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014 宙賊の巣を潰せ―――『特設砲艦』(弐)

ブクマ・評価をありがとうございます!

お読みいただきありがとうございます!



「敵巡洋艦に向け艦首回頭。仮装砲で右側の巡洋艦を狙え」

『艦首回頭、巡洋艦に照準……撃て!』

「カスミちゃんにお任せだよ」


『雪嵐』『浜嵐』の横をすり抜けた二隻が、『矢矧』『涼月』の中間を抜けようとしているのだが、勢いがふらついている。当然、AIの射撃にお任せだ。修正? 運任せ!!


「連続射撃」

『連続射撃開始』

「ええー まあ、直すの宙二さんだからいいか」


 正面から撃ちこんでいる『矢矧』『涼月』の主砲では、艦の前面をかすめるだけで勢いを止める事は出来ていない。同航戦ならともかく、すれ違いざまの射撃時間は短い。


『艦尾命中……推進器にダメージ』


 しかしながら、一旦加速した宇宙船は推進器にダメージを与えたとしても大して勢いは止まらない。


 万事休す……そんなことを想っていた時代が俺にもあった。


『矢矧』の横を二隻が擦り抜けたその瞬間。


「『矢矧』から93式宙雷後方に向け発射!!」


 背後方向に向け最初からセットしてあったのだろう、四発の宙雷が発射された。『秋月型』は宙雷発射機を装備していないので、『矢矧』の四発が全てだ。


 とはいえ、ブースターで加速したと言えども大型艦船である。宙雷の加速に逃げ切れるほどの速度ではない。


 最初に、『雪嵐』の仮装砲が推進器にダメージを与え加速の鈍った艦に93式が命中、爆発四散する。


「船体強度弱っわ」


 副長が思わず声を漏らす。駆逐艦並だろうか。93式の威力が強すぎるというのもあるだろうけどな。ちなみに、『晴嵐型』は艦橋部分をパージする事で推進器・反応炉の爆発から逃げることができるとされている。一瞬なら普通に無理。


 続いていくらか長生きしたもう一隻にも背後の推進器あたりに宙雷が命中。船体の後半が爆散、そのままの勢いで艦の前半部は飛び去って行った。


「あれ、どうするんだろうね」

『そのままでしょ? 瓦礫を回収する必要なんてないもの』

「だよなー まあ、艦隊の指揮官次第だろうな」


 今回もナカイ司令は美味しいところもってったからなー やっかまれるかもしれないということだ。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 その昔、ニッポンが大日本帝国という国であった頃、現在ではUSAを構成する諸国と戦争をしたことがある。


 二千年以上昔の話だが、ニッポンが唯一負けた戦争であるとされることもあり、未だに様々なことが語り継がれている。


 開国から僅か五十年ほどで列強に並び立った日本であったが、当時の先進地域であった欧米以外で唯一の黄色人種による強国であったこと、そして、新しい『フロンティア』を望んだアメリカ合衆国の政策の為に、戦争をせざるを得なくなった歴史がある。


 世界市場から排除され、必要な資源も閉ざされたのであれば、戦争するしかなかったしても仕方がないと、同時代の非白人法曹家は国際的な戦争裁判の場で意見を述べたと記録されている。今ではヒンドゥ連邦となった国の方だったと記憶している。


 なんでこんな話をしているかって言うとだな、当時のニッポンはいま以上にUSAに差を付けられていた。国力は十分の一以下くらいだったとか。


 それでも戦争を遂行するために、とくに海外からの資源を本国に送り届ける為に、民間船を徴用し、武装して護衛任務を委ねざるを得なかった過去がある。大きなものは『特設巡洋艦』といい、最初の頃は「通商破壊戦」というのをやらせていたんだが……自分たちが制海権を有する広大な海洋で行うことは意味がないと気が付いたようだ。


 そして、軍艦が船団護衛任務に不足する――― そもそも、そんな必要を戦争遂行に多く擁すると認識していなかったというのもあるが―――船舶の代替品として、商船を武装させ軍艦の代わりに任務に就かせた。


 因みに、『特設砲艦』『特設巡洋艦』は、専業の民間徴用船であり、輸送任務そのものを行いつつ武装するものは『武装商船』という。


 精々、本土周辺海域を航行できる内航船のサイズのものは『特設砲艦』と呼ばれた。


 なにが言いたいかって? 軽巡の主砲一門程度しかもたない『雪嵐』は精々『特設砲艦』レベルの戦力であって、『特設巡洋艦』なんかじゃないってことだよ。





 そして今現在、俺達は予想通り『連合艦隊』の司令官がやらかしたことのツケを何故か払わされている。


 俺たち、サキシマ警戒隊だよね? 所属違うよね?


『はいはい、軍人は文句言わないの』

「はぁ」


 なにしろ、爆散した寄せ集めステーションのお陰で随伴した駆逐艦やコルベットに損害多数発生中で、周辺に逃げ出した艦船の追跡を外様のツシマ・オキナワからの隊で行わなければならないからだ。


『大鳳』に乗せてきた宙兵隊も、拠点制圧の仕事がなくなった代わりに、爆散した根拠地跡の捜索活動に駆り出されている。手柄立てようとして張り切っていたはずだが、後片付けじゃどうもならんだろうな。


 その状況は俺達も同じであり、追跡捜査が終わった後は、破壊した武装商船の回収なんていう追加オーダーもあったりする。


 司令官はさっさと『加古』に乗って一旦現場を離れてツシマに戻っちまった。損傷艦を戻すって建前でな。


 ふざけんな!!


