表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/102

021 掃海作業は続く―――『双胴艦』(壱)

お読みいただきありがとうございます!


 鹵獲した機雷敷設母艦『平海』の曳航作業も終了。無事かどうかわからないが、俺達はお役御免となった。


 タイペイ星系での任務を第二機動部隊は第一機動部隊と交代し、一旦サセボへと帰投するという。また、『平海』に関しても、第一機動艦隊に同行してきた宙軍省と内閣の特任大臣(新たに設立されたタイペイ関係担当らしい)の部下のお役人が引き継ぐとのことで、ナカイ司令は一段と忙しく仕事をしている。


 ミカミ、情報部はお前だけだ。頑張れ!!


『スメラギ宙尉』とは、『平海』を第二機動艦隊に引き渡す際に、軽く挨拶した。「またお会いできますか?」と聞かれたので、社交辞令で「今度はトウキョウで会おう」と返しておいた。まあ、ほら、脳のままじゃ会えないだろ? できれば、元の体の姿かたちに似た義体を政府は用意してもらいたい。


 多分、公開して寄付を募ったら、あっという間に最高級義体を用意できるくらい金が集まりそうだから問題ない。


 俺ができる事? 軍人はそういうことあんまり考えないんだ。それ以外にもやらねばならないことがある。





 ナカイ隊は一旦、補給と休養を兼ねてオキナワに戻る事になった。『平海事件』と命名されたこの一連の案件は、ナカイ司令の手元から宙軍と特任大臣へと手渡された。


「大変だったわ」

「……そうか。大変だったな」


 で、俺は一連の経緯を当事者の一人としてナカイ司令から説明されているわけです。まだ、限りなく何も決まっていないようだが、スメラギの意思はできる限り尊重するということは確定だそうだ。


「これ以上ないほど人権を損なわれたニッポンの女性宙軍士官ですもの。政府としては宙国と真逆の対応をこれでもかととる事で、彼女を神輿に据えたいようね」


 俺の想像通りであれば、世界中で講演して歩かされた後に与党の国会議員として出馬、対宙国の急先鋒として利用されるんじゃないかと思ったりする。


「どうかしらね。懲罰ということであれば、タイペイ経由での交流断絶だけで十分でしょうし、おそらく、ツシマの先に迎撃用の哨戒拠点を新たに設置する構想の方が現実的だと思うわ」


 ツシマの先の人工天体による要塞建設は、ツシマ・オキナワへの浸透が繰り返されている経緯もあり以前から計画は存在した。しかし予算が付かない。そこにきて『平海事件』が発生。国民の安全と財産を守るために対宙政策の一環として建設する大義名分が成立してしまう。


「そこに配備する新規の艦隊も必要よね」

「……警戒隊規模じゃねぇよな」

「第五機動艦隊もしくは、宙華打撃艦隊(仮)だそうよ。予算規模が小さいので、戦艦は予備役艦を再就役させる形で配置するのではないかしら」


長門型四隻がホンシュウ星系で予備役となっているので、これを近代化改修して再就役させるのだろう。機動戦には向いていないが、迎撃用ならば大和型に匹敵する戦力になる。一隻もしくは二隻同時再就役か。


「予算が付けば、戦艦三隻体制から、五隻体制になるでしょう。新造艦二隻を新要塞に配備するのでしょうね」

「前のめりでだな」

「あの国は、わかりやすく腕を振り上げてやらなければ理解できないもの。遠回しの表現や謙譲の美徳は臆病と変換される蛮族だからしかたないわね」


 力をひけらかすのはみっともないのではなく、それが偉大なる宙国のあるべき姿等と自己陶酔も甚だしい存在だからな。人類にとってははた迷惑な存在だ。人間が幸せになる道具として社会も国家も宗教もあるわけで、支配する為されるための道具じゃ困るんだよ一般ピープルは。


