017 制海権を得るには―――『掃海艦』(参)
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――― ニッポン・USA方面HDゲート周辺宙域
沢山のデブリの合間に見え隠れする浮遊機雷を単装陽電子砲の射線が射貫いていく。
「ほい、いっちょあがり!」
BONN !!
残骸の陰に隠れ、ゆっくりと近寄ってきた浮遊機雷に、ショボいながらも『雪嵐』の主砲の陽電子ビームが突き刺さる。軽巡洋艦の側面シールドにすら弾かれる程度の威力だが、そもそも宙雷にはそんな防御設備はないので問題ない。
浮遊機雷には時に『反応弾』の弾頭を用いたものがあったりするので、射撃時には艦首正面の『シールド』を展開し、爆発の威力によるダメージを受けないルーティンが必要になる。
目標の選定、射撃位置への移動、シールド展開、射撃、破壊の確認……このローテーションを三交代で24時間延々と続けている。
三人の副長を含む戦術士たちのストレスは相当のものであり、勿論、船舶の残骸・デブリの監視、浮遊機雷の探査をす航法士、索敵・旗艦と僚艦との遣り取りを続け、掃海宙域の把握を随時更新する通信士兼情報士も相当の負担となっている。
第二戦闘配備が延々続いているのだから、緊張しないわけがない。おまけに、『晴嵐型』は長期の運用を前提にしていない拠点防衛型の多用途任務艦だ!!
「艦長……疲れました……」
「お、おう。お疲れ」
『雪嵐』の掃討した中に一発だけ『反応弾』の機雷があり、その時は十分な距離のある状態から射撃したこと、スクリーンの展開も問題なかったのでただただ激しい爆発? が発生しただけであった。
とはいえ、スクリーンは威力を相殺するだけの負荷を受け止めた結果、暫くシャットダウンしてしまったので、数時間は掃討ができなくなったというわけだ。
『反応弾』というのは「核兵器」の言い換えだ。 ニッポンはその昔、世界初の被爆国になったという過去があり、『核兵器』アレルギーなんだよ。いいかえって配慮が大事。意味は同じだけどな。
ニュークリアウエポンとかさ、なんか新しく始まっちゃう気がするじゃん。でも、その結果であるヒロシマ・ナガサキの記録を見せると……どんな地獄の使者かって思うよな。
非核三原則なんて何の法的拘束力もない「心得」みたいなものに束縛されていた時代もあるらしい。いや、USNが持ってないわけないじゃんな。あと、沖縄の海兵隊とか。持ち込んでるに決まってんだろ!! と思っていても、建前って大事。
なので、『反応弾かも』って思うと、射撃する戦術士たちはものすごく緊張するみたいだ。俺なら無理。どことは言わないが縮こまってまう。
この三日間で処理した機雷の数は『雪嵐』単艦でニ十四、『涼月』を含めると二十九を処理している。一日十基前後の破壊だけどさ、そんな物語に出てくるみたいにワッサと固まってる分けねぇんだよ。
「あー もういつまで頑張ればいいのさぁ」
『自分の為でしょ? はい、いいから、次の目標発見。ちゃっちゃと始末するわよ』
こういう時、AI副官は疲れ知らずなのでありがたい。この手の任務の場合、危険手当的なものが当然つくので、割かしお得なのだ。パワードスーツ着て所属不明艦(宙賊)に入り込むよりは余程安心安全だと思うのだが。
そして、常時『第二戦闘配備』なので、休息らしい休息も取りにくい。飲酒も不可だし、レトルトのカレーもいい加減飽きた。パックを開けると中身がふわふわ浮いたりしないから。慣性があるからね。
けれど食べにくいことは間違いない。胃が落ち着かないよね無重力。大きな艦船だと重力のあるエリアが設けてあるのでそうでもないけど、この軽キャンパー的むりくり多用途艦にそんなものがあるわけがない。
長期の任務はしんどいかぎりだぜ。
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流石にクルーの疲労蓄積という事で、一度『タイペイ』衛星軌道にあるステーションに寄港し、補給と休息の許可が出た。半舷休息だが、交代で上陸し人工とは言え重力を感じる場所で食事と睡眠がとれるのは疲れのとれ方が違う。
「副長は先休息でな。俺が残るわ」
「了!」
どんな時でもシスター・ファーストな俺。艦長とか関係ないよね。実際、砲手を務めた奴らを先に休ませてやりたい。暗礁のような場所を移動したことで航法も通信士も同じように付かれているとは思うけど、今回の任務のしんどさは砲手を務めた戦術士たちが一番だろう。
『そういえば、ステーションって免税店あるのかしら』
めちゃめちゃ人間臭いAI副官の発言。
こんなこともあろうかと、俺はパスポートを忘れていない。公費で作ったよ!パスポート提示しないと、免税にならないらしいな。初の宙域外なので、
アツキきんちょう!!