 AI副官に宥められながら、ぼちぼち仕事をこなしているわけだ。


「艦長、所属不明の小型宇宙船発見しました!」


 情報兼通信士からの通信。少々歪ではあるが、おそらく、宙華製のPFSタイプの艦艇を民間船風に偽装したものだろう。その手の小型船は、巣から沢山逃げ出している。


「搭乗員の生存の可能性は?」

『20%程度かしら。もう一週間は経っているから』


 そうです、あの根拠地大爆発からの大逃走劇から一週間も不眠不休……ではないが、ぼちぼち後始末が始まっているんだよ。


 よく考えたら、根拠地に宙兵を少数送り込んで事前に情報をとってから行動した方が良かったよね? 宙賊だからって単純な力技での制圧を考えたのが裏目に出たって感じだな。


「艦長、回収班出しますか?」


 副長からの確認。丁寧だが、「えーやらなくていいよね」オーラが半端ねぇ。


「正面から接近、シールドを展開しながら主砲指向。攻撃在り次第反撃で」

「了解」

『反応炉は停止しているみたい。流石に燃料切れかしらね』


 小型JD可能なPFS程度の艦艇では、余程準備ができていなければ四日と持たない。本来は、一泊二日程度の作戦行動が精々だ。反応炉がとまれば乗員の生命維持のための設備も補助の動力源に依存することになる。


 食料は無くても即死なないが、水と酸素は持たないだろう。


「俺が出るわ。あと、戦術士と情報士同行してくれ」

「艦は預かります」

「よろしく副長」


 俺は再びパワードスーツに乗り込み、二人の部下とともに船外へと出ることになった。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 PFSは駆逐艦よりかなり小さく、艦船というよりは舟艇・艦載機に近い大きさのものだ。因みに、『晴嵐型』の艦橋はPFSの流用であると言えば、そのサイズ感が理解できるだろう。


 もっとも、艦橋の外径だけが同じであり、居住スペースの部分にカーゴ・武装・反応炉と推進器、燃料庫が存在するので、その航続距離は推して知るべしだ。


 情報部も技術工廠謹製のパワードスーツもないため、ファイバースコープで中をのぞくような器用な手法は用いることができない。故に、パイルバンカー一択である。


「こちら艦長、『雪嵐』の主砲で推進器部分を撃ち抜けないか?」

『……出力絞ってやってみるから、少し離れていなさい』


 副長からではなく、優秀なAI副官からの返答。俺も、人間よりAIの射撃の方が安心できるわ。


 PASHU  


 しばらくすると、絞り込まれた光の帯がPFSの推進器に吸い込まれていき、小さな爆発が起こる。どうやら、これで死んだふりをしていたとしても逃げおおせることができなくなっただろう。


 怒りのパイルバンカー(別に怒っているわけではない)を搭乗口に叩きつけ強引に内部へを侵入する。


「一人、ここに残って警戒。一人は俺に続け」

『『了解!!』』


 ということで、内部に侵入。最初はカーゴルーム兼搭乗口。そこには倒れた人間が二人。なんか……苦しんだのち……自殺って感じだな。ほら、銃が宙華製のゴツイやつじゃん。


「身体検査を」

『りょ、了解です』


 少し離れた所から伸縮棒で動かしてみる。ほら、映画とかで良く死体を動かすとその下に隠されていた仕掛け爆弾がドカン! ってあるじゃない?ブービートラップはUC時代にも普通にあるんだよ。




 死体には特にめぼしい情報が無かったので、そのまま推進器を確認。予想通りの燃料切れ。室内の酸素もかなり薄い。え、お前が搭乗口破壊したカラダって? いや、これは一本取られたね。


 二体の死体のうち、一体は銃による自殺だったけど、もう一体は窒息死だったから、やっぱ酸素が足りていないんだと思うよ。動力が切れているから力づくで扉を開けなければならない事決定でもある。


 だから、壊しているんじゃないよ! し、しかたないんだからね!


 艦橋に向かうと、そこには一人の「将校」らしき死体があった。


『……艦長……金モールです……』


 金モールというのは、軍服につける飾緒と呼ばれる紐の事だ。礼服につけるのが一般的だが、元は参謀・副官が伝令書などをそこに差し挟むために使われたものが原初である。転じて、そう言った役職者を示す意味を持つ。


「逃げ出す必要があったわけか」

『これ、舟艇ごと回収の方が望ましいですよね』


 こんな場所に長らくとどまって、専門でもない駆逐艦乗りが現場荒して情報を十分持ち替えれなかったりするのは踏んだり蹴ったりだ。そして、部下の正しい献策を受け入れるのも、艦長として必要な資質だ。


「めんどくさいので採用」

『……副長に連絡します……』


 うっかり本音が漏れてしまったのは、一週間連続作業中だから仕方がない。でも、これで捜索切り上げても艦隊司令部から文句言われずに済むと思う。『矢矧』でバスタブのある客室でゆっくりさせてもらおう。


 え、こんなの当然司令に直接報告しなくてはならないでしょ? そのついでにお風呂入るだけだよ。だって、臭いよ今の俺。



【作者からのお願い】


 『わりと読めた』、『この続きを読みたい』と思われましたら下記にある広告下の【☆☆☆☆☆】で評価していただけますと、執筆の励みになります。よろしくお願いいたします!


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