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018 制海権を得るには―――『掃海艦』(完)



「流石本場の宙華です」

「……この店、オキナワにも入ってるぞ」

「……嘘……」


 嘘ついてどうするんだよ!! 情報将校失格だぞミカミ。実は、ニカイドウはB級グルメなのだが、この手の有名店にも詳しい。一人で入るオッサン飲茶ってどうなの? なので知ってたんだ。誘われたのだが行ってはいない。


「でも、オキナワのお店とは味付けが違う気がするわね」

「ニッポン人向けの味付けとは違うってことかもな」


 ニッポン人の舌というか、宙華の「美味しい」の秘密が『味の素』という化学調味料の存在だというのは、屋台あるあるだったりすると聞く。ふりかけかってくらいバンバン振りかけるんだってさ。


 脂っぽい中華の場合、そういうかんじなのかもしれない。しかし、この店の飲茶はそんなわけもなく、普通にうまい。


「それで、食事が喉を通らないほど仕事フラれてるのはどんな感じだ」


 一応は個室、盗聴とか気にする必要はあるかもだが、ミカミは「問題なさそう」というので信じることにする。上司と話をするのは、仕事がらみに決まってる。


「掃海に従事する期間が長引きそうということと、宙華艦隊が再度来襲するリスクを考えて、こちらでも宙華側のHDゲート周辺に宙雷原を設置するということで準備をしているそうなの」

「えーと、まさか……」

「そうね。それも『晴嵐型』の『誘導機雷モジュール』の実戦テストをこっちで実施したいということなの」


 デブが言っていた秘匿兵器の一つ、『15式複合感応機雷』の実戦テストに協力しなきゃならないらしい。


『複合感応機雷』というのは、93式の発射管をベースにしたもので、設置しておけば、近くを航行する宇宙船に向け93式宙雷を発射するという機雷という名の対艦無人宙雷発射器になる。


 複合感知というのは、宇宙船の発する反応炉の熱源・波長といったもの、確認した宇宙船の画像、接触などのいくつかの組合せで攻撃を行うものになる。無人攻撃艦といってもいい。


 また、設置した側の安全装置として、あらかじめ登録された自軍・友軍の戦闘艦なり民間船に関しては攻撃対象から除外されること、モードによっては無人監視衛星経由で攻撃対象のデータを母艦に送り、攻撃を半自動化する事も可能らしい。


 今回の設置は無人衛星と無人発射管によるHDゲートの安全監視業務を設定する意図があるようだ。


「なんで俺達が行かなきゃなんだ」

「……ご指名よ……」

「立候補じゃないんですか?」


 半ば指名なのはわかる。なにしろ、艦隊随伴艦ではない『晴嵐』型が前線に出ている事自体がイレギュラーだしな。今回の掃海業務でたまたま俺達がタイペイ星系に来ているので、技術工廠と軍の上層部が話をして押付けて来たに違いない。


「二月くらいかかりそうだな」

「……当該期間は遡ってアンチエイジング・ポイント五倍だそうよ」

「必要不可欠な任務ですね! 頑張れそうです!!」


 一ケ月で五カ月相当分のポイントね。早く退役できると思えばガンバレルかもしれん。


 因みに、予備役⇒後備役⇒退役となっていくのが軍人さんだ。予備役・後備役はようは退役前に実働部隊から外れた強度の弱い仕事を任されるってことだね。倉庫の管理とかそういうの憧れるよな。定時でかえって土日休み的な?


 月月火水木金金なのは艦隊勤務じゃ当然だし、労働基準法は軍人には適用されねぇんだよ!!


 ついでに言えば、団結する権利・労働組合法も適用除外だ。いいね。


「疲労の蓄積を考えると、『雪嵐』『浜嵐』の乗員は、数日ごとの上陸と休息は認めてもらわないと事故の元になると思うが」

「その通りね。三日の出撃と一日の寄港二十四時間の休息でお願いするつもりよ」


 それほど悪くないか。三直で回すわけだし、目先の休みを考えれば頑張れるかもしれない。緩急って大事だと思う。


「でも、休息日はポイントもらえませんよね?」


 そこ、こだわるところなんだろうか。休むのも仕事のうちって言うから、ポイント入るんじゃね? 知らんけど。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 やっぱ、休み明けはテンション上がる……わけもなく、三日出動一日休みのローテが最低二カ月続きそうという話に、俺自身含め十名のクルーのテンションが駄々下がり。


「二ケ月も戻れないとわぁ……」

「げ、限定販売のぉ……」


 ああ、そういうのあるな。予約したりとか? 友達か代行業者にでも頼め。その分くらいの危険手当でるだろうから余裕っしょ?


 ついでに言うと、オキナワ宙域ではニッポンのネットワークに接続できたのでネットサーフィンができたのだが、当然、タイペイ星系では制限が掛かる。一応、ここ、大中華帝国の勢力圏だからね。エッチなサイト覗いているのとかログがチェックされているかもしれん。


「とにかく、四日ごとに気持ちを入替えて行かないとね」

『人生はエンドレス作業なんて今さらでしょ、 気合い入れなさい!!』


 AI副官にも人生語られる俺ら駆逐艦乗り。せつねぇ。


 人生、特に軍人なんて言うのは作業ゲーみたいなことばっかりだからな。そこをいかに楽しむかに掛かっているわけだから。


「そういえば、ナカイ司令との会食はどうだったの?」

「プ、プライベートに関してはノーコメントで」


 副長、俺とあいつの間にはビジネスライクな関係しかないから。勘違いしないでよね!!