『あ、ツユキあんたも後番なんだ』
「おう、久しぶりだな」
『だよねー ああ、機雷の掃討って思ったよりしんどいね。疲れた』
緩い緊張が何日も続くってのは、熟睡できない寝不足状態が続くのに似ていて嫌な気分になるよな。まして、タイペイ星系は自領でもないし完全に安全が確保されているわけでもない。
逃走した宙賊だって現れないとも限らないわけだし、宙国艦隊が再来襲来しないともかぎらないしな。
「おまえ、パスポート持ってきたか?」
『当たり前でしょ? 化粧品とか安いはずなんだよね。やっぱブランド品を買わなきゃ損だよねこんな時でもさ』
オキナワにも免税店あるけど、ニッポン人には免税にならないしな。つまらない。
『友達に頼まれててさー』
ヤエガキ、友達いるの自慢やめてくんない? 俺の場合、妹様は同僚なのでお土産もプレゼントも意味がないしな。あいつの場合、ニッポン産の素材厳選的な自然派化粧品しか使わないから、免税店関係ないし。
『誰かに買って行かないの?』
「誰にだよ。思い浮かばんな」
『ふーん……もらってあげないでもないよ』
「なんでだよ。どういう理由だよ」
高給取りが他人に集らないでもらいたい。おんなじ職業だろ?
等と思っていると、余計な通信が入って来る。
『せんぱい……』
「お、どうした。『矢矧』も入港か」
『……そうです、そうなんですけど、わ・た・し 疲れました』
ゲッソリした表情のミカミがモニターに映る。もしかして、すっぴんだからか。まあほら、いつまでも若くないってことだよな。お肌の曲がり角ってやつだ。
『せんぱいの心の声に対して謝罪と賠償を請求します』
「そういうのまにあってるんで、いらないです」
こいつも階級は一つ下だが、高給取りだよね。まあ、なにか意味があるならプレゼントくらいする事は吝かではないのだが、集りはいかんよ、集りは。
因みに、ニッポン宙軍は階級が少ない軍隊になっている。人数が少ないため、階級は簡素化されているという感じらしい。
宙将・准宙将(准将)・宙佐・准宙佐(二等宙佐)、宙尉、准宙尉(准尉)、宙曹、宙士、上宙兵、宙兵の階級名となる。
将官・佐官・尉官がそれぞれ二階級、下士官が一階級、兵士が三階級だけど、艦船乗りは宙士が一番下の階級になる。それ以下の奴らは港湾や地上勤務だな。
じゃあ、宙尉ばっかりだと指揮系統困らないかという疑問もある。その場合、『先任』を付けて仕分けすることになる。これは公的な階級名なので、ちゃんと『先任手当』がつくことになる。
因みに、昇格試験がいるのは『宙尉』から『准宙佐』に上がる時だけで、その試験対象者は『先任宙尉』から選抜される。『先任』は上官、この場合指揮系統が上の人の任命でなる事ができる。
これは戦時任官の名残みたいだな。
つまり、俺は『先任』准宙佐なので昇任試験の資格保有者だが、ヤエザキは普通の准宙佐なので試験対象にならない。俺が戦死か転属すれば、『先任』になるんだろうな。
そうかんがえると、きゃるぴんは『先任宙尉』ではないから、まだ先は長いと考えていいのかもしれない。ナカイ司令が特別なのだろうが、本来はスタッフの昇進の方が遅いのが通例だな。戦功を考慮されにくいってのと、基本、上が詰まっていることの反映だ。
『いっしょに上陸しませんか?』
「おさいふがわりにか?」
『いいじゃないですか、わ・た・し 頑張ってるんで、ご褒美があってもいいとおもうんですよね』
無駄遣いの言い訳「自分へのご褒美」な。で、何で他人にご褒美上げにゃならんわけ俺が。
『食事くらいなら付き合ってやる』
「高級フレンチならOKです」
『……ステーションにあるのかそんなもの……』
『タイペイロウ』というご当地の有名店の支店が出ているらしい。飲茶とかでもいいんだけどな。
「予定が合えば連れて行ってやる」
『ぜーったいですよ!! いまからタイペイロウの個室を予約して……』
人の財布を狙う鋭い眼光、そこに痺れる憧れるって感じだな。ナツキがこうならないように俺は強い気持ちで兄として接しなければならないと思う。
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「あら、奇遇ね」
「……おう……どうした?」
なぜか俺に集るミカミと待ち合わせていると、我が上司が現れた。
「……あの、司令も……ご一緒したいと申されたので」
「あなた方の労をねぎらうのも上官の務めだとおもうの。折角の機会なので同席させて頂くわ」
俺の中では『上官』っていうと、渋い半ば白髪交じりのオールバックのおじさんというイメージなので、ナカイ司令の場合、「できる女上司」という位置づけだ。
色気ないじゃん、上官って言葉にさ。
とは言え、ニッポン宙軍の制服を着た女性に特に色気は感じない。あれだな、女性士官の制服コスプレって色っぽくないよな。そりゃ、胸元がばっと開けて谷間をみせりゃ、どんな制服でも色っぽいというよりは単純にエロくなるけど、そういうものではありません。
そもそも、着崩すのは服務規程違反だ。制服だけにぃ。
「飲茶するのでしょう?」
「がっつりたべますよ!!」
「制服のサイズ変わっちまうぞ。いいのかミカミ」
まだまだ成長期というのはもう遅い! デスクワーク中心とはいえ、トレーニングが必要な職業だからそれなりに体を動かすのが軍人です。
お金貰ってダイエットしている感じか。だから問題ないとばかりに強いまなざしを向けるのやめろ。
「ふぅ、飲茶くらいなら喉を通ると思ってきたのよ」
「……何かと大変そうだな」
「ええ。警戒隊の司令なんて下っ端中間管理職は世知辛いのよ」
どうやら機動艦隊司令部から、再び無茶な要求デモされているのだろうか。嫌な予感しかしねぇ。
【作者からのお願い】
思っていた以上にSF難しいです。このカテゴリーの作品の作者さん、尊敬します!!
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