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013 宙賊の巣を潰せ―――『特設砲艦』(壱)

ブクマ・評価をありがとうございます!

お読みいただきありがとうございます!


 ミカミ情報宙尉の回収した所属不明の宙賊船のデーターと、曳航した船本体の捜索から得られた資料により、ツシマ要塞の目と鼻の先に宙賊軍の拠点がある事がわかった。


 え、何でそんなところにって? ツシマはサキシマ回廊警戒隊みたいな運用をしていないから気が付けなかったらしい。ツシマの問題ではなく、上の運用方針の問題だな。専守防衛思想の弊害だよな。




 予定通り、サセボから攻略艦隊として強襲揚陸母艦『大鳳』、重巡『加古』、軽巡『鞍馬』、駆逐艦『朧』『曙』『漣』『潮』(吹雪型)、コルベット『楠』『初桜』『楡』『梨』の『連合艦隊』が編成された。


『連合艦隊』というのは、常設の機動艦隊以外の臨時設置の艦隊に付けられる名称だ。


 加えて、ツシマから軽巡『酒匂』、駆逐艦『朝潮』『大潮』『満潮』『荒潮』(改吹雪型)の五隻と、ナカイ隊五隻が加えられる。合計二十一隻だ。


「私たちの役割りは、主力の包囲を抜けて来る宙国武装商船を撃沈することにあるわ」

「生死を問わないと?」

 

 渋い『涼月』の艦長が念を押すように確認する。


「ええ、おそらく相当数の小型艦船も潜んでいると思われます。故に、私たちが全て叩き潰す役割を担わねばなりません」


 おいおい、巣を叩き潰すのはサセボの艦隊で、巣から逃げ出した害宙の駆除は俺らの仕事って……おかしくありませんか!!


「プチッといっとく?」

「そうすると、装備は今のままで外装だけ外せばいいか」

「そうだね。正直、主砲が標準の単装砲だと弾かれそうだもんね」


『雪嵐』『浜嵐』の二隻には、『主砲モジュール』が載せられている。さらに、エネルギー安定用の『ジェネレーターモジュール』で二つのカーゴスペースが埋まっている。


『浜嵐』が二発を発射した『イ式宙雷』の補充はできないので、93式二発を再装填して今回は参加になるだろう。


「出撃はいつになるのでしょうか」

「明朝 0600、一先ずツシマにHDで移動、ナカイ隊が先行しサキシマ側に回り込みます。その後、ナンキン側から主力が前進し、半包囲を行い、その背後をツシマの艦隊で埋めるようね」


 逃げても宙華領域に逃げ込めないようにするのは分かるが、包囲は十分可能なのだろうかと思わないでもない。とはいえ、揚陸艦には重巡の他軽巡・駆逐艦・コルベットがそれなりに随伴する。


 その後方で、抜けて来る艦船は……それなりにいるだろうな。PFSを追いかけるのも難しいだろう。とはいえ、PFSで宙賊行為も難しいだろう。寝泊まりできる設備は最小限だからな。航続距離だって短い。JD一回で、燃料が枯渇するくらいの容量しかないしな。


「逃がしていい敵と逃がしたら不味い敵をしっかり分けて考える必要がある」

「その通りね。小型の航続力の短いものは宙賊としての能力も低いし、撃破するのも難しいでしょう。網の目を粗くして、大物に狙いを定めます」


 想定されるのは、最初に小型艦艇を多数出撃させ、戦列を乱した後に大型艦が脱出を図る事が想定される。巣の駆除に集中する『大鳳』と宙兵隊はしかたがないとして、その周辺に展開する随伴艦、特に軽巡以下の宙雷戦隊が釣り出されないかどうか気になるところでもある。