 先進国の軍隊が強いのは、国を守る意思の強さにあるといわれるが、国=幸福を守る装置であるから守ろうとするわけだよな。


 蛮族にとって国は支配の道具であるから、そんなものを守りたい一般国民がいないので、自分の身を挺して迄国を守るという発想に至らないのは扱く当然だ。


 それが例え、幻想であったとしても、民主主義という装置は国民に国を守ろうとする強い動機を与えるものなのだろう。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 休みが欲しいという強い動機の下、俺達はオキナワへと帰投した。ツシマからタイペイとあちこち振り回されたのだが、一先ず各艦の定期点検が必要だと認められ、この機会に休暇の消化も推奨された。


「一度、実家に帰りたい気もするけどな」

「帰って来るなって言われてるよ、お兄ちゃんは」

「……冷てぇなおい!」


 ナツキだけ帰って来いってことなのでしょうか。同じ兄妹なのにひどくない?確かに、息子の嫁と同居は嫌だが、娘婿との同居ならいいという話もある。そもそも、俺の嫁が掠りもしないのだから、無駄な心配ではあると思う。


 出会いがねぇ……全く無い……


 俺が、士官用の官舎の部屋でグダグダしていると、ヤエザキから連絡が入る。お、そういえば、こいつ、女だったな。嫁にしたくない候補No.1。理由?ガサツだから。


『ツユキ、いま暇?』

「……藪からステッキになに言ってんだお前」

『そういうのいいから。あのさ、これから一緒にでかけない?』


 え、なに、デート、デートなのか。このこの!! 嫌俺なに考えてるの、そんなわけないじゃない。冷静に、ひっひっふっふっ。


『あれ? 聞いてないの』

「言われてないからな」

『そっかそっか。あのさ、「晴嵐型」の新しい船体が完成したから見に来いって』


 どうやら、ヤエザキはデブから呼び出されたらしい。なにそれ、面白いんですけど。どう考えても、二人は会わねぇ。全然違う事を二人で言い合うそんな関係にしかならない気がする。


 会話のドッジボールって感じだな。ゲートボール? いいじゃん、ほのぼのして。


「お前ひとりで楽しんで来いよ」

『えー やだよ!! だって、はあはあ呼吸が暑苦しいんだもん。一人じゃ絶対無理』

「……そのまま言い返せよ。それで引き下がるだろ」


 ぐはっと言ってそのまま崩れ去りそうだな。それでいい、それがいい。


『いいじゃ、暇なんでしょ?』

「暇で忙しい」

『……どんなんよそれ。いいから、来ないとナツキにツユキの士官学校時代の……』

「いや、急に予定が空いたな。今すぐ行こう、どこに行けばいい!!」


 めんどくせぇ同期がいると困るよな。妹に余計なことを吹き込まれるくらいなら、休みを返上する方がましだ。





「なぜ……」

「いや、ヤエザキがお前と二人きりは嫌だからって俺を脅すんだよ」

「ぐはっ……」


 なにゲラゲラ笑ってるのヤエザキ。ないわー こんな女ぜってーないわー。まあ顔立ちは整っているが、それだけだ。


「でどんな新型なんだよ。ハヨ見せて、ハヨ帰りたい」

「何言ってんのツユキ。この後三人で飲み行くんだからさ。駄目だよ!!」


 あー なにそれ聞いていませんわよ。まあ、いいか。何せ、出港後は酒飲めないからな少なくとも俺は。だって、乗員十人しかいないんだよ、戦艦の艦長なら艦長私室に備え付けのバーカウンターくらいあるだろうけどさ、『晴嵐型』の艦長室なんて貨客船の二等客室みたいな感じだぞ!!


 グダグダいいながらイエジマの工廠ドッグへと移動する。どうやら、『雪嵐』『浜嵐』はこっちへ回航されたらしい。知らぬ間に。


「どうだ、この艦は!!」

「あのさ、ツユキ」

「……なんだ」

「私の目の錯覚だと思うんだけど、船体が二つに見えるんだけど」

「俺も見えてるぞ」

「……やっぱそうなんだ……」


 ドッグに入っている二隻の『晴嵐型』駆逐艦の船体は二つ結合された姿を見せていた。


 ニカイドウが説明するには、二隻の船体のカーゴスペースを構造材を兼ねた増加プロペラントタンクで結合したものだと言う。


「これで、搭載する燃料は三倍となるのだ」

「三倍働けってか!」


 軍人さんには労働基準法が適用されません。だから、サビ残し放題!!


