していなかったから。それでも、国を挙げて動いている。それを知って欲しい。スメラギのことを多くの人が考えて、社会に復帰できるようにって動いているんだ」
それでも、元の人生に戻る事は出来ない。生身の体は手に入らないし、女性として子供を産む事も難しい。細胞の一部を培養して……という形でクローンを作り、脳を移すという事も出来ない事ではないが機械ほど簡単にできるとも思えない。今のところ、クローンに元の脳を移植するという手術は存在しない。
『……家族に会いたいとは思います。そうですね……お願いできますか?』
「「はい、よろこんで」」
俺とミカミが声を揃えて答えると、スメラギはおかしそうに声を上げて笑った。はじめて、聞いた笑い声だった。
次の寄港の時、俺ときゃるぴんは早速、スメラギの家族の映像を渡す事ができた。とても優しそうな両親と、ちょっと生意気な感じの弟が映っていた。
俺達は、それを渡すと、スメラギを一人にする事にした。映像越しとは言え家族の再会に水を差すのはどうかと思ったからだ。
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