「ナカイ隊からの注意喚起として、提督には伝えます」


 と司令は断言するが、ツシマの警戒隊はともかく、サセボの戦隊はこっちの話を聞かない可能性も高い。


「けどさ、小型艇を追い掛け回している間に、背後から大型艦に撃たれればさ、こっちが助けてやることにならない? その方が後々戦功を認められやすいと思うんだよね」

「「「……」」」


 ヤエザキ!! これ、俺との軽口じゃないからな。場を弁えろよ!!司令激怒かなとおもっていたのだが、意外と問題ないようであった。


「ヤエザキ宙佐……思っていても口に出すのは良くないわ」

「そ、そうですね。失礼しました」

「構いません。そこは、後ろで球拾いさせられている我々にも良い機会があると理解してもらえれば……緊張感をもって参加できるでしょう」


 ですよねー 機動艦隊>星系防衛艦隊>要塞所属艦隊って暗黙の序列的なものが存在するんだが、少なくともナカイ司令は抜群の出世速度だから妬まれやすくもあるんだよな。


 今回もサキシマ回廊で戦功を立てているし、俺達の独楽鼠な仕事ぶりで実績も積みあげている。とくに、技術工廠とIH&Kからは『晴嵐型』の運用実績を積み上げてくれているということでかなり感謝されている。


 上層部だけでなく、民間や技術系からの多方面からの期待感というのは意外と大事だ。プロスポーツの選手でも、実績があるだけの選手では企業は看板イメージに使わないだろ? それに、大体、引退した後の生活で破産したり薬物依存になったりだな……それだけしかできないというのは、後々よろしくない。


 子供の頃からエースで四番でプロ選手になった後もそのままで、死ぬまで球団が抱えてくれる選手なんてのはごく一部の一部だしな。焼き肉屋やラーメン屋立ち上げて潰す程度の才覚しかないんだからさ。


 え、UC2000年代にもあるよ普通に。文化だからね。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 こうして、四日ほどかけて害宙駆除艦隊は、ツシマから当該の宙域へと半包囲の隊形をとりながら移動してきた。


 宙華の領域とツシマ方面を完全に封鎖し、逃げ出すならばオキナワかタイペイの方向だけを開けてある。タイミングが良ければ逃走されるかもしれないが、補給もないならそのまま漂流するしかなくなるんじゃないかと思う。


「やっぱ、かっこいいね『大鳳』」


 戦闘配置でもないのに艦長・副長が揃っているのは……俺が暇つぶしに艦橋に来たからだ。だってほら! 『大鳳』と並走してるんだぜ!!


「そうだな。これは、外から見ている方がずっといいな」

「……だよねー」


 俺は、一介の駆逐艦乗りだし、ここに居る男たちはかなり固まっちゃってる駆逐艦乗りだ。おそらく、今後、異動は全て駆逐艦かそれより小さなサイズの艦船にいくしかないよね。


 もう目に浮かぶわぁ、一回り二回り年下のエリート艦長の実務担当副長兼戦術長とか自分がなるの……気分が落ち込むぜ。


「大丈夫だよ、ナカイ司令が引っ張ってくれるから」


 それはそうかもだが、俺とヤエザキは、あいつの旗下の駆逐艦艦長で延々連れ回されるだけだろうな。出来れば、面倒だから『雪嵐』『浜嵐』固定で頼むよ。AIと馴染むのも、コミュ障には時間がかかるからな。


『大鳳』なんて、艦を動かしている奴だけで二百人近くいるだろ? それに、旗艦なら司令部要員、宙兵隊か艦載機の搭乗員と整備員が数百人乗るだろうから……俺にはムリダ。艦長なんて当然だが、下っ端の士官だって無理。


 そもそも、俺が一番多い乗員の艦に乗ったのは……士官候補生時代の練習艦じゃないかと思う。


 艦隊随伴型の『吹雪型』でも乗員五十人くらいだからなー。それでも多いよ!!