 とはいえ、妹を除くと外で付き合いがあるのはナカイくらいかもしれん。俺、専業主夫になって銃後の護りに専念してもええよ!!


「ミカミが勝手に連れてきただけだからな」

「そうだよねー 何かあるとか全然思ってないんだけどね」

「ですよねー」


 わかってるよ、まあ釣り合わないというのはあるし、仲間意識はあるが男女の仲じゃないってことだよな。同性同士の友達というか、年の近い従兄弟くらいの感覚だな。仲が良いけどそれだけだ。


「美人で優秀ってだけで大変なのに、実家のこともあるし、選べるようで選べないよレイさんはさ」

「お、おう」


 チバラキでも有名な一族の本家の娘だからな。世が世ならお姫様だよな。まあ、見た目はお姫様然としているが、御姫様っておばあちゃんになっても御姫様なんだよね。相応の年齢になれば『御前様』とか『**尼様』となるんだろうけどな。


「さすがの司令もしょうしょう草臥れていたな」

「……ご本人に言ってないでしょうね!!」


 い、言ってないはずだよ。ほんとだよ、アツキ嘘つかない。


「アンチエイジングしてるからって、気にならないわけじゃないからね。

その辺、ちゃんとわかってる」


 YES! TUYUKI!!


 ちょっとやつれているくらいの方が可愛いんだよあいつは。




 三日働いて一日お休みという、週休二日(完全週休二日とは言って言っていない)のローテでコツコツと掃海掃討を続ける。そんなある日のこと。


『旗艦「矢矧」より入電。本艦の近くに所属不明の艦船有之』


 小さな目標物中心に探査しているから、捜索範囲を狭めていた結果、傍まで来ている所属不明艦に気が付けていなかった。一先ず、対応は『涼月』に任せることにする。


 え、だって、こっちは十名、あっちは五十くらい乗ってるから、対応するべきなのはバックアップマン役の『涼月』だろ? 掃海掃討優先させてもらうのが本艦の役割りじゃない。


『こちら「涼月」、旗艦から通達のあった所属不明の艦船に対応する。「雪嵐」は機雷掃討に注力されたし』

「こちら『雪嵐』、了解した」


 というわけで、俺らは目の前の機雷を片付けていくことになる。


「大きさはどの程度なんだ」

「……あ、かなり大きいかも……」

『でかいわね。大型輸送艦かしら』


 宙華製の輸送艦船は種類が多く、またデータが無いものも少なくない。なので、問いかけを無視された場合、不明のままになってしまうのだろう。しっかし、なんでこんな暗礁宙域に輸送艦? 入り込んでいるんだ。危険だと思わないのだろうか。


「『涼月』、汎用艇出ます!」


 『涼月』の搭載艇が所属不明艦に接近、艦橋らしき場所に対して発行信号で停船と通信チャンネルの開放を要求している。


「『涼月』警告発砲!!」


 掃海作業を中断し、『雪嵐』は『涼月』のバックアップの為に遷移することを命ずる。あの大きさじゃ、『涼月』の主砲程度だと簡単には沈黙しないだろう。仮装航宙母艦の可能性を一瞬感じる。発進口はどこかに見当たらないかとAI副官に確認する。


『航宙機用じゃないけど、あるわね』

「なんだよそれ」

『……機雷の射出口だと思う。サイズ的に』


 ここで面倒なのは、今回の臨時駆逐隊のどっちが指揮を執る役割なのか明確になっていなかったことに気が付いてしまったことにある。え、だって『涼月』の艦長も両方『先任准宙佐』なんだもん。そういえば、司令からどっちがとは命ぜられていなかった気がする。


「勝手に動いたらまずいよな」

『一先ず、第一戦闘配備。で、宙雷も発射体制に持って行きましょう』

「それな!」


 すっかり見入っちまった。旗艦から『雪嵐』『涼月』の両方に細かな状況報告の指示が来る。


「こちら『雪嵐』。AI副官の推測だが、機雷敷設母艦である可能性ありとのこと」

『!!りょ、了解。指令に伝える。指示を待て』


『涼月』が進路を妨げるように並行しつつ牽制している。それに対して、『雪嵐』は機雷敷設母艦(仮)の背後に移動し、命令在り次第推進器の破壊に移る事が可能な位置をとる。


『こちら「矢矧」。ナカイ司令から、映像送れとの命令です』

「『雪嵐』了解。直ちに映像を転送する」


 こちらで撮影した記録を『矢矧』に送信する。しばらく間があってから、ナカイ司令からの直接命令が届く。


『ナカイです。機雷敷設艦であると断定し、『涼月』『雪嵐』の二艦で制圧し、鹵獲することを強く望みます』

『……涼月了解』

「『雪嵐』了解。推進器を主砲で攻撃し、破壊します」

『よろしくお願いするわ』


 推進器だけを破壊することは可能なのかというと、機雷施設母艦と推定される大型艦は、軽装甲の艦船であると推測されることから、十分可能だとAI副官が判断した。


 どうやら、その昔USAが技術供与した、大型輸送艦と、それを元に『独自開発』した『艦隊宙母』に形が近似しているというのだ。


『商船ベースの場合、機関の位置は防御ではなく経済性と整備性を考えて決められるからね。熱源の位置からして……元になった輸送船と変わっていないわね』


 AIが射撃位置を決め、人間が射撃を行う。人間にやさしい役割分担だといえるだろう。


 一撃、二撃を加え、推進器が停止したように見て取れる。死んだふりの可能性も無きにしも非ずだろうが、ここから先は人間の仕事だから問題ない。


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