「いや、これから暗礁宙域の機雷除去の範囲が広がると聞いておるのでな。艦橋の一つはPFSをマウントしておるので、調査も今までより行いやすくなるであろう」


 そういや、艦橋二つ並べてどうするんだろうと思っていたのだが、一つは偵察艇らしい。移動は……まあ一旦外に出てという感じだろうか。


「今までであれば、カーゴ一つに宙雷、一つに観測用モジュールを入れることで捜索範囲が広がることになる。カーゴスペースは四つあるのでな、さらに、『仮装砲』を追加することもできるであろう」


 本気でボッチさせるわけね。防宙艦が同行しなくても、『晴嵐型』駆逐艦だけで対応できるというわけだ。機雷の除去に巡洋艦の主砲は一門あれば十分と言えば十分だ。


「船体の拡張は今後の課題であるしな」


 デブ曰く、トリマラン構造など考えているらしい……船体三つ、四つを組合せてということになる。いや、三隻に別れた方がお得じゃない?三隻を繋げると、カーゴスペースは9-4=5になってしまう。四隻なら12-6=6で半減だろ?


「コスパ悪い?」

「いや、そのようなことはない。乗員の数は十名で運用できるのであるからな」


 例えば、四隻をY字型に結合した場合、乗員は十名であるが、PFSを三機仮設の艦橋位置に配置し、軽巡の主砲は正面に三門、レールガンなら六門指向することができるようになる。艦載機、主砲の指向数からすれば、『矢矧』に匹敵することになる。運用は僅か十名にもかかわらず。


「なにより、『晴嵐』は安い。艦隊随伴型駆逐艦の五分の一の建造コストで乗員数も五分の一であるからな」


 正直言って、戦闘中もAI副官の補佐があれば、四人で運用が可能なのだ。ならば、PFSを既存の乗員で運用することも可能だ。


「とことん使い倒すって感じだね」


 ヤエザキ、お前でもそう思うか。


「しかし、まちがいではないが正解でもない」

「どういう意味だデブ」

「……例えばだ、この『トリグナル艦』であるが、推進器は四つついておるな。一隻のカーゴスペースは三から六に変わる。PFSの無人観測機として運用すると、どんなことができるか想像がつくであろう」


 例えば四連装発射器を六基詰んだ場合、一隻で24発の93式宙雷を射出できる。その昔、93式宙雷が開発された当初、旧式化した予備役の軽巡洋艦を用いた重雷装艦構想というのがあった。


 その際の装備数は一隻で四連装発射器十基40発の同時発射を可能とするものであったという。


「重雷装艦ね。未だに、どこかで予備だか後尾で保管されていると言われてるんじゃない?」

「……ここにあるぞ」

「「……え……」」


 イエジマの技術工廠に発射テストベースとして『木曾』が残されているのだという。これは、エダジマの『鳳翔』と同じ扱いになるのだろうか。標的艦とか実験艦といった役割を担っている。


「二隻で重雷装艦に匹敵する能力に、観測機迄装備しているのであれば、艦隊決戦の前哨戦でも十分活躍できるであろう?」


 艦隊随伴艦とは速度も機動力も異なる故に、決戦当日の戦場に参加する事ができない『晴嵐型』駆逐艦だが、こんな形であれば利用価値があるだろう。


「重武装の簡易設計ってどうなんだろう、技術者的に」


 ヤエガキの的確な指摘に再びデブがグハッとしていた。



【作者からのお願い】

 これからは一日一話更新できるように頑張りたいと思います。応援していただけると嬉しいです。


『わりと読めた』、『この続きを読みたい』と思われましたら下記にある広告下の【☆☆☆☆☆】で評価していただけますと、執筆の励みになります。よろしくお願いいたします!



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。


参加中!ぽちっとお願いします
小説家になろう 勝手にランキング


― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