 戦機は急速に高まっている……らしい。だって、無人偵察艇とか出してるの『大鳳』だし、ナカイ司令のところにも情報は最低限っぽい。解った情報はある程度伝えてもらっているのだが、よくわからん。


「一応、第二戦闘配備ね」

 

 と指示を出し、モニターとにらめっこしている最中だ。


「射撃……開始されました!!」


 情報兼通信担当から報告が入る。砲撃されているのは、小惑星と浮きドックのようなでかいドンガラの船を結合したような人工天体。何とかの園とかそんな感じの天体だ。


『あれ、効果あるのかな?』


 ヤエガキさん、戦闘配備中に与太話は駄目ですわよ。


『害宙をおびき出す為の牽制ですわね。叩けば叩かれた方と反対方向に逃げ出すのが習性ですから』


『浜嵐』の腹黒AI副官ウララが珍しく会話に入る。


『そうよね! あたしたちもここから……』

『司令の指示待ちですわ』


 当然だよね。勝手に発砲するのはいくないですわよ。


 どうやら、ぱらぱらと予想通り、小型戦闘艇が逃げ出し始めた。連合艦隊は両翼を伸ばしつつ、背後にまで火線を届かせようと移動していく。


 中央に『大鳳』『加古』を配置し、その左右に軽巡、さらに横一列に近い隊形で四隻の駆逐艦・コルベットが広がっていく。


「釣られたな」

「そうだね」

『え、なにが?』

『大型艦が、こちらに向けて突撃してきそうという事ですわ』


  ツシマとナカイ隊を除けば、十二隻しかいないのだから、横陣になってしまえば、その隙間を抜けるのは難しくない。


『出てくるわよ』


 どうやら、脱出用に加速ブースターを備えた巡洋艦サイズの艦船が二隻見て取れる。その背後には、フリゲートか駆逐艦サイズの商船が数隻。


『逃走用のブースターの外側に、仮設の宙雷発射機を付けている船が何隻か見て取れます』


 ウララ、今日は積極的だな。暇なのか、暇なんだな。


『ナカイ隊、V字の陣形を。両翼は『雪嵐』『浜嵐』」


 旗艦からの指示で、逆さに閉じた傘を開くように展開する。川魚を採るときに使う仕掛け『ぜん』(竹冠に全)のような形だな。


 つまり、逃がさず大物をこの籠の中に取り込んでしまおうという事だ。


『相変わらず自分を的にする指揮官ね。嫌いじゃないわ』


 目立つ巡洋艦が両手を広げて通せんぼしているのだから、当たるかどうかはともかく、そのまま直進して逃げるつもりなら躱しはしない。軽巡の主砲では仮に一二発被弾しても逃げ切れる。前面には推進器も反応炉もないのだから勢いは止まるはずがないとたかを括っているはずだ。




 害宙の巣から、艦船が正面に向け急速発進した。慌てて巡洋艦が斉射を繰り返し始めるが、何発かの命中を与えながらも包囲を擦り抜けられてしまう。こちらには、巡洋艦二隻、武装商船四隻が向かってくる。


「イ式宙雷発射用意。目標、武装商船のうち右側の二隻。各二発」

『宙雷発射後、仮装砲は同じ武装商船を狙う。主砲は射撃見送り』

「了解」


『浜嵐』は93式で左の武装商船を狙う。


「『矢矧』砲撃開始」

「宙雷発射」

『宙雷発射!!』

「続いて、仮装砲射撃開始。目標、正面の武装商船」

『アイマム』


 弧を描くようにあえて横合いから宙雷を機動させる。砲が届く距離、着弾する時間は数秒だ。


「イ式宙雷……命中……命中……命中……目標ロストしたようです」

『ツユキパイセン、ズルいっすよー』

 

 ヤエザキの宙雷だって命中して二隻とも木っ端みじんじゃねぇか。あれだ、主力艦沈める仕様の威力だから、段ボールに毛が生えた程度の商船の外殻ぶち破って反応炉まで破壊したんだろうな。幸い、正面を向いている俺達の艦隊は、正面の『シールド』で爆散した船体の破片を受け止めたが、

ブースターで加速した後切り離した二隻の敵巡洋艦クラスは、後方側面から猛烈な勢いでデブリと放射線が降り注いだのではないだろうか。


 明らかにおかしな挙動になっているのが外から見て取れた。



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